餅の巡洋艦日記

WoWSの戦艦と巡洋艦についての書きものです.

隠蔽間際の消火判断

概要

隠蔽間際の火災ダメージ、そして工作班の使用基準について理論計算をもとに考察しました。敵艦に撃たれ続ける場合は1火災での消火が有利な一方で、隠蔽が間近な場合は2火災での消火、あるいは放置が有利になります。

 

 

1. 「火災の数理モデル」で取り残した話題

 昨年(2020年)の5月に発表した「火災の数理モデル」では火災に関してさまざまな話題を取り上げましたが、なかでも工作班の使用基準についての議論は反響が大きかったように感じています。一方で、計算の簡略化のために導入した仮定は必ずしも現実を反映していませんでした。例えば「定常状態近似」とは敵艦に撃たれ続けるという仮定ですが、はたして実戦の環境をどのくらい反映しているのか疑問が残ります。今回の記事では「火災の数理モデル」を補完するべく、短時間しか射撃を受けない場合、つまり隠蔽間際の工作班基準に焦点を当てます。

2. 隠蔽間際の消火判断

2.1. 火災1か所は放置が有利

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Figure 1 隠蔽間際の火災ダメージ

 以上のグラフが計算結果になります。まずは用語や読み方について説明します。
 グラフの表題に示すのは、秒間火災率と艦長スキル「防火」の有無です。巡洋艦1隻の射撃がおおむね秒間火災率3%に相当します。
 横軸の射撃時間とはそのまま敵艦の射撃に曝される時間のことですが、実戦への応用を考えるにあたっては以下の式を参考にするとよいでしょう。
射撃時間 = 隠蔽までの時間 + 敵弾の着弾時間 – 工作班効果時間
 隠蔽までの時間は最大で20秒、敵弾の着弾時間は長くても15秒、そして工作班効果時間は国籍に応じて決まり10~20秒です。したがって、グラフ中の射撃時間は0~15秒が重要な領域になります。
 縦軸は火災ダメージの期待値を表しますが、HPの割合をパーセントで示してあることに注意してください。この火災ダメージを最小化する工作班判断の基準を探るのが、本記事の目的になります。
 巡洋艦1隻の秒間火災率がおよそ3%という数字を頭に入れつつ、グラフを見てみましょう。線の色は工作班使用基準の違いを反映しています。ただし赤の点線は比較対象として、工作班が準備時間に入った直後という最悪の状況を計算しています。
 低めの火災率から順に見ていくと、秒間2%では射撃時間にかかわらず1火災消火が有利です。ただし、30秒以下での違いは明らかではありません。秒間4%は2火災消火が有利になります。また、秒間6%という過酷な条件では、僅かながら30秒以下の領域で2火災消火よりも無条件の火災放置が有利になっています。
 隠蔽間際の工作班判断について言えば、火災1か所は放置がベターということになります。「火災の数理モデル」とは正反対の結論になりました。

2.2. 工作班使用基準の使い分けは?

 「火災の数理モデル」では、敵艦に撃たれ続けるという仮定のもと計算を行っていました。射撃時間が非常に長い状況では、工作班の使用回数をできるだけ多くすることが火災ダメージの最小化につながります。したがって、火災が1か所発生した時点ですぐさま工作班を使い、2か所目を待たないのがベターな選択です。この状況で火災1か所を漫然と放置するべきではありません。
 対照的に、今回のモデルは射撃時間が短い場合を扱っています。工作班を使用したあとに火災が発生した場合は、火災時間のぶんダメージを受け続ける羽目になります。この最悪の場合に比べれば、射撃時間の終了まで火災を放置して工作班を温存したほうがマシだろうという判断です。
 さらに言えば、工作班の判断は発砲の判断と深く結びついています。例えば自艦のHPに余裕があり撃ち続けることを選択する場合は、工作班も火災1か所で使うことになります。一方で、現状撃沈されるおそれはないがフルタイムの火災を受けると生存が厳しくなるというような瀬戸際にある場合、火災2か所で工作班を使い隠蔽に戻り、1か所では放置するといった選択になります。もちろん、火災1か所で工作班を使うと同時に隠蔽へ逃げるという選択もできます。こちらはさらに安全を重視した基準になります。
 駆逐艦の雷撃や航空攻撃による火災・浸水の可能性によっても、工作班の使用基準は劇的に変化します。不確実性の高い状況のもとでは、火災1か所を放置するというリスク回避的な判断が有力になることは否定できません。ただし、この話題は工作班の使用基準のみで語るには深すぎて、むしろ発砲判断や情報収集能力の問題になります。

2.2.1. 火災による発見距離延長で発見されている場合

 火災による発見距離延長で発見されており、かつ敵から着弾時間が工作班効果時間を上回る長距離砲撃を受けた場合は、特別なリスクが発生します。例えば工作班効果時間が10秒である日本戦艦が着弾12秒の攻撃を受けた場合、工作班で消火した瞬間は隠蔽に戻れますが、その瞬間に発射された敵弾は工作班の効果が切れてから2秒後に着弾します。もしこの隙間の時間で火災が発生した場合、工作班を使用した直後という最悪の状態で再び発見されて敵艦の射撃に曝されることになります。
 アップグレードAスロットの「応急工作班改良1」は、工作班の効果時間を+40%する効果があります。先ほど説明したような長距離砲撃に対して隙を見せないという点では、工作班効果時間が素で20秒と十分に長い米戦よりも、むしろその他の戦艦において真価を発揮するのかもしれません。

2.3. 巡洋艦の視点から

 射撃艦からすると、投射した火災力のうちどの程度が実際の火災ダメージに結びつくのかが気になります。「火災の数理モデル」では、火災ダメージを火災率で割ったものを火災ダメージ効率と呼びました。先ほどのグラフの縦軸を火災ダメージ効率で振り直したものを以下に示します。参考までに、「火災の数理モデル」では火災ダメージ効率を4.0%HPと推定していました。敵艦を撃ち続けた場合には、この4.0%HPという数字に収束すると考えてよいでしょう。
 工作班準備中の火災ダメージ効率は最大で18%HPと極めて高い値を示します。火災発生が100%ダメージに結びつく場合、火災ダメージの0.3%HP/secに火災継続時間の60 secを乗算した18%HPが火災発生1回ごとに入ります。射撃時間が伸びると値が徐々に低下していくのは、すでに火災がある部位には追加の火災発生判定がなされないことに起因します。火災が火災に打ち消されるといったような現象です。
 工作班が使用可能な状態では、秒間火災率ごとに挙動が異なります。秒間2%では射撃時間40秒、秒間4%および6%では射撃時間20秒程度でさきほど説明した4%HPの水準に達します。また、射撃時間が長くなると火災ダメージ効率は4%よりも高い水準に漸近します。「火災の数理モデル」は長時間撃たれ続けた場合の計算なのにもかかわらず、今回のこの漸近的振る舞いと食い違っているように思えます。この差異については、今回の計算では工作班の有効時間を考慮していないことが原因です。工作班有効時間が15秒である場合、効率4%HPに到達するまでに秒間火災率4%のもと30秒弱かかります。

