わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

砲戦技術の諸概念

 

1. 序論:なぜ撃ち合いで損をするのか

 与ダメージが被ダメージを上回る状況に限って砲戦を行えば決して撃ち負けることはなく、劣勢に陥ることもありません。しかし現実の戦場で勝者と敗者が存在する以上、そこでは必ず収支が負の撃ち合いが起こっているはずです。損な撃ち合いが発生する原因について、そしてその対策について考えることは、ダメージ交換を軸に据えて戦術を組み立てるうえでの自然な出発点となります。

 被発見の継続:隠蔽に逃れるという選択肢が消滅するため、損な撃ち合いを避けることができなくなります。地形を利用した射線の遮断や敵の有効射程からの脱出、そして敵の視界役に対する攻撃が対策になります。

 隠蔽システムに起因する情報の不完全性:隠蔽状態にある敵艦の位置を知ることはできないため、ダメージ収支を正確に見積もることは原理的に不可能です。対策として敵のスポットが第一に考えられますが、敵の配置が未知であっても味方とのリスク均等化(ラインを揃えること)を意識することである程度の不確実性は取り除けます。敵のあらゆる配置に対応できる、位置的に隙のない配置を目指します。

 性能・技量に関する認識のずれ:ダメージ収支を見積もる基準となる艦艇性能と自身の技量についての認識が誤っていれば、結論としての判断も誤ったものになります。予防策は、艦艇性能や自身の技術の限界を把握しておくことです。また、ゲームシステムに由来するこのゲームの特性、つまりは艦艇の配置についての原則を知っておくことで、位置的優位を生み出すことにもつながります。

 2章では、ダメージの量という単純な観点を「撃沈への寄与」に置き換えます。勝利条件が占領あるいは撃沈で定義される以上、ダメージ収支も撃沈を基準にして測定される必要があります。また、被ダメージを被撃沈に繋げない技術であるヘルス管理とは、すなわち立ち回りによって被ダメージに対する負のフィードバックを行うことです。

 3章では砲戦勝敗を決める決定機と、そこに至るまでの攻撃の組み立て方について考えます。攻撃の目的はあくまでも撃沈を奪うことにあり、そして撃沈の奪い方にはパターンがあるというアイデアを強調します。

 4章では、過去に『巡洋艦のダメージ交換論』で解説した交戦距離の概念について、安全距離の半定量的な記述も追加しながら簡単にまとめます。交戦距離とは一対一から多対多までのあらゆる状況に応用できる非常に便利な枠組みであり、発砲判断の軸になります。

 5章では、序盤から中盤までの位置取りについての簡潔な指針となる仮説を立てます。「火力艦は必ず2隻以上の集団で動き、常に攻撃集中の準備をする」という制限は、射線という抽象的な概念を実戦のなかで活用するための枠組みを与えます。

 6章ではまず形勢判断の根拠になるダメージ交換について振り返ったのち、「戦艦射線の重複化」というコンセプトを軸にして実戦的な配置論を組み立てます。「巡洋艦は敵戦艦の頭を取るべき」という経験則に対して、今回の記事では合理的な説明を与えることができました。

 7章では序盤の特殊性について考えたうえで、序盤をしのぐために要求される知識や技術、そして状況判断についてまとめます。序盤は中盤以降とは別物という認識を持っておくだけでも、立ち回りはかなり改善されます。

 各章の内容は独立性が高いため、気になる部分だけ拾うという読み方でも意味は取れると思います。新規性が特に高いのは3章と6章なので、かいつまんで理解したいという方はまずそちらから読まれると便利かもしれません。

 

2. 撃沈への寄与

2.1. 撃沈単位

 以前の『巡洋艦のダメージ交換論』では相対ダメージと呼んでいたもので、与ダメージを敵艦のHPに対する割合で表したものです。

 平均撃沈数は離散的な統計情報であるため分散が大きく、戦闘数が少ない場合は信頼性に欠けます。撃沈単位は公式の戦績指標に取り入れられてはいないものの、戦闘ごとの振り返りに活用することでその戦場における活躍の度合いを客観的に評価できます。ゲーム内の経験値の算出にも、与ダメそのものではなく撃沈単位が使われています。

