わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

交戦距離指標 RngE

概要

 交戦距離指標RngEとは, 巡洋艦の主砲弾速と機動性を統合した性能指標です. 高い弾速は自身の有効射程を伸ばし, 優れた機動性は敵艦の有効射程を縮めます. 本指標は2つの性能を併せて考慮することで交戦距離の優位, つまり敵艦に対して一方的に撃ち勝てる距離を作り出す能力を評価します.

秒数ベースの交戦距離論

 主砲の有効射程は自身の主砲弾速だけではなく, 敵艦の回避性能にも影響を受けます. 回避に必要な最低限の時間を安全時間と呼ぶことにして回避性能を単純化すると, 交戦距離は自艦の主砲が敵艦の安全時間と同じ秒数で着弾する距離として決まります. しかしこの方法には2つの課題があり, 第一に安全時間を見積もる方法, 第二に艦艇の組み合わせ数の爆発です. とくに後者に関して, 艦艇が10種類あればその組み合わせは100種類にも及ぶため非常に煩雑です.

安全時間の見積もり

 安全距離とは, 転舵によって垂直方向の到達位置を100mずらすために要する時間として決めます. 計算にあたっては, 回避の性能論的指標(PCL)で述べたクロソイド曲線近似を適用しました. 100mという数字は恣意的なもので, 対巡洋艦では着弾8秒が命中の限界になるという経験則から数字を合わせました.

交戦距離指標RngE

 交戦距離とは本来なら艦艇の組み合わせに対して計算されるものですが, 単純な指標に落とし込むためにここでは艦艇ごとに着弾時間(15 km)と安全時間(上述)を乗算したものを考えます. 着弾時間, 安全時間はともに短いほど優秀なため, この指標が低値であるほど交戦距離の優位があります.

RngEの算出

\displaystyle{PCL = 7.21137316 \times \frac{speed[kt] ^ 2}{ R _ {turn}[m] * T _ {rudder}[sec]}}
\displaystyle{T _ {safe} = \sqrt[3]{\frac{6 \times 100}{PCL}}}
\displaystyle{RngE = \frac{FT15}{15} \times PCL}
\displaystyle{pRngE = (1 - \log_{10} RngE) \times 36}

 数式についての細かい事項を列挙します. FT15とは15km着弾時間です. 15km地点のものを選んでいる理由は, 巡洋艦の常用的な交戦距離に近いためです. RngEでFT15を15で割っているのは, 着弾時間の基準距離しだいでRngEの値が極端に変わってしまうことを防ぐためです.
 RngEの対数を取り符号を反転させたものがpRngEです. 対数を取ることでUGと消耗品の影響を乗算ではなく加算で考えることができ, さらに符号を反転すると値が大きいほど交戦距離の優位があるということで直感的に分かりやすくなります. 乗数の36に深い意味はなく, UGと消耗品の影響がキリのよい数字になるよう決めました.

Tier8~10巡洋艦のRngE

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Table 2 Tier8~10巡洋艦のpRngE

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Table 3 Tier10戦艦のpRngE

対巡で交戦距離の優位を握る巡洋艦

 pRngEの高い艦艇はソ巡, 伊巡に多く見られます. Tier8のAmalfiがTier10巡洋艦さえ凌ぐpRngEを持つというのはなかなか面白い結果です. Tier10ではZao, Petropavlovsk, Moskva, Nevsky, Veneziaが12以上の数字を出しています. Zao, Nevsky,Veneziaは巡洋艦との撃ち合いに強い艦艇なので納得ですが, PetropavlovskとMoskvaのようなソ重巡はHEの投射量が少ないためHE砲戦で優位を取るイメージがあまり湧きません. どちらかといえば有効射程の長いAPで重い一撃を狙うといった立ち回りがメインでしょう.
 pRngEの差1がおおむね交戦距離1kmの優位に相当します. pRngEの差が1以内の艦艇どうしの撃ち合いでは, 交戦距離の明確な優劣がつかない不毛な砲戦になりがちな印象があります. 個人的な例ですが, Chapayev(9.32)でMainz(9.17)と撃ち合うと痛み分けの結果になりやすくあまり面白くありません. この2つの艦艇は対巡DPMも非常に近いため, どの距離でも砲戦で優劣がつきません. Tier10における同様の例にはNevsky(13.02)とZao(13.40)があります.

対戦艦で交戦距離が埋没する巡洋艦

 Tier10の巡洋艦と戦艦のRngEを比較すると, 全体的に巡洋艦が交戦距離の優位を握っていることが見て取れます. 以前から述べているような, 巡洋艦は戦艦に対して一方的に撃ち勝てる距離が存在するという主張は大部分の艦艇で成立します.
 しかし, Tier10戦艦のpRngEがおおむね7程度であることを鑑みれば, pRngEが7未満のPlymouth(6.95)やMinotaur(6.93)は対戦艦の有利な間合いがほとんど存在しないことになります. したがって, 開けた海域での1vs1は避けつつ島影や煙幕を利用して一方的に撃てる状況を作り出すのが立ち回りの軸になります.
 上述の例はさすがに極端ですが, 撃ち合うだけ不利な相手を知っておくことは実戦で1vs1の勝率を上げる助けになるはずです. 艦艇性能による優劣は, プレイヤーの努力の外にあるものです.

UGと消耗品の影響

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Table 1 転舵と消耗品の影響

 仏巡のエンジンブーストは速度+20%という強烈な効果で, 回避性能に大きく貢献します. 優れた最大速度といえば戦略・戦術上で有利な位置を取りやすくなるという利点が強調されがちですが, 転舵回避での利点も見逃せません.
 4スロUGの転舵-40%が非常に強力な効果であることが分かりますが, いくらか差し引いて評価しなければなりません. 大抵の艦艇は転舵-20%を搭載しているため, その差を取ってpRngE+1.50とするのが適切な評価です.
 推力UGによる加速の改善が評価できないのはRngEの欠点のひとつで, 安全時間の見積もりに利用したPCLが転舵による回避のみしか反映していないことが原因です. ただし, 指標に表れないからといって推力UGを軽視するのは早計です. 個人的には転舵重ね掛けよりも推力転舵を推奨します. 推力UGによって加減速を転舵回避の補助として使えるようになると, 2回目以降の回避の選択肢が増えます.
 転舵および推力UGの数値的な評価については不透明な点が多いことをご了承ください.

数的均衡を破る質的優位

 砲戦で優位に立つためのもっとも単純な方法は数的優位を取ることですが, このゲームは戦闘が同数で始まるので数の力に頼り切ることはできません. 数的劣位を覆すことはできないとしても, 数的均衡を破ることは戦術上の最低限の必要事項です.
 性能の差異から導かれる1vs1の質的優位を起点にして数的均衡を破るという考え方は, 基本に根ざしたとても強力なものです. 今回の指標RngEは交戦距離の優位に着目しており, 実戦ではHE砲戦の状況によく対応します. 他方で, APには貫通力の距離依存性や敵姿勢依存性に起因する独特な性質があるため, 必ずしも交戦距離の理論のみでは説明しきれません.
 HE砲戦の質的優位に関する考察は, 今回の指標でおおむね結論を出せました. 今後はAPの機能に軸足を移しながら, 数的優位でも質的優位でもない第3の優位, 位置的優位について理解を深めたいと考えています.