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Figure 2 隠蔽間際の火災ダメージ効率

2.4. 【補遺】巡洋艦の秒間火災率

 繰り返しになりますが、下図に示すように巡洋艦1隻に撃たれる状況の秒間火災率はおおむね2.5 ~ 3.5%に相当します。ただし、この表はIFHEや各種信号旗・艦長スキルの影響を考慮していません。

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Table 1 巡洋艦の秒間火災率の実例

 

Nevskyにみる火力優勢の作り方

 前半では、立ち回りを考える材料としての一般論である「撃沈と占領への貢献」「射線の原理」について解説しました。後半では、巡洋艦および戦艦相手の砲戦におけるNevskyの有利・不利を距離ごとにまとめました。

 

 

1       構成とコンセプト

 艦艇の基本的な構成について、概略を説明します。

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Figure 1 艦長スキル(20 pt)・アップグレード

1.1    アップグレード

 アップグレードは推力転舵に射程です。機動性を改善して中距離砲戦という得意分野をさらに強化する狙いがあります。隠蔽距離が悪化しようが、近距離砲戦はもともと不得意なので立ち回りに悪影響はありません。また、最大射程を伸ばすことで瀕死の敵艦の追撃に生かすこともできます。主砲弾道が極めて優秀なので、素の19.0 kmから更に射程を伸ばしてもまだまだ戦艦への命中が期待できます。

1.2    艦長スキル

 艦長スキルは隠蔽と管理、そしてIFHEが肝です。軽巡砲のIFHEについては賛否両論ですが、32 mm貫通可能にしておけば対戦艦、とりわけ仏戦と英戦の相手が若干楽になります。ただ、それでもこの巡洋艦にとって敵戦艦の押し上げを止めるのは不得手な仕事という印象は変わりません。

 余ったスキルポイントの使い道は色々ありますが、せっかくの対空能力を引き出すために対空系(2+4 pt)を取っています。他には装填手(1 pt), 火薬技術者(2 pt), 消耗品技術者(1pt), 消耗品強化(2 pt), アドレナリン・ラッシュ(3pt)のあたりが候補になるかと思います。

1.3    性能の要点と立ち回りの起点

 Nevskyの性能についての細かい話に先立って、2つのコンセプトを簡単に説明します。

1.3.1    中距離から敵巡洋艦を起点に火力優位を取る

 Nevskyはハイレベルに両立された主砲弾道と機動性を生かして、14~20 kmの間合いで巡洋艦に撃ち勝てます。AP貫通力も蔵王砲並みと高めなので、有効射程ギリギリの遠い間合いからでさえ防郭への有効射を出せます。一方で、IFHE込みでもHE貫通力が32mmに留まり戦艦に対しては火力不足を感じます。

1.3.2    「味方を狙う敵」を主砲や対空で排除する

 用意周到に得意な状況を作り上げてから、数的不利を覆すほどの瞬間的な大ダメージを狙う……ような艦艇ではありません。味方戦艦を撃ち続ける敵巡洋艦を撃ち下げる、味方駆逐を脅かす敵巡洋艦駆逐艦を押し下げる、あるいは瀕死の味方艦を狙う航空機を撃ち落とすなど、味方の脅威になる敵を事前に排除するような戦い方を得意にする艦艇です。

2       勝利条件から考える戦術の原則

 Nevskyの立ち回りという個別論のまえに、まずは一般論として戦術の原則を抑えます。艦艇の勝ちパターンを組み立てるうえで、この章の内容は艦種を問わず役に立ってくれるはずです。

2.1    勝利条件

 おふねに限らず、ゲームの戦術はすべて勝ちに結びつくものでなければなりません。おふねの勝利条件を優先順位に従って列挙してみます。

①敵が全滅
②味方が1000ptに到達 or 敵が0ptに到達
③戦闘時間終了時にポイントで優勢

 ポイントの増減は、撃沈と陣地占領によります。まとめると、すべての戦術的な行動は撃沈または陣地占領のいずれかを目的にしている必要があります。これはすべての原則や経験則に優先する、第一原理というべきものです。

2.2    撃沈への貢献

 火力劣位ならば隠蔽に逃げることで損な撃ち合いを避ける、というのは砲戦の鉄則です。HPに差がない状況から撃沈数で優位に立つにはダメージレースに勝たなければならず、そのためには火力優位と視界を両立する必要があります。一方で、ダメージの収支では負けていても敵艦を撃沈できる場合は撃ち合いが許容されます。撃沈可能性の見極めについてもこの節で説明します。

2.2.1    火力優位の4要因

 説明の便宜上、火力優位を①数的優位②位置的優位③性能的優位④技量的優位、これら4つの要因に分類します。以下に実例を列挙します。

「Aサイドは味方戦艦3隻に対して敵戦艦2隻」…①
単純に隻数を数えて優劣を判断しているので、数的優位に属します。
「敵戦艦2隻とも島陰にいて仕事をしていない」…①②
 敵戦艦は位置が悪いため攻撃対象を失っています。位置的優位に数的優位が組み合わさったものです。
「味方戦艦2隻が大きく開いた位置にいるので、敵の向きにかかわらずどちらかのAPが刺さる」…②
 いわゆるクロスファイアです。APの貫通システムをもとに、位置的優位を組み合わせています。
「敵が陣地を踏んできても、味方巡洋艦が島陰から飛び出して敵を処分してくれるはず」…②③
 敵が踏まざるを得ない陣地に待ち構える位置的優位と、近距離で敵に撃ち勝てる性能的優位です。
「こちらのほうが敵より有効射程が長く、一方的に撃ち勝てる」…③
 有効射程の差という性能的優位です。
「対面が同じ艦艇でもこっちのほうが命中を出せるので勝てる」…④
 照準精度というプレイヤーの技術の差をもとにした、技量的優位です。

