わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

抑止力としての一撃離脱

 

1. 装填時間は何秒がもっとも有利か?

 分間ダメージが一定の場合, 装填時間は長いほうがよいのか, それとも短いほうがよいのか. 

 戦艦にとって長い装填時間が望ましい根拠として「斉射のあいだに隠蔽へ逃れられる」と言われます. しかしその一方で敵はこちらの装填が残り20秒になるまではノーリスクで撃てるため, 今度は敵の巡洋艦(あるいは戦艦)に一撃離脱の機会を与えてしまうことにもなります. こちらが隠蔽へ戻れるかどうか, 継続的なスポットを受けるかどうかで長い装填時間の優劣が逆転することになり, そんなに話は単純ではないようです.

 今度は一撃離脱を狙う側に立って考えてみると, おおむねこのゲームの戦艦の装填時間は30秒程度が多いため, 隠蔽までに必要な20秒を差し引いた10秒程度でどれだけのダメージを出せるかが重要になります. 同じ装填-10%でも効果は異なり, 例えば装填15秒が13.5秒になっても10秒間では1斉射しかできないことに変わりはありませんが, 装填11秒が9.9秒になれば同じ10秒間でも2斉射できます.

 また戦艦の視点に戻って考えると, あまりにも長い装填時間は戦場の急な変化に対応できないという負の側面もあります.

 ここまでの込み入った議論を見ても分かるとおり, 装填時間の長短とその優劣についてはそうそう簡単に結論を出せるものではありません.

 今回扱う砲戦モデルでは, 敵艦に対して一撃離脱を狙う巡洋艦という構図をダメージ収支の観点から分析しました. 一撃離脱がダメージ収支に得をもたらす仕組みについての洞察, そして装填時間という性能項目を考えるうえでの根拠を与えることができたと考えています. 

2. 1vs1砲戦モデル

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図 1. 1vs1砲戦モデル

 単純な系として先に1vs1の場合を考察しておきます. 後に解説する2vs1の場合と比較することで, どの結果が2vs1に特有なのかはっきりさせることを目的にしています.

2.1. 巡洋艦vs敵艦

 1vs1の砲戦を想定します. 参加する艦艇は味方巡洋艦と敵艦の2隻です. そのうち敵艦は常に発見されており, 味方巡洋艦は隠蔽に戻ることができるとします. 巡洋艦に与えられた選択肢は「継続射撃」か「隠蔽」かの二択であり, 敵艦に選択肢はありません. 

 利得関数となるダメージ収支についてですが, 2vs1モデルへ拡張するための都合で敵艦の視点に立って考えます. 巡洋艦はこの利得関数を最小化する選択肢を選びます. 

 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合, 利得関数は敵艦の巡洋艦に対する秒間与ダメージから巡洋艦の敵艦に対する秒間与ダメージを差し引いたものになります. また, 巡洋艦が隠蔽を選んだ場合, 砲戦は発生しないため収支はゼロです. 

 結果は言うまでもないかもしれませんが, 巡洋艦は1vs1で撃ち勝てる場合に限って射撃を選び, そうでなければ隠蔽に逃れることで交戦を避けます. 敵艦の装填時間はこの結果に関与しません.

2.2. 2vs1の予備的検討

 次章では味方巡洋艦に加えて味方戦艦も関与する2vs1の砲戦を考えますが, この章の結果を踏まえて結果を予想してみます. 1vs1と異なる点は敵艦が射撃目標を選べることであり, 敵艦にとってより大きな与ダメージが期待できるほうを撃ちます. 敵艦の装填時間が限りなく短いとして無視した場合, 巡洋艦が射撃できる状況は①敵艦にとって味方戦艦を撃ったほうが得な場合, ②敵艦にとって味方巡洋艦を撃ったほうが得だが, 巡洋艦がそれ以上にダメージを出せる場合, この2つの場合になります. この結論こそ「巡洋艦のダメージ交換論」で述べた発砲判断の根拠になっていますが, このような交換論を超えて砲戦を理解することこそ今回の記事を書くに至った動機のひとつです. 

 

3. 2vs1砲戦モデルのルール

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図 2. 2vs1砲戦モデルのルール

 2vs1の砲戦を理想化したモデルを扱います. 参加する艦艇は味方2隻, 戦艦と巡洋艦, そして敵艦1隻です. そのうち味方戦艦と敵艦は常に発見されており, 巡洋艦のみが隠蔽状態に戻れる可能性があるとします. 