 試合中の総与ダメージを撃沈単位に換算して表示するmodも導入可能であり、そちらでは”combat effectiveness in the measure of CDS (completely destroyed ship)”、日本語に訳せば「完全に撃沈された艦艇(の数)という尺度で測定した戦闘の有効性」と紹介されています。公式が配布しているMod Stationのcombat interfaceタブにて、”mxMeter”という名称でリストアップされています。

 戦闘終了時にダメージを受けつつも生還した艦艇について、撃沈単位には部分的に計上されますが撃沈数には反映されません。したがって、撃沈単位は(分散を取り除いた真の)平均撃沈数よりも必ず高い値になります。

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図 1 mxMeterの導入方法 (WoWS Mod station)

2.2. 回復速度を上回るダメージ

 戦艦およびTier9、10巡洋艦はHPを回復する消耗品である修理版を搭載しており、敵のHPを削る有効打となりうるのはこの回復速度を上回る与ダメージのみです。戦艦および高Tier巡洋艦を相手にした砲戦では単純なダメージ収支だけでなく、ダメージの速度も重要な要素になります。

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表 1 戦艦・巡洋艦の回復速度

2.3. 災害力の相乗効果

 火災や浸水という災害力は、工作班が準備時間中の敵に対して効率よくダメージを与えることができます。まず一度目の火災や浸水で工作班を切らせてからが勝負になるので、攻撃時間が長いほど、与えられる災害力が高いほど、投射量に対する効率が上昇していきます。巡洋艦2隻によるHE集中砲火や、駆逐の魚雷や雷撃機巡洋艦HEや爆撃機の火災浸水コンボは、災害力の相乗効果で高いHPを持つ敵艦の撃沈に貢献します。

2.4. 瀕死の敵艦の優先度

 射撃時間が無限にあれば、残HPと撃沈への寄与が素直に比例します。反対に、試合終了近くでは打ち切りの影響で残HPと撃沈への寄与が比例関係から乖離していき、階段状の関数になります。序盤では敵艦を削ることがそのまま(遠い)撃沈に結びつきますが、中盤から終盤にかけては敵艦に止めを刺せるかどうかが重要になり、ただHPを削るというだけでは意味がありません。

2.5. 残HPに起因する正のフィードバック

 敵の残HPが少ないほど、撃沈への寄与という観点から与ダメージの価値は上昇します。HPが有限であることに起因して艦艇には被弾するほど狙われやすくなる正のフィードバックが働くため、ヘルス管理のためには負のフィードバックを意図的に組み込む必要があります。例えば引き撃ちも負のフィードバックの一種で、距離を離すことで敵の命中率を落として安全を確保します。

 コミットという概念をかつて『隠蔽距離論」で扱いましたが、これは負のフィードバックが失われた状況にあたります。被発見状態にありながら敵AP弾の脅威によって姿勢を前進方向に固定されている状況では逃げ帰ろうと奥に転舵すると防郭を晒すことになり、かといってこのまま前向きを維持しても撃たれ続けることになります。

2.6. 斉射ダメージを定量的な感覚に落とし込む

 扱う艦艇の分間ダメージについて大まかな数字を知っておけば、敵艦の撃沈可能性を見積もるにあたって非常に便利な情報になります。また、敵に与えた分間ダメージを戦闘中に計算するのは不可能ですが、代わりに斉射ダメージの基準を決めておくことで射撃の有効性をフィードバックしながら立ち回りを考えることができます。例えば分間2万ダメージが目標であるなら、斉射15秒で5000ダメージ、斉射10秒で3300ダメージが目安になります。

 HEの場合は火災の寄与も重要ですが、火災ダメージの見積もりには秒間火災率と敵艦HPだけでなく比例定数となる火災ダメージ効率のデータも必要です。『隠蔽間際の消火判断』で得られた結果から、射撃時間が40秒を超えればおおむね一定値(7%)に収束することが分かっています。例えば秒間火災率3%の艦艇がHP10万の敵を撃ち続けたとき、秒間では0.03 x 100000 x 0.07 = 210ダメージ、分間では12600ダメージを期待できることになります。ただし射撃時間が短い場合、火災ダメージ効率は低下します。