 このゲームは数的同数で試合が始まるので、数的優位のみを頼るわけにはいきません。残りの3つの優位をいかにして活用するかが腕の見せ所になります。

2.2.2    視界の3分類

 視界は①水上視界②航空視界③特殊視界の3つに分類できます。特殊視界とは、レーダー、ソナー、煙幕内発砲発見、強制発見の4種類をまとめたものです。①②は地形や煙幕で遮られますが、③はそれらの影響を受けないというのが大きな違いです。ただし、③のうち煙幕内発砲発見は地形で遮られます。         

 撃沈を目的にした視界は、火力優位を背負っている必要があります。砲戦で撃ち負ける局面では、視界を取る意味がありません。

2.2.3    撃沈可能性

 ある敵艦の撃沈可能性を評価するにあたって、まずその敵を潜在的に撃てる味方艦艇を数えます。いまのところ別の敵を撃っている味方艦でも、照準を変更して命中弾を出せる場合は数えます。ただし、弾速などの影響で味方艦が命中弾を出せそうにない場合は除外します。そして、数え上げた味方艦すべてが集中砲撃を30秒間、着目する敵に与えた場合に撃沈が取れるかどうかを基準にします。具体的には、敵を有効射程内に捉えている味方1隻あたり最低5kを見込んで、HEの場合は火災と貫通可能性、APの場合は敵の防郭を抜けるかどうか、跳弾されないかを姿勢から判断して加算すると正確に見積もれます。火災は60秒でHPの18%を削りますが、応急工作班が残っていれば1回目の火災は消火されます。

 特定の敵艦がまだまだ十分なHPを持っていても、将来的に大ダメージを受けて先ほどの基準のHPを割り込むことが見込めるならば、撃沈可能性が高いと判断します。例示すると、転舵中に味方戦艦のAPが刺さりそうな敵艦、味方駆逐の魚雷が刺さりそうな敵艦などが該当します。大口径APと魚雷は戦況をひっくり返す大ダメージの源です。

 てぃけし氏によるとこちらから敵に突っ込むときのキーワードは3つの「きる」です。敵が突っ込んできた場合には、この3つの基準を適用して撃沈を取れるかどうか判断できます。

 

 試合終盤では、1vs1に持ち込んで自分が沈む前に相手を沈められるかという判断が重要になります。大まかには投射量の優劣とお互いのHPをもとにして、魚雷やラムを付け加えて判断します。

2.3    陣地占領への貢献

 陣地占領に関する状況は①占領を防ぐ②占領を取る、以上の2局面に分けて考えると便利です。

2.3.1    占領を防ぐ

 占領を防ぐ方法は①踏み合い②占領切りの2種類があります。

 踏み合いとは、こちらの艦艇を陣地に侵入させて敵の占領ゲージの進行を止める方法です。踏み合いに対して敵はこちらの占領艦を陣地から排除しようとするので、今度は味方占領艦に対する敵の攻撃を阻止することが味方全体の目標になります。あるいは、火力優位を得ているならば撃沈狙いの砲戦に持っていくのもアイデアのひとつです。視界ではなく陣地占領を餌にして、敵に不利な交戦を強制するわけです。

 占領切りとは、陣地内の敵艦を撃つことで占領ゲージを削る方法です。撃沈への貢献と同様に、敵艦への視界と火力が両立する必要があります。撃沈狙いの砲戦との大きく違うのは、占領切りは撃ち勝つことを必要としません。敵を陣地から追い出すことができれば、目標達成となります。

2.3.2    占領を取る

 占領を取るにあたっては、こちらの艦艇を陣地に侵入させる必要があります。敵が妨害してこない場合はそのまま陣地を取れて儲けものですが、陣地占領は取ることよりも阻止することのほうが容易なのでそう簡単にはいきません。もし敵が占領の阻止を狙ってくる場合には、先の「占領を防ぐ」で述べたように踏み合いにあたっては敵占領艦の排除、もしくは敵の占領切りの阻止を目標にします。

 陣地占領の重要性は、その陣地がもたらすポイントで決まります。占領後に占領ポイントが入り続けるか、敵と踏み合いになっても奪われない陣地は占領の価値があります。反対に、占領してもその後に敵に奪われる可能性が高い場合は占領の価値が低くなります。

3       位置的優位を生み出す射線の原理

3.1    射線を単純化したモデル

 射線について考えるにあたって、現実のゲームを大幅に簡略化したモデルから始めます。それぞれの艦艇の(時間あたり)与ダメはすべて等しいと仮定して、距離・射角・姿勢の影響は考慮しません。隠蔽についても考慮せず、常にすべての艦艇が発見状態であると仮定します。ただし、射線は地形によって遮られることがあります。また、射線は常に双方向に通るものとして、島越しや煙幕越しなどの一方的な射線はないものとします。実際のゲームでいえば、開けている海域の撃ち合いに近いモデルといえるでしょう。

3.1.1    機能している艦艇

 「射線を1本以上通している」艦艇の合計数が、そのまま味方や敵の与ダメージの合計になります。射線を全く通していない艦艇はダメージに寄与せず、射線を複数通していても同時に撃てる敵は1隻に限られるためです。ここから実戦のための教訓を取り出すと、「有効射程内に敵を1隻捉えてさえいればよく、複数の射線を通す必要は必ずしもない」ということになります。有効射程を性能論的に正確に把握しておくことももちろん重要ですが、命中弾が出ているかどうかを確認しながら撃つことを習慣づけておけば有効射程外への無駄撃ちを減らせます。

 発砲か隠蔽かの判断をするためには、自分が発砲後に発見されることで敵の機能している艦艇数がいくつ増えるかを考えると便利です。2隻増加する場合は隠蔽に留まったほうがよく、増加しない場合はノーリスクで発砲できます。

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Figure 2 機能している艦艇 (点線:射線)
3.1.2    孤立化と局所の数的優位

 もし数的均衡あるいは劣勢の状況でも、敵の機能している艦艇数を減らすことができれば局所的な数的優位を生み出すことができます。機能している艦艇数とは「射線を1本以上通している」艦艇の数であることから、特定の敵艦からの射線を0本にすればこの目標を達成できることが分かります。特定の敵艦からのすべての射線を遮断するこの行動を、重要なコンセプトのひとつとして「孤立化」と呼ぶことにします。

