わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

外周の用法

1. 外周に出るべき条件とは?

 “適切な位置取り”は立ち回りの根幹をなす技術であるにもかかわらず、その判断の正誤を実戦の経験のみから判定することは困難である。そこで、前回の「突撃の条件」に続いて、この記事では戦場の横方向の位置取りについての判断基準を考える。「外周の用法」と題しているものの、まずは内周の機能に深く関わってくる陣地占領から議論を始めたい。「外周に出るべき条件」に先立って、「外周に出るべきでない条件」をはっきりさせておく。

 2章では陣地占領を主題に据える。大型艦の火力差が大きな状況では、火力優勢側の大型艦が陣地内に進出する火力占領が起こる。その一方で、火力差が小さく劣勢側が優勢側の進出を阻止できる状況では、小型艦による隠蔽占領が重要な役割を果たす。隠蔽占領の場合であっても、敵大型艦の進出を阻止できる最低限度の火力が必要なことを強調する。

 3章では内周と外周の機能をそれぞれ陣地占領挟撃と対応づけながら論じる。制圧戦の攻防は陣地占領をめぐる内周の攻防が中心で、外周は内周を攻略するための手段として機能する。

 4章ではいよいよ「外周および内周を使うべき局面とは?」という実戦の疑問に答えるために、艦艇の4種類の役割ごとに内外周の判断基準を具体化する。ランダム戦の戦闘形式に応じた判断基準の修正も解説する。

 5章では実戦譜を紹介しながら、ここまでの原則を実戦の判断に応用する。

2. 隠蔽占領と火力占領

図 1. 隠蔽占領と火力占領

2.1. 前線の膠着が隠蔽占領を可能にする

 陣地占領という言葉から最初に思い浮かべるのは、駆逐艦などの小型艦が陣地内に進入して隠蔽状態で占領を行う隠蔽占領である。一方で、大型艦が陣地になだれ込んで敵を押し下げながら行う火力占領もある。両者のうちどちらが起こるかは、どのような条件で決まるのだろうか。大型艦が突進すれば小型艦の隠蔽を剥がせるわけで、大型艦が陣地内へ進出可能な局面では隠蔽占領は不可能である。したがって、隠蔽占領が起こるためには両方の陣営の大型艦が同時に進出不可能とならなければならない。このとき火力優位の陣営であっても進出不可能ということは、撤退側が進出側よりも有利になる要因が存在することを示している。

 それでは、撤退側の優位は何に起因するのか。まず、撤退側は進出側の動線側面へ容易に回り込めるため側射を狙いやすい。さらに、味方がいた海域に下がりながら戦う撤退側は、交戦海域の地形や艦艇の配置に関する情報を多く持っている。撤退側は側射のチャンスと情報において優位に立っている。

2.2. 膠着維持か前線打開か

 もう一度占領の話に立ち戻ると、隠蔽占領では撤退側の優位を利用して大型艦の前線を膠着させながら小型艦の占領能力で敵を上回ることが重要である。対する火力占領では、前線の膠着を打開するために十分な程度の火力優勢を目指すことになる。重要なのは、隠蔽占領であっても前線を膠着させる程度の大型艦の火力がやはり必要であるということである。

3. 内外周の機能

図 2. 内周・外周の機能一覧

3.1. 外周の定義

 1章で述べたように、外周へ開くという行為には陣地占領ならびに挟撃という複数の意義がある。以降の議論では、外周へ開くという行為を「陣地占領の必要性を超えて、挟撃のみのために戦場外側へ開く」行為として定義したい。そこで、外周と内周の境界線を「外周陣地の外側1/3」に設定する。この定義の外周はおそらく一般的な認識よりもかなり狭くなる。

 ここからはランダム戦の約半数を占める制圧戦を想定して話を進める。

3.2. 内周の占領的機能

 制圧戦は陣地を取らないと勝てないため、その攻防の要点は内周にある。制圧戦の大目標は「敵を味方内周へ進出させないこと」、「味方を敵内周に進出させること」である。内周の機能は3種類あり、①占領の経路占領妨害の拠点サイドチェンジ、以上を順に説明する。

占領の経路

 内周は外周陣地と中央陣地をつなぐ位置にあり、占領艦が陣地占領を試みる際の重要な移動経路となる。内周の安全を確保することで味方占領艦の行動能力を高めれば味方の占領ペースが上がっていき、反対に敵の内周を脅かすことで敵占領艦の行動能力を奪えばそれだけ敵の占領ペースが遅れていく。

占領妨害の拠点

 内周は外周陣地と中央陣地の中間に位置する海域であるため、ここを押さえれば複数の陣地の占領を妨害できる。例えばレーダー艦が内周で行動の自由を得た場合、外周・中央の両陣地を敵の占領から守ることができるようになる。外周レーンが外周陣地にしか影響力を与えられないことと比較すれば、内周レーンの強みがよく分かる。

サイドチェンジ

 内周レーンは反対サイドの内周に比較的近いため、サイドチェンジに時間がかからない。例えば反対サイドの内周が敵に突破されそうな状況では、前もって内周に位置取ることで増援へ素早く向かうことができる。

3.3. 外周の挟撃的機能

 挟撃を根拠とした外周の機能は火力占領のみならず、隠蔽占領の前提である前線の膠着を実現するためにも重要である。先に外周の攻撃的機能である①外周進出、続いて防御的機能である②迂回の強制射界外侵入について解説する。

 ここでいう挟撃には、敵動線の側面からAP弾で攻撃を加えるという狭い意味だけでなく、戦場中央へ砲戦舷を向ける敵艦を逆側から攻撃するという広い意味も加えている。外周の機能のうち①②が狭義、③が広義の挟撃に対応している。

外周進出

 両側を敵に接する可能性のある内周と異なり、マップ端にある外周は片側のみを敵に接する。そのため挟撃を受けづらく、低リスクで進出を試みることができる。ただし、ここで進出側の本当の目的は敵内周への進出にあることを忘れてはいけない。幸先よく外周を突破しても、そこから内周へ進出する段階で困難に直面することが少なくない。

 外周進出の例としては勝勢試合終盤で残敵の掃討に移る局面があり、このとき外周に開いてから進出すると安全に稼ぎを増やせる。

迂回の強制

 撤退側の戦艦が外周に開くと、進出側は側射を避けるために外周への迂回を強いられる。進出側が1隻でも強引に内周を突破しようとすると側面を撃ち抜かれるため、これを避けるために撤退側の戦艦が単独であったとしても進出側は複数隻が外周へ釘付けされることになる。

射界外侵入

 外周への進出に成功した敵艦は、続いて内周への進出を目指す。このとき敵の砲戦舷は内側を向くため、その反対側となる外周には射線が向きづらい。敵の射界外となる外周に位置を取ることで、比較的安全に攻撃できる。

3.4. 内外周の連携:突撃抑止

 この章の最後に、内外周の連携による突撃抑止を説明する。内周のみでは実現できない機能という点では、前節の挟撃的機能と共通している。

 接近突撃およびレーダー突撃の機をうかがう敵はこちらの射線が届かない海域を突撃経路に選ぶため、その突撃を抑止するためには戦艦および巡洋艦の射線を敵陣へくまなく通すことが必要である。大型艦がお互いに距離を取りながら分散することで射線の角度が変わり、地形に遮られて射線の届かない海域を狭めることができる。したがって、突撃抑止のためには内外周の連携が鍵になる。マップの地形によってはすべての突撃経路を塞ぐことが困難なこともあるが、その場合でも無理のない範囲で敵の行動に制限をかけるようにする。

3.5. 内外周の機能まとめ

目標:内周の攻防
 敵を味方内周に進出させないこと
 味方を敵内周に進出させること

内周の機能
【占領の経路】占領艦が陣地間を移動する経路になること
【占領妨害の拠点】複数の陣地の占領を妨害すること
【サイドチェンジ】反対サイドの内周へ転換すること

外周の機能
【外周進出】敵外周へ進出して、敵内周に横方向から脅威を与えること
【迂回の強制】敵の外周進出を阻止して、味方内周の安全を維持すること
【射界外侵入】敵の砲戦舷の逆側から安全に攻撃すること

内外周の連携機能
【突撃抑止】敵の突撃を未然に防ぐこと

4. 内外周の用法

4.1. 艦艇の4つの役割

 内周および外周の機能はそれぞれ陣地占領と挟撃・突撃抑止に由来している。したがって、艦艇の役割をこれらの観点から分類しておくと便利である。占領関連機能は「占領役」と「占領妨害役」、そして火力機能のうちAP射線などによる挟撃が可能な艦艇は「挟撃役」、HEメインで与ダメージが敵姿勢に依存しない艦艇は「(狭義の)火力役」と呼ぶことにする。

占領役

 高隠蔽または煙幕を備えて隠蔽占領が可能な小型艦。主に駆逐艦、煙幕巡洋艦が該当する。敵駆逐艦不在・全滅時は高隠蔽巡洋艦も含む。

占領妨害役

 占領役をスポットする能力がある艦艇。主にレーダー巡洋艦駆逐艦、空母が該当するが、この中でも煙幕越しのスポットが可能なレーダー艦の適性が最も高い。

挟撃役

 ダメージが敵の姿勢に強く依存して、かつ上振れの大きな攻撃方法を取る艦艇。戦艦と大型巡洋艦の高貫通AP弾による防郭弾、駆逐艦による隠蔽雷撃などが該当する。AP弾による挟撃艦となるためには対面の大型艦に防郭弾を出せれば十分で、例えば対面の敵がすべて軽装甲の巡洋艦という状況であれば通常の重巡さえも挟撃艦とみなせる。

火力役

 ダメージが敵の姿勢にあまり依存しない攻撃方法を取る艦艇。HE弾をメインに扱う巡洋艦や砲戦型の駆逐艦などが該当する。

 これらの役割は艦種のように固定的なものではなく、実戦の局面ごとに変化する流動的かつ相対的なものである。例えば駆逐艦が占領役を務めることもあれば、敵の側面に回り込んで魚雷を射つ挟撃役、あるいは主砲で敵大型艦との砲戦をこなす火力役として立ち回ることも可能である。

4.2. 占領役の用法:陣地間を動き回る

 占領役には主に駆逐艦が該当して、その役割は「前線膠着時に占領可能な中立陣地・敵陣地を迅速に確保すること」である。内周の機能①「占領の経路」との関連が深く、内周を移動経路として陣地間を動き回る立ち回りが中心になる。

占領役を放棄する2つの状況

 占領役を放棄する理由は主に2つある。敵の占領妨害役が強い状況では、占領に先立って敵妨害役を排除する必要がある。また、前線が打開されて敵大型艦が陣地内へ進出してきた状況でも、占領役はもはや陣地を狙うことはできない。これらの状況では占領役を一旦棚上げして、火力役あるいは挟撃役として敵の占領妨害役や大型艦の排除に動くのがよい。