 秒間火災率はHEの砲弾火災率および装填時間と門数、そして主砲命中率から計算します。計算に関するさらなる詳細は『火災の数理モデル』4.4節を参照してください。

warabi99-wows.hatenablog.com

【参考】過去記事・隠蔽間際の消火判断

warabi99-wows.hatenablog.com

 

3. 攻撃の組み立て

3.1. 立ち回りの目的

 立ち回りの大きな目的は撃沈を奪うことであり、つまり発砲が有利になる状況や瞬間的な大ダメージを出せる状況を作り出すことです。瞬間的な大ダメージを生む源は、①防郭への貫通AP弾②魚雷の2種類があります。また、瞬間的ではないものの火災や浸水も大ダメージになりうる潜在能力があります。言い換えると、自艦あるいは味方艦の大口径APや駆逐魚雷が活用できる状況こそ決定機になります。

 また、攻撃機会が限られる敵駆逐艦への攻撃も決定機になり得ます。低HP艦艇である駆逐艦の生存性はもっぱら隠蔽性に依存しているため、視界役となる駆逐艦、そして対駆逐火力とレーダーを併せ持つ巡洋艦が対駆逐砲戦の鍵を握ります。

 自分の扱う艦艇が決定機を直接的に創り出すためにはどのような立ち回りができるか、そして味方艦艇が決定機を捉えるためにどのような間接的な貢献ができるかを突き詰めていけば、攻防いずれの局面でも目的を持って戦うことができます。

3.2. 主導権を握るための攻撃

 攻撃側は敵の弱点を1箇所作ることさえできれば、そこへ攻撃を集中することで決定機を作れます。立ち位置を決める理由は敵の状況にあり、崩しという目的を果たせれば陣形の多少の乱れは許容されます。

 一方で、防御側は相手の狙いに合わせる受動的な立ち回りを要求されます。立ち位置を決める理由は味方の状況にあり、陣形のバランス、味方全体のリスクの均等化が重要なテーマです。

 ただし実戦においてはどちらにも決定機を作れる可能性があるからこそ砲戦が継続するのであって、攻撃側のあまりにも大きな形勢の乱れは攻防の逆転を誘発します。そもそも決定機を作れないほど劣勢が明確である防御側は、砲戦を続ける動機がありません。

3.3. 攻撃の3段階

 攻撃を3段階(展開、打開、破壊)に分けて考えることで、攻撃の目標があくまでも決定機を作ることにあるという原則を強調します。

 展開:敵を有効射程に捉えるまでの移動であり、射撃なしの移動時間です。攻撃時間の減少につながるため、攻撃側にとって展開局面にかかる時間はなるべく短縮したいところです。

 打開:決定機を作り出すまでの崩しの時間です。敵艦を押し下げて陣形を乱したり、決定機を作るうえで重要な場所に味方を前進させたりと、位置取りをめぐる静かな争いが続きます。

 破壊:瞬間的な大ダメージとそれに続く追撃で敵艦の撃沈を狙います。勝敗を決めるポイントであり、立ち回りの最終的な目標になります。大ダメージを与えるイベントを経由せず、災害ダメージでじりじり削った敵をいよいよ仕留めに行くという破壊局面もそれなりにあります。

 打開あるいは破壊の局面からあらかじめ次の攻撃対象を見越しておくことで、展開にかかる時間を減らすことができます。例えば、現在攻撃中である敵艦の撃沈がほとんど確実になった状況では、次に狙う敵との距離や位置関係も意識しながら砲戦を行います。あるいはレーダー巡洋艦の場合、下がりゆく瀕死の敵戦艦を押し撃ちで追撃しながら陣地にレーダー圏を引っ掛けることで、敵駆逐への攻撃および味方駆逐による陣地占領の支援という次の局面との連続性を生み出すことができます。

3.4. ベタ引きのすすめ

 数的劣勢下の砲戦、いわゆる遅滞行動が正当化されるのは、現在あるいは将来的に敵艦を撃沈できる可能性がある場合のみに限られます。防御から攻撃に移れる可能性が低ければ、他のサイドにいる味方と合流して数的不利を解消できる位置まで迅速に戦線を引き下げます。