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Figure 3 孤立化 (点線:射線, 実線:動線)

3.2    隠蔽を取り入れたモデル

 ここからは隠蔽のルールを取り入れます。それぞれの艦艇は「射撃」か「隠蔽」かを選択でき、「射撃」を選んだ艦艇のみが敵の攻撃対象になります。また、一部の艦艇がスポットを受ける場合、すなわち射撃状態を強制される場合も考えます。また、この節では単純化のために地形の影響を考慮しません。すべての艦艇の間に射線が通っていると想定します。

3.2.1    視界の意義①火力優勢の確定

 スポットが存在しない場合、数的劣勢側は全艦が隠蔽状態を選ぶことが正解になります。1隻でも発砲すると、敵は全艦が射撃を選ぶため火力劣勢が確定します。

 数的優位に立つこちらが敵にとって不利な撃ち合いを強制するためには、敵を1隻のみスポットすれば十分です。視界のおかげでお互いに全艦が射撃状態を選ぶ結果に落ち着き、数的優位が火力優位に結びつきます。

 反対の状況として数的優位な勢力がスポットを受けた場合を考えても、数的劣勢側は変わらず全艦隠蔽状態が正解なため視界の貢献はありません。火力優位と視界は片方を欠くと意味が無く、揃ってこそ効果を発揮します。

3.2.2    視界の意義②不確実性の排除

 前項ではお互いに敵勢力の全体像が分かったうえでの発砲判断を取り上げましたが、実戦では敵の位置や数が判明しない状況もあります。視界のもうひとつの意義は、発砲判断のための情報を集めることにあります。

3.3    射線の無効化

 この節では、地形を利用する以外の手段で射線を切る方法について検討します。

3.3.1    有効射程

 敵艦の有効射程の外に出ることで、敵艦からの射線を無効化できます。

3.3.2    防御姿勢

 戦艦どうしの撃ち合いでは、縦向きの姿勢を取ることで敵APの防郭貫通の阻止や跳弾が可能になります。

4       Nevskyの性能的優位を理解する

 火力優位のためには4つの優位が必要であると説明しましたが、この章では性能的優位に焦点を当てます。巡洋艦および戦艦との1vs1における、Nevskyの得意あるいは苦手な状況を理解することが狙いです。

 本章で取り上げる交戦距離とAP有効射程はあくまでも計算による推定値で、現実の挙動を正確に反映しているとは限りません。ここで示す数字はあくまでも目安にして、実戦の感覚を優先してください。

4.1    巡洋艦相手の砲戦

 この節では、Tier10巡洋艦を相手取った1vs1の砲戦を取り上げます。Nevskyが得意とする、あるいは苦手とする交戦距離を把握することで、性能的優位の確立につなげます。

 Tier10巡洋艦を①大巡ソ連220mm砲巡②重巡ソ連180mm砲巡③軽巡・駆逐砲巡の3種類に分類してから、それぞれ順番に解説していきます。

4.1.1    大巡ソ連220mm砲巡

 大型巡洋艦とは主砲口径が280mm以上の巡洋艦を指し、AP貫通力に優れるものの投射量の低い主砲と、優秀な耐久・装甲が特徴です。ソ連220mm砲を搭載した巡洋艦もよく似た特徴を持つため、ここでまとめて解説します。

図の読みかた

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Figure 4 vs. Puerto Rico

 上図は対Puerto Ricoを示したものですが、その前にまず上記の表について説明しておきます。横軸の数字は距離を示しており、単位はkmです。緑の線はNevsky砲の有効射程を示しており、図中のテキストにあるように上段がHE、下段がAPです。赤の線は敵艦の有効射程で、上段がAP、下段がHEです。APの横線に対して垂直に描かれた線はAPで敵の防郭を貫通できる距離を示しており、敵艦の姿勢が0°(舷側に向かって垂直)、45°の場合それぞれに示してあります。灰色の縦線は推力転舵Nevskyの隠蔽距離で、灰かけの部分は敵の隠蔽距離を示します。

Puerto Rico

 NevskyはPuerto Ricoに対して14~19kmの広い範囲で距離の優位に立っており、容易に撃ち勝てます。しかしPuerto RicoのAPはNevskyの防郭を全距離で貫通可能なため、最低限の回避機動は必要です。また、NevskyのAPは通常の交戦距離では敵の防郭を抜くことはできません。

Yoshino

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Figure 5 vs. Yoshino

 得意な間合いが15~18km程度と、Puerto Ricoと比べて若干狭くなっています。Nevskyが敵の防郭を抜ける距離は15km以下とこちらは実用的な数字になっていますが、当然ながらこの距離は敵APの有効射程内でもあります。

Stalingrad

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Figure 6 vs. Stalingrad

 交戦距離はYoshinoとほとんど同じ感覚ですが、Nevskyの有効射程の上限である18km付近でも敵Stalingradの防郭を狙えるのは非常に大きな違いです。横っ腹を捉えた状況では積極的にAPを撃ち込みましょう。ただし先に述べた2隻の大巡と同様に、敵は全距離でこちらの防郭を狙えます。

Petropavlovsk

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Figure 7 vs. Petropavlovsk

 交戦距離ではあまり差がないものの、Petropavlovskは遠距離で主砲精度が悪化するため20km近辺での砲戦はNevsky有利な感触があります。18km以下ではあちらのAPが厄介で、五分五分かやや劣勢です。撃ち勝つことはなかなか難しい相手です。また、図上では14km以下でAPが刺さることになっているものの、Petropavlovskはバイタルが非常に低いため安定してぶち抜くことは難しい印象です。12km以下の近距離では狙えるかもしれません。

Moskva

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Figure 8 vs. Moskva

 交戦距離では差がつかない相手ですが、実戦でよくあるMoskvaが縦を向いて停止している状況ではこちらの有効射程が伸びるため、20km付近を目安に撃ち合うとよいでしょう。実戦の感覚でいえば、NevskyのAPは19km以下でMoskvaに刺さります。

4.1.2    重巡

 重巡とは主砲口径が203mm~240mmの巡洋艦を指しますが、それぞれの性能は千差万別で、これといった共通点は見出せません。ソ連180mm砲もゲームシステム上は軽巡砲に準じる扱いですが、弾道や貫通力ではむしろ重巡砲に近い特徴を持ちます。

