餅の巡洋艦日記

巡洋艦の戦術論と性能論についての記事です.

中距離砲戦の趣旨

正のダメージ交換と一方的攻撃の追求

 勝利は正のダメージ交換によってもたらされる。もし一方的な攻撃が可能なら、敵味方の状態に依存せず「正の交換」を実現できる。
 真の一方的攻撃とは単独の艦艇が視界役と攻撃役を兼ねる状況であり、該当するのは駆逐艦の隠蔽雷撃のみである。
 そこで条件を緩めて、外部の視界役の共存下において一方的攻撃を実現する方法を考える。

島越し射撃と煙幕射撃

 島越し射撃・煙幕射撃は、地形・煙幕によって視線を遮断しつつ射線のみを通すことで一方的攻撃を実現している。
 しかし島越し射撃は地形に依存するためマップ次第では実現不可能であり、煙幕は消耗品としての使用回数および準備時間から制約を受ける。さらに、敵の後退に追随することが難しい。

交戦距離の優越

 視線の遮断によらず一方的攻撃を実現するには、交戦距離の優越によるしかない。自艦の安全距離と有効射程の間で砲戦を行う。有効射程のギャップは異なる艦種の間で大きくなるため、巡洋艦にとっては戦艦が主な標的になる。

中距離砲戦の前提

 中距離砲戦の前提は下記の3点である。
1) 海域は開けていて視線と射線が容易に通る。
2) 視界役は敵艦を安全にスポットできる。
3) 自艦は安全かつ一方的な攻撃が可能な交戦距離の範囲を維持できる。

距離のみに依存する位置的優位

 交戦距離の優越さえ維持できればよいので、敵との距離だけが位置取りの基準になる。ここから内周の活用、そして引き撃ちの優位が導かれる。
 戦術的な立ち位置については敵1隻以上を有効射程に収めていればいいので非常に制約が緩い。相対的に戦略的な観点が優先されるので、戦力の迅速な再配分のためにマップの中心に近いほうがよい。外周に出る理由がないので内周の活用がメインになる。
 AP射線の影響下では艦艇の姿勢が固定され、前向きと後向きの切り替えが不可能になる。この状態で状況で隠蔽に戻れなくなると、もはや交戦距離を維持できず安全距離未満の砲戦に至る。したがって、敵APの有効射程内(通常の敵有効射程より長い)で砲戦を行い、かつ敵視界艦が自艦の隠蔽距離内に侵入するおそれがある場合は、距離の優越を維持するにあたって後ろ向きの姿勢で砲戦を行わなければならない。

中距離砲戦論の阻害要因

 中距離砲戦の前提をそれぞれ裏返すことで、中距離砲戦が機能しない状況の要因を明らかにできる。
 視線の条件を裏返す。地形を活用した視線や射線の遮断は中距離砲戦を阻害する。
 視界役の安全性を裏返す。視界役が撃沈または排除されると中距離砲戦は機能しなくなる。後述するが、これが中距離砲戦の実現を狙う側にとって最大の障壁になる。
 交戦距離優越を裏返す。弾速が高く有効射程の長い艦艇は、敵が持つ距離の優越をさらに大きな優越によって無効化できる。
 引き撃ちの優位を裏返す。AP射線を利用して敵の姿勢を前向きで固定しながら駆逐艦や艦載機で隠蔽を剥がせれば、敵はいずれ隠蔽距離を割り込み距離のコントロールを喪失する。

視界役への依存および援護の欠如

 中距離砲戦論および交戦距離の優越は視界役が不在の状況では活用できず、視界役が攻撃を受けている場合への対応も欠落している。島越し射撃ならば安全距離を割り込んだ砲戦が可能なので敵駆逐との距離を安全に詰めることができるのに対して、中距離砲戦では遮蔽物がない状況を想定しているため敵駆逐艦との距離は必然的に遠くなる。

中距離砲戦論の要求性能

 中距離砲戦を効率良く行うためには高い弾速と戦艦に対する高い投射量、そして高い回避能力が要求される。隠蔽距離については安全距離未満から砲撃を受ける可能性を排除できれば十分である。
 回避能力について補足すると、舷側転舵による回避では高速性と転舵性能が重要になる。一方で前後進による回避では、直線加速性能と舷側装甲の斜撃に対する防御力、つまり跳弾可能性や二重装甲による防郭貫通の回避を重視する。

実際の艦艇への応用

推力転舵Chapayev

 隠蔽無用論は推力転舵ビルドの意義を簡潔に説明している。ただしChapayevの特殊性として、隠蔽UGを切っても隠蔽レーダーが可能なため敵駆逐へのプレッシャーを維持できる点は見逃せない。これは距離の優越からくる隠蔽無用論のみでは説明が完結しない。

全裸Henri IV

 全裸ビルドとは、推力転舵に艦長スキルとして重榴弾や最上級砲手を合わせる構成である。
 Henri IVは戦艦に対する投射量がかなり高いうえに回避能力も高いため、中距離砲戦論との相性が非常に良い。隠蔽無用論を体現する運用である。

推力転舵Nevsky

 失敗例。隠蔽14.2では敵駆逐に全くプレッシャーが掛からず視界役を維持できないので、隠蔽UGを取って隠蔽12.8からレーダー12を打ったほうがマシ。素のHE貫通力が30mmなので対戦艦の火力があまり伸びないのも悩みどころで、別の運用法を探す必要がある。
 Nevskyは高い弾速とレーダーによって敵の中距離砲戦を阻む能力を併せ持つのがポイント。巡洋艦に対しては距離の優越を消失させて、駆逐艦に対してもレーダーの脅威を与えることができる。

結びにかえて─応用に関するアイデア

 性能的優位を一方的攻撃の実現という基準から考察することで、艦艇の運用や位置取りに関する知見を得ることができる。今回は交戦距離の優越という概念を議論の出発点にしたが、例えばこれを駆逐艦の隠蔽雷撃など他の一方的攻撃方法へ取り替えても同様の思考過程を辿ることができる。
 応用例として巡洋艦駆逐艦に対する攻撃の意義について考えてみる。距離の優越による中距離砲戦に関しては、劣勢側が中距離砲戦を拒否するための手段として行う。一方で、駆逐艦の隠蔽雷撃に関しては被雷撃側が隠蔽雷撃によるダメージを予防するために行う。当然ながら実戦における位置取りの判断基準にも差異がある。前者に関しては中距離砲戦の劣勢側は視線を通される限り対駆逐攻撃の必要があり、優勢側は味方駆逐が曝される脅威の高さに応じて敵の対駆逐攻撃を抑止する必要がある。後者では隠蔽雷撃の実現可能性で判断でき、例えば魚雷射線が通っていなければ対駆逐攻撃の必要性はない。
 「一方的攻撃」という観点は艦艇性能と艦艇の運用に関する前提の結びつきを明らかにして、戦術的な判断の基準を簡潔かつ論理的に導くことができる。

謝辞

 りばっくすさん(@RiBacx366)、珊瑚さん(@Coralsea017)に執筆上のアドバイスをいただきました。ありがとうございました。

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 各論後編

 

1. 本記事の範囲

 前編では砲弾性能を中心に解説したので, 後編では砲塔性能(装填時間)と主砲門数が絡むHE投射量を解説していきます. この記事でいう投射量とは分間ダメージ(DPM)のことで, HE砲弾ダメージに分間の最大投射弾数を乗算したものです. SAP搭載艦艇についてはSAP投射量に8割を乗算してHE投射量に準じるものとして扱います. 

 主砲性能の要点のほとんどは各論前編で解説し終えた感があるので, この後編はひたすらDPMの具体的な数値を列挙するだけの記事になりそうです. ただし性能値の大まかな序列を把握しておくだけでもカタログスペックを読むのはかなり楽になると思うので, まるっきり無意味なわけでもないはずです. 分間ダメージの先にある話題, 例えば装填時間や斉射火力の話をするにしても, 議論の叩き台として分間ダメージの大まかな傾向を捉えている必要はあると考えています. 

 本文読むより表を見るというのも総論編, 各論前編と同様です. 本文はおまけ, 表の一部を文字に起こしただけなので流し読みしてください. 

 誤字脱字, データ誤りなどあればこっそり教えて下さい. 

1.1. 汎アジア巡洋艦ツリーについて

 本記事は半年以上前に書いていた記事の続きであり, 実装済み艦艇のデータもまだ更新できていません. 気が向いたら更新するかもしれません. ご了承ください. 

1.2. 関連記事

warabi99-wows.hatenablog.com

warabi99-wows.hatenablog.com

補遺 (執筆中)

2. Tier10巡洋艦

 まずはツリーの終着点であるTier10を基準にして, HE貫通力のカテゴリーごとの基準を掴みます. 

表 1. Tier10巡洋艦の投射量

2.1. Tier10大巡クラス

HE貫通力が50mm以上の艦艇が属します. ソ重巡の表面50 mm, 独戦の表面50 mmに貫通弾を出せます.

 重巡ながら独巡1/4ルールの適用によって51mmを抜くHindenburgが18万という非常に優秀な投射量を誇ります. Goliath, Yoshino, Puerto Ricoが14万台に並び, 戦艦並みのAPを持つStalingradは12万と投射量では劣ります. 

 分間火災数では意外にもYoshinoが最も低く, HEダメージ優遇を受ける一方で火災率は通常のものという仕様が影響しています. 

 

2.2. Tier10重巡クラス

 HE貫通力が32 mm以上, 49 mm以下の艦艇が属します. 同格戦艦に対しては表面32 mmの英仏戦を抜き, さらに貫通力38 mm以上であれば米戦の甲板に対しても貫通弾を出せます.

 投射量でトップに並ぶのは言うまでもなく米重巡Des Moinesとその同型艦Salem, 分間10発を超える自動装填8 inch砲9門で27万ものDPMを叩き出します. 前部主砲6門に限っても18万のDPMがあり, これでもなお次点のZaoを上回る投射量を発揮します. 