 

4. 距離の理論

4.1. 交戦距離

 有効射程は主砲の命中が期待できる距離であり、対戦艦10秒、対巡洋艦8秒が大まかな目安です。実戦に先立って距離に換算して頭に入れておき、実戦での感覚や敵艦の機動性と照らし合わせて調整していくのが良さそうです。

 安全距離は、回避が間に合う距離です。安全時間の計算は『交戦距離指標 RngE』にあるTsafeの式を利用して、同格戦艦の着弾時間のデータをみながらひとまずは紙の上で距離感を掴んでいます。判断ミスではない被弾は艦艇の機動性の限界を超えていることが原因なわけですが、性能の限界を正しく認識するためにこのような性能論的指標を個人的に活用しています。

 一対一や多対多などの状況に影響を受けにくい性能である交戦距離を把握しておくことで、撃ち合う前のダメージ収支の予測が正確になります。砲戦のダメージの見積もりに関わる間違いを減らせば、HPの管理に余裕が生まれて立ち回りもかなり楽になります。

 

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【参考】弾道計算サイト

jcw780.github.io

 

5. 2隻セット理論

5.1. 敵に局所数的不利のリスクを突きつける

 戦域全体で数的不利であっても、攻撃の集中を応用すれば局所的な数的有利を作り出せる可能性があります。数的優位に立つ敵の視点で考えてみると、集中攻撃を受けた敵艦は局所的にダメージ収支が負になり、射撃を中止して味方全体の攻撃速度を落とすか、射撃を継続して危険な状況を受け入れるかの難しい二択を迫られます。複数隻で動く利点は、攻撃目標の変更という手間のかからない方法で数的有利を作り出せる可能性があることです。単独1隻で砲戦を行えば性能および技量の差だけを頼りに火力有利を作り出さなければなりません。火力有利を得られる可能性の薄い戦域に艦艇を投資するのは、冒頭で触れた「立ち回りの目標は発砲が有利になる状況」という原則に矛盾します。

5.2. 基本単位は火力艦2隻か3隻

 火力艦3隻を分割すると必ず単独1隻が生まれるため、分割できない基本的な単位は2隻あるいは3隻になります。この基本単位のすべての艦艇が、同じ敵に10秒以内でフォーカスできるように立ち位置を調整します。戦艦は砲旋回と艦旋回が遅いため、連携を組む巡洋艦のほうが注意深く射線を管理する必要があります。

5.3. あくまでも序盤から中盤にかけての理論

 2隻セット理論は、3レーンをすべて火力艦のセットで埋めることが可能なことが前提です。終盤にかけて生存艦艇数が減少するとやむを得ず単独1隻でレーンを埋めなければならない状況が発生するため、多対多ではなく一対一の砲戦が重要になります。数的有利ではなく性能的あるいは技量的有利、そして長距離ではなく近距離の砲戦に戦術の比重が移ります。

 

6. 戦艦射線下の位置的優位

6.1. 展開の先読みを前提としない形勢判断

 立ち回りとは形勢判断という根拠に支えられているため、形勢判断の基準をまず明確にする必要があることは冒頭で説明したとおりです。2章でまず「撃沈への寄与」という大きな枠組みを決めました。しかし、試合開始から終了までの展開をすべて見通したうえで撃沈への寄与を見積もり、そして立ち回りを決めるというのは現実的ではありません。何かしらの仮定を通してこの概念を簡略化する必要があります。形勢判断の根拠という観点から、ここまでの議論を振り返ってみます。

 もっとも単純な書き換えは、現在の瞬間のみの収支を考えることです。過去の『巡洋艦のダメージ交換論』で採用したもので、4章の交戦距離がその流れのうえにあります。今回の記事の目的のひとつは、この粗い近似にいかにして先の展開を取り込むかというところにあります。

 今回の3章で取り上げた「攻撃の組み立て」は、試合展開のなかでも重要な展開のみに絞って考えるという発想に基づくものです。撃沈への寄与が非常に大きくなる決定機を目標にして、そこから逆行して攻撃を組み立て、あるいは敵の攻撃をしのぐという発想です。