 Goliath

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Figure 9 vs. Goliath

 先ほどまでの大巡相手の場合と比較して若干近めの交戦距離になっています。有利な間合いは13~18kmと非常に広く、こちらの隠蔽距離でもあちらの有効射程外という圧倒的な優位にあります。ただし、こちらから頭を向けて突っ込んでしまった場合にはAPで防郭を抜かれる可能性があります。

Hindenburg

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Figure 10 vs. Hindenburg

 14~18kmで撃ち勝てるうえに、有効射程内であればAPで防郭が狙えます。Hindenburgは船体の奥深くに重防御が貼られているため、防郭を抜けなくてもAPの貫通弾を貰いやすい特徴があります。敵が舷側を晒していれば積極的にAPを撃ち込んでよいでしょう。Nevskyのお得意様といってよい巡洋艦です。

Des Moines

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Figure 11 vs. Des Moines

 得意な間合いは13~16kmで、さらに全距離で防郭を狙えるためかなりの優位にあります。一方でDes MoinesはAP貫通力と投射量が凶悪なので、こちらから頭を向けて突っ込んでしまうと勝ち目はなくなります。舷側を晒して逃げ帰ろうとしても、APで溶かされる憂き目に遭います。

Henri IV

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Figure 12 vs. Henri IV

 Henri IVがエンジンブーストを使用した条件では得意な間合いが狭まり、15~16km程度に限られます。性能差が出づらい相手です。こちらのAPは15km以下という隠蔽距離を割り込む間合いでしか防郭を抜けません。Henri IVのAPも貫通力こそ強力ですが、弾道が悪いため有効射程外の14km以遠では回避が容易です。

Venezia

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Figure 13 vs. Venezia

 15~17kmで撃ち勝てるうえに、APが16kmから防郭に通ります。VeneziaのSAPもなかなか強力ですが、しっかりと艦を立てて受ければダメージを大幅に減らせます。

Nevsky

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Figure 14 vs. Nevsky(隠蔽)

 実戦で撃ち合いが多発するのは18km周辺で、双方に命中弾が出ない不毛な展開になりがちです。この距離では有効射程の外ではあるもののAPは依然として防郭を狙える距離なので、姿勢のコントロールが重要です。30°程度でもよいので軽く傾けてさえいれば大丈夫です。

Zao

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Figure 15 vs. Zao

 もっとも撃ち勝つことが難しい相手です。お互いの有効射程が被っているうえに、どちらもAPで防郭を狙える距離にあるため回避が制約を受けます。Nevskyどうしの砲戦は不毛な展開になりがちな一方で、Zaoとの砲戦は削り合いといった様子になります。

4.1.3    軽巡

 軽巡とは主砲口径が152mmの巡洋艦を指します。主砲弾道に劣るものの投射量に優れる主砲、そして優れた隠蔽性で駆逐キラーともいうべき巡洋艦が揃います。駆逐砲巡は軽巡をさらに極端にしたような性格づけがされており、投射量が極めて高い一方で耐久に重大な欠点を抱えています。Nevskyからするとおおむね12~16kmの範囲で撃ち勝てるうえに、全距離で防郭を狙えます。

Worcester

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Figure 16 vs. Worcester

 12~15kmという近めの距離が稼ぎどころになります。APは全距離で防郭を狙えるため、敵Worcesterの意識外からAPを遠距離射撃して事故を狙うといった運用ができます。

Minotaur

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Figure 17 vs. Minotaur

 Minotaurを見かけたらどこでもいつでもAPを撃ち込みましょう。機動性が高いと思われがちなMinotaurですが、意外にも16kmまで有効射程内になります。

Plymouth

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Figure 18 vs. Plymouth

 Minotaurとほとんど同様の感覚で事足ります。

Smolensk

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Figure 19 vs. Smolensk

 有効射程は意外と短く、得意な間合いは13~15kmに限られます。対軽巡と同様に、敵姿勢が45°以下であればAPを撃ちます。

Colbert

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Figure 20 vs. Colbert

 Colbertがエンジンブーストを使用した場合の間合いの感覚はSmolenskに似ますが、若干近めになります。

4.1.4    巡洋艦のまとめ

 かなり長めの節になってしまったので、内容を簡単にまとめておきます。

大巡・ソ220mm砲巡:16~19kmが目安。ソ巡相手は防郭が狙える。敵は全距離でこちらの防郭を抜く。

重巡・ソ180mm砲巡:低機動性で対戦艦を得意とするGoliath, Hindenburgは14~18kmが目安。Des Moines相手は13~16km. Venezia, Henri IV, Nevsky, Zaoには15~16kmで辛うじて撃ち勝てる。Goliath以外にはAPが通る。

軽巡・駆逐砲巡:13~15kmが目安。舷側を捉えれば全距離でAPを撃ち込む。

 Nevskyはどの巡洋艦を相手にしても交戦距離で優位に立てるという、強烈な個性を持っています。さらに、十分な貫通力と優れた弾速を併せ持つAPは巡洋艦に対する決定打になります。一方で、近距離砲戦は基本的に避けるべきです。敵の撃沈が狙える場合や、こちらが一方的にAPを刺せる状況に限って許容されます。

4.2    戦艦相手の砲戦

 戦艦相手の砲戦ではこちらのAPを考慮する必要がない(どうせバイタルに刺さらない)ので、巡洋艦の場合に比べて簡略化できます。この節では戦艦を2つの基準①主砲口径431mm以上(30mm跳弾無視)②表面装甲32mm超(180mmHE不貫通)をもとに4分類して、それぞれ解説していきます。
 1群:①②を満たす
 2群:①のみ満たす
 3群:②のみ満たす
 4群:①②いずれも満たさない

4.2.1    1群

 Kremlin, Yamato, Shikishima, Ohio, Vermontが属します。主砲弾は低速かつ機動性も低いですが、巡洋艦からすると姿勢に関係なく痛打を受けやすい厄介な艦艇が揃います。優位な距離は16km以遠で、敵の機動性が低いため最大射程でも命中打が出せます。Yamato, Shikishimaは舷側上部が32mmと弱点になっており、舷側を捉えれば貫通弾を出しやすくなっています。また、Vermontの巨大な上部構造物にはAPがよく刺さってくれます。このグループの戦艦はHE耐性が高いため、HEのダメージは火災頼みになります。

