餅の巡洋艦日記

WoWSの戦艦と巡洋艦についての書きものです.

巡洋艦のダメージ交換論

 

1 ダメージ交換論の範囲

 ダメージ交換論は, ダメージの面で優位に立つことが勝利に繋がるというシンプルな考え方を出発点にしています.

 2章ではまず, 状況に応じたダメージ収支の変化を考えます. この状況を作り出すさまざまな要素のなかでも敵艦との距離, つまり交戦距離が話題の中心になります.

 3章では1対1の発砲判断について論じながら, ダメージ交換という観点からみた視界や隠蔽状態の意義について触れます. ダメージ交換論の適用範囲を拡大しつつ, 視界と火力の密接な関係について考えます.

 4章では実戦的な多対多の撃ち合いにおける重要な原理を紹介して, そして形勢の差が戦力の差に発展していく様子を追います.

 本稿の全体を貫くダメージの収支と交戦距離という2つの概念は, 撃ち合いで優位を作るための基礎になる重要な考え方です. 射線がどこからでも通る開けた海域において特に有効なので, 島の少ないマップへの苦手意識を克服する手助けになるかもしれません. 巡洋艦を乗りこなすうえで, ダメージの面で優位に立つという基本原理に則って考えることは立ち回りの幅を広げるきっかけになるはずです.

 

2 ダメージ収支と交戦距離

 ダメージ収支を考えるにあたって, 巡洋艦が変えることのできる条件のなかでもっとも影響の大きいものは敵艦との距離です. 発砲判断では3つの距離, すなわち交戦距離上限, 交戦距離下限, そして隠蔽距離の関係が重要な役割を担います.
この章では発砲判断の具体的な議論に先んじて, 与ダメージと被ダメージの両方が距離に応じてどのように変化するかを考えていきます. 交戦距離の上限と下限が中心的な話題になります.

2.1 相対ダメージ

 砲戦の目的は, 撃沈によって永久的な数的優位を取ることにあります. ダメージそのものではなく, ダメージのHPに対する比率のほうが撃沈の可能性と関係しているはずなので, これを相対ダメージと呼んで重要視します. 戦況を反映する指標というよりも, 艦艇性能をもとにしているため状況に左右されない基礎的な指標と言えます.

2.2 ダメージの質

 相対ダメージはあくまでもフラットな状況でしか役に立たないので, 実戦では状況に応じて修正する必要があります. 分かりやすい例でいえば,瀕死の敵艦に対するダメージは撃沈と結びつきやすく, 反対に終盤でHP満タンの敵艦に対するダメージは撃沈にほとんど結びつかないでしょう. ダメージの質は敵艦の残りHP割合に依存します.
 ダメージの質に関する話題ではありませんが, 質ではなく量そのものが増加する状況の例には応急工作班を使用した直後の敵艦があります. 着火がそのまま火災ダメージの発生につながるためです.

2.3 有効射程(交戦距離上限)

 この章の冒頭で3つの距離について触れましたが, このうち交戦距離上限を決めるのが主砲の有効射程です. 着弾時間が一定秒数を超えると, 敵艦は発砲を確認した後から回避機動を取っても間に合ってしまいます. 性能を読むにあたっては, 対駆逐艦は着弾6秒, 対巡洋艦は8秒, 対戦艦は10秒を目安にするとよいでしょう. ただし, 大和をはじめとするTier10の機動性の低い戦艦に対しては10秒を超えても安定して命中します.

2.3.1 AP弾の有効射程

 AP弾は防郭貫通を狙えるほど十分な貫通力がなければ意味がないので, 有効射程を考えるにあたっては先ほどの着弾時間の制限に加えて貫通力の制限もあります.

2.3.2 Tier9, 10巡における射程UGと装填UGの選択

 (潜在的な)有効射程は主砲の弾道特性で決まりますが, これが素の最大射程を上回っていれば射程UGを考える価値があります. 反対に, 素の最大射程においてさえ十分な命中を期待できない場合は射程UGを取っても役に立ちません.
 少し応用的な話になりますが, 第6スロットについての自分なりの選択を着弾時間の違いに照らし合わせることで, 自分に適した有効射程の秒数を推定することができます.

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Figure 1 主なTier10巡洋艦の最大射程までの着弾時間

2.4 安全圏(交戦距離下限)

 交戦距離下限は, 敵艦の有効射程と自艦の機動性で決まります. 同Tierの戦艦・巡洋艦の秒数ルールをとりあえずの基準にしつつ, 実戦での機動性の感覚で修正していくとよいでしょう. 回避性能を有効射程のように数値化するのはなかなか困難です.

2.5 利得曲線と損失曲線

 利得曲線と損失曲線は, 距離に応じた相対与ダメと相対被ダメの変化を表した概念的なグラフです(Figure 2). 交戦距離下限では回避が間に合うので, 損失曲線が急激に落ち込みます. それと同じ理屈で, 交戦距離上限ではもはや命中が安定しなくなるので利得曲線が急激に落ち込みます. そのほか, 距離に応じて散布界の影響や偏差が増えることの影響で両曲線はゆるい右下がりになります.