 戦略に関して, 敵艦は射撃目標を戦艦または巡洋艦から選びます. 対する巡洋艦は「継続射撃」か「一撃離脱」かを選びます. 継続射撃を選ぶと巡洋艦は隠蔽に戻ることはできず, 敵艦の射撃目標になる可能性があります. 一撃離脱では敵艦の装填が完了した時点で巡洋艦は隠蔽状態に戻っており, 撃たれることはありません. 

 敵艦については装填時間を考慮して, その斉射ごとの与ダメージは装填時間とDPSの積で求めます. ただしDPSは戦艦を撃つ場合と巡洋艦を撃つ場合で異なります. 対する巡洋艦の装填時間は考慮せず, 与ダメージはDPSと射撃した時間の積で決まります. 味方戦艦の与ダメージについては, 考慮してもモデルにまったく影響を与えないため無視します. 

 時間あたりダメージ収支を表す利得関数は敵艦の与ダメージから巡洋艦の与ダメージを引き算したもので, 敵艦の視点に立って考えます. 敵艦はこの利得関数の最大化, 巡洋艦は最小化を目的にして, 先ほどの戦略を決定します. 具体的な場合について考えると, 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合は, 利得関数は敵艦のDPSから巡洋艦のDPSを引き算したものになります. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が戦艦を目標にした場合, 巡洋艦は敵艦の残り装填時間が20秒になるまで撃ちます. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が巡洋艦を目標にした場合, 敵艦は隠蔽状態の巡洋艦に砲を向けます. 隠蔽状態にある巡洋艦を敵艦が撃つことはできず, 睨み合いの状態になります. 

 

4. 継続射撃が有利になる領域

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図 3. 継続射撃が有利になる領域

 まず左に示すように敵艦にとって巡洋艦よりも戦艦を撃ったほうが得な場合では, 巡洋艦は絶対に撃たれないためノーリスクで継続射撃を選びます. また右に示すように敵艦にとって巡洋艦を撃ったほうが得な場合でも, 巡洋艦が1vs1の砲戦で撃ち勝てるなら継続射撃を選びます. 巡洋艦は撃たれ続けますが, それ以上の利益を得られます. 

 この2つの場合はいたって常識的であり, とくに目新しい結論ではありません. 

 

5. 睨み合いの領域

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図 4. 睨み合いの領域

 ここからは巡洋艦が単独では敵艦に撃ち勝てず, かつ敵艦から優先的に撃たれる場合の考察に移ります. 敵艦にとって戦艦を撃つメリットよりも巡洋艦に撃たれるデメリットが上回る場合では, 巡洋艦は一撃離脱, そして敵艦は隠蔽状態に入った巡洋艦に砲を向けて睨み合いの状態に落ち着きます. 敵艦が味方戦艦を撃ってしまうと巡洋艦の一撃離脱を受けて損をするため, この一撃離脱の「脅し」が抑止力として働き敵艦の発砲を阻止します. 

 繰り返しになりますが, 敵艦は見えているからといって戦艦を撃つと損をします. 実戦感覚として戦艦は「敢えて撃たない」判断が必要になることも多いと個人的には感じていましたが, 敵巡洋艦の一撃離脱を抑止するためという理由をひとつの正当化として与えることができます.

 

6. 解のない領域

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図 5. 解のない領域

 ここでは睨み合いの場合とは対照的な, 敵艦にとって戦艦を撃つメリットが巡洋艦に撃たれるデメリットを上回る場合を考えてみます. スライドの右に示す表は, この解のない領域における戦略ごとの利得関数を表しています. 分かりやすいようにこの領域に属するパラメーターの組のひとつを具体的な数字として書き表していますが, 不等号さえ満たせばなんでもよいです. 