4.2.2    2群

 Thunderer, Republiqueが属します。Thundererは機動性が非常に高く、有効射程は下限が15kmから、上限は20kmで限界を迎えます。Republiqueには16kmから最大射程まで距離の優位に立てます。

4.2.3    3群

 C.Colombo, G.Kurfurst, Montanaが属します。最近実装されたC.Colomboを除くと、ランダム戦ではあまり見ない艦艇です。交戦距離の下限は順番に16km, 15km, 14kmとなっており、このグループに対しても最大射程まで命中弾が出せます。Colombo砲は弾速高めなので、気持ち遠めの距離が安全です。KurfurstにはAPがやや刺さるため楽ができますが、Montanaを相手にするとNevskyはなかなか苦しい印象があります。

4.2.4    4群

 Bourgogne, Slava, Conquerorが属します。Tier10戦艦としては打たれ弱さが目立つ艦艇ばかりですが、Bourgogneは主砲装填ブースター、SlavaはTier10最速の主砲弾、Conquerorは超回復となかなか強烈な個性を持っています。Bourgogneには16~20km, Slavaには17km~最大射程, Conquerorには14km~最大射程までで優位に立てます。敵艦に火災が発生済みな状況では、舷側にAPを撃ち込むのも有効です。とりわけConquerorは削りやすい印象です。HEだけでもダメージを出せる相手なので、APの使いどころに少々悩みます。

4.2.5    戦艦のまとめ

 おおむね16km以遠が距離の目安で、隠蔽距離近辺あるいはそれ以下の撃ち合いは厳に慎むべきです。本節の話題からは若干逸れますが、お互いの巡洋艦が戦艦を削り合う展開になるとNevskyの強みは出しづらくなります。とりわけHindenburgやGoliathなどHEの貫通力に優れる巡洋艦が対面にいる場合では、敵戦艦ではなく敵巡洋艦を狙って優位を作りましょう。Nevskyが戦艦を撃つ状況は、敵戦艦が頭を向けて押し上げてきたときに仕方なくといったような展開がほとんどです。積極的に戦艦を狙える状況を作りにいくことはありません。

 瀕死で下がっていく敵戦艦の追撃はNevskyの抜群に長い有効射程を生かす格好の見せ場です。ただし、こちらから頭を向けて突っ込むような砲戦を挑む前に「3つの『きる』」を確認することを忘れてはいけません。敵戦艦を沈めようとして、こちらが沈められる訳にはいきません。砲戦を始めてから隠蔽に戻るまでの一連の流れを想定してから、実際の砲戦を始めましょう。

4.3    偏差のめやす

 30ktの敵艦に対する偏差は以下の式で表されます。ただし、ここでいう偏差とは静的照準の双眼鏡モード最大倍率における目盛数です。

偏差(目盛) =  27 * 着弾時間(sec) / 距離(km)

 実戦ではいくつかの距離で基準になる偏差をあらかじめ記憶しておき、敵艦の速度と姿勢に応じてこの基準の偏差を加減します。例えば敵艦が36ktで直進しているならば1.2倍、敵艦が斜め45°を向いていれば0.7倍すれば横方向の偏差が求まります。また、敵艦が全舵で転舵したときの速度は直進時の0.8倍程度になります。敵艦の最大速度に関する知識が必要になりますが、実戦をこなしているうちに自然と覚えていきます。暗記が苦にならなければ、一気に覚えてしまうのもひとつの手です。

 Nevskyの場合は15km-7.36secで偏差13.2目盛、20km-10.82secで14.6目盛となります。

 おまけになりますが、防郭狙いのAPは喫水線やや上方、その他は舷側上縁から上部構造物に引っ掛けるように撃つとよいです。斜め向きの敵艦に対しては、見えているほうとは反対側の舷側上縁を目がけて撃ち込むと正確です。例えば敵艦が右舷を見せているならば、船体に隠れて見えなくなっている左舷の上の縁をイメージして狙います。

最後に

 ランダム戦10000戦到達記念にNevskyの記事を書くかと軽い気持ちで書き始めたら、なかなかの長文になってしまいました。本文ではNevskyの砲戦についての内容が殆どになってしまいましたが、対空やレーダー艦としての役割もまた重要であり、いずれ稿を改めて書く予定です。

 2章で触れた撃沈と占領への寄与については具体例が不足しているうえに、Nevskyの実際の立ち回りにどうやって繋げていけばよいのかという方法論がまだまだ考え切れず、書ききれませんでした。心残りではありますが、完璧な出来栄えを待っていると絶対にお蔵入りするのでここで一区切りつけたいと思います。

謝辞

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて、りばっくすさんにご協力いただきました。ありがとうございました。

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交戦距離指標 RngE

概要

 交戦距離指標RngEとは, 巡洋艦の主砲弾速と機動性を統合した性能指標です. 高い弾速は自身の有効射程を伸ばし, 優れた機動性は敵艦の有効射程を縮めます. 本指標は2つの性能を併せて考慮することで交戦距離の優位, つまり敵艦に対して一方的に撃ち勝てる距離を作り出す能力を評価します.

秒数ベースの交戦距離論

 主砲の有効射程は自身の主砲弾速だけではなく, 敵艦の回避性能にも影響を受けます. 回避に必要な最低限の時間を安全時間と呼ぶことにして回避性能を単純化すると, 交戦距離は自艦の主砲が敵艦の安全時間と同じ秒数で着弾する距離として決まります. しかしこの方法には2つの課題があり, 第一に安全時間を見積もる方法, 第二に艦艇の組み合わせ数の爆発です. とくに後者に関して, 艦艇が10種類あればその組み合わせは100種類にも及ぶため非常に煩雑です.

安全時間の見積もり

 安全距離とは, 転舵によって垂直方向の到達位置を100mずらすために要する時間として決めます. 計算にあたっては, 回避の性能論的指標(PCL)で述べたクロソイド曲線近似を適用しました. 100mという数字は恣意的なもので, 対巡洋艦では着弾8秒が命中の限界になるという経験則から数字を合わせました.

交戦距離指標RngE

 交戦距離とは本来なら艦艇の組み合わせに対して計算されるものですが, 単純な指標に落とし込むためにここでは艦艇ごとに着弾時間(15 km)と安全時間(上述)を乗算したものを考えます. 着弾時間, 安全時間はともに短いほど優秀なため, この指標が低値であるほど交戦距離の優位があります.