 続いて大きく引き離されてZaoの17.8万, Moskvaの15.9万, そしてHenri IVの14.1万, Gouden Leeuwの14.0万といった並びです. ただし仏巡Henri IVは主砲装填ブースターを搭載しているため, 実際の投射量はカタログスペックより高めになります. 大巡におけるStalingradと同様の理由で, 重巡ながら戦艦並みのAP貫通力を得たPetropavlovskは12万台とHE投射量では劣ります. 最低はNapoliの10.9万, 投射量だけ見ればもはやTier10に居るのが罰ゲームという数値です.

 分間火災数でももちろんDes Moines級が最高ですが, 続いて9台にZao, そして投射量ではMoskvaに劣っていたHenri IVが優秀な災害力を発揮します. 

 

2.3. Tier10軽巡クラス

 HE貫通力が30mmの艦艇が属します. 巡洋艦表面の30mmはそのまま貫通可能ですが, 戦艦表面の最低値32mmを抜くためにはIFHEが要求されます. 

 米軽巡Worcesterは34万を超える狂気じみた投射量を誇る反面, 弾速は遅めです. ソ軽巡Nevskyは重巡クラスを上回る20万の投射量を非常に速い弾速で撃ち出し巡洋艦相手には強いものの, やはり戦艦相手にはIFHE必須という点がネックになります. 

 分間火災数ではWorcesterが18, IFHEによる火災率半減を受けてもなお9台という十分な数値を維持します. 一方でNevskyはIFHE込みで5というかなり低い数値になります.

 

2.4. Tier10駆逐砲巡クラス

 HE貫通力が29mm以下の艦艇が属します. 同格巡洋艦の表面を貫通するためにはIFHEが要求されます.

 Tier10最高のHE投射量はColbertの59万, そしてSmolenskの38万が続きます. Austinは16万という重巡並みの非常に低い投射量に留まりますが, 主砲装填ブースターによって15秒間の装填時間が1/4になるため爆発力があります. 

 

2.5. Tier10HE不搭載巡洋艦

 伊巡VeneziaはHEの代わりにSAPを搭載しています. AP投射量ではNapoliと同程度という非常に低い値になりますが, SAP投射量を重巡HEの8割程度と考えれば17.8万, Zaoと同程度になります.

 英重巡GibraltarはAP限定234mm砲をGoliath同様に12門搭載していますが, 装填時間の短縮に伴いAP投射量は1.28倍に上昇しています. 

 残る英軽巡2種のAP投射量について, Minotaurは60万, Plymouthは45万となっています. Worcesterの50万と比較すれば分かりやすいかもしれません.

 

2.6. Tier10巡洋艦の投射量まとめ

大巡: Hindenburgが18.3万, Stalingradが12.1万, ほか14万台.
重巡: Des Moinesが27.4万, Petropavlovskが12.2万, Napoliが10.9万. ほか18万~14万. 
軽巡: Worcesterが34.4万, Nevskyが20.0万.
駆逐砲巡: Colbertが59.2万, Smolenskが38.4万. Austinが16.2万(MBRB).

 

3. Tier9巡洋艦

 Tier9は大巡のバリエーションが非常に豊かで, 軽巡および駆逐砲巡は少ない環境になっています. 

表 2. Tier9巡洋艦の投射量

3.1. Tier9大巡クラス

 投射量の傾向についてざっと眺めると, Tier10の14万台に対してTier9では12~11万台が中心です. 

 艦艇ごとに細かく見ていくと, Azumaがトップの13.7万, 続いてRoonの12.8万, Kronshtadtの12.2万, Alaskaの11.6万, Drakeの11.5万と近い範囲に6隻が密集します. 少し離れてCarnotの10.2万, Ägirの9.7万, そして最低は独38cm砲という巡洋艦最大の主砲を搭載するSiegfriedの6.0万です. 

 独Siegfriedは巡洋艦精度で撃ち出される独38 cmの強力なAP, 独Ägirに関しては77 mmという優秀なHE貫通力, 仏Carnotに関しては最大で40 ktを超える機動力がトレードオフになっているものと思われます. 

 分間火災数についても7台前半にほとんどの艦艇が集中しますが, Roon, Carnotがやや低く6台に留まり, そしてまたしてもSiegfriedが4.7という極端に低い値になっています.

 

3.2. Tier9重巡クラス

 米Des Moinesの自動装填砲を連装砲塔3基6門として搭載する米Tulsaが18万台でもっとも高く, 米Buffaloおよび日Ibukiはそれぞれ16.8万と14.4万, 主砲装填ブースターを搭載する仏Saint Louisが13.7万と続きます. 15 km地点のAP貫通力が240 mmを上回る超重巡クラスの蘭Johan de Witt, ソRigaのHE投射量は11万台というやや低めの値です. 

 

3.3. Tier9軽巡クラス

 2隻のみの実装です. Seattleが24万とTier9最高の投射量を誇る一方で, 重巡並みの貫通力を有するDonskoiは重巡クラスにさえ劣る14.4万という低い投射量になっています.

 旧仕様においてDonskoiはIFHE込みで米戦の甲板38 mmに貫通弾を出せるという点で差別化が図られていましたが, 現仕様では投射量とAP貫通力で重巡に並ぶため重巡勢との競争では厳しい状況に置かれています. 

 

3.4. Tier9 HE不搭載巡洋艦

 伊BrindisiのSAP投射量を8割に割引くと15万弱になるため, 同格の重巡勢とほとんど同じ水準にあります. 英Neptuneは15 km着弾時間が最も遅い一方で, AP投射量が最も高いTier 9巡洋艦です. 

 

4. Tier8巡洋艦

 Tier8は重巡および軽巡が非常に多く, とりわけ軽巡のバリエーションには目を見張るものがあります. しかし同一の弾道性能を持つ艦艇も少なくないため, 弾道性能が一致している艦艇をグループとしてまとめていくと把握しやすいと思います. 

表 3. Tier8巡洋艦の投射量

4.1. Tier8 大巡クラス

 独HipperおよびEugenはツリーTier9, 10と同様の203 mm砲を搭載しています. Eugenのほうが投射量が低いのは, やや高いHPと修理班による継戦能力とのトレードオフです. 英Cheshireおよび米CongressはTier9, 10の同国籍艦艇が搭載する主砲をTier8に降ろしてきた艦艇です. いずれの艦艇もHE投射量が10万から8万程度というかなり低めの値になっています. 

 

4.2. Tier8 重巡クラス

 独Mainzは口径150 mmですが貫通力優遇で重巡HEに準じます. 投射量も火災力も群を抜いており, さらに米戦の表面38 mmを貫通するため対戦艦火力は極めて優秀です. 

 米重巡はAPの砲弾性能で2種類に分かれるのは各論前編で説明したとおりですが, HEの砲弾性能には差異がありません. 投射量に関してはBaltimoreとWichitaが15万と重巡では高く, 煙幕を搭載するAnchorageとRochesterは13万程度とやや低くなります. 

 仏Martelと汎亜Wukongは弾道性能で一致します. Martelは主砲装填ブースターを搭載するため, 素の投射量はWukongより若干低めです. 

 日Mogamiは主砲2種類の選択制ですが, 重巡ver. では13万, 修理班を搭載するAtagoは12万程度です. 

 蘭Haarlemは空襲とのトレードオフ, 日Toneは雷撃機とのトレードオフで投射量は10万前後とかなり低くなっています. 

 

4.3. Tier8 軽巡クラス

 見かけの種類こそ多いTier8軽巡ですが, 実際はソ連152砲搭載が4隻, 米152砲搭載が2隻あるため一括りにしてしまえば分かりやすくなります. 

 投射量を上から見ていくとまず米Clevelandの24万, 日Mogamiの23万, 米Montpelierの22万がトップクラスです. Clevelandは弾速の遅さ, Mogamiは異常に低い火災力を反映しています. MontpelierはClevelandよりも投射量で若干劣るものの, 主砲精度が若干高いという関係にあるようです. 

 中位に並ぶのは仏Bayard, そしてソ連152 mm砲を搭載したソChapayev, Kutuzov, Ochakov, そして汎亜Irianです. Bayardは弾速がソ連152 mm砲に比べて遅いため投射量で並ぶのは不思議に思えますが, エンジンブーストで40 ktを超える高速と主砲装填ブースターの搭載で不足を補っています. ソ連152 mm砲搭載巡はChapayevがレーダー, Kutuzovが煙幕, Ochakovが低耐久高隠蔽レーダー, 汎亜Irianが13.5 km深度魚雷という差別化になっています. 

 英Belfast’43が16万と続きます. 煙幕とレーダーの両立と引き換えに, やや低い投射量と異常に低い火災力, そして持続時間の短い煙幕という多くのものを失っています. 蘭Provinciënは空襲とのトレードオフでHE投射量は15万という低い数字になっています. 

 最後に, 15 km地点のAP貫通力が200 mm前後に達する重巡高速クラスのソTallinnおよびBagrationは, 優秀なAPの代償としてHE投射量は13万から12万となっています. 

 

4.4. Tier8 HE不搭載巡洋艦

 伊AmalfiはSAPの投射量を8割に差し引けば14万程度として並の重巡と同水準になります. 英Edinburgh軽巡のなかではAP投射量が抜群に高いというわけではなく, 超回復とレーダーで差別化が図られているようです. 英Tiger’59は煙幕とレーダーの両立と引き換えに投射量を失っています. 

なぜbotが増えると勝てなくなるか?

1. 概要

botが増えると勝ちづらい」という経験則を裏づけることは難しく思われる. 実力の低いプレイヤーが増加すれば自分の勝率は上昇すると考えるほうが自然なためである. この記事では正規分布を用いた確率モデルによって, 「botが増えると勝ちづらい」という経験則を肯定する. さらにプレイヤー勝率と順位および3人分隊の勝率との関係についても示す.

2. 定式化

2.1. “強さ”と勝敗

試合は2つのチーム(味方, 相手)のうち"強さ"値が大きい方が勝つとして, 各チームの"強さ"は所属するプレイヤー12人の"強さ"の合計で求める.
自分およびbotを除くプレイヤーの"強さ"は平均  0 , 分散  1正規分布に従うとする.