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Figure 2 利得曲線・損失曲線の概念図

2.6 性能諸要素で変化する損失と利得

 この節では艦艇性能のさまざまな項目が利得・損失に与える影響を議論しますが, 込みいった話題なので読み飛ばしても構いません.

2.6.1 損失に影響する耐久・装甲防御・回避

 HPのbuffや修理班の追加は耐久を改善しますが, これは損失曲線を全体的に下へ押し下げる効果があります. これは相対ダメージの分母であるHPが増加するためです. 被弾時のダメージを軽減する表面装甲などの防御性能も, 耐久と性質が似ています.
 推力UGや転舵UGなど機動性を改善する要素は, 損失曲線の落ち込みを左へ移します. 交戦距離下限を近距離側に移動させると言い換えることもできます.

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Figure 3 耐久・回避が損失に及ぼす影響
2.6.2 敵対状況下の損失

 短い装填時間・低い転舵性能・悪い射角の3要素のうち2つ以上が絡むと, 回避と射撃の両立が難しいため敵の射撃を受ける状況でのダメージ収支が悪化します. 例えばイギリス戦艦は射角の悪い艦艇が多いものの一方で転舵性能が優遇されており, 先に述べた3要素のなかで1要素のみしか該当しないようにゲーム内性能が設計されています.
 この項は「DPMが等しければ装填の長いほうが有利」という話の根拠になります. ただし, この話には「敵の射撃を受ける状況では」という暗黙の前提があることに注意してください.

 

3 1対1の発砲判断

 発砲判断とは, 発砲すべきかそれとも発砲を止めて隠蔽に戻るべきかをダメージの観点から考えるものです. 隠蔽時の利得と損失がともにゼロであるという仮定を置いて, もっとも単純な1対1の撃ち合いから取り上げます. 視界のダメージ的な価値について議論したのち, 隠蔽状態そのものの価値がゼロではなく正であることを導きます.

3.1 発砲の条件

 隠蔽時には利得と損失がともにゼロになるため, 発砲時の利得と損失を比較すれば十分です. 発砲の条件は0<利得-損失 となります. この条件を満たす状況を艦艇ごとに距離として感覚で把握しておくこと, つまり交戦距離の感覚が重要です.
 敵戦艦が瀕死で撃沈が狙えるなど利得の価値が上がる状況, あるいは終盤でこちらのHPが余っている(つまり被ダメが撃沈に繋がりにくい)など損失の価値が下がる状況などでは, 戦況に応じて判断が発砲側に傾きます.

3.2 視界の意義

 ここで射撃を受ける敵側に立って考えてみると, 収支が負になる不利な交戦を強制されていることになります. この原動力は視界の不均衡にあります. もし視界がなく交戦が成立しなければ互いの収支はゼロになるので, この局面における視界の戦術的な価値は 利得-損失 ということになります. さらに言えば, 味方の収支が負になり発砲できない状況下で敵艦をスポットすることは, ダメージ的には価値がないと結論づけることができます. ダメージ的な視界の意義は, ダメージ優位を顕在化することにあります.
 ここまでは敵艦との撃ち合いに前もってダメージ収支を計算できるという暗黙の前提のもとで話を進めてきましたが, この判断材料を提供しているのはあくまでも視界です. つまり, 視界の価値はダメージ的な観点だけでなく, 隠蔽状態の不確実性に基づく情報的な観点からも考える必要があります. 実戦において重要なのは両者の違いを理解することで, ダメージ的な視界は継続的なスポットを要求する一方で, 情報的な視界は一瞬でも敵をスポットできれば十分で, あるいはスポットできなくても味方の視界範囲外にいるという漠然とした情報でさえも意味を持つことがあります. 情報的な視界が機能する例を挙げると, 敵戦艦の所在がわからずこちらが進撃を躊躇していたときに, 先行する味方駆逐艦の視界範囲に敵戦艦が引っ掛からず既に撤退していたことが判明するというケースがあります. 味方駆逐艦が敵戦艦を直接スポットしなくても, 重要な領域に不在であるという事実だけでも情報的価値をもたらすことができます.

3.3 隠蔽の利得

 3.1では隠蔽時の収支はゼロであると仮定しましたが, これは3.2で述べた情報的価値も含めると必ずしも正しくないことが分かります. 例として戦艦の装填時間の隙を突くちょっとした小技について考えてみます. 敵戦艦が(ほかの味方艦に向けて)発砲した直後に, 隠蔽状態のこちらも1斉射だけ発砲してすぐ隠蔽に戻るという, 戦艦の装填時間よりも巡洋艦の発砲ペナルティーが短いことを利用したものです. この小技はダメージ的に考えればノーリスクで発砲できることになりますが, 実際には情報的な観点から隠蔽状態の利得はゼロではなく正なため, そこまで使うべき場面は多くありません. 占領切りと組み合わせて使うケースが多いです.

 

4 2対1の発砲判断

 実戦の撃ち合いにおいては最も重要な章になります. 発砲判断の基準を1対1の場合と比較しながら, 「味方艦と損失を揃える」という位置取りに関する重要な原則, そして弾受けの意義について触れます. 章の後半では, いかにして数的劣位が出来上がるのかについて時間軸を辿りながら考えます.

