わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

戦線という概念を使わないAP射線の話

はじめに:「戦線」で立ち回りを説明するべきではない

 理由は下記の2点.

 第一に, AP射線が敵の側面に与える脅威という具体的な観点を不必要に抽象化してしまう.
 第二に, 概念が独り歩きすることで勝利条件(撃沈と占領)を根拠としない立ち回りを誘発しかねない.

「戦線」は複数のAP射線による連携を指す

 戦線とは戦艦のラインである, という定義がもっとも共通認識に近いと思われる. なぜ他の艦種ではなく戦艦に限られて, なぜ線(ライン)と表現されるのか.

 戦艦は強力なAPを武器に, 同格の巡洋艦および戦艦の防郭に貫通打を出すことで決定的な影響を与える艦種である. 線を引くには2点が必要であるから, 戦線の正体は複数のAP射線による連携である.

 もちろん戦艦に限らず, APが有効ならば巡洋艦でも可能である. 防郭を貫けずとも, 戦艦より高い投射量で敵艦を削り切れれば構わない.

 話題は逸れるが, 駆逐艦の隠蔽雷撃も敵側面を捉えることで決定的な役割を発揮する.

複数のAP射線の角度差によって敵の前進を阻止する

 「戦線の形成・維持」という表現を支えるのは, 占領陣地への前進とその阻止という戦術的な動機である. まずは前進の阻止について考察する.

 敵が前進している状況では, 敵の動線, あるいは前進線の側面を取る機動は容易になる. 横方向への移動のみで敵の側面を取れるためである. 敵が撤退している場合と比較すれば分かりやすく, この場合は敵より速く移動しなければ側面を取れない.

 敵の側面を捉えるためには, 複数のAP射線どうしに十分な角度差をつけて敵に刺すことが重要である. 味方2隻の位置が変わらずとも, 敵が近づいてくれば自然と射線の角度差は拡大する.

 側面への脅威を排除しなければ敵は前進できず, 結果として敵が直線的に陣地まで前進するという状況を避けることができる.

前進阻止にあたって視界は必ずしも必要ではない

 劣勢側が敵の前進を阻止するにあたって, 敵側面を捉える機動, そして敵視界を阻止する攻撃が戦術的な目標である. 敵側面を捉えるための機動は視界を必要としない.

 ここで火力の優劣に応じた視界の役割を一旦整理しておく. 火力優勢な状況において, 視界は敵の火力艦を隠蔽状態に逃さず, 敵に不利な砲戦を強制するためにある. 一方で火力劣勢な状況においては, 敵視界を攻撃することで不利な砲戦を拒否しなければならない. 視界役は敵の視界役をスポットすることで, 敵視界の拒否に寄与する. 火力劣勢時は敵火力艦への視界が役に立たないことに注意. 視界があっても撃ち合いで負けるならそもそも発砲できないため, 視界がダメージに結びつかない.

 火力劣勢な砲戦への耐性という観点において, はじめて戦艦の耐久という性能が役立つ. 視界の遮断が果たせなくとも, 優勢な敵からの砲撃を耐えながら敵側面へ脅威を与えることができる.

 戦艦の優れた耐久による弾受けで戦線が形成されるという理解は誤りであり, 側面への脅威こそ戦線形成の原動力である. 弾受けはあくまでも手段であって, その先の目的である敵側面への脅威こそ本質である.

投射量に優れた艦艇も接近戦によって敵の前進を阻止する

 弾速が遅い一方で傑出した投射量を誇る巡洋艦は, 接近戦における性能的な火力優位のもとで敵の前進を阻止する.

 ただし投射量の多い巡洋艦といっても敵の正面に突っ込めば簡単に集中砲火を浴びて撃沈されてしまう. このような艦艇を機能させるためには一対一の接近戦を保証する必要があり, 味方の戦艦射線により敵の転舵を制約して敵の射界から巡洋艦を消すか, 地形によって巡洋艦への射線を遮断しなければならない.

前進において戦艦は敵側面を脅かすことで敵の後退を促す

 前進阻止と異なる点は, 側面を脅かすための機動を行う戦艦が突出することである. 敵が前進してこない以上, こちらから側面を迎えに行くしかない. この突出した戦艦が戦術的な弱点になるため, いかにして敵の反撃を防ぐかが前進を賭けた砲戦の見どころである.

 敵より速く移動しなければ側面を取れないと先に述べたが, そもそも敵が追いつけないほどの速度で撤退するならば味方の前進は容易に達成される.

結び:戦線という概念は無用である

 戦線の正体は複数のAP射線による連携である, この一文がすべてである. わざわざ戦線という抽象的な概念を持ち出す必要はなく, AP射線の性質について具体的に議論すれば事足りる. ミニマップ上の表象に囚われてはいけない.

 戦線という概念が過度に拡大されて戦艦のみならず巡洋艦, さらには駆逐艦の位置取りさえも含むようになれば, もはや立ち回りを考察するための道具としては役に立たない. ただ漠然と戦艦が前に出れば巡洋艦駆逐艦も前へ出られるといったような過度な単純化を行うのではなく, 艦艇ひとつひとつの性能的な特徴から戦闘の複雑な現象を捉えようと努めることこそ戦術的な思考である.

 正確な立ち回りを支えるのは曖昧ゆえに難解な概念ではなく, ゲームのルールにある勝利条件を最終的な目標として, それを艦艇性能によって具体的に実現しようとする思考の過程である.

謝辞

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて, りばっくすさんにご協力いただきました. ありがとうございました.
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