わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

隠蔽間際の消火判断

概要

隠蔽間際の火災ダメージ、そして工作班の使用基準について理論計算をもとに考察しました。敵艦に撃たれ続ける場合は1火災での消火が有利な一方で、隠蔽が間近な場合は2火災での消火、あるいは放置が有利になります。

 

 

1. 「火災の数理モデル」で取り残した話題

 昨年(2020年)の5月に発表した「火災の数理モデル」では火災に関してさまざまな話題を取り上げましたが、なかでも工作班の使用基準についての議論は反響が大きかったように感じています。一方で、計算の簡略化のために導入した仮定は必ずしも現実を反映していませんでした。例えば「定常状態近似」とは敵艦に撃たれ続けるという仮定ですが、はたして実戦の環境をどのくらい反映しているのか疑問が残ります。今回の記事では「火災の数理モデル」を補完するべく、短時間しか射撃を受けない場合、つまり隠蔽間際の工作班基準に焦点を当てます。

2. 隠蔽間際の消火判断

2.1. 火災1か所は放置が有利

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Figure 1 隠蔽間際の火災ダメージ

 以上のグラフが計算結果になります。まずは用語や読み方について説明します。
 グラフの表題に示すのは、秒間火災率と艦長スキル「防火」の有無です。巡洋艦1隻の射撃がおおむね秒間火災率3%に相当します。
 横軸の射撃時間とはそのまま敵艦の射撃に曝される時間のことですが、実戦への応用を考えるにあたっては以下の式を参考にするとよいでしょう。
射撃時間 = 隠蔽までの時間 + 敵弾の着弾時間 – 工作班効果時間
 隠蔽までの時間は最大で20秒、敵弾の着弾時間は長くても15秒、そして工作班効果時間は国籍に応じて決まり10~20秒です。したがって、グラフ中の射撃時間は0~15秒が重要な領域になります。
 縦軸は火災ダメージの期待値を表しますが、HPの割合をパーセントで示してあることに注意してください。この火災ダメージを最小化する工作班判断の基準を探るのが、本記事の目的になります。
 巡洋艦1隻の秒間火災率がおよそ3%という数字を頭に入れつつ、グラフを見てみましょう。線の色は工作班使用基準の違いを反映しています。ただし赤の点線は比較対象として、工作班が準備時間に入った直後という最悪の状況を計算しています。
 低めの火災率から順に見ていくと、秒間2%では射撃時間にかかわらず1火災消火が有利です。ただし、30秒以下での違いは明らかではありません。秒間4%は2火災消火が有利になります。また、秒間6%という過酷な条件では、僅かながら30秒以下の領域で2火災消火よりも無条件の火災放置が有利になっています。
 隠蔽間際の工作班判断について言えば、火災1か所は放置がベターということになります。「火災の数理モデル」とは正反対の結論になりました。

2.2. 工作班使用基準の使い分けは?

 「火災の数理モデル」では、敵艦に撃たれ続けるという仮定のもと計算を行っていました。射撃時間が非常に長い状況では、工作班の使用回数をできるだけ多くすることが火災ダメージの最小化につながります。したがって、火災が1か所発生した時点ですぐさま工作班を使い、2か所目を待たないのがベターな選択です。この状況で火災1か所を漫然と放置するべきではありません。
 対照的に、今回のモデルは射撃時間が短い場合を扱っています。工作班を使用したあとに火災が発生した場合は、火災時間のぶんダメージを受け続ける羽目になります。この最悪の場合に比べれば、射撃時間の終了まで火災を放置して工作班を温存したほうがマシだろうという判断です。
 さらに言えば、工作班の判断は発砲の判断と深く結びついています。例えば自艦のHPに余裕があり撃ち続けることを選択する場合は、工作班も火災1か所で使うことになります。一方で、現状撃沈されるおそれはないがフルタイムの火災を受けると生存が厳しくなるというような瀬戸際にある場合、火災2か所で工作班を使い隠蔽に戻り、1か所では放置するといった選択になります。もちろん、火災1か所で工作班を使うと同時に隠蔽へ逃げるという選択もできます。こちらはさらに安全を重視した基準になります。
 駆逐艦の雷撃や航空攻撃による火災・浸水の可能性によっても、工作班の使用基準は劇的に変化します。不確実性の高い状況のもとでは、火災1か所を放置するというリスク回避的な判断が有力になることは否定できません。ただし、この話題は工作班の使用基準のみで語るには深すぎて、むしろ発砲判断や情報収集能力の問題になります。

2.2.1. 火災による発見距離延長で発見されている場合

 火災による発見距離延長で発見されており、かつ敵から着弾時間が工作班効果時間を上回る長距離砲撃を受けた場合は、特別なリスクが発生します。例えば工作班効果時間が10秒である日本戦艦が着弾12秒の攻撃を受けた場合、工作班で消火した瞬間は隠蔽に戻れますが、その瞬間に発射された敵弾は工作班の効果が切れてから2秒後に着弾します。もしこの隙間の時間で火災が発生した場合、工作班を使用した直後という最悪の状態で再び発見されて敵艦の射撃に曝されることになります。
 アップグレードAスロットの「応急工作班改良1」は、工作班の効果時間を+40%する効果があります。先ほど説明したような長距離砲撃に対して隙を見せないという点では、工作班効果時間が素で20秒と十分に長い米戦よりも、むしろその他の戦艦において真価を発揮するのかもしれません。

2.3. 巡洋艦の視点から

 射撃艦からすると、投射した火災力のうちどの程度が実際の火災ダメージに結びつくのかが気になります。「火災の数理モデル」では、火災ダメージを火災率で割ったものを火災ダメージ効率と呼びました。先ほどのグラフの縦軸を火災ダメージ効率で振り直したものを以下に示します。参考までに、「火災の数理モデル」では火災ダメージ効率を4.0%HPと推定していました。敵艦を撃ち続けた場合には、この4.0%HPという数字に収束すると考えてよいでしょう。
 工作班準備中の火災ダメージ効率は最大で18%HPと極めて高い値を示します。火災発生が100%ダメージに結びつく場合、火災ダメージの0.3%HP/secに火災継続時間の60 secを乗算した18%HPが火災発生1回ごとに入ります。射撃時間が伸びると値が徐々に低下していくのは、すでに火災がある部位には追加の火災発生判定がなされないことに起因します。火災が火災に打ち消されるといったような現象です。
 工作班が使用可能な状態では、秒間火災率ごとに挙動が異なります。秒間2%では射撃時間40秒、秒間4%および6%では射撃時間20秒程度でさきほど説明した4%HPの水準に達します。また、射撃時間が長くなると火災ダメージ効率は4%よりも高い水準に漸近します。「火災の数理モデル」は長時間撃たれ続けた場合の計算なのにもかかわらず、今回のこの漸近的振る舞いと食い違っているように思えます。この差異については、今回の計算では工作班の有効時間を考慮していないことが原因です。工作班有効時間が15秒である場合、効率4%HPに到達するまでに秒間火災率4%のもと30秒弱かかります。

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Figure 2 隠蔽間際の火災ダメージ効率

2.4. 【補遺】巡洋艦の秒間火災率

 繰り返しになりますが、下図に示すように巡洋艦1隻に撃たれる状況の秒間火災率はおおむね2.5 ~ 3.5%に相当します。ただし、この表はIFHEや各種信号旗・艦長スキルの影響を考慮していません。

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Table 1 巡洋艦の秒間火災率の実例