敵に容易に再占領される状況

 敵の再占領が容易に起こる状況、つまり敵占領役の占領能力が高いうえに味方占領妨害役の影響力が低い場合には、現在の占領の価値が低下する。例えば初動占領の価値が低くなる根拠もこの再占領可能性にある。占領争いの最終的な勝敗を決めるのは、敵の占領役や占領妨害役が能力を失ったときに味方占領艦の行動能力が残っているかどうかである。

4.3. 占領妨害役の用法:敵占領艦ある限り内周を離れず

 占領妨害役には主にレーダー巡洋艦が該当して、その役割は「前線膠着時かつ敵占領役の存在下で中立陣地および味方陣地を防衛、ならびに味方の占領試行陣地を援護すること」である。内周の機能②「占領妨害の拠点」との関連が深く、陣地との距離を敵占領役と同等以下に保ちながら内周に居座るような立ち回りになる。駆逐艦が占領妨害役を務めることもできるが、そのぶん占領役の枚数が減ることになる。そのため、レーダー艦は敵占領役の存在下で迂闊に陣地を空けないように注意したい。

敵占領役への突撃

 占領妨害役には占領妨害という受動的な役割だけではなく、突撃によって敵占領艦の占領能力を直接奪うという能動的な役割も課されている。その成功のために駆逐艦の接近突撃は接近戦で撃ち勝てる状況を作り出すこと、レーダー巡洋艦のレーダー突撃は敵戦艦の射線を遮断することが鍵である。

敵占領役の全滅・不在

 敵占領艦が全滅、あるいは陣地から遠く離れているような状況では占領妨害役は不要になる。このような状況が生じるのは占領妨害役が役割を全うしたからに他ならない。

味方が容易に再占領できる状況

 敵に占領された陣地の再占領が容易な状況、つまり味方占領役が健在で敵占領妨害役が弱い状況では、占領妨害役の重要度が下がる。このような状況は序盤に起こりやすい。

4.4. 挟撃役の用法:外周進出と内周突撃阻止の両立

 挟撃役は主に戦艦が該当して、その役割は「敵大型艦の外側から敵の進出を制約すること」、「敵の突撃を抑止すること」の複数にわたる。前者は外周の機能①「外周進出」と②「迂回の強制」を根拠として、敵大型艦よりも外側の位置を占めることで達成できる。その一方で、後者の「突撃抑止」は単純に外へ開けばよいというものではない。遠い外周へ開くことで内周への射線が切れてしまえば、内周の突撃抑止は実現できない。

同一サイドに複数の挟撃役

 同一サイドに挟撃役が複数ある状況では、それぞれが外周と内周に散らばればよい。内周側にいる挟撃役は状況次第で反対サイドに回ることもできるため(内周機能③「サイドチェンジ」)、味方の可動性を高める効果もある。外周の挟撃役は対面外周の敵挟撃役と数的同数か+1の数的優位に留めて、過剰戦力にならないよう配慮する。

同一サイドに単独の挟撃役

 挟撃艦が1隻のみしかない状況では、突撃抑止を他の火力役に任せて挟撃役は外周の機能を優先して占めるほうが望ましい。内周の突撃抑止が不十分な場合に限って、やむを得ず内周寄りに位置を取る。

敵に前線を打開された状況

 たとえ火力劣勢下で敵大型艦に進出を許した状況でも、基本的に挟撃艦のうち1隻は内周に閉じることなく外周に留まる。砲戦に参加していない味方を使うために、外周を横にではなく縦に引き下げることはあり得る。また、外周が狭いマップでは撤退時に内周まで下がらざるを得ない場合もある。

 最も重要な例外は外周に留まると敵の突撃を受けてしまう状況で、これは突撃を阻止できる程度の援護が得られる位置まで撤退するしかない。

敵挟撃艦が内側に閉じた状況

 敵大型艦が内側に収縮している状況では、挟撃艦がわざわざ外周まで開かなくても外周の機能を達成できることもある。外周を取ることが目的ではなく、あくまでも敵大型艦よりも外側の位置を占めることが目的である。このような状況は残存艦艇数の少ない中終盤に多いが、序盤であっても敵挟撃役が外周まで幅を取れておらず陣形が不良な場合に起こりうる。

4.5. 火力役の用法:火力役に制約なし

 火力役は主に巡洋艦が該当するが、その立ち回りは外周の機能③「射界外侵入」という非常に弱い制約しか受けない。そもそもHE弾の特徴はダメージが敵の姿勢に依存しないことなので、乱暴な言い方をすれば射程内に敵を収めてさえいれば立ち位置などあってないようなものである。火力役を扱う際は、味方を撃っている敵を撃てさえすればよい。

「止まった敵をどかす」

 位置取りの注意点を強いて挙げれば、HE弾の利点が最大限発揮されるのは「止まった敵をどかす」状況である。陣地近くの島裏に張り付いた敵レーダー艦、押し上げ態勢に入った敵戦艦などをその場から動かすために主砲弾を放り投げる。

擬似妨害役

 味方占領妨害役が敵占領役をスポットした状況では、内周にいる火力役が擬似的な占領妨害役としても機能する。もしこのような状況にありながら敵大型艦が擬似妨害役の行動を制約できない場合は前線が下がりすぎているわけで、すでに前線の膠着が崩れかけて隠蔽占領と火力占領の中間のような状態にあると考えることもできる。

4.6. 戦闘形式・マップごとの修正

 ランダム戦の戦闘形式は制圧戦が過半数を占め、通常戦も含めれば全体の7~8割をカバーできる。そのため、この節では制圧戦と通常戦のみを取り上げる。

制圧戦:外周と内周の幅

 制圧戦は3陣地制と4陣地制のどちらにも共通する観点として、「外周の幅」と「内周の幅」が戦闘の方向性を決める。

外周の幅:広ければ遠い外周から、狭ければ内周から攻める

 幅が7 km以上の広い外周は挟撃に十分な角度がつくため突破に使いやすく、複数の挟撃艦が陣形の幅を取るために遠い外周まで展開することも珍しくない。反対に7 km未満の狭い外周の突破を狙う場合は、内周または中央に展開した味方が敵内周へ射線を通しながら協調して前進すると効果的である。この狭い外周に複数の挟撃艦を投入すると敵内周への攻撃力がかえって弱まる。

内周の幅:広い内周では外周寄り・中央寄りを使い分ける

 Tier10は有効射程20 kmの大型艦が14 km程度の距離で対峙するため、横方向の有効射程は両側14 km、片側7 kmが目安となる。7 kmを1レーンとみなして、3レーン21 kmが内周の幅の基準値である。この数字を超える広い内周は外周陣地と中央陣地の両方に射線を通すことが難しくなるため内周の「占領妨害の拠点」機能が弱まり、反対サイド内周までの移動にも時間がかかるため「サイドチェンジ」機能も弱まる。このようなマップではどちらの陣地を重点的にカバーするかに応じて外周寄り、中央寄りの位置取りを使い分けるとよい。

 内周の幅が特徴的なマップをいくつか挙げれば、「大海原」が21 kmでちょうど標準的な値である。「戦士の道」は30 km、マップが斜め向きの「罠」は35 kmで非常に広い一方で、4陣地制の「安息の地」は12 kmと極めて狭い。

通常戦:内周占領機能の消滅

 通常戦は敵味方の中間地点に配置された陣地がないため、内周の機能「占領の経路」および「占領妨害の拠点」が消滅する。小型艦の裏取り陣地占領の経路となる戦場中央を遮断する必要はあるが、通常戦において内周はその程度の機能しかない。

5. 実戦譜

5.1. 挟撃役の外周過剰

図 3. 実戦譜1 挟撃役の外周過剰

 味方DruidがA占領を完了したところで、反対サイドのC側がすでに崩されている。制圧戦の要点は内周であるから、敵C側内周の進出を阻止できるかがこの試合の勝敗を決める。

 A外周は戦艦2vs0と過剰戦力である。A外周から戦艦1隻が内周へ閉じて、味方KremlinとNevskyをB中央へ押し出すのが理想であった。敵占領役の駆逐艦2隻は遠い外周に開いており機能不全で、敵妨害役のWorcesterもC陣地にいるためBが手薄になっている。B陣地の争いを優位に進めればまだまだ互角の展開が望める。

 実戦ではA外周から進出した味方SlavaとG.Kurfürstの攻めが遅く、支えきれなくなった味方右翼から敵PreussenとWorcesterのB進出を許して敗勢。敗因は敵のC内周進出を咎められなかったことにある。

5.2. 前線崩壊時の強引な隠蔽占領・煙幕巡洋艦の隠蔽占領

図 4. 実戦譜2 強引な隠蔽占領・煙幕巡の隠蔽占領

 前局面でD側は敵Preussenを撃沈して火力優勢を確定させており、この局面では外周進出中に敵Shimakazeを捕捉して撃沈。敵Shimakazeは前線崩壊時に隠蔽占領を試みるべきではなく、隠蔽雷撃で大型艦を削りにいくかA占領に動くべきだった。

 敵駆逐艦とレーダー艦が不在のA側では味方Napoliが排気煙幕で隠蔽占領を成功させ、占領ポイントを一時的に稼ぐことができた。戦艦の枚数では味方FDGが瀕死でほぼ1vs3の劣勢だが、味方Conquerorは近い外周に位置を取ることで敵戦艦からの射線を絞りつつ内周を牽制してAの膠着を維持した。

 実戦ではこの後自艦Sevastopolが敵Petropavlovsk、Minotaurと2枚替えで精算、味方Minotaurががら空きのC陣地を占領した。A陣地は4分後に火力占領を許したが、味方ConquerorとNapoliは9分間にわたって敵のB進出を抑えながら耐えた。終局までBを踏ませることなく快勝、敵A側の戦艦3隻の働きを抑えたのが勝因である。

5.3. 挟撃役の転換

図 5. 実戦譜3 挟撃役の転換

 占領優勢と火力拮抗を維持しながら逃げ切り勝ちを目指す局面。敵戦艦2隻が外周を放棄したC側は敵の唯一の占領役であるF. Schultzを抑え込むだけでよく、C内周の占領妨害役に味方NeustrashimyとAlaskaを充てる。余剰の味方Amagiが反対サイドに転換する好判断でAB側の戦艦を4vs4の数的同数に保ち、これでとりあえずA側の火力拮抗を維持できた。味方が撃ち負けた場合にはさらにKearsargeをA側へ投入、反対にB後方の敵戦艦がC側に戻ってきた場合にはAmagiをCに再び転換すればよい。

 A外周では狭い外周に閉じ込められた敵Lyonに対して味方が3vs1の局所数的優位を作った。自艦Schröderと味方Georgiaが敵内周のVladivostokから射線を切っているのが絶妙である。