4.1 発砲の条件

 自艦は隠蔽であるという前提なため, まず敵艦と味方艦が撃ち合いをしている状況から出発することになります. 敵艦は合理的な照準変更をして(敵からみた)利得を最大化するという仮定のもと, 自艦と味方艦の損失(つまり敵にとっての利得)の大小で場合分けします. もし自艦の損失がもう一方の味方艦の損失を上回る場合, 敵にとってはターゲットを味方艦から自艦へ変更したほうが有利になるため味方全体の損失も増加します.

4.1.1 ターゲットが変わらない場合 自艦の損失<味方艦の損失

 発砲しても損失はまったく増えないので, 判断基準は 0<自艦の利得 となります. 「味方の被射撃艦と等しいリスク(損失)まではタダで取れる」という, 位置取りについての重要な指針を与えます.

4.1.2 ターゲットが変わる場合 自艦の損失>味方艦の損失

 判断基準は 0<自艦の利得-自艦の損失+味方艦の損失 となり, 自分が撃たれなければ味方艦が撃たれるため1対1の場合よりも基準が甘くなります. この不等式はいわゆる弾受けやタンクの価値も表現していて, 肩代わりした味方艦の損失のぶんだけプラスに働きます. 弾受けという役目が機能するためには自艦だけではなく, もうひとつの味方艦の位置がとても重要になります.

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Figure 4 2対1の発砲判断

4.2 多対多を得意とする艦艇の特徴

 2対1の状況といっても, 利得と損失の比較という原則は1対1の場合と変わりません. 多対多を得意とする艦艇の特徴を挙げるとすれば, 自艦の位置取りの自由度が高く, 味方艦の損失にあわせて自艦の損失を調節しやすい艦艇でしょう. この特徴は交戦距離の上限と下限の差, いわば交戦距離の窓が広いと言い換えることもできます.
 ほかにもAP弾特有の姿勢依存性から多対多に適性を持つ, あるいは多対多でないと性能を発揮できないケースがありますが, 今回は触れるだけに留めます. 戦艦や大型巡洋艦などが該当します. 注意すべきは, メインとして使う弾種がHEかAPかで区別する必要があるということです.

4.3 数的劣位の固定化

 先に述べた2対1の特徴は, ランチェスターの二次法則で説明される火力の集中とはまた違った考え方です. 先に述べた発砲判断は瞬間の戦闘力の不均衡に焦点を当てるものですが, 二次法則はこの不均衡が時間とともに成長していく様子を述べたものです.
 そもそも局所的な戦闘力の不均衡, つまり数的劣位が生じる原因として, 機能不全な艦艇の存在があります. すべての艦艇が同じ損失を抱えた状況がダメージ交換的には最適な状態ですが, 情報の不完全性や地形による射線の制約, 艦艇の有限な機動性などの理由でなかなかこれを達成することは困難です. 損失と利得は片方のみを取ることはできませんから, 艦艇ごとの損失が不均一であれば, そのなかに必ず利得または貢献に乏しい艦艇が生まれてしまいます.
 艦艇の機能不全による可逆的な(回復可能な)数的劣位は, 時間経過によるダメージ交換損失と撃沈の発生によって不可逆的な数的劣位へ固定していきます. この時間軸に沿った見方がランチェスター二次法則です.
 射線の管理や適切な撤退によって, 敵の一部の艦艇のみしか交戦に参加しない状況を作り出すことができます. また, 比較的膠着した状態にしか使えない原理ですが, 巡洋艦と戦艦が縦方向のコンパクトさを維持することで, 味方全体の損失のムラを防ぐことができます. 一度は優位に立ったはずの戦線で押し上げが失敗する現象は, 巡洋艦の進撃が速すぎるか戦艦の押し上げが遅れることによって, 縦方向のコンパクトさが失われてしまった結果といえます.

5 最後に

 どの状況でダメージ優位を取れるのかという艦艇性能に関する問題は, いかにして優位な状況を作るのかについて考える立ち回り論と深い関係にあります. この両者を繋ぐのがダメージ交換論の役割と言えるかもしれません. ダメージ交換論と交戦距離論は, 立ち回りについての合理的な説明を与えることができる重要な視点になるはずです. 4章で説明した「味方艦と同じリスクまではタダ」という指針は, 味方戦艦のタンクを無駄にしないために重要な意識になります.
 交戦距離論に隠蔽距離を取り込んで「自衛のための隠蔽」という概念についても論じたかったのですが, まだ考えがまとまっておらず今後の課題とします. また, 距離だけでなく艦艇の姿勢を考慮した形勢論で, いわゆる戦艦がクロスを取る意義とはいかなるものか, そして巡洋艦が戦艦の布陣を崩すにはどういった位置を占めればいいのかについての理解もまた今後深めていきたいと考えています.
 ダメージ交換論という題を冠するには不完全な内容ではありますが, 先に述べたように戦術の更なる理解に繋がる足掛かりとしては十分に役割を果たしてくれると思います.