2.2. 自分の勝率

自分の”強さ”が平均  s _ {0} , 分散  0正規分布に従うとする. このとき味方チームの”強さ”から相手チームの”強さ”を差し引いたものは平均  s _ {0} , 分散  23正規分布に従うが, この確率変数が正になる確率が味方チーム, つまりは自分の勝率である. この計算では正規分布の再生性を用いた.
”強さ”  s _ {0} のプレイヤーの勝率  w _ {0} は標準正規分布の累積分布関数  f(x) を用いて以下のように書ける.

 \displaystyle
w _ {0} = f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right )

2.3. botの勝率

botの強さが平均  s _ {bot} , 分散は他プレイヤーと同じく  1 であるとき, このbotの勝率  w _ {bot} は先ほどのプレイヤーの例とよく似た計算で求められる. 分散を  1 とした理由は後述する. 2.2に現れる自分の勝率の式と比較したときの分母の違いに注意せよ.

 \displaystyle
w _ {bot} = f \left ( \dfrac{ s _ {bot} } { \sqrt{24} } \right )

2.4. bot混入時の勝率変化

自分を除くプレイヤーが確率  pbotへ変化するときの, 自分の勝率  w _ {0} ^ {'} を求めたい. 確率  p が十分に小さいとすれば複数のプレイヤーが同時にbotへ変化する確率は無視できるため, 全事象は3つに場合分けできる. 両チーム全員がプレイヤーである場合 (確率  1-23 p ), 相手にbotが1人いる場合 (確率  12 p , そして味方にbotが1人いる場合 (確率  11 p ) である. それぞれ下式の第1項から第3項に対応している.

 \begin{align} \displaystyle 
w _ {0} ^ {'} &=
\left (1 - 23 p \right) \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0}} {\sqrt{23}} \right) + 12 p \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0} + s _ {dot} } {\sqrt{23}} \right) + 11 p \cdot f \left ( \dfrac {s _ {0} - s _ {dot} } {\sqrt{23}} \right)
 \end{align}

 w_{0}=f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right ) を両辺から差し引き, さらに両辺を  p で割る.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} + s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right) + 11 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} - s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right)
 \end{align}

左辺はプレイヤー勝率の変化をbot混入率で割ったものである. 正ならば自分の勝率がbot混入によって上昇して, 逆も然りである.

3. 結果

3.1. bot混入の”逆転領域”

f:id:warabi99_wows:20220414105220p:plain
図 1. bot混入によるプレイヤー勝率の変化

グラフ中に示される領域の色はbotの混入がプレイヤーの勝率に与える変化の符号を示している. 青が上昇, 赤が低下である. bot勝率が50%を上回るbotの混入によってプレイヤーの勝率が低下するのは直感的にも明らかであるが, そもそもプレイヤーより上手なbotというのは非現実的である. bot勝率が50%を若干下回る領域ではプレイヤーの本来の勝率に関係なくbotの混入によってプレイヤーの勝率が上昇している一方で, botの勝率が非常に低い領域では特徴的な振る舞いが見て取れる. プレイヤー勝率が一定以上であればbotの混入によって勝率が低下して, 一定以下であれば上昇するのである. プレイヤーの勝率が一定値へ回帰しているとも言い換えることができる.

3.2. 弱いbotの極限

再び下式から考察を始める.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} + s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right) + 11 \cdot f \left ( \frac {s _ {0} - s _ {bot}} {\sqrt {23}} \right)
 \end{align}

ここではbotが非常に弱い場合を考えるので,  s _ {bot} \to - \infty の極限を取る.
 f(- \infty) = 0, f(\infty) = 1 である.
直感的にはbotが入ったチームが必ず負けるという状況に対応している.

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot f \left ( \frac {s _ {0}} {\sqrt {23}} \right) + 12
 \end{align}

 w_{0}=f \left ( \dfrac{ s _ {0} } { \sqrt{23} } \right ) であることを思い出せば,

 \begin{align} \displaystyle 
\frac {w _ {0} ^ {'} - w _ {0}} {p} &= -23 \cdot \left ( w _ {0} - \frac {12} {23} \right) 
 \end{align}

と変形できる.
左辺が負になる条件は  w _ 0 > \frac{12}{23}=0.521 \dots であることが分かる.
まとめると, botが非常に弱い場合はその混入によってプレイヤーの勝率が  \frac{12}{23} めがけて収束する.

3.3. botの分散をゼロにした場合

2.3ではbotの強さの分散を他プレイヤーと等しい  1 に設定した. ここではbotの強さの分散が  0 である場合の結果について説明する.

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図 2. bot混入によるプレイヤー勝率の変化 (bot分散ゼロ)

右上の領域に明確な違いが現れている. この計算条件では強さが不均一なプレイヤーが均一な(分散がゼロの)botで置き換わるため, 試合の不確実性が減少している. この不確実性の減少は勝率の高いプレイヤーに有利に働く. 一方で3.1.にて紹介した計算条件ではこの不確実性の減少という影響が取り除かれている.
このようにbotの強さの分散をゼロとして得られた結果の考察は複雑になるため, ここで補足として説明することにした.

4. 派生した結果

4.1. 3人分隊の勝率

強さ  s _ {0} のプレイヤー3人が3人分隊を組んだ際の勝率  w _ {0} ^ {3div} については以下の式で表せる.

 \begin{align} \displaystyle 
w _ {0} ^ {3div} &= f \left ( \frac {3 \cdot s _ {0}} {\sqrt {21}} \right)
 \end{align}

グラフにすると以下のようになる. 個人的にはいい線いっているという感触なのだが, 如何だろうか.

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図 3. ソロ勝率と3人分隊勝率

4.2. 3人分隊bot混入から受ける影響

横軸がソロ勝率で表示されているので分かりづらいが, グラフに示しているのはbot混入がない場合の3人分隊勝率を基準とした数値である. 前節と同様に, ソロ勝率の等しいプレイヤー3人が分隊を組んだ場合を考えている. 3人分隊はソロよりもベースの勝率が高いものの, 赤い領域そのものはあまり変化がない. ただし, グラフ中の数値が全体的に大きくなっているのは要注意である. 3人分隊はベースの勝率を高める一方で, bot混入による影響に脆弱である.

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図 4. bot混入によるプレイヤー勝率の変化 (3人分隊)

4.3. プレイヤーの勝率と全体順位

プレイヤーの強さが正規分布に従うという仮定から, プレイヤーの勝率と上位パーセントを対応づけることができる.

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図 5. ソロ勝率と上位パーセント

ソロ勝率60%のプレイヤーが上位10%程度ということになる. さすがに多すぎると思うので, そうするとランダム戦の分散が今回の計算で使った23という値よりも大きいことになる. ただし解釈上の注意点としてはこの順位がプレイヤーベースではなく戦闘数ベースであること. 逆手に取れば, ランダム戦の分散をプレイヤー勝率の分布から求めることができるということになる.

5. 結び

プレイヤーの集合を正規分布として仮定することで, 低レベルなbotの混入がプレイヤーの勝率を低下させる現象に定性的な説明を与えるのみならず, 3人分隊の勝率や全体順位など他の統計との関連性も示すことができた. しかしながら今回の結果は純粋に理論的なものであるから, 実際の統計データによる検証が必要である.

抑止力としての一撃離脱

 

1. 装填時間は何秒がもっとも有利か?

 分間ダメージが一定の場合, 装填時間は長いほうがよいのか, それとも短いほうがよいのか. 

 戦艦にとって長い装填時間が望ましい根拠として「斉射のあいだに隠蔽へ逃れられる」と言われます. しかしその一方で敵はこちらの装填が残り20秒になるまではノーリスクで撃てるため, 今度は敵の巡洋艦(あるいは戦艦)に一撃離脱の機会を与えてしまうことにもなります. こちらが隠蔽へ戻れるかどうか, 継続的なスポットを受けるかどうかで長い装填時間の優劣が逆転することになり, そんなに話は単純ではないようです.

 今度は一撃離脱を狙う側に立って考えてみると, おおむねこのゲームの戦艦の装填時間は30秒程度が多いため, 隠蔽までに必要な20秒を差し引いた10秒程度でどれだけのダメージを出せるかが重要になります. 同じ装填-10%でも効果は異なり, 例えば装填15秒が13.5秒になっても10秒間では1斉射しかできないことに変わりはありませんが, 装填11秒が9.9秒になれば同じ10秒間でも2斉射できます.

 また戦艦の視点に戻って考えると, あまりにも長い装填時間は戦場の急な変化に対応できないという負の側面もあります.

 ここまでの込み入った議論を見ても分かるとおり, 装填時間の長短とその優劣についてはそうそう簡単に結論を出せるものではありません.

 今回扱う砲戦モデルでは, 敵艦に対して一撃離脱を狙う巡洋艦という構図をダメージ収支の観点から分析しました. 一撃離脱がダメージ収支に得をもたらす仕組みについての洞察, そして装填時間という性能項目を考えるうえでの根拠を与えることができたと考えています. 

2. 1vs1砲戦モデル

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図 1. 1vs1砲戦モデル

 単純な系として先に1vs1の場合を考察しておきます. 後に解説する2vs1の場合と比較することで, どの結果が2vs1に特有なのかはっきりさせることを目的にしています.

2.1. 巡洋艦vs敵艦

 1vs1の砲戦を想定します. 参加する艦艇は味方巡洋艦と敵艦の2隻です. そのうち敵艦は常に発見されており, 味方巡洋艦は隠蔽に戻ることができるとします. 巡洋艦に与えられた選択肢は「継続射撃」か「隠蔽」かの二択であり, 敵艦に選択肢はありません. 

 利得関数となるダメージ収支についてですが, 2vs1モデルへ拡張するための都合で敵艦の視点に立って考えます. 巡洋艦はこの利得関数を最小化する選択肢を選びます. 

 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合, 利得関数は敵艦の巡洋艦に対する秒間与ダメージから巡洋艦の敵艦に対する秒間与ダメージを差し引いたものになります. また, 巡洋艦が隠蔽を選んだ場合, 砲戦は発生しないため収支はゼロです. 