 実戦ではLyonの撃沈からAを火力占領した後、B周辺に集結した敵味方すべての大型艦による8vs6の砲戦を味方が無事に制して勝利した。

6. 後記

Nevskyの内周運用

 昨年までのNevskyの立ち回りの模索期間を経て、ようやく運用が固まってきました。昨年上半期に試した外周運用が自分にはまったく合わなかった一方で、下半期から内周中心の立ち回りに変更すると目に見えて安定感が増しました。内外周の位置取りが勝敗に与える影響力の大きさには未だに驚いています。

大局観の戦術論

 この記事では位置取りのなかでもスケールの大きな判断、距離にして10 km程度、時間にして3 分程度の判断に焦点を当てて扱いました。兵装や消耗品の使い方といったミクロな技術論をもとに戦術を解説した動画やブログは素晴らしいものが数多くありますが、ここではマクロな大局観、試合全体の流れから大まかな位置取りを決めていくという正反対のアプローチを採用してみました。技術論ベースの戦術論では解釈が難しいところにちょうど手が届くような内容になっていればいいなと思います。

ミニマップレンダラー

 この大局的なアプローチの理由の一端は、私が昨年11月頃からミニマップレンダラーで実戦譜を蓄積しはじめたことにあります。リプレイをミニマップの動画に変換してくれる便利ツールで、公式Discord鯖などで利用できます。実戦譜の図を見てもらえば分かりやすいですが、ミニマップでは艦艇の細かい操作がすべて捨象されるので、自然と大局的な観点で試合を眺めるようになります。

勝敗決定局面から遡る

 個人的な見方ですが、リプレイでは最初に勝敗を決定づけた局面を探します。勝ちパターンを「占領主導」「妨害主導」「撃沈主導」の3つに分けて、それぞれが駆逐艦の全滅、駆逐艦とレーダー艦両方の全滅、戦艦2隻差におおむね対応しています。このうち2つが失われた時点が敗北局面で、そこから遡りながら原因を分析していきます。例えば戦艦2隻差がついたなら、どこで戦艦が削られたのか、突撃の標的になっていないか、外周から敵の行動をきちんと制約できていたか、などをチェックしていきます。また、内周の突破成功も決定局面になります。

困難は分割せよ

 対戦ゲームで感じるストレスが自己効力感の喪失、「自分はゲームの勝敗に影響を与えられない」という無力感に似た感覚に起因するとすれば、戦術論は勝利までの過程を細かく分割することでプレイヤーが自己効力感を取り戻すひとつの手段になり得ます。なぜ勝ったのか、なぜ負けたのかが分かるようになると、精神的にはかなり楽になります。

最後に

 この記事の表現は私の感覚に最適化されていてこのままでは使いづらい箇所もあるはずなので、実戦の分析に使いながら合わないところを改めていただければと思います。私個人がソ連レーダー軽巡をメインに扱っている関係で占領妨害役に重きを置きすぎているのではないか、駆逐艦の機能に関する解説が不正確なのではないかという懸念があります。

 次回の記事では「前線はいつ崩壊するか?」を中心的な問いに据えて、突撃論をさらに掘り下げる予定です。

謝辞

 りばっくすさん(@RiBacx366)、珊瑚さん(@Coralsea017)のアドバイスに今回も執筆を助けていただきました。また、じーふぉーさん(@G4H4CK256)には大型巡洋艦のリプレイを提供していただき、私のレーダー巡だらけの実戦譜にバリエーションを加えることができました。ありがとうございました。

突撃の条件

1. 突撃の重要性

 「突撃」は戦場におけるダメージの均衡を大きく崩すポテンシャルを秘めている。ここでいう突撃とは、敵の隠蔽距離の内側まで前進しながら接近戦を行うことを指している。近距離の交戦では隠蔽に戻れない敵味方がお互いに大ダメージを与え合うだけでなく、不意を突いた瞬間火力の高い攻撃が一方的に撃沈を奪ってしまうことさえ起こりうる。このように重要度の高い突撃には失敗の値段も高く付き、突撃の判断を間違えば無償で敵に撃沈を献上してしまうことも少なくない。突撃は撃沈に直結するため、良くも悪くも戦況を大きく変えてしまう影響力がある。

 突撃の成功は撃沈だけでなく、占領優位を勝ち取るために不可欠である。このゲームの勝利条件は撃沈と陣地占領から構成されるが、突撃は撃沈だけでなく陣地占領にも貢献することができる。陣地占領のためには味方が陣地へ前進するだけでなく、敵を陣地から追い出す必要がある。占領の準備段階においても、敵を陣地周辺の重要な海域から追い出すことで味方の安全を確保しなければならない。陣地あるいは陣地周辺の海域から敵を排除するにあたっては、やはり突撃が有効である。味方の突撃が成功した局面では、味方が継続的に前進しながら敵に後退を強いることができる。

 それでは突撃が成功する条件、失敗する条件とは何なのだろうか。突撃は勝利条件と密接に関係しており、突撃を成功させる条件こそ攻撃の最終目標である。突撃を受ける側の立場から眺めれば、この条件は突撃の餌食とならないための注意点に他ならない。この記事では2章で接近突撃を阻止するための条件について考えながら、その裏返しとしての突撃の成功条件を明らかにする。

 レーダー突撃も接近突撃と同様に撃沈および占領に大きく寄与する。レーダー突撃とは、隠蔽状態にある艦艇や煙幕および島裏に隠れている艦艇に対してレーダー艦が行う突撃である。攻撃側が距離を詰めて相手から隠蔽状態を奪うという特徴は接近突撃と共通しているものの、レーダー突撃が標的としているのは低耐久かつ高隠蔽の艦艇、駆逐艦巡洋艦である。レーダー突撃は低耐久の艦艇を標的とするので撃沈に繋がりやすいうえに、高隠蔽で占領への貢献度が高い艦艇を攻撃できるため占領防衛能力にも優れる。このようなレーダー突撃を阻止する条件は3章で扱う。

 突撃を未然に防ぐために、艦艇の位置取りについてどのような点に注意すればよいのだろうか。また、突撃が敵に与える脅威を突撃以外の方法で活用することはできないだろうか。敵が突撃を防ごうとしたことで生まれた敵の配置の変化を利用して、周辺の戦場に数的優位や位置的優位を築く方法を考えたい。4章では突撃の副次的な影響である「突撃誘発」および「束縛」という概念について説明する。

2. 接近突撃の阻止

 この章では接近戦の突撃を受ける側の立場から、突撃を阻むための条件を考えたい。この条件が満たされない状況こそが突撃が決まる状況である。突撃阻止の条件を把握しておくことで、突撃の脅威に晒されている味方艦への予防策を講じたり、敵の陣形に隙を見つけて攻撃の足掛かりにしたりすることができるはずである。

図1. 接近突撃阻止の条件

2.1. 接近突撃阻止の条件

 突撃阻止にあたって第一に考慮すべきは「自力で接近戦に勝てるかどうか」であり、もし勝てるなら敵の突撃はそもそも無理攻めであり成立しない。自力では勝てない場合には「味方を頼る」か「逃げる」かのいずれかを検討する必要があるが、味方の援護を期待するにも撤退のタイミングを図るにも前方への視界が必須である。この議論をまとめると図1のように、突撃阻止の条件は「自力で接近戦に勝てること」または「前方への視界があり援護か退路があること」となる。

 言葉だけでの説明は抽象的で分かりづらいので、具体的な実戦例を踏まえながら突撃阻止の条件を満たしていないときに突撃が起こることを確認しよう。

実戦例1. 序盤の対駆逐強襲
実戦例1. 序盤の対駆逐強襲

 序盤、陣地占領が始まった直後の局面である。反対サイドは省略している。状況としてはNevskyが隠蔽状態のまま外周を上がり、敵Kitakazeをレーダー射程に捉えながらその退路を塞いだ。

 敵Kitakazeの立場で考えてみると、Nevskyに対して中近距離からでは撃ち勝てないので「前方への視界があり援護か退路があること」が突撃阻止の条件となる。Kitakazeは内寄りの針路から陣地に入ったため外周のNevskyがこれまで一度も見えていない。「前方への視界」が存在しないため、突撃阻止の条件がすでに破られている。

 いったん島裏から出て外周へ動こうとしたところで視界は取れたものの、今度はYugumoから発見を受けて、さらにNevskyに退路を塞がれていることが発覚する。退路がないとなれば援護があるかどうか、このNevskyを仕留められる味方戦艦がいるかどうかだが、開幕から内側に引っ込んでいった戦艦2隻は引き撃ち体勢のうえに距離は16 km以上離れていて抑止力にならない。

 結果として敵Kitakazeは味方Nevskyのレーダー射撃を受けて瀕死、蛇足だが味方Yugumoは魚雷で頓死した。

 実戦例を確認することで、突撃阻止の条件が少しはイメージしやすくなったはずである。ここからは突撃阻止の条件それぞれをさらに詳しく掘り下げながら、突撃の成否を決めるさまざまな要因について深く考えてみる。

2.2. 接近戦で勝てるかどうか

 接近戦での勝敗を判断するポイントは、接近戦の結果である撃沈の損得を見分けること、そして味方の得になる条件、損になる条件それぞれで撃沈が起こる可能性を予測することにある。撃沈の損得や可能性を見積もることが難しい状況は、そもそも突撃を起こすべき状況ではない。

 撃沈の損得に関しては、代償なしで敵を撃沈できた場合は文句なしで得と判断できる。お互いに撃沈が発生して交換となった場合はHPの収支や撃沈した艦艇の機能の代替可能性が損得勘定の手掛かりになる。例えばHPが残り少ない味方戦艦がHPの有り余った敵戦艦に体当たりを決めて交換になった場合、HPの収支からみて得をしている。敵の唯一の駆逐艦を撃沈できた場合、代えの利かない視界・占領機能を敵から奪ったことになるため得である。

 撃沈の確実性を左右するのは撃沈までにかかる時間である。HPの少ない艦艇が標的になった場合、あるいは一撃で敵のHPを大きく削ることができる「破壊的な攻撃」が発動した場合には、撃沈の確実性が高まる。

 「破壊的な攻撃」には大型艦の防郭弾体当たり、小型艦の肉薄雷撃があるが、そのうちの体当たりと肉薄雷撃が有効なのは2 km以下の至近距離に限られる。この接近戦の有利不利が大きく切り替わる2 kmというボーダーラインを意識することは非常に重要である。例えば独戦のソナー突撃を受けた駆逐艦は、ソナーの強制発見から主砲と副砲で仕留められてしまえば肉薄雷撃を放つことさえできない。

 また、これらの破壊的な攻撃手段を持たない艦艇、例えば魚雷を搭載しない巡洋艦駆逐艦は、至近距離の接近戦に対して極めて脆弱である。煙幕とレーダー、ソナーを兼ね備えた英巡Belfastは優秀な対駆逐能力を持つ一方で、魚雷を搭載していないため敵戦艦に突撃を受けた際にはまったく抵抗できない。

