わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

蔵王代艦の主砲提案

1 蔵王主砲の破綻した性能

 主砲の性能は砲弾重量と初速で決まりますが, この2つの数値と深い関係があるのが口径長, つまり砲身の長さを口径で割ったものです. 口径長は砲弾を加速する能力を指すので, 砲弾の運動エネルギーと相関があるはずです. ここでは運動エネルギーを口径の3乗で割ることで, 異なる口径の主砲どうしを比較できるようにしています.

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Fig. 1 巡洋艦砲の運動エネルギー

 砲弾の運動エネルギーからみると蔵王砲は50口径では足りず, 60口径程度が要求されます. 口径長と比較して高すぎる運動エネルギーは発射薬の量を増やすことで実現できますが, 発射時に砲身内を高圧に晒すことになるため砲身は厚く重くなり, 鋼の性能も高くなければなりません. 砲身の摩耗も早くなり, 寿命も短くなります.

 例として, 日本の長10cm砲は65口径を採用していましたが砲身命数が400発程度と短いため(参考: 日本12.7cm高角砲が命数800~1500発), 艦内で砲身内筒を交換できるようになっていました.

 また, Stalingradが搭載する305mm/62は初速950 m/sと砲身に強い負荷を掛けるため, カタログスペックでは命数300発とこの口径では通常程度の数値になっていますが, 実際はここまで持たないのではないかと思います.

 これまた余計な話ですが, Stalingrad砲には467 kgのHE, APのほかにも, Long Range Shellと称して230.5 kgの超軽量砲弾の搭載が計画されていました. 初速は1,300 m/s, 射程は127 kmにも及ぶというロマンあふれた話です. 当然ながら砲身への負荷は尋常ではありません. 初速が上がるほど砲弾を短時間で加速しなければならないため, 発射薬も燃焼の速いものを使う必要があり砲身内の最大圧力も上昇します.

2 改善案は口径拡大のほかになし

 主砲性能は砲身の延伸や口径の拡大によって改善することができますが, どちらも砲塔重量の増加を招きます. また, あまりにも長すぎる砲身は製造技術の限界や射撃精度の低下を招くため, 実績のない口径長を採用するのは好ましくありません. 条約の制限などがなければ,バランスよく主砲性能を引き上げることができる口径拡大がベターです.

 今回は口径を260 mm, 口径長は50の連装砲として検討していきます. 主砲口径は第二次大戦期の大和砲や超甲巡砲がインチを切り上げていることを参考にしながら, 重巡砲と超甲巡砲の中間の口径としました. 日本海軍の採用実績がない口径であるのが難点です.日本巡洋艦がなじみ深い50口径と連装形式で納得のいく設定でしょう.

 口径長に応じて初速は840 m/s, 砲弾重量は264 kgとします. 初速は日重巡砲と同じで, 砲弾重量も単純な相似です. 口径あたり運動エネルギーは日重巡砲と等しくなり, 性能の破綻は避けられます.

3 最大ダメージの推定

 APダメージは砲弾重量と初速で決まります. 回帰式を置いておきます.

  HEダメージはおおまかに砲弾重量で決まるようですが, こちらはまだ回帰式を用意できていないため日重巡砲と超甲巡砲から補完して決定しました. 日巡砲はHEダメージと火災率の優遇を受けているため, 他国の砲弾データを参考にする場合は注意が必要です.
 今回の260 mm砲はHE 4,200(23%), AP 6,700と推定します.

4 投射量と貫通力の比較

 着弾時間と貫通力をFig. 2に示します. 図中にersatz_Zaoとあるのが今回の260 mm砲です.

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Fig. 2 Tier10巡(203mm超)の性能

 着弾時間は15kmで蔵王と並び, それ以遠で若干速くなります. 蔵王砲と比較して初速では劣るものの, 口径が大きく減速が小さいためです.
 貫通力は蔵王の1.4倍程度と大幅に改善しています. これでTier10巡洋艦相手でも横っ腹にAPを突き刺すぐらいはできるでしょう. これも口径拡大のおかげです.
 余談ですがHenri IVのAP貫通力が異常に高いのは, 砲弾の抗力係数が非常に小さく空気抵抗を受けづらいためです. 実戦で浮き上がるような感覚がするのは単純に初速が速くないためです.

 貫通力の次は, 投射量を比較します. 蔵王砲と装填時間が変わらなかった場合, 今回の260 mm砲のDPM(分間ダメージ)は蔵王砲の82%になります. HE貫通力が38mm以上なため米戦の甲板を貫通可能であることを考慮しても, 1.5割程度の火力低下になりそうです. ただし, 装填時間を短く設定すればなんとかなる程度の差なのであまり気にしていません.

5 排水量への影響

 そもそも蔵王武装に比べて排水量が過小で, 満載排水量わずか18,000 t程度にあれほどの「重そうな」3連装砲が4基も載るとは思えません. 今回の260 mm連装4基も武装重量は大して変わらないはずですが, 適正な満載排水量は20,300 t程度になるのでHPは48,900まで増加します. というか蔵王も本来この程度であるべきでした.

 余談ですが, 蔵王はかつてHP 44,900でしたが隠蔽射撃時代に受けた弱体化が今まで尾を引いていて40,800になっているという歴史的経緯があります. HPと(満載)排水量には深い関係があり, 蔵王の14,580 tから計算するとやっぱり44,900が適正HPになります.
【参考】排水量とHPの関係

6 まとめ

 性能が破綻している蔵王砲にかえて, 260 mm砲を提案します. 性能は日本203 mmとの相似で決定します.
 着弾時間はほとんど同じで,偏差の感覚は蔵王砲と変わりません. 貫通力は1.4倍程度, 投射量は0.85倍程度です.

7 参考

www.navweaps.com

 1880年から現在までの海軍砲の性能が掲載されています. 網羅性に優れていて, 実在した砲はもちろんのこと計画止まりの砲も掲載されていることがあります. 超大和の51 cm砲, 超甲巡の31 cm砲, アメリカの18 inch砲なども載っているので, 艦砲マニアにおすすめです. サイトの記述はすべて英語ですが, データ集なので理解すべき用語はさほど多くありません.