 どの状態からでもよいのですが, まず戦艦目標・継続射撃の状態からスタートするとします. すると敵艦にとっては(継続射撃で姿を晒す)巡洋艦を狙ったほうが得なため, 巡洋艦目標・継続射撃の状態に移ります. 今度は巡洋艦にとっては一撃離脱で隠蔽に逃れたほうが得なため, 巡洋艦・一撃離脱の睨み合いに移ります. ここが先ほどの睨み合いの領域との違いなのですが, 今回のケースでは敵艦にとって睨み合いをするよりも戦艦を撃ったほうが得なため, 戦艦目標・一撃離脱に移ります. 最後に, 撃たれない巡洋艦にとっては一撃離脱よりも継続射撃が有利になるため最初の状態である戦艦目標・継続射撃に戻ってきます. 

 この領域ではお互いの戦略がループに陥るため, 安定した戦略の組が存在しません. この単純化された砲戦モデルにおいてなお解のない領域が出現するのは, 砲戦の奥深さの一端を表しているように思われます.

 

7. 敵艦の装填時間による解の変化

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図 6. 敵艦の装填時間による解の変化

 敵艦の装填時間の延長は図に示すように斜線の傾きを増加させるため, ④睨み合いの領域を拡大させて, 解のない領域を縮小させます. これは敵艦にとって損です. 装填中に巡洋艦からノーリスクで撃たれる時間が延びるため, 一撃離脱の抑止力がより大きく働くようになります. 

 このモデルでは巡洋艦の装填時間が限りなく短いと仮定していますが, 巡洋艦が一撃離脱を行う際のダメージの向上は, 一撃離脱の脅しという観点から敵装填の延長と同様の効果を与えると考えられます. 1章で述べたように, 10秒程度に発揮可能な火力というアイデアが重要になります. 

 一方で敵艦の装填時間が20秒未満の場合では④睨み合いの領域が消失します. 一撃離脱が不可能になるため抑止力が働かなくなります. 


8. 結論

 巡洋艦が狙われない場合, そして一対一で敵艦に撃ち勝てる状況においては, 巡洋艦は継続射撃を選びます. ダメージ収支に寄与するのは秒間ダメージであり, 装填時間の影響はありません. 

 一方で, 巡洋艦が単独で敵艦に撃ち勝てないうえに優先的に狙われるという状況では, 当然ながら巡洋艦は継続射撃を選ぶことはできません. しかしこの状況においても, 巡洋艦の一撃離脱を考慮した場合にはゼロではなく正の貢献が見込めます. さらに詳しくまとめます. 多対一の砲戦において, 複数側のいずれかの艦艇が隠蔽状態に戻ることができ, かつ単独側の主砲装填時間が20秒を超える場合, 一撃離脱の脅しのおかげでダメージ収支を改善できます. 

 敵の一撃離脱を防ぐという観点では, 装填時間は20秒以下が望ましいといえます. 一方で今回のモデルでは敵艦が発見され続けると仮定していましたが, 隠蔽状態に戻れる可能性があるならば装填時間が長いほど敵の攻撃を受けずに済みます. この場合は装填時間の20秒を上回った部分が得になります. 20秒を超える装填時間は自艦が全門斉射しつつも隠蔽に戻れるというメリットを与える一方で, 継続的なスポットを受けた場合において敵に一撃離脱の機会を与えるというデメリットと表裏一体になっています. 

 今回のモデルでは敵艦の砲旋回にかかる時間を考慮していないので今後の課題は砲旋回を取り入れたモデルの定式化ですが, モデルが複雑になるため難しいのではないかというのが個人的な感覚です. 実際, 今回の砲戦モデルを構想するにあたって当初は装填と砲旋回を両方とも考慮に入れていましたが, 解を求めるのが困難なため砲旋回を捨象して現在のモデルに落ち着きました. 定性的な予測をすると, 実戦では巡洋艦が射撃可能な状況がさらに増えると考えられます. 例えば20秒以上が砲旋回に必要であれば, 敵艦の装填時間にかかわらず巡洋艦がノーリスクで射撃できます. また, 敵艦にとっては装填が完了した状態で砲旋回を強いられると追加の火力損失が発生します. とはいえ今回の単純化されたモデルでも一撃離脱の「脅し」という最も再現したかった結果が得られたため, 今回の結果は要件を満たしていると考えています. 

謝辞

 今回の記事を書くにあたって, じーふぉーさん(@G4H4CK256)と珊瑚さん(@Coralsea017)に助言をいただきました. とりわけ2章に関しては珊瑚さんの助言を受けて加筆しましたものです. ありがとうございました.