2.3. 前方への視界があるかどうか

 接近戦で勝てない場合、次に確認するべきは前方への視界、「敵の接近を察知・監視する」ための視界の有無である。視界は援護・撤退いずれを選択しても必要になる。視界がなければ撤退のタイミングを判断できないし、味方の援護も空回りする。

 駆逐艦は島裏に入るタイミング、煙幕に籠もるタイミングに十分注意する必要がある。駆逐艦の前方に駆逐艦はいないため、自身が視線を切ってしまうとそのまま前方への視界がなくなる。

 駆逐艦および空母以外の視界手段としてはレーダーソナーがあるが、いずれも視界機能として不完全である。レーダーは探知時間が有限なため低HP目標、例えば駆逐艦や瀕死の敵艦の突撃しか防ぐことができない。ソナーは探知距離が短いため、突撃阻止側にとっては敵を発見した時点で手遅れになっていることが多い。また、煙幕に籠もっている巡洋艦はソナーで敵を見つけても煙幕内発砲発見で自分が見つかってしまうため撃てない、という場合が頻発する。

2.4. 十分な援護があるかどうか

 視界がある場合の手段その1、味方の援護である。「接近戦が始まった時点で優位に立てるまで敵を削れるかどうか」を確認する。具体的な観点は3つ、味方の火力敵との間合い視界の継続性である。

 味方の火力とは敵を削るスピード、時間あたりのダメージであり、この速度に攻撃時間を掛け算することで最終的な与ダメージになる。敵との間合いが遠いほど敵が突っ込んでくるまでに時間的な余裕があるし、視界が継続的に確保できていれば味方は最大の効率で火力を発揮することができる。

 敵の突撃を止められないなら援護が不十分なので、もうひとつの選択肢である撤退を検討しなければならない。

2.5. 退路があるかどうか

 視界がある場合の手段その2、撤退である。隠蔽距離内に敵がいないことが明らかな場合、あるいは撤退時に敵の視線を切れる場合は、状況が悪化しないうちに早逃げすればよい。

 問題はすでに隠蔽距離内に敵が侵入している場合だが、ここでは姿勢が後ろ向きかどうか、前向きであれば安全に奥転舵できるかどうかが死活問題である。戦艦や巡洋艦は奥転舵のタイミングで敵APにバイタルを抜かれるリスクがあるし、駆逐艦もやはりそのタイミングで集中的に被弾する。転舵で姿勢を反転させるための1分間で敵との距離が5 km詰まるので、これもまた退路が残っているように見えて手遅れになりがちな原因のひとつになる。

3. レーダー突撃の阻止

 レーダー突撃は敵駆逐艦および煙幕・島裏巡洋艦の撃沈と陣地防衛に重要な役割を果たす。この章ではレーダー突撃の意義について説明したのち、レーダー突撃への対策を議論する。

3.1. レーダー突撃の意義

 大型艦は「撃沈までの時間を稼ぐ」ことで接近突撃を阻止する。豊富なHPで敵の攻撃を凌ぎながら、反撃の機会や味方の援護を待つのである。瞬間火力の高い至近距離の破壊的な攻撃が弱点であり、そしてHPが残り少なくなると突撃を阻止できなくなる。

 それに対して、小型艦は「接近戦が始まるまでの時間を稼ぐ」ことで接近突撃を阻止する。駆逐艦は大型艦よりも隠蔽性に優れるため、接近してくる敵艦をスポットしながら撤退か味方の援護かを選ぶことができる。このときに隠蔽雷撃で反撃することも可能である。煙幕や島裏に隠れた巡洋艦も、視線を遮断することで隠蔽状態を保っている。この場合は視界を他艦に依存することになるものの、本来であれば被ダメージのほうが高く攻撃できない状況でも一方的に攻撃できる利点がある。

 小型艦のもうひとつの阻止手段は「肉薄雷撃」である。敵が小型艦を発見するには近距離まで接近する必要があるが、このとき敵は肉薄雷撃を受けるまでの距離的な余裕がほとんどない。瞬間火力が極めて高い肉薄雷撃は接近戦を挑む敵への抑止力として働く。

 それでは、小型艦の突撃阻止の手段を丸ごと奪う方法はないだろうか。小型艦の隠蔽距離まで近づかずに隠蔽を剥がすことができれば、隠蔽距離の差も肉薄雷撃の脅威も気にならない。煙幕や島裏に隠れて一方的に撃ってくる敵巡洋艦をスポットできれば、敵は一転して危険な状況に陥る。これこそレーダーの存在意義に他ならない。

 レーダー突撃の役割は、敵駆逐艦および煙幕・島裏巡洋艦の撃沈と陣地防衛である。駆逐艦や煙幕・島裏まで接近することなく敵を発見できるレーダーは、肉薄雷撃などのリスクを低く抑えることができる。煙幕や島裏で停止している巡洋艦は回避能力が低下しているため、攻撃に対して脆弱になっている。レーダー突撃は低耐久の艦艇を標的とするので撃沈への寄与が大きく、しかも高隠蔽の艦艇に脅威を与えることができるため陣地防衛能力にも優れている。

 この章では一撃離脱のレーダー突撃を扱う。低耐久の艦艇を標的にできるレーダー突撃のほうが、接近突撃よりも「接近戦に勝つ」という条件を簡単に満たすことができる。レーダー突撃と接近突撃の条件を同時に満たした状況ではレーダー突撃に離脱の必要がないことになるが、それはもはや接近突撃の一種なので2章の内容で分析できる。接近突撃の条件を満たしていない状況では、レーダーの有効時間を終えたレーダー艦は敵の大型艦から離れて離脱する必要がある。この章ではまだ分析していない一撃離脱のレーダー突撃を扱うことにする。

3.2. レーダー突撃の阻止

 レーダー艦はまず標的へ接近して、次に標的をレーダーで捕捉して攻撃を行い、そして敵から離脱する。この3段階それぞれに対して対策を考えてみる。

接近
 レーダー艦にとって最も危険なのはこの接近の段階であり、敵のスポットを受けながら敵戦艦のAP射線に睨まれると退路を断たれてしまう。したがって、視界役と戦艦が同時に存在する状況はレーダー突撃の阻止に極めて有効である。スポット役が空母や大型艦であればレーダー艦は自力で隠蔽に戻る術がない一方で、駆逐艦のスポットはレーダーで追い払える可能性がある。いわゆる隠蔽レーダー、レーダー射程がレーダー艦の隠蔽距離を上回っている艦艇の強みは、自身をスポットした敵駆逐艦を確実に捕捉できること、自力で隠蔽に戻れる方法を備えていることにある。

捕捉
 捕捉段階の対応策としてはまず「レーダー艦への反撃」があるが、この内容は①接近と重複する。ここではもうひとつの対応策、「レーダー艦の攻撃を受け流す・攻撃から逃げる」ことについて考えたい。レーダー艦の影響力は駆逐艦への命中弾巡洋艦への防郭弾であるから、駆逐艦は敵弾を回避できればまったく問題ないし、実際に撃ってきているのがレーダー艦1隻のみの場合はスポットを切らなくても前後進だけで回避できることがある。とりわけ対駆逐火力がさほど高くないソ連重巡大巡が相手の場合に顕著である。

 レーダーで捕捉された駆逐艦巡洋艦は後ろ向きの姿勢であれば素早く逃げることができる。奥転舵しなければ逃げられない状況は危険であり、煙幕や島裏で停止している状況からでは動き出しが遅いのでなおさらである。他の対策として巡洋艦は防郭を守るためにあらかじめ防御姿勢を取っておくとよいが、全門斉射が妨げられれば自身の火力が低下しかねないので難しいところである。

 レーダー突撃で攻める側からすると、煙幕・島裏巡洋艦が奥転舵するまでの間にどれだけダメージを集中的に与えられるかが鍵である。あらかじめ砲を向けていた味方戦艦がAPで敵の煙幕巡洋艦の防郭を撃ち抜いてくれるのは非常に心強い。撃つ相手がおらず暇そうにしている味方艦が多くいるタイミングでレーダー突撃を行うと、このような集中砲火が決まりやすい。

離脱
 離脱時の奥転舵をやはり戦艦が撃ち抜くことができれば、結果としてレーダー突撃に対する抑止力として機能するはずである。しかしながらこの後手を踏んだ反撃は突撃阻止側にとってあまり頼りにならない。むしろレーダー艦がこの罠に引っ掛からないよう注意すべきと言えるだろう。レーダー突撃の際には「反対サイドの敵戦艦の射線」に要警戒であり、離脱路の横を撃ち抜こうとする敵戦艦の存在は危険性が高いのに見落としがちである。

実戦例2. 煙幕巡に対するレーダー突撃
実戦例2. 煙幕巡に対するレーダー突撃

 序盤、Nevskyのいる右側のサイドでは敵味方の駆逐艦がともに後退して砲戦が休止状態にあった。説明の都合で反対サイドも図示している。

 敵Neptuneは煙幕を使用したものの、敵の視界役である駆逐艦は遠く離れているうえに敵空母の艦載機も攻撃を終えたタイミングで視界が切れていた。味方Nevskyは敵ZaoとJohan de Wittに反撃を受けないタイミングを見計らってレーダー突撃を決め、射撃目標がなく手持ち無沙汰だったこちらのサイドの味方が敵Neptuneに集中砲火を浴びせて撃沈を奪った。

 レーダー突撃を終えたNevskyはB陣地(中央)に向かって離脱するときに反対サイドの敵Schlieffenの射線が気になる。しかしながら敵SchlieffenはHPが半分以下であったうえに味方の空母とDes Moinesから攻撃を受けたため島裏に隠れ、安全にB陣地に留まることができたNevskyには陣地占領のおまけがついてきた。

4. 突撃の副次的な影響

 この章では突撃がまだ明確には起こらない段階、突撃阻止条件が部分的にのみ満たされている状況について考える。突撃が与える潜在的な脅威は「突撃誘発」および「束縛」というメカニズムを通じて他の優位へ変換することができる。また、「突撃誘発」は突撃阻止側が艦艇の位置取りを決める際の指針になる。

4.1. 突撃誘発

 艦艇がそこにいることでかえって敵の突撃を呼び込むことがある。「接近戦で不利な艦艇が退路を断たれる」と突撃阻止の手段を他の味方艦の視界や援護に依存することになってしまい、この他者依存的な条件が満たされなくなったタイミングで敵の突撃に狙われる。敵との距離を詰めることが必ずしも敵の攻撃を遅らせるとは限らず、むしろ敵の攻撃を助長することすらあるのである。突撃を誘発しかねない艦を他の味方艦も放っておくわけにはいかず、これが「突撃誘発」と表裏一体の「束縛」という概念につながる。