 結果は言うまでもないかもしれませんが, 巡洋艦は1vs1で撃ち勝てる場合に限って射撃を選び, そうでなければ隠蔽に逃れることで交戦を避けます. 敵艦の装填時間はこの結果に関与しません.

2.2. 2vs1の予備的検討

 次章では味方巡洋艦に加えて味方戦艦も関与する2vs1の砲戦を考えますが, この章の結果を踏まえて結果を予想してみます. 1vs1と異なる点は敵艦が射撃目標を選べることであり, 敵艦にとってより大きな与ダメージが期待できるほうを撃ちます. 敵艦の装填時間が限りなく短いとして無視した場合, 巡洋艦が射撃できる状況は①敵艦にとって味方戦艦を撃ったほうが得な場合, ②敵艦にとって味方巡洋艦を撃ったほうが得だが, 巡洋艦がそれ以上にダメージを出せる場合, この2つの場合になります. この結論こそ「巡洋艦のダメージ交換論」で述べた発砲判断の根拠になっていますが, このような交換論を超えて砲戦を理解することこそ今回の記事を書くに至った動機のひとつです. 

 

3. 2vs1砲戦モデルのルール

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図 2. 2vs1砲戦モデルのルール

 2vs1の砲戦を理想化したモデルを扱います. 参加する艦艇は味方2隻, 戦艦と巡洋艦, そして敵艦1隻です. そのうち味方戦艦と敵艦は常に発見されており, 巡洋艦のみが隠蔽状態に戻れる可能性があるとします. 

 戦略に関して, 敵艦は射撃目標を戦艦または巡洋艦から選びます. 対する巡洋艦は「継続射撃」か「一撃離脱」かを選びます. 継続射撃を選ぶと巡洋艦は隠蔽に戻ることはできず, 敵艦の射撃目標になる可能性があります. 一撃離脱では敵艦の装填が完了した時点で巡洋艦は隠蔽状態に戻っており, 撃たれることはありません. 

 敵艦については装填時間を考慮して, その斉射ごとの与ダメージは装填時間とDPSの積で求めます. ただしDPSは戦艦を撃つ場合と巡洋艦を撃つ場合で異なります. 対する巡洋艦の装填時間は考慮せず, 与ダメージはDPSと射撃した時間の積で決まります. 味方戦艦の与ダメージについては, 考慮してもモデルにまったく影響を与えないため無視します. 

 時間あたりダメージ収支を表す利得関数は敵艦の与ダメージから巡洋艦の与ダメージを引き算したもので, 敵艦の視点に立って考えます. 敵艦はこの利得関数の最大化, 巡洋艦は最小化を目的にして, 先ほどの戦略を決定します. 具体的な場合について考えると, 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合は, 利得関数は敵艦のDPSから巡洋艦のDPSを引き算したものになります. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が戦艦を目標にした場合, 巡洋艦は敵艦の残り装填時間が20秒になるまで撃ちます. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が巡洋艦を目標にした場合, 敵艦は隠蔽状態の巡洋艦に砲を向けます. 隠蔽状態にある巡洋艦を敵艦が撃つことはできず, 睨み合いの状態になります. 

 

4. 継続射撃が有利になる領域

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図 3. 継続射撃が有利になる領域

 まず左に示すように敵艦にとって巡洋艦よりも戦艦を撃ったほうが得な場合では, 巡洋艦は絶対に撃たれないためノーリスクで継続射撃を選びます. また右に示すように敵艦にとって巡洋艦を撃ったほうが得な場合でも, 巡洋艦が1vs1の砲戦で撃ち勝てるなら継続射撃を選びます. 巡洋艦は撃たれ続けますが, それ以上の利益を得られます. 

 この2つの場合はいたって常識的であり, とくに目新しい結論ではありません. 

 

5. 睨み合いの領域

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図 4. 睨み合いの領域

 ここからは巡洋艦が単独では敵艦に撃ち勝てず, かつ敵艦から優先的に撃たれる場合の考察に移ります. 敵艦にとって戦艦を撃つメリットよりも巡洋艦に撃たれるデメリットが上回る場合では, 巡洋艦は一撃離脱, そして敵艦は隠蔽状態に入った巡洋艦に砲を向けて睨み合いの状態に落ち着きます. 敵艦が味方戦艦を撃ってしまうと巡洋艦の一撃離脱を受けて損をするため, この一撃離脱の「脅し」が抑止力として働き敵艦の発砲を阻止します. 

 繰り返しになりますが, 敵艦は見えているからといって戦艦を撃つと損をします. 実戦感覚として戦艦は「敢えて撃たない」判断が必要になることも多いと個人的には感じていましたが, 敵巡洋艦の一撃離脱を抑止するためという理由をひとつの正当化として与えることができます.

 

6. 解のない領域

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図 5. 解のない領域

 ここでは睨み合いの場合とは対照的な, 敵艦にとって戦艦を撃つメリットが巡洋艦に撃たれるデメリットを上回る場合を考えてみます. スライドの右に示す表は, この解のない領域における戦略ごとの利得関数を表しています. 分かりやすいようにこの領域に属するパラメーターの組のひとつを具体的な数字として書き表していますが, 不等号さえ満たせばなんでもよいです. 

 どの状態からでもよいのですが, まず戦艦目標・継続射撃の状態からスタートするとします. すると敵艦にとっては(継続射撃で姿を晒す)巡洋艦を狙ったほうが得なため, 巡洋艦目標・継続射撃の状態に移ります. 今度は巡洋艦にとっては一撃離脱で隠蔽に逃れたほうが得なため, 巡洋艦・一撃離脱の睨み合いに移ります. ここが先ほどの睨み合いの領域との違いなのですが, 今回のケースでは敵艦にとって睨み合いをするよりも戦艦を撃ったほうが得なため, 戦艦目標・一撃離脱に移ります. 最後に, 撃たれない巡洋艦にとっては一撃離脱よりも継続射撃が有利になるため最初の状態である戦艦目標・継続射撃に戻ってきます. 

 この領域ではお互いの戦略がループに陥るため, 安定した戦略の組が存在しません. この単純化された砲戦モデルにおいてなお解のない領域が出現するのは, 砲戦の奥深さの一端を表しているように思われます.

 

7. 敵艦の装填時間による解の変化

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図 6. 敵艦の装填時間による解の変化

 敵艦の装填時間の延長は図に示すように斜線の傾きを増加させるため, ④睨み合いの領域を拡大させて, 解のない領域を縮小させます. これは敵艦にとって損です. 装填中に巡洋艦からノーリスクで撃たれる時間が延びるため, 一撃離脱の抑止力がより大きく働くようになります. 

 このモデルでは巡洋艦の装填時間が限りなく短いと仮定していますが, 巡洋艦が一撃離脱を行う際のダメージの向上は, 一撃離脱の脅しという観点から敵装填の延長と同様の効果を与えると考えられます. 1章で述べたように, 10秒程度に発揮可能な火力というアイデアが重要になります. 

 一方で敵艦の装填時間が20秒未満の場合では④睨み合いの領域が消失します. 一撃離脱が不可能になるため抑止力が働かなくなります. 


8. 結論

 巡洋艦が狙われない場合, そして一対一で敵艦に撃ち勝てる状況においては, 巡洋艦は継続射撃を選びます. ダメージ収支に寄与するのは秒間ダメージであり, 装填時間の影響はありません. 

 一方で, 巡洋艦が単独で敵艦に撃ち勝てないうえに優先的に狙われるという状況では, 当然ながら巡洋艦は継続射撃を選ぶことはできません. しかしこの状況においても, 巡洋艦の一撃離脱を考慮した場合にはゼロではなく正の貢献が見込めます. さらに詳しくまとめます. 多対一の砲戦において, 複数側のいずれかの艦艇が隠蔽状態に戻ることができ, かつ単独側の主砲装填時間が20秒を超える場合, 一撃離脱の脅しのおかげでダメージ収支を改善できます. 

 敵の一撃離脱を防ぐという観点では, 装填時間は20秒以下が望ましいといえます. 一方で今回のモデルでは敵艦が発見され続けると仮定していましたが, 隠蔽状態に戻れる可能性があるならば装填時間が長いほど敵の攻撃を受けずに済みます. この場合は装填時間の20秒を上回った部分が得になります. 20秒を超える装填時間は自艦が全門斉射しつつも隠蔽に戻れるというメリットを与える一方で, 継続的なスポットを受けた場合において敵に一撃離脱の機会を与えるというデメリットと表裏一体になっています. 

 今回のモデルでは敵艦の砲旋回にかかる時間を考慮していないので今後の課題は砲旋回を取り入れたモデルの定式化ですが, モデルが複雑になるため難しいのではないかというのが個人的な感覚です. 実際, 今回の砲戦モデルを構想するにあたって当初は装填と砲旋回を両方とも考慮に入れていましたが, 解を求めるのが困難なため砲旋回を捨象して現在のモデルに落ち着きました. 定性的な予測をすると, 実戦では巡洋艦が射撃可能な状況がさらに増えると考えられます. 例えば20秒以上が砲旋回に必要であれば, 敵艦の装填時間にかかわらず巡洋艦がノーリスクで射撃できます. また, 敵艦にとっては装填が完了した状態で砲旋回を強いられると追加の火力損失が発生します. とはいえ今回の単純化されたモデルでも一撃離脱の「脅し」という最も再現したかった結果が得られたため, 今回の結果は要件を満たしていると考えています. 

謝辞

 今回の記事を書くにあたって, じーふぉーさん(@G4H4CK256)と珊瑚さん(@Coralsea017)に助言をいただきました. とりわけ2章に関しては珊瑚さんの助言を受けて加筆しましたものです. ありがとうございました. 

戦線という概念を使わないAP射線の話

はじめに:「戦線」で立ち回りを説明するべきではない

 理由は下記の2点.

 第一に, AP射線が敵の側面に与える脅威という具体的な観点を不必要に抽象化してしまう.
 第二に, 概念が独り歩きすることで勝利条件(撃沈と占領)を根拠としない立ち回りを誘発しかねない.

