わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

中距離砲戦の趣旨

正のダメージ交換と一方的攻撃の追求

 勝利は正のダメージ交換によってもたらされる。もし一方的な攻撃が可能なら、敵味方の状態に依存せず「正の交換」を実現できる。
 真の一方的攻撃とは単独の艦艇が視界役と攻撃役を兼ねる状況であり、該当するのは駆逐艦の隠蔽雷撃のみである。
 そこで条件を緩めて、外部の視界役の共存下において一方的攻撃を実現する方法を考える。

島越し射撃と煙幕射撃

 島越し射撃・煙幕射撃は、地形・煙幕によって視線を遮断しつつ射線のみを通すことで一方的攻撃を実現している。
 しかし島越し射撃は地形に依存するためマップ次第では実現不可能であり、煙幕は消耗品としての使用回数および準備時間から制約を受ける。さらに、敵の後退に追随することが難しい。

交戦距離の優越

 視線の遮断によらず一方的攻撃を実現するには、交戦距離の優越によるしかない。自艦の安全距離と有効射程の間で砲戦を行う。有効射程のギャップは異なる艦種の間で大きくなるため、巡洋艦にとっては戦艦が主な標的になる。

中距離砲戦の前提

 中距離砲戦の前提は下記の3点である。
1) 海域は開けていて視線と射線が容易に通る。
2) 視界役は敵艦を安全にスポットできる。
3) 自艦は安全かつ一方的な攻撃が可能な交戦距離の範囲を維持できる。

距離のみに依存する位置的優位

 交戦距離の優越さえ維持できればよいので、敵との距離だけが位置取りの基準になる。ここから内周の活用、そして引き撃ちの優位が導かれる。
 戦術的な立ち位置については敵1隻以上を有効射程に収めていればいいので非常に制約が緩い。相対的に戦略的な観点が優先されるので、戦力の迅速な再配分のためにマップの中心に近いほうがよい。外周に出る理由がないので内周の活用がメインになる。
 AP射線の影響下では艦艇の姿勢が固定され、前向きと後向きの切り替えが不可能になる。この状態で状況で隠蔽に戻れなくなると、もはや交戦距離を維持できず安全距離未満の砲戦に至る。したがって、敵APの有効射程内(通常の敵有効射程より長い)で砲戦を行い、かつ敵視界艦が自艦の隠蔽距離内に侵入するおそれがある場合は、距離の優越を維持するにあたって後ろ向きの姿勢で砲戦を行わなければならない。

中距離砲戦論の阻害要因

 中距離砲戦の前提をそれぞれ裏返すことで、中距離砲戦が機能しない状況の要因を明らかにできる。
 視線の条件を裏返す。地形を活用した視線や射線の遮断は中距離砲戦を阻害する。
 視界役の安全性を裏返す。視界役が撃沈または排除されると中距離砲戦は機能しなくなる。後述するが、これが中距離砲戦の実現を狙う側にとって最大の障壁になる。
 交戦距離優越を裏返す。弾速が高く有効射程の長い艦艇は、敵が持つ距離の優越をさらに大きな優越によって無効化できる。
 引き撃ちの優位を裏返す。AP射線を利用して敵の姿勢を前向きで固定しながら駆逐艦や艦載機で隠蔽を剥がせれば、敵はいずれ隠蔽距離を割り込み距離のコントロールを喪失する。

視界役への依存および援護の欠如

 中距離砲戦論および交戦距離の優越は視界役が不在の状況では活用できず、視界役が攻撃を受けている場合への対応も欠落している。島越し射撃ならば安全距離を割り込んだ砲戦が可能なので敵駆逐との距離を安全に詰めることができるのに対して、中距離砲戦では遮蔽物がない状況を想定しているため敵駆逐艦との距離は必然的に遠くなる。

中距離砲戦論の要求性能

 中距離砲戦を効率良く行うためには高い弾速と戦艦に対する高い投射量、そして高い回避能力が要求される。隠蔽距離については安全距離未満から砲撃を受ける可能性を排除できれば十分である。
 回避能力について補足すると、減速転舵による回避では高速性と転舵性能が重要になる。一方で前後進による回避では、直線加速性能と舷側装甲の斜撃に対する防御力、つまり跳弾可能性や二重装甲による防郭貫通の回避を重視する。

実際の艦艇への応用

推力転舵Chapayev

 隠蔽無用論は推力転舵ビルドの意義を簡潔に説明している。ただしChapayevの特殊性として、隠蔽UGを切っても隠蔽レーダーが可能なため敵駆逐へのプレッシャーを維持できる点は見逃せない。これは距離の優越からくる隠蔽無用論のみでは説明が完結しない。

全裸Henri IV

 全裸ビルドとは、推力転舵に艦長スキルとして重榴弾や最上級砲手を合わせる構成である。
 Henri IVは戦艦に対する投射量がかなり高いうえに回避能力も高いため、中距離砲戦論との相性が非常に良い。隠蔽無用論を体現する運用である。

推力転舵Nevsky

 失敗例。隠蔽14.2では敵駆逐に全くプレッシャーが掛からず視界役を維持できないので、隠蔽UGを取って隠蔽12.8からレーダー12を打ったほうがマシ。素のHE貫通力が30mmなので対戦艦の火力があまり伸びないのも悩みどころで、別の運用法を探す必要がある。
 Nevskyは高い弾速とレーダーによって敵の中距離砲戦を阻む能力を併せ持つのがポイント。巡洋艦に対しては距離の優越を消失させて、駆逐艦に対してもレーダーの脅威を与えることができる。

結びにかえて─応用に関するアイデア

 性能的優位を一方的攻撃の実現という基準から考察することで、艦艇の運用や位置取りに関する知見を得ることができる。今回は交戦距離の優越という概念を議論の出発点にしたが、例えばこれを駆逐艦の隠蔽雷撃など他の一方的攻撃方法へ取り替えても同様の思考過程を辿ることができる。
 応用例として巡洋艦駆逐艦に対する攻撃の意義について考えてみる。距離の優越による中距離砲戦に関しては、劣勢側が中距離砲戦を拒否するための手段として行う。一方で、駆逐艦の隠蔽雷撃に関しては被雷撃側が隠蔽雷撃によるダメージを予防するために行う。当然ながら実戦における位置取りの判断基準にも差異がある。前者に関しては中距離砲戦の劣勢側は視線を通される限り対駆逐攻撃の必要があり、優勢側は味方駆逐が曝される脅威の高さに応じて敵の対駆逐攻撃を抑止する必要がある。後者では隠蔽雷撃の実現可能性で判断でき、例えば魚雷射線が通っていなければ対駆逐攻撃の必要性はない。
 「一方的攻撃」という観点は艦艇性能と艦艇の運用に関する前提の結びつきを明らかにして、戦術的な判断の基準を簡潔かつ論理的に導くことができる。

謝辞

 りばっくすさん(@RiBacx366)、珊瑚さん(@Coralsea017)に執筆上のアドバイスをいただきました。ありがとうございました。