RngEの算出

\displaystyle{PCL = 7.21137316 \times \frac{speed[kt] ^ 2}{ R _ {turn}[m] * T _ {rudder}[sec]}}
\displaystyle{T _ {safe} = \sqrt[3]{\frac{6 \times 100}{PCL}}}
\displaystyle{RngE = \frac{FT15}{15} \times PCL}
\displaystyle{pRngE = (1 - \log_{10} RngE) \times 36}

 数式についての細かい事項を列挙します. FT15とは15km着弾時間です. 15km地点のものを選んでいる理由は, 巡洋艦の常用的な交戦距離に近いためです. RngEでFT15を15で割っているのは, 着弾時間の基準距離しだいでRngEの値が極端に変わってしまうことを防ぐためです.
 RngEの対数を取り符号を反転させたものがpRngEです. 対数を取ることでUGと消耗品の影響を乗算ではなく加算で考えることができ, さらに符号を反転すると値が大きいほど交戦距離の優位があるということで直感的に分かりやすくなります. 乗数の36に深い意味はなく, UGと消耗品の影響がキリのよい数字になるよう決めました.

Tier8~10巡洋艦のRngE

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Table 2 Tier8~10巡洋艦のpRngE

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Table 3 Tier10戦艦のpRngE

対巡で交戦距離の優位を握る巡洋艦

 pRngEの高い艦艇はソ巡, 伊巡に多く見られます. Tier8のAmalfiがTier10巡洋艦さえ凌ぐpRngEを持つというのはなかなか面白い結果です. Tier10ではZao, Petropavlovsk, Moskva, Nevsky, Veneziaが12以上の数字を出しています. Zao, Nevsky,Veneziaは巡洋艦との撃ち合いに強い艦艇なので納得ですが, PetropavlovskとMoskvaのようなソ重巡はHEの投射量が少ないためHE砲戦で優位を取るイメージがあまり湧きません. どちらかといえば有効射程の長いAPで重い一撃を狙うといった立ち回りがメインでしょう.
 pRngEの差1がおおむね交戦距離1kmの優位に相当します. pRngEの差が1以内の艦艇どうしの撃ち合いでは, 交戦距離の明確な優劣がつかない不毛な砲戦になりがちな印象があります. 個人的な例ですが, Chapayev(9.32)でMainz(9.17)と撃ち合うと痛み分けの結果になりやすくあまり面白くありません. この2つの艦艇は対巡DPMも非常に近いため, どの距離でも砲戦で優劣がつきません. Tier10における同様の例にはNevsky(13.02)とZao(13.40)があります.

対戦艦で交戦距離が埋没する巡洋艦

 Tier10の巡洋艦と戦艦のRngEを比較すると, 全体的に巡洋艦が交戦距離の優位を握っていることが見て取れます. 以前から述べているような, 巡洋艦は戦艦に対して一方的に撃ち勝てる距離が存在するという主張は大部分の艦艇で成立します.
 しかし, Tier10戦艦のpRngEがおおむね7程度であることを鑑みれば, pRngEが7未満のPlymouth(6.95)やMinotaur(6.93)は対戦艦の有利な間合いがほとんど存在しないことになります. したがって, 開けた海域での1vs1は避けつつ島影や煙幕を利用して一方的に撃てる状況を作り出すのが立ち回りの軸になります.
 上述の例はさすがに極端ですが, 撃ち合うだけ不利な相手を知っておくことは実戦で1vs1の勝率を上げる助けになるはずです. 艦艇性能による優劣は, プレイヤーの努力の外にあるものです.

UGと消耗品の影響

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Table 1 転舵と消耗品の影響

 仏巡のエンジンブーストは速度+20%という強烈な効果で, 回避性能に大きく貢献します. 優れた最大速度といえば戦略・戦術上で有利な位置を取りやすくなるという利点が強調されがちですが, 転舵回避での利点も見逃せません.
 4スロUGの転舵-40%が非常に強力な効果であることが分かりますが, いくらか差し引いて評価しなければなりません. 大抵の艦艇は転舵-20%を搭載しているため, その差を取ってpRngE+1.50とするのが適切な評価です.
 推力UGによる加速の改善が評価できないのはRngEの欠点のひとつで, 安全時間の見積もりに利用したPCLが転舵による回避のみしか反映していないことが原因です. ただし, 指標に表れないからといって推力UGを軽視するのは早計です. 個人的には転舵重ね掛けよりも推力転舵を推奨します. 推力UGによって加減速を転舵回避の補助として使えるようになると, 2回目以降の回避の選択肢が増えます.
 転舵および推力UGの数値的な評価については不透明な点が多いことをご了承ください.

数的均衡を破る質的優位

 砲戦で優位に立つためのもっとも単純な方法は数的優位を取ることですが, このゲームは戦闘が同数で始まるので数の力に頼り切ることはできません. 数的劣位を覆すことはできないとしても, 数的均衡を破ることは戦術上の最低限の必要事項です.
 性能の差異から導かれる1vs1の質的優位を起点にして数的均衡を破るという考え方は, 基本に根ざしたとても強力なものです. 今回の指標RngEは交戦距離の優位に着目しており, 実戦ではHE砲戦の状況によく対応します. 他方で, APには貫通力の距離依存性や敵姿勢依存性に起因する独特な性質があるため, 必ずしも交戦距離の理論のみでは説明しきれません.
 HE砲戦の質的優位に関する考察は, 今回の指標でおおむね結論を出せました. 今後はAPの機能に軸足を移しながら, 数的優位でも質的優位でもない第3の優位, 位置的優位について理解を深めたいと考えています.

回避の性能論的指標

自動車のハンドル操作と艦艇の転舵

 自動車が一定の速度を維持しながら一定のペース(角速度)でハンドルを切り続けたとき, 自動車の軌跡は円弧にはならずクロソイド曲線という幾何学的な曲線で表されます. このクロソイド曲線は高速道路や線路, 変わったところではジェットコースターの設計にも応用されています.
 もしカーブの設計で直線と円弧を直結してしまうと, カーブに入った瞬間ドライバーは急激なハンドル操作を要求されます. 遠心力も不連続になるので, 安全的にも経済的にもよくありません. 直線と円弧をなめらかに接続するための曲線は緩和曲線と総称されていて, クロソイド曲線のほかにも3次放物線(鉄道), 正弦半波長逓減曲線(新幹線)など様々なものが考案されています.
 攻撃性能ではDPM(分間ダメージ), DPS(斉射ダメージ), 着弾時間など様々な性能論的指標が存在しますが, 回避性能の評価はあまり進んでいません. 今回の記事ではクロソイド曲線を手がかりにしながら, 最大速度, 旋回半径, 転舵時間という3つのパラメータを統合した指標を提案します.