「戦線」は複数のAP射線による連携を指す

 戦線とは戦艦のラインである, という定義がもっとも共通認識に近いと思われる. なぜ他の艦種ではなく戦艦に限られて, なぜ線(ライン)と表現されるのか.

 戦艦は強力なAPを武器に, 同格の巡洋艦および戦艦の防郭に貫通打を出すことで決定的な影響を与える艦種である. 線を引くには2点が必要であるから, 戦線の正体は複数のAP射線による連携である.

 もちろん戦艦に限らず, APが有効ならば巡洋艦でも可能である. 防郭を貫けずとも, 戦艦より高い投射量で敵艦を削り切れれば構わない.

 話題は逸れるが, 駆逐艦の隠蔽雷撃も敵側面を捉えることで決定的な役割を発揮する.

複数のAP射線の角度差によって敵の前進を阻止する

 「戦線の形成・維持」という表現を支えるのは, 占領陣地への前進とその阻止という戦術的な動機である. まずは前進の阻止について考察する.

 敵が前進している状況では, 敵の動線, あるいは前進線の側面を取る機動は容易になる. 横方向への移動のみで敵の側面を取れるためである. 敵が撤退している場合と比較すれば分かりやすく, この場合は敵より速く移動しなければ側面を取れない.

 敵の側面を捉えるためには, 複数のAP射線どうしに十分な角度差をつけて敵に刺すことが重要である. 味方2隻の位置が変わらずとも, 敵が近づいてくれば自然と射線の角度差は拡大する.

 側面への脅威を排除しなければ敵は前進できず, 結果として敵が直線的に陣地まで前進するという状況を避けることができる.

前進阻止にあたって視界は必ずしも必要ではない

 劣勢側が敵の前進を阻止するにあたって, 敵側面を捉える機動, そして敵視界を阻止する攻撃が戦術的な目標である. 敵側面を捉えるための機動は視界を必要としない.

 ここで火力の優劣に応じた視界の役割を一旦整理しておく. 火力優勢な状況において, 視界は敵の火力艦を隠蔽状態に逃さず, 敵に不利な砲戦を強制するためにある. 一方で火力劣勢な状況においては, 敵視界を攻撃することで不利な砲戦を拒否しなければならない. 視界役は敵の視界役をスポットすることで, 敵視界の拒否に寄与する. 火力劣勢時は敵火力艦への視界が役に立たないことに注意. 視界があっても撃ち合いで負けるならそもそも発砲できないため, 視界がダメージに結びつかない.

 火力劣勢な砲戦への耐性という観点において, はじめて戦艦の耐久という性能が役立つ. 視界の遮断が果たせなくとも, 優勢な敵からの砲撃を耐えながら敵側面へ脅威を与えることができる.

 戦艦の優れた耐久による弾受けで戦線が形成されるという理解は誤りであり, 側面への脅威こそ戦線形成の原動力である. 弾受けはあくまでも手段であって, その先の目的である敵側面への脅威こそ本質である.

投射量に優れた艦艇も接近戦によって敵の前進を阻止する

 弾速が遅い一方で傑出した投射量を誇る巡洋艦は, 接近戦における性能的な火力優位のもとで敵の前進を阻止する.

 ただし投射量の多い巡洋艦といっても敵の正面に突っ込めば簡単に集中砲火を浴びて撃沈されてしまう. このような艦艇を機能させるためには一対一の接近戦を保証する必要があり, 味方の戦艦射線により敵の転舵を制約して敵の射界から巡洋艦を消すか, 地形によって巡洋艦への射線を遮断しなければならない.

前進において戦艦は敵側面を脅かすことで敵の後退を促す

 前進阻止と異なる点は, 側面を脅かすための機動を行う戦艦が突出することである. 敵が前進してこない以上, こちらから側面を迎えに行くしかない. この突出した戦艦が戦術的な弱点になるため, いかにして敵の反撃を防ぐかが前進を賭けた砲戦の見どころである.

 敵より速く移動しなければ側面を取れないと先に述べたが, そもそも敵が追いつけないほどの速度で撤退するならば味方の前進は容易に達成される.

結び:戦線という概念は無用である

 戦線の正体は複数のAP射線による連携である, この一文がすべてである. わざわざ戦線という抽象的な概念を持ち出す必要はなく, AP射線の性質について具体的に議論すれば事足りる. ミニマップ上の表象に囚われてはいけない.

 戦線という概念が過度に拡大されて戦艦のみならず巡洋艦, さらには駆逐艦の位置取りさえも含むようになれば, もはや立ち回りを考察するための道具としては役に立たない. ただ漠然と戦艦が前に出れば巡洋艦駆逐艦も前へ出られるといったような過度な単純化を行うのではなく, 艦艇ひとつひとつの性能的な特徴から戦闘の複雑な現象を捉えようと努めることこそ戦術的な思考である.

 正確な立ち回りを支えるのは曖昧ゆえに難解な概念ではなく, ゲームのルールにある勝利条件を最終的な目標として, それを艦艇性能によって具体的に実現しようとする思考の過程である.

謝辞

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて, りばっくすさんにご協力いただきました. ありがとうございました.
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交戦形態論素案

1 従来の砲戦論の反省

1.1 交戦の形態

 交戦の目的はダメージ優位を取ることであり, この原則は「巡洋艦のダメージ交換論」から変わっていない. ただし, ダメージ優位の基礎となる性能的優位に応じて交戦の形態を以下のように分類する.

 火力戦: 遮蔽物の少ない海域において, 火力艦(巡洋艦および戦艦)の数的優位の確立を目的とした中距離砲戦. 交戦距離の優越を基礎に置き, 中距離HE主戦型の巡洋艦が主導する.

 機動戦: AP主戦の艦艇が敵動線の側方に位置取ることを目的とした砲戦. 戦艦および中距離AP主戦型の艦艇が主導する.

 陣地戦: 陣地占領をめぐる, 占領艦への攻撃を目的とした砲戦. 占領艦への視界を担当する駆逐艦およびレーダー巡洋艦, そして占領艦への砲撃を担当する巡洋艦が主導する.

 接近戦: 彼我の隠蔽距離を割り込んだ砲戦. 副砲特化などで接近戦に適性のある戦艦, 近距離型の巡洋艦, 肉薄雷撃が可能な駆逐艦が主導する.

1.2 巡洋艦の3類型

 巡洋艦の3類型として, まず戦艦に対して距離の優越が取れるか, 次に同格の巡洋艦に対して隠蔽距離より長い距離から防郭貫通が可能かを問う. 距離の優越がなければ近距離型, 距離の優越があり防郭貫通が可能ならば中距離AP型, 距離の優越があり防郭貫通が不可能ならば中距離HE型に分類する.

 ただしAP型とHE型の区別は連続的なものであり, 同格戦艦の防郭すら貫通できるならばほぼ戦艦として, 一部の巡洋艦のみに限られるならばHE型に限りなく近いAP型として振る舞う.

1.3 火力戦偏重の反省

 これまで筆者が考えてきた砲戦論では, 交戦距離の優越という性能的優位を軸にした多対多の中距離砲戦が考察の中心だった. 2020年7月の「巡洋艦のダメージ交換論」では発砲判断の一般論に徹したためこの傾向はさほど顕著ではないものの, 2021年5月の「Nevskyにみる火力優勢の作り方」, 2021年10月の「砲戦技術の諸概念」と考察対象が具体的になればなるほど射線の価値を決める諸要素のなかでも交戦距離を判断の基礎に置くようになっていた.

 年が改まるにあたってこれまでの砲戦論の振り返りになるような記事を構想していたものの, 執筆を進めるにつれて距離偏重の砲戦論に限界を感じるようになった. 実際この危機感は以前からあり, 「砲戦技術の諸概念」では6章すべてをAP主戦型の艦艇についての考察に割いている. この記事では戦艦射線の重複化という概念によって戦艦の位置的優位を説明しているが, あまりにも複雑な概念であり説明の明快さを欠いていた.

 この概念は火力戦の枠を出ておらず, 戦線の乱れが少ない状態, つまり動線側面を取られる危険性がお互いに低い状況にしか適用できない. 乱れが少ないので戦艦が敵側面を捉える状況は敵艦の転舵しかない. この記事で敵艦の転舵の可能性が状況によらず一定として深く考察しなかったのも問題点であり, 簡単な具体例を挙げると, 敵からしてずっと押し続けてこちらを撃沈できるなら転舵して側面を晒す瞬間が存在しないことになる.

 従来の議論の問題点は戦艦が巡洋艦と同様の火力戦をもって戦うとしていたことで, 実際には戦艦は機動戦を企てるものの, それを阻止しようとする敵巡洋艦の火力戦に巻き込まれるといった様相のほうが本質的である.

 今回の記事でAP主戦艦艇の決定機を2つに絞り, 敵動線の側面という戦略的な観点を付け加えた. 戦艦が能動的に敵側面を捉えにいく”崩し”の機動, それによって生じる戦線の乱れが大きな状況を具体的に扱えるようになった.

1.4 なぜ距離偏重の砲戦論に傾いたか?

 筆者の得意とする艦艇は球磨, Chapayev, Donskoi, Nevskyといった中距離HE型の巡洋艦に偏っており, 当然ながら砲戦論の暗黙の前提として距離の優越によるHE投射というパターンが組み込まれていた. 反対にStalingradなど中距離AP型の大巡, Worcesterなど近距離型の巡洋艦は苦手であり, これが砲戦論を特定の観点に偏らせた原因である.

2 火力戦

2.1 火力戦の概要

 遮蔽物の少ない海域における砲戦であるから攻撃の集中が容易であり, 数的優位が一度生まれてしまえば戦力差は時間とともにどんどん拡大していく. 機動戦において重要である”側面を取る機動”は集中砲火により容易に阻止される.

 理論の大部分は「巡洋艦のダメージ交換論」全文および「Nevskyにみる火力優勢の作り方」3章に依拠したもので, これまでの砲戦論の中核を構成するテーマである. 今回の記事では細部の改良および補足に留まる.

2.2 数的優位

 交戦可能な火力艦(機能艦艇)の数の合計で上回ること. 数的優位は拡大再生産される(上述). 機能艦艇という概念は「Nevskyにみる火力優勢の作り方」3.1.2項のテーマ.