4.2. 束縛

 突撃阻止を味方の援護に依存している場合、味方火力艦の位置取りに制約がかかる。例えば敵駆逐艦が占領をしている状況で、レーダー艦は敵戦艦からの射線が切れたタイミングを見計らって陣地に一撃離脱のレーダー突撃を決めることができる。この状況で敵戦艦は本来であれば陣地への射線を切ってはいけなかったはずである。これが突撃の脅威が敵の行動に制約を与える例である。

 もうひとつ、突撃阻止を味方の視界に依存している場合にも味方視界艦の行動に制約がかかる。例えば煙幕巡洋艦が陣地から遠く離れた外周で煙幕を使用した場合、味方駆逐艦は外周で視界を取り続けるか、外周の視界を諦めて陣地を踏みに行くかの選択を強いられる。それに対して煙幕巡洋艦が陣地近くで煙幕を使用した場合、駆逐艦は占領役と視界役を兼ねつつ味方煙幕巡洋艦の強力な援護を頼ることができる。こちらの場合は視界役という制約が駆逐艦にとって負担にならない。

 退路を断たれたうえに突撃の脅威に晒されている味方艦が存在すると、好きなタイミングで突っ込んでくる敵艦を阻止するために他の味方艦が継続的に束縛されてしまう。位置取りの自由度の減少と機能性の低下が起こることで、「束縛」は周辺海域における数的あるいは位置的な不利に波及する危険性がある。この厄介な束縛を回避するためには、突撃を受けるリスクのある艦艇が退路を残して、味方の配置の変化に対応しながら位置取りをいつでもやり直せるようにしておく必要がある。

実戦例3. 無謀な前進
実戦例3. 無謀な前進

 中盤初め、味方が陣地を押さえたところで敵ShikishimaがC10の島を超えて外周から仕掛けてきた局面。反対サイドは省略している。

 敵Shikishimaは友軍を島よりも後ろに置いてきてしまったため援護がなく、そのうえ味方Schlieffenの射線に晒されて退路を断たれている。味方SchlieffenのほうはSmolenskやKremlinなど豪華な援護を備えており、火力の差は圧倒的である。「接近戦で勝てない」うえに「援護も退路もない」ので、突撃阻止の条件はやはり破られている。敵Shikishimaは敵を押し込むどころか、かえって相手の突撃を誘発して攻撃の起点にされてしまった。

 このとき敵駆逐艦は中央のB陣地へ移動していたため、敵は外周の味方が見えていなかった。敵Shikishimaは視界がないので接近戦の判断を誤り、撤退のタイミングを見失ったとも考えられる。

 結果的に敵Shikishimaの撃沈が引き金となり、戦艦の枚数で優位に立った味方のSchlieffenとKremlinが勢いそのままC側を突破して敵を奥深くまで押し込んだ。

謝辞

 執筆にあたって様々な方にアドバイスをお願いしました。ご協力ありがとうございました。

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 補遺

1. 本記事の範囲

 この記事ではゲーム内の弾道を数値的にシミュレーションするための詳細を解説します. 具体例には深入りせず, 数値計算に必要な数式を必要最低限の説明で書いていきます. 貫通力や着弾時間のデータだけ得られればよいという方は下記の (筆者とは無関係な) WoWS 用弾道計算サイトを利用できます. ただし注意点として, この記事の数式が下記サイトと一致するかどうかに関しては保証できません. 近い結果にはなると思います.
jcw780.github.io
 計算にあたってはすべてのパラメータを SI 単位に統一することでミスを防ぐことができます. ありがちなミスとして, 大気密度を求める式のパラメータに m ではなく km 表記のものが混在していると計算結果が狂います.

2. 砲弾の空気抵抗

2.1. 弾道方程式の成分表示

 速度の 2 乗に比例する空気抵抗のもとで, 弾道方程式を速度の水平成分  v _ {x} および鉛直成分  v _ {y} に分解して書くと以下のとおりになります. 鉛直成分は上向きを正とします.

 \displaystyle
\dfrac {dv _ {x}}{dt} = -k \, v _ {x} \, \sqrt{{v _ {x}} ^ {2} + {v _ {y}} ^ {2}}

 \displaystyle
\dfrac {dv _ {y}}{dt} = -k \, v _ {y} \, \sqrt{{v _ {x}} ^ {2} + {v _ {y}} ^ {2}} - g

 k \, \mathrm{[ m^{-1} ]} は空気抵抗の比例定数,  g \, (=9.80665 \mathrm {m \cdot s^{-2}}) は重力加速度です. 右辺第1項にある空気抵抗の成分表示に違和感があるかもしれませんが, 抵抗が速度の 1 乗ではなく 2 乗に比例する場合は綺麗な式になりません. 例えば水平成分に関して  -k \, {v _ {x}} ^ {2} などとしないように注意してください.

 水平および鉛直速度を時間積分すればそれぞれ水平距離  x と高度  y になります. ここでは解説しませんが, 微分方程式の数値解法には Runge–Kutta 法などが利用できます. プログラム上ではもちろん, Excel 上での実装も煩雑ですが可能です. ぜひ挑戦してみてください.

2.2. 空気抵抗の比例定数

 2.1節で k とした空気抵抗の比例定数は以下の式で求まります.

 \displaystyle
k = \rho \cdot \frac{S \cdot C _ {D}}{2 \, m}

 \rho \, \mathrm{[ kg \, m ^ {-3} ] } は大気密度,  C _ {D} \, \mathrm{[ 1 ]} は砲弾に設定された抗力係数,  m \, \mathrm{[ kg ]} は砲弾重量です.
また,  S \, \mathrm{[ m ^ {2} ]} は砲弾の断面積であり, 口径  R \, \mathrm{[ m ]} を用いて

 \displaystyle
S = 2 \, \pi \cdot {\left( \frac{R}{2} \right)} ^ {2}

と書けます.

 ややこしい話ですが, 大気密度  \rho は一定ではなく高度  y の関数になります.

 砲弾の空気抵抗に関してはじーふぉさんのブログへの寄稿という形式で過去に書いたことがあります. 必要であれば参考にしてください.
g4h4ck256.hatenablog.com

2.3. 大気密度

 大気密度  \rho \, \mathrm{[ kg \, m^{-3} ] } は高度  y \, \mathrm{[ m ]} の関数として以下の式から求められます.

 \displaystyle
\rho = \rho _ {0} \cdot {\left( 1 - \frac{\tau \cdot y}{T _ {0}} \right)} ^ {\frac{\tau}{R_{air}}-1}

 \rho _ {0} \, (=1.225 \mathrm{kg \, m^{-3}} ) は地上の大気密度,  \tau \, (=6.5 \times 10^{-3} \mathrm{K \, m^{-1}}) は対流圏の気温減率 (上昇した高度あたりの気温の低下率),  R_{air} \, (=1.236708 \times 10^{-3} \mathrm {m \, K^{-1}})気体定数から重力加速度と大気のモル質量を除した値,  T_{0} \, (=288.15 \mathrm{K}) は地上の気温です. 上記の式を導くには, 理想気体の状態方程式と静水圧平衡の式を連立して解きます.

 大気密度の実際の値は図1のようになります. 高度が上がるほど密度は下がっていくので, 空気抵抗も小さくなっていきます.

 厳密に言えば上式は対流圏のみで成り立つので, 高度11 kmを超えて成層圏に入ると適用範囲外になってしまいます. しかしながらゲーム内の砲弾がこの高高度を通過する状況は非常に珍しいことから問題ないと考えています.

図 1. 大気密度の高度変化

2.4. 砲弾速度にかかる時間倍率

 ここまでの3つの式で弾道方程式は閉じるので, 実際に弾道を計算することができます. ただし, ゲーム内における砲弾はこのシミュレーションどおりの速度よりも速く飛びます. 求めた着弾時間を 2.75 で割ってください.

3. 砲弾の垂直貫通力

 砲弾の垂直装甲に対する貫通力を求める推算式は以下のとおりです. ただし, 現在ではもっと精度のよい式が存在している可能性があります.

 \displaystyle
Vertical \, Penetration = C_{pen} \cdot {v_{x,impact}}^{1.38}

 \displaystyle
C_{pen}=0.081525 \cdot \frac{Krupp}{2400} \cdot m^{0.55} \cdot {\left( 1000 \cdot R \right)}^{-0.65}

 v_{x,impact}  \, \mathrm{[ m \, s^{-1} ] } は砲弾の撃速 (着弾時の速度) の水平成分,  Krupp \, \mathrm{[ 1 ] } は砲弾に設定されたKrupp値,  m  \, \mathrm{[ kg ] } は砲弾重量です.

4. 最後に

 駆け足になりましたが, 弾道計算の数式についてはこれがすべてです. アップデートで艦艇が追加されてもこの弾道計算の根本的な仕組みが変わるわけではないので, お得な知識だと思います. 式変形で誤りや疑問, 分かりづらい点などがあれば twitter (@warabi99_wows) までお願いします. 特に大気密度のところは分かりづらいのではないかと思っているので, 要望があれば式変形を書きます. 貫通力推算式の回帰データも要望があれば提供します.

 「高Tier巡洋艦の主砲を概観する」記事4本を書き終えるまで1年弱を要した遅筆をお許しください. 今後の課題として新艦艇データはぼちぼち追加していくつもりです.

火力・視界から探る艦種機能

0. 概要──交戦形態に裏付けられた艦種機能

 主砲照準などの技術的判断は1試合あたりの判断頻度が高いため、実戦経験を積むことで効率的に改善していく。一方で立ち回りなどの戦術的判断は判断回数が少ないため、実戦経験のみに頼って改善を図ることには限界がある。そこでこの記事では戦術的判断に関する概念を整備するために、4つの艦種の機能を火力と視界の両面から考察していく。

 前半では戦艦および巡洋艦の火力機能を扱う。交戦を3種類に分類してそれぞれの特徴を取り上げていくが、実戦では味方にとって有利になるような交戦形態を選択することが戦術的な目標につながる。1章ではAPが関与しない交戦から遠隔戦接近戦を導く。2章ではAP射線の性質を導入して新たに挟撃の概念を立てる。3章では交戦の広域性・局所性をもとに位置的優位の起源を探る。

 後半では駆逐艦および空母の視界機能を主に扱う。視界機能の強弱は交戦形態を左右する最も重要な要因である。4章では視界機能の制限性という観点から駆逐艦と空母の差異を確認したのち、5章では駆逐の火力・視界・占領機能と対駆逐攻撃を扱う。6章では空母の火力が戦場に及ぼす影響力について、交戦の広域性・局所性を応用して考察する。

図 1. 交戦形態の3類型

1. 遠隔戦・接近戦──距離的な二元論

 まずAP射線の角度依存性が寄与しない大型艦(戦艦・巡洋艦)の砲戦について、交戦距離が隠蔽距離よりも遠いか近いかに応じて交戦形態を遠隔戦接近戦に分類する。

 遠隔戦の生起条件は①外部視界役の存在視線・射線の透明性余裕のある点数状況の3条件がすべて満たされることである。遠隔戦の性能的根拠は交戦距離の優越による一方的攻撃である。島越し射撃や煙幕射撃の島裏策も一方的攻撃を可能にするが、接近戦との相互移行が容易である点で本来の遠隔戦とは異なる。