 この章では敵の立ち回りのミスに対する反応の速度と強度、つまりどれほど迅速に、どれほど効果的に付け込めるかという観点も加味して形勢を考えていきます。展開を読み切ることを前提とせず目の前で起こる状況への反応を考える点で、上記のものとは決定的に異なります。この意味での形勢を可動性と呼ぶことにします。

 可動性はいずれ具体的な攻撃集中と火力優位に変換されるためのものであり、目先の火力優位よりも優先されるべきものではありません。攻撃の三段階でいえばあくまでも打開局面において火力優位の可能性を見つけ出すための概念であり、すでに火力優位が形成されている破壊局面では即効性に欠けます。

6.2. 戦艦射線の重複化

 戦艦APに期待されるダメージは防郭を貫通した際の最大ダメージ100%に大きく依存しており, 敵の姿勢に応じてダメージの期待値が大きく上下します。姿勢にさほど影響されないHEとは対照的な特徴です。したがって、戦艦APを使いこなすにあたっては敵の防郭に命中弾を出せる可能性を増やすことが鍵を握ります。

 射線の原理において、艦艇の機能はその射線の最大価値で決まります。敵が防郭を晒す可能性が一定であるならば、戦艦APは多くの敵を射線のうちに捉えるほど価値が増加していくことになります。多くの敵に射線を通せば、そのいずれか1隻が隙を見せる可能性も上昇していくためです。

 ただし孤立している敵、つまり現状撃つ相手のいない敵に射線を通すことは、単純に敵の機能艦艇数を増やして数的不利を招くため避けるべきです。先ほどの結論を「味方が撃てる敵に射線を通す」と言い換えると、誤解を招かないかもしれません。

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図 2 孤立している敵 (右図の局面で射線を通していない敵が”孤立している”)

6.3. APによる姿勢の固定

 舷側を撃ち抜かれると大ダメージになるという戦艦APの特性は、敵艦の移動に制約を与えます。押し撃ちから引き撃ち、あるいはその逆を抑制することで、敵艦のコミットを誘発します。あるいは、敵戦艦の移動や転舵を妨げることで、敵戦艦の射界に捉えられる味方艦艇の数を減らすこともできます。敵戦艦の射線を制限する意義については、敵の形勢が5章で説明した「2隻セット理論」や先ほどの「戦艦射線の重複化」に違反するため敵が不利益を被るとさらに言い換えることもできます。

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図 3 転舵で射線を切り替える (転舵のタイミングで敵戦艦砲が刺さる)

6.4. AP射線の決定機

 戦艦射線の決定機とは、敵艦の防郭に貫通弾を通せる状況を指します。決定機は敵のミスから偶然起こることもありますが、形勢を崩すことで敵がやむを得ず舷側を晒す状況を作り上げることもできます。

 陣形高さのズレ:突出した敵艦の側面と前面を捉えて、いずれかが舷側を捉えます。

 進行方向の支配:例えば外周方向に引き撃ちする艦艇が内周側の艦艇に向けて斉射した際に、外周側は舷側を捉えることができます。後述しますが、序盤で事故が起こる原因のひとつでもあります。

 押し引きの切り替え:奥に転舵するタイミングで舷側を晒すことになります。上記2つとは違い、戦艦1隻のみで決定機を作れます。

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図 4 AP射線の決定機

6.5. 射界外への動き

 巡洋艦HEのダメージは敵艦の姿勢に依存しないため、巡洋艦は射線を1本通せば十分であるとする「射線1本ルール」がよく当てはまります。一方で「敵戦艦の頭を取れ」という経験則があるように、戦艦射線の特性から巡洋艦の立ち位置にも射線の数のみでは判断できない優劣が生まれます。

 巡洋艦が現在味方戦艦と撃ち合いをしている敵戦艦の射界外へ潜り込んだとき、敵戦艦は艦あるいは砲を回して巡洋艦を撃つか、あるいは放置して現在の目標を撃ち続けるかの二択を迫られます。

 前者の場合、射撃準備の砲旋回が実質的な敵弾接近警報になるうえ、戦艦射線の存在下では舷側を撃ち抜かれる大きなリスクを伴います。また、巡洋艦を追いかけることでもう一方の戦艦に射線が通らなくなり、味方戦艦が敵戦艦の行動を一方的に制限できるうえ味方戦艦は行動の制約から解放されます。敵戦艦は形勢を損ねる要因の多重苦を背負い込むことになります。