 数的優位は4つの優位(数的, 位置的, 性能的, 技量的)のなかで最も重要であり, 数的優位の考え方が適用できない状況では火力戦論の限界が露呈する. 例えば遮蔽物の多い海域では射線が通らないことがむしろ普通であり, 数的優位が意味を成さなくなる. その場合は多対多というより, 連続する1対1に勝って突破するといった理解のほうが正確.

 敵艦よりも多くのHPを保有するという耐久優位を, 今回の記事から数的優位の下位概念として追加する. 撃沈による数的優位の確立に直結するためであり, かつ位置的優位に分類するのもそぐわないためである.

2.3 位置的優位

 敵の機能艦艇数を減らすことで, 一時的な数的優位を生み出せる. 特定の敵艦からの射線を味方全体で同時に無効化することを孤立化と呼ぶ. 射線の無効化には3つの方法, 敵有効射程外への離隔, 地形による遮蔽, 姿勢による防御がある. このなかでも火力戦では距離による無効化をもっとも重視する. 遮蔽物が少ないという前提から地形による無効化は期待できず, HEが主役の砲戦では姿勢による無効化も不可能であるためである.

 敵にとっての発砲判断という観点から, “敵から射撃を受けている味方艦と等しい損失まではノーリスク”という新たな位置的優位が派生する. 敵にとって射撃目標の変更が発生しないため. 「巡洋艦のダメージ交換論」4章の主題として取り上げた.

2.4 性能的優位

 交戦距離の優位が中距離砲戦の駆動力.

2.5 砲機動性の有限性に付け込む戦術

 艦艇の砲旋回には時間を要するため, 敵の射界から逃れることで敵の照準変更時にタイムロスを発生させることができる. 装填が完了しているのに発砲できない時間は火力の損失に繋がる. 「砲戦技術の諸概念」6.5節のテーマ.

2.6 視界の意義

 火力戦の前提には外部の視界役が存在している. 外部というのは, 砲戦を維持するために必要な要素であるにもかかわらず砲戦の対象とならず, 数的優位の勘定の対象外として仮定されているという意味である. もちろん視界役の隠蔽状態が剥がされれば, 火力戦の延長線にありながら火力戦とは異なる, 陣地戦(後述)に近い形態の交戦が発生する.

 視界は劣位にある敵に交戦を強制して, こちらの火力優勢を実際のダメージに結びつけるためにある. 味方が火力劣勢な状況における敵火力への視界は意味がない. 「巡洋艦のダメージ交換論」3.2節で取り上げた.

 敵視界への攻撃は, 味方が火力劣勢な状況において敵の視界を遮断するために行う. 敵駆逐艦に対する攻撃, 敵航空機に対する対空砲火が該当する.

 目的こそ異なるが, 視界への攻撃について実際の交戦形態は陣地戦と類似する. 陣地戦における占領艦を視界艦(駆逐艦)として読み替えれば成立する.
 

2.7 島越射撃は数的優位をもたらすか?

 島越射撃がもっとも有効なのは射撃目標になっている敵艦(標的艦)が砲撃できない状況であり, 一方的な射線がそのまま数的優位に繋がる.

 標的艦が他の目標を砲撃している場合, 地形や煙幕による遮蔽の利得はその射撃を受けている味方艦との差, 狙われずに済んだぶんの利得になる. この場合は標的艦が機能しており, 数的優位は得られない.

2.8 煙幕射撃への対抗策

 煙幕射撃も島越射撃と類似しているが, レーダーや煙幕内発砲発見を利用してスポットできる点, 魚雷が有効である点で異なる. いずれの場合でも視界は他の艦艇に依存するため, 視界に対する攻撃で視界の遮断を図ることも有力な狙いである. 射撃艦は遮蔽物や煙幕の位置から動くことができないため, 射程外への離隔で交戦を回避することもできる.

 煙幕射撃という特殊に見えるケースも結局のところ射線の無効化, 視界の遮断という火力戦の中心的な概念で分析できる.

3 機動戦

3.1 機動戦の概要

 AP主戦の艦艇が敵動線の側面を捉えようと機動する交戦形態. 名称については火力戦の対概念としての機動戦, あるいは戦線の左右方向への機動が重要になるため機動戦とした. もっと適当な呼称があるような気もしているが思いつかない.

 敵が突っ込んでくる状況, 敵が撤退できない状況では側面を取る機動が容易になる. いわゆる引き撃ちの強さというものはかなりの部分を機動戦に依っているのだろう. 火力戦のみでは敵の押し上げを止めることができず, だらだらと退くことになる. 「砲戦技術の諸概念」3.4節がまさに火力戦の限界を示している. ただし撤退が必ずしも悪いわけではなく, 占領状況に余裕がない場合に限って撤退が損失になることに注意. 撤退からダメージ優位, そして数的優位を生み出して有効な反撃に移ることができるなら, 撤退も正当化される.

 機動戦は対駆逐において機能しない.

3.2 追加された位置的優位

 AP弾は防郭貫通により与ダメージが爆発的に増加する. 敵艦の舷側を捉えられる状況について, 戦略及び戦術的な観点から下記のように表現できる.

 戦略: 敵の動線の側方あるいは斜め前方を占める.

 戦術: 敵艦が押しから引き, 前向きから後ろ向きに転じる瞬間を捉える.
 
 繰り返しになるが, 今回の改善点は戦略的観点からAP主戦艦艇の役割を捉え直したことであり, より本質的かつ簡潔な記述になった.

 「砲戦技術の諸概念」では”決定機”という考え方の一例として説明したが, 概念があまりに広義であり理解しづらかった. “AP射線の決定機”として3つの具体例も挙げたが, こちらは枝葉に過ぎない感があり体系性を欠いていた.

4 陣地戦

4.1 陣地戦の概要

 陣地占領をめぐる砲戦. 単純な火力優位の形成を目標とする火力戦とは異なり, 占領艦への火力,占領艦への視界が重要になる.

 個人的な話になるが, この章の文字数が火力戦に次いで多いのは筆者がレーダー艦であるソ連軽巡を扱うためである.

4.2 前衛と後衛

 敵占領艦のスポットにはたらく視界役と, 敵占領艦への攻撃を担当する火力役に分ける. 視界役は水上発見の駆逐艦, 特殊視界のレーダー艦, 航空視界の空母が主な例である. 視界役と火力役は兼任することもある.

 火力艦は占領艦を射撃可能な前衛と, 射撃不可能な後衛に分かれる. 前衛と後衛の別は艦艇性能だけでなく, 交戦時の位置取りに応じて変化する. 交戦時の具体的な状況ごとに, 敵駆逐を射撃可能かどうか, 有効打を期待できるかどうかで前衛と後衛を区別する.

 “前衛と後衛”という概念の着想はびーびー氏の記事「【WoWS】ランダム戦における前衛と後衛の役割と立ち回り」による. こちらの記事において, 前衛および後衛は巡洋艦の性能的な2分類として用いられている.

以下引用.

【前衛と後衛の定義】
“前衛とは戦場で前線に立つ艦艇を指します. 具体的には各国駆逐艦・日米英巡洋艦になります. 後衛とは前線を維持するために火力を投射する艦艇を指します. 具体的には各国戦艦・ソ独仏伊巡洋艦になります. ”

【前衛の役割】
“敵艦艇の全様を偵察し, エリアの占領を行い, 維持をします. 大部分が駆逐艦に依存するため, 駆逐艦が沈まないよう前衛の巡洋艦は可能な限り援護をすることが肝要です. ”

【後衛の役割】
“前衛のスポット情報を元に, 敵艦艇を殲滅するために効果的な配置につき火力を投射しましょう. 敵後衛艦艇との撃ち合いを制するのも重要ですが, 味方前衛の支援こそが最優先になります. ”

以上引用.

4.3 対駆逐砲戦と呼ばない理由

 陣地戦を対駆逐砲戦と呼ばない理由は, この呼称であれば1vs1の戦法レベルに留まってしまうため. 実戦では前衛が駆逐を撃とうとするのと同時に, 後衛が前衛を撃とうとする. 対駆逐砲戦という呼び方であれば, 後衛による前衛に対する射撃という観点が抜け落ちる. 交戦形態を分類する目的は, 交戦を個々の艦艇に分解するのではなく, 艦艇の性能的優位に根拠を求めつつ全体をシステムとして捉えるためである.

4.4 火力戦で前衛が存在しない理由

 陣地戦において前衛としての役目を担う艦艇の位置取りは, 純粋な火力戦においてはむしろ敵に近すぎて友軍全体の損失の不均衡を招くことで形勢を損ねる. 陣地戦で言うところの前衛と後衛が同じラインを取るのが火力戦の要点で, 特定の弱点を作るべきではない. 本記事2.3節で原則を述べた.

 前衛という役割が存在できるのは, 敵駆逐へのダメージさえ出せれば多少の損失は許容できることによる. 標的になる敵駆逐がスポットできなければ陣地戦は成り立たず, もちろん前衛も存在しない. 敵駆逐への視界によって, それまですべて後衛であった火力艦から, 前衛が抽出される.

4.5 適正位置の差異

 火力戦における適正位置と陣地戦における適正位置には差異があるため, 明確に形態の違いを意識して配置を変える必要がある. 陣地戦の標的は低耐久かつ隠蔽性に優れる駆逐艦であるから砲戦は短時間に留まり, 開始時の位置取りがそのまま砲戦の優劣に直結する. こちらも砲戦が継続するため交戦しながらの配置換えが容易な火力戦とは明確に異なる点である.

 前衛が敵駆逐を撃つための適切な砲戦開始位置に就くには敵後衛に妨害されないことが重要である. 後衛は敵前衛のポジションを脅かすことで陣地戦に貢献でき, 火力戦の段階からすでに陣地戦の前哨戦が生起しているといえる.

4.6 特殊視界(レーダー)による敵前衛の無効化

 レーダーによる敵占領艦のスポットは味方駆逐艦を必要としないため, 射撃目標を失った敵前衛は機能不全に陥る. ただしレーダー艦への射撃が成立すれば擬似的な視界戦が成立する.