 接近戦の生起条件は遠隔戦の3条件いずれかの否定である。接近戦の攻撃手段は、交戦距離の長いほうから主砲、副砲、肉薄雷撃、体当たりの順に並ぶ。自分にとって有利な攻撃手段を選択して投射量の優越を得るためには接近戦の交戦距離管理が必要になる。

 接近戦を行う大型艦が視界役を兼任することも可能であり、この場合接近視界の遠隔戦が生起する。接近視界の遠隔戦は接近戦でありながら遠隔の射線を要求する。この場合、接近戦は遠隔戦条件①③いずれかの否定によって生起することになる。

2. 挟撃──AP射線の機能

 AP射線の存在下では艦艇の奥転舵が抑止されるため、前向きの艦艇が交戦距離のコントロールを失うコミットが起こる。ここから引き撃ちの必要性を導ける。また、砲戦舷の保存と組み合わせれば射界外への動きの根拠となる。これらは1章の一次元的交戦を小規模に修正したものである。

 複数のAP射線に角度差をつけて敵の側面を強制的に捉えることができる挟撃は、遠隔戦・接近戦に大きな修正を迫る。挟撃のためには挟撃の位置につく戦艦に関して①襲撃・潜伏時の隠密性・安全性決定機における横射線の開通決定機における被挟撃の回避という3条件が満たされる必要がある。

 戦艦は挟撃の脅威を敵に与えるために延翼運動を行うが、これは有効射程の限界または横射線の遮断のいずれかに起因してAP射線の集中が不可能になるまで継続する。挟撃の脅威のもとでは敵挟撃艦の行動を制約するために戦力配置を分散する必要が生まれる。

3. 交戦の広域性と局所性──位置的優位の起源

 視線と射線が無条件に通り有効射程の制限もないという理想的な遠隔戦において、艦艇の位置はその火力機能に影響を与えない。この広域的交戦は全艦艇が参加する消耗戦に陥る。火力差が撃沈を通じて隻数差に結びつき、隻数差が火力差の拡大を招くという正のフィードバックが働くことで、試合の逆転は困難になる。

 位置的優位が火力機能に影響を与える局所的交戦は、戦場に不確実性と逆転可能性をもたらす。位置的優位の起源は挟撃の脅威が招く戦力配置の分散、接近戦における遠隔射線の遮断と激烈なダメージ速度が招く移動の凍結にある。

 ただし接近戦でありながら遠距離射線が遮断されず、かつ交戦が緩慢な場合には接近視界の遠隔戦が生起する。この場合は遠隔戦に準じた広域的交戦が起こりうる。

4. 視界機能──視界の制限性

 遠隔戦の視界・視線条件①②を満たす能力に基づいて視界機能を評価する。地形による視線の遮断の影響、移動速度、耐久性といった観点から駆逐視界は制約を受けるのに対して、航空視界は制約を受けない。駆逐視界は制限視界であり、空母の航空視界は無制限視界である。

 無制限視界である航空視界の影響下では、駆逐艦隠蔽距離ではなく安全距離に従って位置取りを決める必要がある。

5. 駆逐艦機能──隠蔽雷撃と対駆逐攻撃

 駆逐艦の性能的根拠は大型艦よりも圧倒的に優秀な隠蔽距離である。駆逐艦隠蔽雷撃は同一の艦艇が視界機能と火力機能を兼任する真の一方的攻撃であり、駆逐艦の機能のなかでも重要な役割を果たす。

 占領の利益は①敵が陣地を踏む最短時間までに稼ぐポイント敵に前進を強いることによるダメージ収支改善、この2点で構成される。敵に前進を強いてもダメージ収支が改善しない場合、占領から得られる利益は①に限られる。

 駆逐艦が姿を晒して行う相互的な砲戦は接近戦に準じた特徴を持つ。遠隔の射線が容易に通れば接近視界の遠隔戦が生起して、駆逐艦への援護が容易であるから数的優位が機能する。反対に遠隔の射線が遮断されていれば純粋な接近戦が生起して、駆逐艦への援護が困難なため性能的優位である投射量の優越が勝敗を決める。

 駆逐艦が島や煙幕などの島裏策を駆使して行う一方的砲戦は視界の手段に応じて、駆逐艦自身がソナーやレーダーを用いて敵艦をスポットする自己完結的視界と、味方艦のスポットに依存する外部視界に分類できる。自己完結的視界の砲戦は隠蔽雷撃に次ぐ真の一方的攻撃である。大型艦視界の砲戦は遠隔戦に準じるが、視界機能を大型艦や空母が担い、火力機能を駆逐艦が担う変則的なものである。

 レーダー巡洋艦による対駆逐攻撃の交戦距離は大型艦の遠隔戦よりも短く、駆逐艦の砲戦よりも長い。接近戦の交戦距離管理をもとにすれば、大型艦の遠隔戦の影響を避けつつ敵駆逐艦へ射線を通す必要がある。

6. 航空火力──地形無視の攻撃

 航空火力による地形無視の攻撃は、地形による射線の遮断を条件に持つ接近戦および挟撃の影響力を低下させる。島裏策に関しても、航空攻撃のもとでは安全性が格段に低下する。

 さらに対空能力は複数艦艇の配置が集中することで高まるが、逆をいえば単独行動の艦艇は航空攻撃に極めて脆弱になる。航空火力のもとでは挟撃を試行する際のリスクが上昇するため、交戦の局所性はやはり低下する。

 航空火力の存在下では戦場における広域性と局所性のバランスが崩れて広域性のほうへ大きく傾くことで、遠隔戦を背景とした消耗戦が支配的になる。

謝辞

 執筆にあたって、りばっくすさん(@RiBacx366)、珊瑚さん(@Coralsea017)、じーふぉーさん(@G4H4CK256)に助言をいただきました。ありがとうございました。

中距離砲戦の趣旨

正のダメージ交換と一方的攻撃の追求

 勝利は正のダメージ交換によってもたらされる。もし一方的な攻撃が可能なら、敵味方の状態に依存せず「正の交換」を実現できる。
 真の一方的攻撃とは単独の艦艇が視界役と攻撃役を兼ねる状況であり、該当するのは駆逐艦の隠蔽雷撃のみである。
 そこで条件を緩めて、外部の視界役の共存下において一方的攻撃を実現する方法を考える。

島越し射撃と煙幕射撃

 島越し射撃・煙幕射撃は、地形・煙幕によって視線を遮断しつつ射線のみを通すことで一方的攻撃を実現している。
 しかし島越し射撃は地形に依存するためマップ次第では実現不可能であり、煙幕は消耗品としての使用回数および準備時間から制約を受ける。さらに、敵の後退に追随することが難しい。

交戦距離の優越

 視線の遮断によらず一方的攻撃を実現するには、交戦距離の優越によるしかない。自艦の安全距離と有効射程の間で砲戦を行う。有効射程のギャップは異なる艦種の間で大きくなるため、巡洋艦にとっては戦艦が主な標的になる。

中距離砲戦の前提

 中距離砲戦の前提は下記の3点である。
1) 海域は開けていて視線と射線が容易に通る。
2) 視界役は敵艦を安全にスポットできる。
3) 自艦は安全かつ一方的な攻撃が可能な交戦距離の範囲を維持できる。

距離のみに依存する位置的優位

 交戦距離の優越さえ維持できればよいので、敵との距離だけが位置取りの基準になる。ここから内周の活用、そして引き撃ちの優位が導かれる。
 戦術的な立ち位置については敵1隻以上を有効射程に収めていればいいので非常に制約が緩い。相対的に戦略的な観点が優先されるので、戦力の迅速な再配分のためにマップの中心に近いほうがよい。外周に出る理由がないので内周の活用がメインになる。
 AP射線の影響下では艦艇の姿勢が固定され、前向きと後向きの切り替えが不可能になる。この状態で状況で隠蔽に戻れなくなると、もはや交戦距離を維持できず安全距離未満の砲戦に至る。したがって、敵APの有効射程内(通常の敵有効射程より長い)で砲戦を行い、かつ敵視界艦が自艦の隠蔽距離内に侵入するおそれがある場合は、距離の優越を維持するにあたって後ろ向きの姿勢で砲戦を行わなければならない。

中距離砲戦論の阻害要因

 中距離砲戦の前提をそれぞれ裏返すことで、中距離砲戦が機能しない状況の要因を明らかにできる。
 視線の条件を裏返す。地形を活用した視線や射線の遮断は中距離砲戦を阻害する。
 視界役の安全性を裏返す。視界役が撃沈または排除されると中距離砲戦は機能しなくなる。後述するが、これが中距離砲戦の実現を狙う側にとって最大の障壁になる。
 交戦距離優越を裏返す。弾速が高く有効射程の長い艦艇は、敵が持つ距離の優越をさらに大きな優越によって無効化できる。
 引き撃ちの優位を裏返す。AP射線を利用して敵の姿勢を前向きで固定しながら駆逐艦や艦載機で隠蔽を剥がせれば、敵はいずれ隠蔽距離を割り込み距離のコントロールを喪失する。

視界役への依存および援護の欠如

 中距離砲戦論および交戦距離の優越は視界役が不在の状況では活用できず、視界役が攻撃を受けている場合への対応も欠落している。島越し射撃ならば安全距離を割り込んだ砲戦が可能なので敵駆逐との距離を安全に詰めることができるのに対して、中距離砲戦では遮蔽物がない状況を想定しているため敵駆逐艦との距離は必然的に遠くなる。

中距離砲戦論の要求性能

 中距離砲戦を効率良く行うためには高い弾速と戦艦に対する高い投射量、そして高い回避能力が要求される。隠蔽距離については安全距離未満から砲撃を受ける可能性を排除できれば十分である。
 回避能力について補足すると、減速転舵による回避では高速性と転舵性能が重要になる。一方で前後進による回避では、直線加速性能と舷側装甲の斜撃に対する防御力、つまり跳弾可能性や二重装甲による防郭貫通の回避を重視する。

実際の艦艇への応用

推力転舵Chapayev

 隠蔽無用論は推力転舵ビルドの意義を簡潔に説明している。ただしChapayevの特殊性として、隠蔽UGを切っても隠蔽レーダーが可能なため敵駆逐へのプレッシャーを維持できる点は見逃せない。これは距離の優越からくる隠蔽無用論のみでは説明が完結しない。

全裸Henri IV

 全裸ビルドとは、推力転舵に艦長スキルとして重榴弾や最上級砲手を合わせる構成である。
 Henri IVは戦艦に対する投射量がかなり高いうえに回避能力も高いため、中距離砲戦論との相性が非常に良い。隠蔽無用論を体現する運用である。