 後者の選択でも、敵戦艦の射界に捉えられていない巡洋艦はノーリスクで射撃ができるため形勢は有利になります。この場合も、敵戦艦が「戦艦射線の重複化」というルールに違反しています。

 この形勢差の起源は射線の重複化に対する2つの艦種の特性の差異に由来しています。射線を複数通すことで機能が増すという特性をもつ戦艦は砲機動性で劣り、射線1本さえ通せばよいという巡洋艦の砲機動性の高さによって付け込まれています。

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図 5 射界外への動き

6.6. 5レーン理論の見直し

 制圧戦は3陣地制あるいは4陣地制で行われますが、4陣地制ではそのうち2つの陣地が必ず縦に並ぶため、いずれのルールでも陣地に絡むレーンは3つに絞れます。このレーンの境界線を独立させて内周レーンと呼んだのが、これまでの5レーンの根拠でした。

 艦艇、とりわけ戦艦が針路を外向きから内向き(あるいはその逆)に変更する際には、艦または砲の旋回に1分以上の時間を消費します。時間の問題に加えて敵APから姿勢の固定を受けると、内周レーンに位置を取る艦艇は外周か中央のいずれかに射線を通すのが難しくなります。可動性が失われた結果として、内周レーンは外周寄りと中央寄りの2つに分裂します。

 艦艇の位置だけを基準にしてミニマップに線引きすれば5つのレーンが生まれますが、艦艇の砲戦舷や姿勢を考慮すれば陣地3つのレーンをさらに2(外側・内側)あるいは3(外側・中央・内側)に区切るほうが良さそうです。

 

7. 序盤

7.1. 序盤の特徴

 艦艇の展開が初期配置の影響を強く受けます。初期配置は敵と味方で対称的であり、かつ艦艇速度は有限なので、敵艦の最大進出範囲を大まかに予測することができます。選択肢が比較的少なく、駆逐が陣地に進入するルート、レーダー艦がつく島、火力艦の配置にはある程度の傾向があります。

 火力艦の展開は戦場外向きの移動がほとんどです。とりわけマップ端近くでは、陣形の幅を取ろうとする巡洋艦うしの外周争奪戦が頻発します。また、戦艦にとっては外向きに移動する敵艦の舷側を撃ち抜くチャンスがあります。

 敵艦の具体的な配置は初回のスポットを待つことになります。空母ありの戦場では開始1分程度で判明することが多いですが、空母なしでは駆逐の進出を待たなければなりません。敵の場所が見えないまま自艦の置き場所を探すのは、空母なし序盤戦の独特な技術です。

 序盤は火力艦の数が非常に多いため極端な集中砲火が起こりやすく、位置取りや防御姿勢のミスは容易に撃沈に結びつくという過酷な状況です。中盤以降に比べて、立ち回りは安全重視で保守的なものになりがちです。また、偏差の精度という意味での技量差が発揮されづらく、数的優位や位置的優位がものを言います。

 序盤は戦力が均衡していて、占領状態もフラットです。対照的に、中盤以降は形勢に優劣がある状況下での立ち回りも要求されます。

 ここまでに説明した序盤の特徴が満たされなくなったときが、中盤の開始にあたります。①十分な時間が経過して艦艇の展開が初期配置の影響から離れたとき、②敵艦の位置がおおむねすべて判明したとき、③火力艦の数が減少したとき、④形勢に差がついたとき、この4条件が中盤戦に移行する条件です。

7.2. 安全重視の序盤

 序盤の被ダメージはHPの20%が目安です。修理班があれば回復1回分を見込んで34%となります。HPの20%という制限はかなり厳しく、例えばTier8巡洋艦の4万程度のHPでは8000ダメージが上限になります。同格戦艦砲の貫通2発でアウトです。一方で、Tier10巡洋艦の5万程度のHPでは34%の17000ダメージまで許容されます。同格戦艦砲の防郭1発を受けてもなお余裕があります。