4.7 火力戦と陣地戦の連続性

 後衛の役割は敵前衛による味方占領艦への攻撃を阻止することであり, 立ち回りの原則は火力戦に類似する.

 火力戦における視界への攻撃, 陣地戦における後衛による前衛への攻撃は, これら2つの交戦形態が完全には分離できないことを表す好例である. 火力戦と陣地戦は互いを内包している.

5 接近戦

5.1 接近戦の特徴

 隠蔽距離を割り込む戦闘は外部の視界役を必要としないほか, 副砲や肉薄雷撃, 体当たりなど中距離とは大きく異なる攻撃手段が存在する.

 距離に応じて有効な攻撃方法および彼我の優劣は微妙に変わる. 隠蔽雷撃と副砲射程が最も長く, 肉薄雷撃が続き, 体当たりはゼロ距離に限られる.

5.2 中距離の交戦を回避する方法

 耐久に優れた艦艇は中距離砲戦の不利を耐えて, 近距離まで踏み込める. 独戦の副砲特化が一例.

 特定の状況で耐久性が跳ね上がる艦艇は, 中距離を飛ばして一気に近距離へ踏み込める可能性がある. 縦からの被弾に強いソ重巡が一例.

 耐久性によらず中距離を飛ばして近距離砲戦を発生させる方法は, 視界の無力化(撃沈), 敵視界・射線の遮断(地形の利用)がある. 近距離砲戦を狙うにあたってもっとも厄介な火力戦に対処するにあたって, その前提として機能している外部の視界役を機能不全に陥らせることが鍵である.

5.3 肉薄雷撃

 駆逐艦は隠蔽距離が短く, 視界を無効化できる. 被発見から魚雷必中距離までの移動が極めて早いため, 敵駆逐を魚雷発射までに撃沈できない状況では警戒しておく必要がある. 自身の砲の向きや投射量だけでなく, 後続の味方艦や空母が突撃してくる敵駆逐を攻撃できるかどうかにも注意しておく.

6 結び

 艦艇性能の解釈にあたって, 基本性能と実戦の形勢判断をつなぐ概念の必要性を感じていた. 主砲, 副砲, 魚雷, 対空砲など性能を項目ごとに比較しても艦艇の性能的な類似性しか理解することができず, 実際の立ち回りにどのように活用すればいいのか, 実戦で性能の強みがどのように発揮されるのかという構想を立てることは困難なままである. これこそ性能データの分かりづらさ, 読みづらさの元凶であろう.

 交戦形態として数パターンの理想的な状況を考えることで, 実戦の複雑な状況が4つの基本的な状況に分解されて, 要求される性能も明確になる.

 例えば火力戦を志向するならば交戦距離の優越と味方視界役を維持する, 敵視界役を妨害する能力という観点に集約される. ソ軽巡Chapayevは高速6インチ砲と推力転舵で距離の優越を確保して, 隠蔽レーダーで視界戦にも対応するという回答を提示している. 独重巡Hindenburgは対戦艦の火力戦に特化しており, 戦艦50mm表面を抜くHEを優れた投射量で, さらに回数優遇つきの修理班で継続して投射する. 一方で視界戦への対応能力は低めである.

 例えば接近戦を志向する艦艇ならば, いかにして中距離砲戦を耐えるか飛ばして近距離まで踏み込めるかが重要である. 最近実装された独戦第2ツリーの回答は, 耐久よりも隠蔽で中距離砲戦を発生させずに, 副砲射程を伸ばして近距離の範囲を中距離側に拡大するというものである. このケースでは隠蔽距離と副砲射程がシナジーを生んでいる. 一方独戦第1ツリーの場合は, 隠蔽ではなく耐久によって中距離砲戦を耐えるという方法を採っている. 伊巡Napoliは排気煙幕により視界を遮断することで中距離を回避する.

 砲戦あるいは交戦のターゲットとなる敵艦とその交戦を構成する必要要素を最もコンパクトに提示する交戦形態という概念は, 体系的かつ実用的な性能考察を行う上での枠組みとしてはたらく.

 この記事では火力戦を除く他の交戦形態についての考察が明らかに不足しているが, この記事で完成形を示すというよりも新年の抱負に近い意味で記載している. 本年は機動戦, 陣地戦, そして接近戦をより深く理解する概念を拡充していくつもりである.

 最後になりますが, VC上で執筆途上の記事の相談に乗っていただいた方々に感謝を, そしてCCとして精力的に活動されながらも意義深い記事を継続的に投稿されているびーびー氏に敬意を表して, 結びと致します.

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 各論前編

 

1. 本記事の範囲

 主砲の弾道性能と砲弾性能を口径ごとに, AP性能を中心にしておおむね以下の順序で解説します.

砲弾ダメージ・火災率: 優遇と冷遇. 
弾道性能: 15 km地点の着弾時間と貫通力. 
精度: 特殊散布界およびσ値.

 HE投射量については, 各論後編でTierごとに解説します. 

warabi99-wows.hatenablog.com

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補遺 (執筆中)

 

2. 貫通力の範囲

 15 km貫通力は口径と緩やかな関係があります. 下記に分類を示しますが, 境界値は説明の便宜上定めたもので公式の言及はありません. 

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図 1. 口径ごとの貫通力

2.1. 貫通力の高いソ連

 ソ連巡洋艦が搭載する口径180 mm以上の主砲はすべて, 口径に比べて高い貫通力を発揮します. 以下に一覧を示します.

大巡305 mm砲 (2種): 戦艦クラス
重巡220 mm砲 (3種): 超重巡クラス. ただしPetropavlovsk搭載砲は戦艦クラス. 
軽巡180 mm砲 (4種): 重巡高速クラス. ただしTallinn搭載砲は超重巡クラス.

 ソ連以外にも比較的貫通力の高い主砲は存在しますが, 例外が系統的でないため個別に説明します. 

3. 大巡

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表 1. 大巡砲の諸元

 大巡砲とは口径283 mm以上の砲を指します. ほぼ全距離で同格巡洋艦の舷側を貫通できる強力なAPを持つ一方で, 対駆逐AP 1/10ダメージ(いわゆる過貫通キャップ)や通常よりも低精度の特殊散布界が適用されるなど, ゲームシステム上では戦艦砲に近い特徴を持ちます.

 砲弾ダメージに関しては日310 mm砲がHEダメージ優遇のみ, Stalingrad砲がHE優遇と火災率優遇を受けます. 日310 mm砲に火災率優遇がないのは日巡のなかでも例外的ですが, 火災率が冷遇されている日戦の性格を部分的に取り入れているとすれば辻褄が合います.

 蘭283 mm/54砲は独戦Scharnhorstの搭載砲でもあるため独戦基準の適用を受けてHE火災率が冷遇されていますが, HEダメージは冷遇を受けていません. また, 巡洋艦搭載砲で最大の口径を持つ独380 mm (Siegfried搭載砲)はBismarck (Tier8)などの搭載砲と同一性能で, 戦艦砲として性能が設定されています. Ägir砲は独巡のAPダメージ優遇を受けません. Spee砲の283 mm (AP: 8,400)が独巡優遇を受けられる最大の口径と思われます. 

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表 2. 国籍・口径ごとのHE性能

 着弾時間については初速が900 m/sを超えるソ連砲2種および仏Carnot砲が7.5 秒以下と高速な一方で, 重量砲弾を低初速で撃ち出す米305 mmは8.8 秒ともっとも低速です. ほかの大巡砲および独380 mm砲は8.0 ~ 8.2 秒と近い範囲に収まります. 日310 mm砲は日巡にしては珍しく, 弾種によって弾道が変わります.

 貫通力ではソ連砲2種が戦艦クラスの性能を誇ります. Tier10戦艦のバイタル貫通を狙う場合には舷側440 mmを目安に貫通距離を考えるとよいので, Stalingradの場合はだいたい17 km台になるかと思います. ほかの大巡砲は15 kmで350 mm程度という, 着弾時間の場合と同様に似た値を取ります. 米305 mmの重量砲弾は結局のところ低初速で打ち消されて貫通力に効かないのが悲しいところです. 

 大巡砲の精度は特殊散布界により, 水平散布界で高精度なほうから 駆逐 (-12~-4%) < 巡洋艦 < Azuma (8~20%) < Spee (18~25%) < Tallinn (29~26%) < 米戦 (57~52%) となります. 垂直散布界に関してパラメーターの違いはなく, 水平散布界にそのまま比例します. StalingradのSpee散布σ2.65については, おおむね巡洋艦散布の1割悪化と考えれば大丈夫だと思います. また, 独大巡Siegfried, 仏大巡Carnotには巡洋艦通常の散布界が適用されます. 

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表 3. 水平散布界

 垂直散布界についてはTTaro氏による以下の記事に記載があります. 

kawaii-14.hatenablog.com

 

4. 超重巡

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表 4. 超重巡砲の諸元

 超重巡砲とは口径234 mm以上283 mm未満の砲を指します. APは16 mm以下の装甲に跳弾されず, 英軽巡と駆逐砲巡の艦首・艦尾を縦抜きできます. 

 砲弾ダメージに関しては英234 mm砲がHEダメージと火災率の優遇, Napoli砲が火災率の冷遇を受けます. 英234 mm砲にはHE貫通力の優遇もあり, 口径1/4ルールに従い57 mm以下までを貫通します. ソ連戦艦以外の同格戦艦とソ重巡の表面50 mmに貫通弾を出せるので, とりわけ後者はクラン戦で重宝するところでしょう.

 着弾時間に関しては伊Napoli(T10) 搭載254 mm砲と蘭Johan de Witt(T9) 搭載240 mm砲が類似した性能で15 km 7.8 ~ 8.0 秒, Henri IV砲は弾種に応じて大きな差があり8.5 秒(AP), 9.0 秒(HE)と続きます. 貫通力についてはTier10巡相手ならば200 mm程度で十分で, 英234 mm以外は敵巡の角度次第ですが全距離で防郭貫通を狙えます.

 英234 mm砲の弾速は低速重巡砲に類似しており, 15 km貫通力197 mmは高速重巡砲と同程度になります. 