推力転舵Nevsky

 失敗例。隠蔽14.2では敵駆逐に全くプレッシャーが掛からず視界役を維持できないので、隠蔽UGを取って隠蔽12.8からレーダー12を打ったほうがマシ。素のHE貫通力が30mmなので対戦艦の火力があまり伸びないのも悩みどころで、別の運用法を探す必要がある。
 Nevskyは高い弾速とレーダーによって敵の中距離砲戦を阻む能力を併せ持つのがポイント。巡洋艦に対しては距離の優越を消失させて、駆逐艦に対してもレーダーの脅威を与えることができる。

結びにかえて─応用に関するアイデア

 性能的優位を一方的攻撃の実現という基準から考察することで、艦艇の運用や位置取りに関する知見を得ることができる。今回は交戦距離の優越という概念を議論の出発点にしたが、例えばこれを駆逐艦の隠蔽雷撃など他の一方的攻撃方法へ取り替えても同様の思考過程を辿ることができる。
 応用例として巡洋艦駆逐艦に対する攻撃の意義について考えてみる。距離の優越による中距離砲戦に関しては、劣勢側が中距離砲戦を拒否するための手段として行う。一方で、駆逐艦の隠蔽雷撃に関しては被雷撃側が隠蔽雷撃によるダメージを予防するために行う。当然ながら実戦における位置取りの判断基準にも差異がある。前者に関しては中距離砲戦の劣勢側は視線を通される限り対駆逐攻撃の必要があり、優勢側は味方駆逐が曝される脅威の高さに応じて敵の対駆逐攻撃を抑止する必要がある。後者では隠蔽雷撃の実現可能性で判断でき、例えば魚雷射線が通っていなければ対駆逐攻撃の必要性はない。
 「一方的攻撃」という観点は艦艇性能と艦艇の運用に関する前提の結びつきを明らかにして、戦術的な判断の基準を簡潔かつ論理的に導くことができる。

謝辞

 りばっくすさん(@RiBacx366)、珊瑚さん(@Coralsea017)に執筆上のアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 各論後編

 

1. 本記事の範囲

 前編では砲弾性能を中心に解説したので, 後編では砲塔性能(装填時間)と主砲門数が絡むHE投射量を解説していきます. この記事でいう投射量とは分間ダメージ(DPM)のことで, HE砲弾ダメージに分間の最大投射弾数を乗算したものです. SAP搭載艦艇についてはSAP投射量に8割を乗算してHE投射量に準じるものとして扱います. 

 主砲性能の要点のほとんどは各論前編で解説し終えた感があるので, この後編はひたすらDPMの具体的な数値を列挙するだけの記事になりそうです. ただし性能値の大まかな序列を把握しておくだけでもカタログスペックを読むのはかなり楽になると思うので, まるっきり無意味なわけでもないはずです. 分間ダメージの先にある話題, 例えば装填時間や斉射火力の話をするにしても, 議論の叩き台として分間ダメージの大まかな傾向を捉えている必要はあると考えています. 

 本文読むより表を見るというのも総論編, 各論前編と同様です. 本文はおまけ, 表の一部を文字に起こしただけなので流し読みしてください. 

 誤字脱字, データ誤りなどあればこっそり教えて下さい. 

1.1. 汎アジア巡洋艦ツリーについて

 本記事は半年以上前に書いていた記事の続きであり, 実装済み艦艇のデータもまだ更新できていません. 気が向いたら更新するかもしれません. ご了承ください. 

1.2. 関連記事

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2. Tier10巡洋艦

 まずはツリーの終着点であるTier10を基準にして, HE貫通力のカテゴリーごとの基準を掴みます. 

表 1. Tier10巡洋艦の投射量

2.1. Tier10大巡クラス

HE貫通力が50mm以上の艦艇が属します. ソ重巡の表面50 mm, 独戦の表面50 mmに貫通弾を出せます.

 重巡ながら独巡1/4ルールの適用によって51mmを抜くHindenburgが18万という非常に優秀な投射量を誇ります. Goliath, Yoshino, Puerto Ricoが14万台に並び, 戦艦並みのAPを持つStalingradは12万と投射量では劣ります. 

 分間火災数では意外にもYoshinoが最も低く, HEダメージ優遇を受ける一方で火災率は通常のものという仕様が影響しています. 

 

2.2. Tier10重巡クラス

 HE貫通力が32 mm以上, 49 mm以下の艦艇が属します. 同格戦艦に対しては表面32 mmの英仏戦を抜き, さらに貫通力38 mm以上であれば米戦の甲板に対しても貫通弾を出せます.

 投射量でトップに並ぶのは言うまでもなく米重巡Des Moinesとその同型艦Salem, 分間10発を超える自動装填8 inch砲9門で27万ものDPMを叩き出します. 前部主砲6門に限っても18万のDPMがあり, これでもなお次点のZaoを上回る投射量を発揮します. 

 続いて大きく引き離されてZaoの17.8万, Moskvaの15.9万, そしてHenri IVの14.1万, Gouden Leeuwの14.0万といった並びです. ただし仏巡Henri IVは主砲装填ブースターを搭載しているため, 実際の投射量はカタログスペックより高めになります. 大巡におけるStalingradと同様の理由で, 重巡ながら戦艦並みのAP貫通力を得たPetropavlovskは12万台とHE投射量では劣ります. 最低はNapoliの10.9万, 投射量だけ見ればもはやTier10に居るのが罰ゲームという数値です.

 分間火災数でももちろんDes Moines級が最高ですが, 続いて9台にZao, そして投射量ではMoskvaに劣っていたHenri IVが優秀な災害力を発揮します. 

 

2.3. Tier10軽巡クラス

 HE貫通力が30mmの艦艇が属します. 巡洋艦表面の30mmはそのまま貫通可能ですが, 戦艦表面の最低値32mmを抜くためにはIFHEが要求されます. 

 米軽巡Worcesterは34万を超える狂気じみた投射量を誇る反面, 弾速は遅めです. ソ軽巡Nevskyは重巡クラスを上回る20万の投射量を非常に速い弾速で撃ち出し巡洋艦相手には強いものの, やはり戦艦相手にはIFHE必須という点がネックになります. 

 分間火災数ではWorcesterが18, IFHEによる火災率半減を受けてもなお9台という十分な数値を維持します. 一方でNevskyはIFHE込みで5というかなり低い数値になります.

 

2.4. Tier10駆逐砲巡クラス

 HE貫通力が29mm以下の艦艇が属します. 同格巡洋艦の表面を貫通するためにはIFHEが要求されます.

 Tier10最高のHE投射量はColbertの59万, そしてSmolenskの38万が続きます. Austinは16万という重巡並みの非常に低い投射量に留まりますが, 主砲装填ブースターによって15秒間の装填時間が1/4になるため爆発力があります. 

 

2.5. Tier10HE不搭載巡洋艦

 伊巡VeneziaはHEの代わりにSAPを搭載しています. AP投射量ではNapoliと同程度という非常に低い値になりますが, SAP投射量を重巡HEの8割程度と考えれば17.8万, Zaoと同程度になります.

 英重巡GibraltarはAP限定234mm砲をGoliath同様に12門搭載していますが, 装填時間の短縮に伴いAP投射量は1.28倍に上昇しています. 

 残る英軽巡2種のAP投射量について, Minotaurは60万, Plymouthは45万となっています. Worcesterの50万と比較すれば分かりやすいかもしれません.

 

2.6. Tier10巡洋艦の投射量まとめ

大巡: Hindenburgが18.3万, Stalingradが12.1万, ほか14万台.
重巡: Des Moinesが27.4万, Petropavlovskが12.2万, Napoliが10.9万. ほか18万~14万. 
軽巡: Worcesterが34.4万, Nevskyが20.0万.
駆逐砲巡: Colbertが59.2万, Smolenskが38.4万. Austinが16.2万(MBRB).

 

3. Tier9巡洋艦

 Tier9は大巡のバリエーションが非常に豊かで, 軽巡および駆逐砲巡は少ない環境になっています. 

表 2. Tier9巡洋艦の投射量

3.1. Tier9大巡クラス

 投射量の傾向についてざっと眺めると, Tier10の14万台に対してTier9では12~11万台が中心です. 

 艦艇ごとに細かく見ていくと, Azumaがトップの13.7万, 続いてRoonの12.8万, Kronshtadtの12.2万, Alaskaの11.6万, Drakeの11.5万と近い範囲に6隻が密集します. 少し離れてCarnotの10.2万, Ägirの9.7万, そして最低は独38cm砲という巡洋艦最大の主砲を搭載するSiegfriedの6.0万です. 

 独Siegfriedは巡洋艦精度で撃ち出される独38 cmの強力なAP, 独Ägirに関しては77 mmという優秀なHE貫通力, 仏Carnotに関しては最大で40 ktを超える機動力がトレードオフになっているものと思われます. 

 分間火災数についても7台前半にほとんどの艦艇が集中しますが, Roon, Carnotがやや低く6台に留まり, そしてまたしてもSiegfriedが4.7という極端に低い値になっています.

 

3.2. Tier9重巡クラス

 米Des Moinesの自動装填砲を連装砲塔3基6門として搭載する米Tulsaが18万台でもっとも高く, 米Buffaloおよび日Ibukiはそれぞれ16.8万と14.4万, 主砲装填ブースターを搭載する仏Saint Louisが13.7万と続きます. 15 km地点のAP貫通力が240 mmを上回る超重巡クラスの蘭Johan de Witt, ソRigaのHE投射量は11万台というやや低めの値です. 

 

3.3. Tier9軽巡クラス

 2隻のみの実装です. Seattleが24万とTier9最高の投射量を誇る一方で, 重巡並みの貫通力を有するDonskoiは重巡クラスにさえ劣る14.4万という低い投射量になっています.

 旧仕様においてDonskoiはIFHE込みで米戦の甲板38 mmに貫通弾を出せるという点で差別化が図られていましたが, 現仕様では投射量とAP貫通力で重巡に並ぶため重巡勢との競争では厳しい状況に置かれています. 

 

3.4. Tier9 HE不搭載巡洋艦

 伊BrindisiのSAP投射量を8割に割引くと15万弱になるため, 同格の重巡勢とほとんど同じ水準にあります. 英Neptuneは15 km着弾時間が最も遅い一方で, AP投射量が最も高いTier 9巡洋艦です. 

 

4. Tier8巡洋艦

 Tier8は重巡および軽巡が非常に多く, とりわけ軽巡のバリエーションには目を見張るものがあります. しかし同一の弾道性能を持つ艦艇も少なくないため, 弾道性能が一致している艦艇をグループとしてまとめていくと把握しやすいと思います. 

表 3. Tier8巡洋艦の投射量

4.1. Tier8 大巡クラス

 独HipperおよびEugenはツリーTier9, 10と同様の203 mm砲を搭載しています. Eugenのほうが投射量が低いのは, やや高いHPと修理班による継戦能力とのトレードオフです. 英Cheshireおよび米CongressはTier9, 10の同国籍艦艇が搭載する主砲をTier8に降ろしてきた艦艇です. いずれの艦艇もHE投射量が10万から8万程度というかなり低めの値になっています. 

