なぜbotが増えると勝てなくなるか?
1. 概要
「botが増えると勝ちづらい」という経験則を裏づけることは難しく思われる. 実力の低いプレイヤーが増加すれば自分の勝率は上昇すると考えるほうが自然なためである. この記事では正規分布を用いた確率モデルによって, 「botが増えると勝ちづらい」という経験則を肯定する. さらにプレイヤー勝率と順位および3人分隊の勝率との関係についても示す.
2. 定式化
2.1. “強さ”と勝敗
試合は2つのチーム(味方, 相手)のうち"強さ"値が大きい方が勝つとして, 各チームの"強さ"は所属するプレイヤー12人の"強さ"の合計で求める.
自分およびbotを除くプレイヤーの"強さ"は平均 , 分散 の正規分布に従うとする.
2.2. 自分の勝率
自分の”強さ”が平均 , 分散 の正規分布に従うとする. このとき味方チームの”強さ”から相手チームの”強さ”を差し引いたものは平均 , 分散 の正規分布に従うが, この確率変数が正になる確率が味方チーム, つまりは自分の勝率である. この計算では正規分布の再生性を用いた.
”強さ” のプレイヤーの勝率 は標準正規分布の累積分布関数 を用いて以下のように書ける.
2.3. botの勝率
botの強さが平均 , 分散は他プレイヤーと同じく であるとき, このbotの勝率 は先ほどのプレイヤーの例とよく似た計算で求められる. 分散を とした理由は後述する. 2.2に現れる自分の勝率の式と比較したときの分母の違いに注意せよ.
2.4. bot混入時の勝率変化
自分を除くプレイヤーが確率 でbotへ変化するときの, 自分の勝率 を求めたい. 確率 が十分に小さいとすれば複数のプレイヤーが同時にbotへ変化する確率は無視できるため, 全事象は3つに場合分けできる. 両チーム全員がプレイヤーである場合 (確率 ), 相手にbotが1人いる場合 (確率 , そして味方にbotが1人いる場合 (確率 ) である. それぞれ下式の第1項から第3項に対応している.
を両辺から差し引き, さらに両辺を で割る.
左辺はプレイヤー勝率の変化をbot混入率で割ったものである. 正ならば自分の勝率がbot混入によって上昇して, 逆も然りである.
3. 結果
3.1. bot混入の”逆転領域”
グラフ中に示される領域の色はbotの混入がプレイヤーの勝率に与える変化の符号を示している. 青が上昇, 赤が低下である. bot勝率が50%を上回るbotの混入によってプレイヤーの勝率が低下するのは直感的にも明らかであるが, そもそもプレイヤーより上手なbotというのは非現実的である. bot勝率が50%を若干下回る領域ではプレイヤーの本来の勝率に関係なくbotの混入によってプレイヤーの勝率が上昇している一方で, botの勝率が非常に低い領域では特徴的な振る舞いが見て取れる. プレイヤー勝率が一定以上であればbotの混入によって勝率が低下して, 一定以下であれば上昇するのである. プレイヤーの勝率が一定値へ回帰しているとも言い換えることができる.
4. 派生した結果
4.1. 3人分隊の勝率
強さ のプレイヤー3人が3人分隊を組んだ際の勝率 については以下の式で表せる.
グラフにすると以下のようになる. 個人的にはいい線いっているという感触なのだが, 如何だろうか.
4.2. 3人分隊がbot混入から受ける影響
横軸がソロ勝率で表示されているので分かりづらいが, グラフに示しているのはbot混入がない場合の3人分隊勝率を基準とした数値である. 前節と同様に, ソロ勝率の等しいプレイヤー3人が分隊を組んだ場合を考えている. 3人分隊はソロよりもベースの勝率が高いものの, 赤い領域そのものはあまり変化がない. ただし, グラフ中の数値が全体的に大きくなっているのは要注意である. 3人分隊はベースの勝率を高める一方で, bot混入による影響に脆弱である.
4.3. プレイヤーの勝率と全体順位
プレイヤーの強さが正規分布に従うという仮定から, プレイヤーの勝率と上位パーセントを対応づけることができる.
ソロ勝率60%のプレイヤーが上位10%程度ということになる. さすがに多すぎると思うので, そうするとランダム戦の分散が今回の計算で使った23という値よりも大きいことになる. ただし解釈上の注意点としてはこの順位がプレイヤーベースではなく戦闘数ベースであること. 逆手に取れば, ランダム戦の分散をプレイヤー勝率の分布から求めることができるということになる.