5. 重巡

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表 5. 重巡砲の諸元

 重巡砲とは口径191 mm以上234 mm未満の砲を指します. ソ重巡220 mmは超重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. また, 残りの口径203 mm重巡砲についても, 弾道特性に応じて高速砲と低速砲に分類して解説します. 

5.1. ソ重巡220mm砲

 主砲口径220 mm砲のソ連巡洋艦は3隻実装されていますが, すべて性能の異なる主砲を搭載しています.

 ソ巡第2ツリーのRiga(T9), Petropavlovsk(T10)搭載砲には特殊仕様が適用されます. 火災率冷遇, 散布界冷遇(Azuma仕様), 跳弾優遇(開始50度, 確定65度)のほか, 垂直散布界が遠距離で悪化します. 補足ですが, ソ巡第2ツリーTier8のTallinnとは散布界の仕様のみ異なります.

 Petropavlovskは15 km着弾時間が全艦艇最速の6.84 秒, 貫通力も戦艦クラスという驚異的な性能を誇ります. RigaおよびMoskvaのAP性能はよく似たもので, 貫通力は超重巡クラスの上限付近です.

5.2. 高速203 mm砲

 15 km着弾時間が7 秒後半から8 秒台の203 mm砲です. 独203 mm砲とHaarlem(T8)砲の弾道性能は一致します.

 砲弾ダメージに関してはZao砲が日巡としてのHEダメージおよび火災率の優遇, そして独203 mmが独巡としてのHEダメージおよび火災率の冷遇とAPダメージの優遇を受けます. Haarlem砲はオランダ国籍のため独巡の基準は適用されないにもかかわらず, 火災率が独巡にさえも劣る謎の冷遇を受けています. また, 独203 mm砲はHE貫通力の優遇を受け口径1/4ルールが適用されるため, 大巡と同様に50 mmを貫通可能です. 超重巡砲のところで紹介した英234 mm砲と共通点が多く, まとめてHE高貫通重巡砲として扱ってもよいかもしれません.

 Zao砲と伊203 mm砲は15 kmにそれぞれ8.3, 8.0 秒で到達する高速砲です. 貫通力も210 mm程度と重巡最高クラスであり, 同格巡洋艦の防郭を15 km程度から狙えます. 独203 mmおよびHaarlem砲がこれらにやや劣るものの, 弾速と貫通力はいずれも重巡砲としては優秀な部類に入ります.

 精度についてはHaarlem砲にSpee散布が適用されています. 高Tier蘭巡は散布界や火災時間(60 秒), そして重巡標準を上回る表面装甲(30/40 mm)など, 大巡の性格を強く帯びているようです. また, Zao砲には駆逐散布界が適用され, 巡洋艦通常よりも高精度です.

5.3. 低速203 mm砲

 15 km着弾時間が9 秒以上の203 mm砲です.

 仏巡203 mmの区別についてですが,  高Tier仏巡で前期砲(仏203 mm/50)を搭載するのはMartel(T8)初期に限られ, Martel後期, Saint Louis(T9)は後期の仏203 mm/55を搭載します.

 米重巡砲はAP弾の性能に差があり, 経緯は省略しますが高TierではWichita, Anchorageが通常砲弾のほかはすべてSHS(Super Heavy Shell)のAP弾を搭載します.

 日203 mmと英203 mmにいつもどおりのHEダメージ, 火災率の優遇があるほかは, すべて通常仕様の砲弾が並びます. 英203 mm HEは通常の1/6ルールが適用されます. 英234 mmとの混同に要注意です.

 初速はすべて900 m/sを下回り, 高速重巡砲との違いがはっきりと現れています. 着弾時間は仏巡の後期と前期砲, 日英, そして米重巡砲(HE性能は単一)の順に並びます. 仏巡砲2種の性能差は砲身の延伸に伴う単純な初速向上によります. 米重巡砲が搭載するAP弾には通常砲弾とSHS砲弾の別があり, 前者はHE弾より5%以上速く日巡砲と同程度, 後者はHE弾と同程度の弾速になります. 米重巡通常砲では弾種に応じた弾道の違いが非常に大きくなるため, 実戦では要注意です.

 貫通力では米203 mm SHSが頭ひとつ抜けていて, 重量2割増という超重量弾の貫通力は高速重巡砲に並びます. その他は15 km地点で150 mm程度というよく似た値を取り, 国籍ごとの違いはありません. 高Tier巡洋艦の舷側装甲は120 mm程度から200 mmを超えるものまで様々であり, 貫通力がその範囲に収まる低速重巡砲のAPを扱う際には同格巡洋艦の舷側装甲に関する知識が役立ちます.

 精度に関してはZaoと同様に日本203 mm砲が駆逐散布界に従い優遇を受けます.

 最後に跳弾優遇をまとめます. 通常は跳弾開始が入射角45度, 跳弾確定が入射角60度のところ, 米重巡砲2種いずれも開始60度, 確定75度という巡洋艦では最高クラスの性能が設定されています. SHS優遇というより, 米重巡砲全体の優遇として把握するほうが正確です. 

 

6. 軽巡

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表 6. 軽巡砲の諸元

 軽巡砲とは口径149 mm以上191 mm未満の砲を指します. ソ軽巡180 mm砲は重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. 

6.1. ソ軽巡180 mm砲

 ソ連180 mm砲の共通点として, 貫通力と着弾時間は高速重巡砲に準じます. ただし, Tallinn砲の貫通力は超重巡砲の下限程度という比較的高い数値を取ります.

 ソ連180 mm砲の3系統を以下にまとめます.

第1ツリー型: Donskoi(T9), Nevsky(T10). 巡洋艦通常の仕様. 
第2ツリー型: Tallinn(T8). ソ巡第2ツリー仕様. 
中間型: Bagration(T8P). HE性能は第1ツリー型, AP性能は第2ツリー型に近い. 散布界は通常仕様.

 DonskoiとNevskyの違いは初速にあり, 砲身の延伸(57口径から65口径)に伴って弾速と貫通力が改善されています.

 Tallinn砲はソ巡第2ツリー仕様に従い, 火災率冷遇, 散布界冷遇(Tallinn), 跳弾優遇, 垂直精度の遠距離悪化という特徴を持ちます. 繰り返しになりますが水平散布界はTier9以降と異なり, Tallinnのほうが低精度になります.  

 Bagrationの仕様はかなり難解なため, HE性能とAP性能に分けて詳述します. HE性能は第1ツリーと一致しており, 火災率冷遇を受けません. AP性能は第2ツリーに類似しており, Tallinnと同等の着弾時間とやや劣る貫通力を発揮します. 跳弾優遇は第2ツリー型からさらに強化されています. 散布界は冷遇を受けず, 水平・垂直とも第1ツリー同様の巡洋艦通常仕様です.

6.2. 軽巡砲(150 ~ 155 mm)

 英軽巡152 mm砲にはMinotaurなどの防空巡洋艦のみが搭載するMk15および16, そしてその他の大多数が搭載するMk13という2種類があります. 前者のほうが重量低初速なので着弾は遅く, APダメージはわずかに高くなります. 跳弾優遇は変わりません.

 米軽巡はWorcester(T10)のみが異なる砲を搭載しています. 砲弾重量および初速は一致しており, 弾道の違いは隠しパラメーターの抗力係数に起因します. 両者の着弾時間の違いはごく僅かなものです.

 砲弾ダメージと火災率に関しては独巡Mainz(T8P)がHEダメージおよび火災率の冷遇, APダメージの優遇を受けます. Mogami(T8)は日巡としてダメージの優遇を受けますが, 火災率は例外的に冷遇されています. 高TierではBelfast’43のみが搭載する英軽巡砲(T8P)はHEダメージ優遇と火災率冷遇を受けます.  英軽巡砲HEの仕様の詳しい経緯については総論編3.6節をご覧ください.

 Mogamiの不思議な仕様の理由は2015年の仕様に遡ります. 当時の戦艦表面は25 mmに設定されており, かつ装甲厚と貫通力が等しければ不貫通と判定されたため(現在では貫通判定), 軽巡通常の152 mm砲(1/6ルールで貫通25 mm)では戦艦に対して貫通弾を出せませんでした. 一方で, Mogamiは口径わずか3 mmの差ですが25 mmに貫通弾を出せるため, 152 mm砲とのバランスという観点から低い火災率が設定されたものと推測されます.

 Tier9,10の軽巡は弾速の遅い米英の2か国に限られるため軽巡砲すべてが低速と誤解されやすいですが, Tier8には比較的高速な軽巡砲を搭載する艦艇が多く存在します. ソ軽巡(Chapayev, Kutuzov), Mainzが低速重巡砲と遜色ない9 秒台, 日巡Mogami, 蘭巡Provincien, 仏巡Bayardが10 秒台と続きます.

 余談ですが, Mainz砲は独巡ツリー150 mm砲と砲弾ダメージこそ共通ですが弾道はまったく異なります. この件については, 補遺で弾道パラメーターを踏まえながら詳述する予定です.

 AP貫通力に関しては15 kmで100 mm以下, 10 kmで120 mm程度が相場で, 舷側装甲がおおむね120 mmを上回る高Tier巡洋艦に対して防郭貫通を狙うのはかなり厳しくなります.

 IFHEの必要性については各論後編で触れます. 

 

7. 駆逐砲

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表 7. 駆逐砲の諸元

 駆逐砲とは口径148 mm以下の主砲を指しますが, 実装済みの口径は127 mmおよび130 mmのみに限られます.

 米巡AustinはSAP弾とHE弾という珍しい組み合わせを搭載しています.

 弾速は軽巡砲に匹敵する米巡Austinおよびソ巡Smolensk, そして超低速の仏巡Colbertと2種類に大きく分かれます. AP貫通力は10 km地点でなお100 mmを切り, 有効打の機会は接近戦のみです. 

 

謝辞

 前回の記事に続き, じーふぉーさん(@G4H4CK256)に校正を手伝っていただきました. ありがとうございました. 

 記述の誤りがあれば, twitter(@warabi99_wows)までお願いします.