 

4.2. Tier8 重巡クラス

 独Mainzは口径150 mmですが貫通力優遇で重巡HEに準じます. 投射量も火災力も群を抜いており, さらに米戦の表面38 mmを貫通するため対戦艦火力は極めて優秀です. 

 米重巡はAPの砲弾性能で2種類に分かれるのは各論前編で説明したとおりですが, HEの砲弾性能には差異がありません. 投射量に関してはBaltimoreとWichitaが15万と重巡では高く, 煙幕を搭載するAnchorageとRochesterは13万程度とやや低くなります. 

 仏Martelと汎亜Wukongは弾道性能で一致します. Martelは主砲装填ブースターを搭載するため, 素の投射量はWukongより若干低めです. 

 日Mogamiは主砲2種類の選択制ですが, 重巡ver. では13万, 修理班を搭載するAtagoは12万程度です. 

 蘭Haarlemは空襲とのトレードオフ, 日Toneは雷撃機とのトレードオフで投射量は10万前後とかなり低くなっています. 

 

4.3. Tier8 軽巡クラス

 見かけの種類こそ多いTier8軽巡ですが, 実際はソ連152砲搭載が4隻, 米152砲搭載が2隻あるため一括りにしてしまえば分かりやすくなります. 

 投射量を上から見ていくとまず米Clevelandの24万, 日Mogamiの23万, 米Montpelierの22万がトップクラスです. Clevelandは弾速の遅さ, Mogamiは異常に低い火災力を反映しています. MontpelierはClevelandよりも投射量で若干劣るものの, 主砲精度が若干高いという関係にあるようです. 

 中位に並ぶのは仏Bayard, そしてソ連152 mm砲を搭載したソChapayev, Kutuzov, Ochakov, そして汎亜Irianです. Bayardは弾速がソ連152 mm砲に比べて遅いため投射量で並ぶのは不思議に思えますが, エンジンブーストで40 ktを超える高速と主砲装填ブースターの搭載で不足を補っています. ソ連152 mm砲搭載巡はChapayevがレーダー, Kutuzovが煙幕, Ochakovが低耐久高隠蔽レーダー, 汎亜Irianが13.5 km深度魚雷という差別化になっています. 

 英Belfast’43が16万と続きます. 煙幕とレーダーの両立と引き換えに, やや低い投射量と異常に低い火災力, そして持続時間の短い煙幕という多くのものを失っています. 蘭Provinciënは空襲とのトレードオフでHE投射量は15万という低い数字になっています. 

 最後に, 15 km地点のAP貫通力が200 mm前後に達する重巡高速クラスのソTallinnおよびBagrationは, 優秀なAPの代償としてHE投射量は13万から12万となっています. 

 

4.4. Tier8 HE不搭載巡洋艦

 伊AmalfiはSAPの投射量を8割に差し引けば14万程度として並の重巡と同水準になります. 英Edinburgh軽巡のなかではAP投射量が抜群に高いというわけではなく, 超回復とレーダーで差別化が図られているようです. 英Tiger’59は煙幕とレーダーの両立と引き換えに投射量を失っています. 

なぜbotが増えると勝てなくなるか?

1. 概要

botが増えると勝ちづらい」という経験則を裏づけることは難しく思われる. 実力の低いプレイヤーが増加すれば自分の勝率は上昇すると考えるほうが自然なためである. この記事では正規分布を用いた確率モデルによって, 「botが増えると勝ちづらい」という経験則を肯定する. さらにプレイヤー勝率と順位および3人分隊の勝率との関係についても示す.

2. 定式化

2.1. “強さ”と勝敗

試合は2つのチーム(味方, 相手)のうち"強さ"値が大きい方が勝つとして, 各チームの"強さ"は所属するプレイヤー12人の"強さ"の合計で求める.
自分およびbotを除くプレイヤーの"強さ"は平均  0 , 分散  1正規分布に従うとする.

2.2. 自分の勝率

自分の”強さ”が平均  s _ {0} , 分散  0正規分布に従うとする. このとき味方チームの”強さ”から相手チームの”強さ”を差し引いたものは平均  s _ {0} , 分散  23正規分布に従うが, この確率変数が正になる確率が味方チーム, つまりは自分の勝率である. この計算では正規分布の再生性を用いた.
”強さ”  s _ {0} のプレイヤーの勝率  w _ {0} は標準正規分布の累積分布関数  f(x) を用いて以下のように書ける.

 \displaystyle
w _ {0} = f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right )

2.3. botの勝率

botの強さが平均  s _ {bot} , 分散は他プレイヤーと同じく  1 であるとき, このbotの勝率  w _ {bot} は先ほどのプレイヤーの例とよく似た計算で求められる. 分散を  1 とした理由は後述する. 2.2に現れる自分の勝率の式と比較したときの分母の違いに注意せよ.

 \displaystyle
w _ {bot} = f \left ( \dfrac{ s _ {bot} } { \sqrt{24} } \right )

2.4. bot混入時の勝率変化

自分を除くプレイヤーが確率  pbotへ変化するときの, 自分の勝率  w _ {0} ^ {'} を求めたい. 確率  p が十分に小さいとすれば複数のプレイヤーが同時にbotへ変化する確率は無視できるため, 全事象は3つに場合分けできる. 両チーム全員がプレイヤーである場合 (確率  1-23 p ), 相手にbotが1人いる場合 (確率  12 p , そして味方にbotが1人いる場合 (確率  11 p ) である. それぞれ下式の第1項から第3項に対応している.

 \begin{align} \displaystyle 
w _ {0} ^ {'} &=
\left (1 - 23 p \right) \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0}} {\sqrt{23}} \right) + 12 p \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0} + s _ {dot} } {\sqrt{23}} \right) + 11 p \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0} - s _ {dot} } {\sqrt{23}} \right)
 \end{align}

 w_{0}=f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right ) を両辺から差し引き, さらに両辺を  p で割る.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} + s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right) + 11 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} - s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right)
 \end{align}

左辺はプレイヤー勝率の変化をbot混入率で割ったものである. 正ならば自分の勝率がbot混入によって上昇して, 逆も然りである.

3. 結果

3.1. bot混入の”逆転領域”

f:id:warabi99_wows:20220414105220p:plain
図 1. bot混入によるプレイヤー勝率の変化

グラフ中に示される領域の色はbotの混入がプレイヤーの勝率に与える変化の符号を示している. 青が上昇, 赤が低下である. bot勝率が50%を上回るbotの混入によってプレイヤーの勝率が低下するのは直感的にも明らかであるが, そもそもプレイヤーより上手なbotというのは非現実的である. bot勝率が50%を若干下回る領域ではプレイヤーの本来の勝率に関係なくbotの混入によってプレイヤーの勝率が上昇している一方で, botの勝率が非常に低い領域では特徴的な振る舞いが見て取れる. プレイヤー勝率が一定以上であればbotの混入によって勝率が低下して, 一定以下であれば上昇するのである. プレイヤーの勝率が一定値へ回帰しているとも言い換えることができる.

3.2. 弱いbotの極限

再び下式から考察を始める.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} + s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right) + 11 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} - s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right)
 \end{align}

ここではbotが非常に弱い場合を考えるので,  s _ {bot} \to - \infty の極限を取る.
 f(- \infty) = 0, f(\infty) = 1 である.
直感的にはbotが入ったチームが必ず負けるという状況に対応している.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12
 \end{align}

 w_{0}=f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right ) であることを思い出せば,

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot \left ( w _ {0} - \frac {12} {23} \right) 
 \end{align}

と変形できる.
左辺が負になる条件は  w _ 0 > \frac{12}{23}=0.521 \dots であることが分かる.
まとめると, botが非常に弱い場合はその混入によってプレイヤーの勝率が  \frac{12}{23} めがけて収束する.

3.3. botの分散をゼロにした場合

2.3ではbotの強さの分散を他プレイヤーと等しい  1 に設定した. ここではbotの強さの分散が  0 である場合の結果について説明する.

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図 2. bot混入によるプレイヤー勝率の変化 (bot分散ゼロ)

右上の領域に明確な違いが現れている. この計算条件では強さが不均一なプレイヤーが均一な(分散がゼロの)botで置き換わるため, 試合の不確実性が減少している. この不確実性の減少は勝率の高いプレイヤーに有利に働く. 一方で3.1.にて紹介した計算条件ではこの不確実性の減少という影響が取り除かれている.
このようにbotの強さの分散をゼロとして得られた結果の考察は複雑になるため, ここで補足として説明することにした.

4. 派生した結果

4.1. 3人分隊の勝率

強さ  s _ {0} のプレイヤー3人が3人分隊を組んだ際の勝率  w _ {0} ^ {3div} については以下の式で表せる.

 \begin{align} \displaystyle 
w _ {0} ^ {3div} &= f \left ( \frac {3 \cdot s _ {0}} {\sqrt {21}} \right)
 \end{align}

グラフにすると以下のようになる. 個人的にはいい線いっているという感触なのだが, 如何だろうか.

f:id:warabi99_wows:20220414111320p:plain
図 3. ソロ勝率と3人分隊勝率

4.2. 3人分隊bot混入から受ける影響

横軸がソロ勝率で表示されているので分かりづらいが, グラフに示しているのはbot混入がない場合の3人分隊勝率を基準とした数値である. 前節と同様に, ソロ勝率の等しいプレイヤー3人が分隊を組んだ場合を考えている. 3人分隊はソロよりもベースの勝率が高いものの, 赤い領域そのものはあまり変化がない. ただし, グラフ中の数値が全体的に大きくなっているのは要注意である. 3人分隊はベースの勝率を高める一方で, bot混入による影響に脆弱である.

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図 4. bot混入によるプレイヤー勝率の変化 (3人分隊)

4.3. プレイヤーの勝率と全体順位

プレイヤーの強さが正規分布に従うという仮定から, プレイヤーの勝率と上位パーセントを対応づけることができる.

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図 5. ソロ勝率と上位パーセント

ソロ勝率60%のプレイヤーが上位10%程度ということになる. さすがに多すぎると思うので, そうするとランダム戦の分散が今回の計算で使った23という値よりも大きいことになる. ただし解釈上の注意点としてはこの順位がプレイヤーベースではなく戦闘数ベースであること. 逆手に取れば, ランダム戦の分散をプレイヤー勝率の分布から求めることができるということになる.

5. 結び

プレイヤーの集合を正規分布として仮定することで, 低レベルなbotの混入がプレイヤーの勝率を低下させる現象に定性的な説明を与えるのみならず, 3人分隊の勝率や全体順位など他の統計との関連性も示すことができた. しかしながら今回の結果は純粋に理論的なものであるから, 実際の統計データによる検証が必要である.