 戦艦と対等な一対一の砲戦をするのは厳しく、そもそも敵戦艦に撃たれないか、回避が間に合うか、撃たれる前に隠蔽へ逃げるかなどの工夫が必要です。また、与ダメージの速度と回復速度の差し引きを考えれば、敵戦艦をたった1隻のHEで削るというのはかなり非効率的です。

ただし被ダメージの上限が厳しいのは敵も同様なので、序盤ではとにかく安全を重視して、ダメージの収支に忠実に立ち回れば十分です。被ダメージの制約を守れば序盤で何もしないという状況になることも多いですが、そもそも序盤は与ダメージに期待しないほうが精神衛生によいです。違いを出すのは中盤以降です。

7.3. 空母ありの最序盤

 空母なし序盤では被発見のリスクが敵駆逐のスポットに限られるため、お互いの駆逐艦がまだ展開していない最序盤に攻撃を受ける危険性はほぼありません。一方で、空母あり戦場は最序盤から敵艦載機のスポット、そして航空攻撃および敵戦艦の長距離砲撃の十字砲火を受けるリスクがあります。この傾向は戦艦の有効射程が劇的に延びるTier10戦場で顕著であり、最序盤といっても航空発見を受ける場合には航空攻撃と敵戦艦の砲撃を同時に受けても回避が間に合うような姿勢を事前に準備しておくべきです。少なくとも敵に向かって頭から突っ込むような姿勢で航空攻撃を受けるべきではありません。

 

8. 結論にかえて:戦術論のゲームシステム的基礎づけ

 果たして本当に「巡洋艦は外周に張る」べきなのでしょうか?まず今回の記事の大きなテーマである「射界外への動き」をもとに考えるなら、巡洋艦が外周に張るべきなのは敵戦艦が内周レーンにあり、かつ外側へ向かって押し撃ち中の局面であることになります。さらに、味方戦艦が敵戦艦を撃てる状況でなければなりません。ここまでの議論だけでも、味方戦艦がいない状況であれば外周を取るべきかどうかははっきりしません。ちゃぶ台をひっくり返すようですが、敵4隻に対して味方が自分1隻のみという極端な数的劣勢の下ではそもそも砲戦すら成立せず、撤退の一手になります。ここまでとある格言が成り立つ条件について考えていたわけですが、経験則や格言そのものはそれ自身の限界を教えてくれません。適用できる状況、そして適用できない状況を教えてくれるのは、間違いなくもっと深いところにある、ゲームの基礎的な構造に関する知識なのです。

 立ち回りの経験則をこのゲームのルールとゲームシステムに落とし込んで理解すること、これが私の目指す戦術論の到達点です。プレイヤーのいかなる努力によっても覆らない「ゲームの外枠」に足場を組むことで、すべてのプレイヤーが理解できる観点から立ち回りの良し悪しを論じることができるようになります。また、例えば「外周を取るべき」と「数的不利なら退くべき」というふたつの原則が矛盾する状況においてどちらが優先されるのかという判断を下すために、ゲームシステムに根ざした原則論はやはり必須な道具立てです。いかなるプレースタイルであろうが、いかなるアイデアを持っていようが、ゲームシステムはプレイヤーの努力で書き換えることはできず、その影響から逃れることは本質的に不可能なのです。

 今回の記事では「可動性」という概念を新たに導入しましたが、目前の火力優勢には優先度で劣るという原則としての限界もダメージ交換論の範疇で語ることができます。ゲームシステムという基礎づけのもとでの戦術論はひどく具体性を欠いていて遠回りな議論に思えますが、出発点が基礎的であればあるほどその守備範囲は広く、さらに結論の限界に自覚であるという美点は立ち回りを練り直す際の強力な支えになります。固定観念から脱却して戦術論をより身軽に、実戦をより即興的かつ創発的なものに発展させるうえで、戦術の言語化とそれに続くミクロな基礎づけは実用的なアプローチであることを確信しています。

 蛇足ですが、ゲームシステムに基づくシンプルなゲーム理解を謳っているはずなのに、記事がこんなに長いのは最大の自己矛盾であるような気がしています。

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて、今回の記事でもりばっくすさんにご協力いただきました。ありがとうございました。

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