即座の転舵が重要

 シミュレーションでは, ①転舵中も艦艇は等速である, ②転舵の途中では曲率半径と時間が反比例の関係にある, この2点の仮定を導入しています. 仮定②が分かりづらいので説明すると, 曲率半径というのはその瞬間の旋回半径のようなものです. 転舵中は旋回半径が時間変化するので, ちょっとややこしい言い方になっています. また, 転舵時間が経過して舵が限界まで切れてしまうと, 艦艇は旋回半径に従って円の軌跡を描きます.
 例として, 推力転舵Chapayevの場合を示します.

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Fig. 1 推力転舵Chapayevの軌跡(黒: 左転舵, 青: 直進. 点は1秒ごと.)

 転舵は針路の垂直方向にしか変位を作ることができず, この点で加減速と対照的です. また, 変位は時間の3乗に比例するため(後述), とにかく撃たれてすぐに舵を切るのが大事です. 敵弾接近警報の有用性がよくわかります. 図中でも時間の経過に応じて変位が急激に変化していることが見て取れます. 今回は推力転舵Chapayevを例にとりましたが, 定性的な傾向はすべての艦艇に共通するものです. 

巡洋艦の回避性能の比較

 クロソイド曲線による近似を応用して, 転舵による回避性能を艦艇の性能パラメータで表現することができます. 計算の説明は後回しにして, まずデータを眺めてみましょう.
 Fig. 2にTier10巡洋艦の実例を示します. 明らかに回避性能に秀でているのはSmolenskとZaoの2隻. 転舵が優勢な右下のグループにはDes Moines, Minotaur, Worcesterなど小回りのきく艦艇が並びます. 加減速が優勢な左上のグループにはVenezia, Henri IVなど強力な機関出力に裏打ちされた高速な巡洋艦が揃います. 左下には大型巡洋艦やGoliathが並び, 回避性能では劣るものの継戦能力で優れる艦艇群です.
 Fig. 3にはTier8巡洋艦のものを示します. 左下に艦艇名が重複していて読みづらくなっていますが, あまりにも多数の艦艇がこの領域に集中しているため諦めました. 個々の艦艇に着目してみれば, Wichitaの群を抜いた転舵性能が目立ちます. MogamiとAtagoを比較したとき, 純粋な機動による回避では前者が勝りますが, 実戦の感覚としてAtagoが劣っている気があまりしないのは被弾時の戦艦砲跳弾可能性と修理班のおかげでしょう. 回避性能と耐久性能は混同されやすい概念です. また, 全体を眺めればTier10巡洋艦と比較して転舵の回避性能が高めです. 

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Fig. 2 Tier10巡洋艦の回避指標

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Fig. 3 Tier8巡洋艦の回避指標

回避性能の計算式

 \displaystyle{PCL=\frac{v^2}{RT}}
 \displaystyle{FP=\frac{P}{mv}}

 転舵の指標PCLは, 転舵開始直後の(針路に対する)垂直変位を表します. また, 加減速の指標FPは減速開始直後の水平変位を表します. vは最大速度, Rは旋回半径, Tは転舵時間, Pは機関出力, m排水量です. FPは最大速における質量あたりの機関推力を表しますが, 力の釣り合いを考えると(質量あたりの)最大抗力にもなるので減速を支配するパラメータでもあります.
 計算にあたってはすべての係数をSI単位に換算して用いています.

【補遺】PCLの理論と導出

2つの仮定

 ①転舵中も艦艇は等速である, ②転舵の途中では曲率半径と時間が反比例の関係にある, この2仮定から艦艇の軌跡はクロソイド曲線で表せます. 仮定を批判的に検討すると, ①転舵時には直進時の8割ほどの速度に低下する, ②舵が限界まで切れるとクロソイド曲線ではなく円弧になる, といったように, 実際の挙動のすべてを反映しているわけではなく簡略化されたモデルです.

クロソイドパラメータの算出と無次元化

 クロソイド曲線では原点からの曲線長Lと曲率半径Rが反比例の関係になり, 両者の積の平方根はクロソイドパラメータと呼ばれます(A^2=RL). 今回は2つのパラメータそれぞれが時間の関数になり, 以下のように表されます. ここで, 混同を避けるためにこれまで旋回半径 Rと呼んでいたものを R _ {min}と表記しています.

 L(t)=vt
\displaystyle{R(t)=\frac{R _ {min} T}t}

 2つとも長さの次元を持ちますが, これをクロソイドパラメータA=\sqrt{vR _ {min} T}で割ることで無次元化します. 無次元化されたパラメータを小文字の l,rで表します. 式で書けば以下のようになります.

\displaystyle{l(t)=\sqrt{\frac{v}{R _ {min} T}} t \cdots(1)}

無次元化されたクロソイド曲線の媒介変数表示

 無次元化されたクロソイド曲線は以下のように媒介変数表示できることが知られています.

\displaystyle{x(l)=\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \cdots(2a)}
\displaystyle{y(l)=\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \cdots(2b)}

マクローリン展開を用いた近似

 三角関数マクローリン展開から, (2a), (2b)を計算していきます.

\displaystyle{cos\theta=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{2i}}{(2i)!}}
\displaystyle{cos\frac{\theta^2}{2}=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{4i}}{2^{2i}(2i)!}}
\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i}(2i)!}\int _ 0^l \theta^{4i}d\theta}
\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i}(4i+1)(2i)!} \theta^{4l+1} \cdots(3a)}
 
\displaystyle{sin\theta=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{2i+1}}{(2i+1)!}}
\displaystyle{sin\frac{\theta^2}{2}=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{4i+2}}{2^{2i+1}(2i+1)!}}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i+1}(2i+1)!}\int _ 0^l \theta^{4i+2}d\theta}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i+1}(4i+3)(2i+1)!} \theta^{4l+3} \cdots(3b)}

 無限和と積分の交換を行いましたが, 厳密な議論を行う際には注意が必要な操作です. ここでは深入りしません.
 具体的に最初の4項を書き下します.

\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq l - \frac{l^5}{40} + \frac{l^9}{3456} - \frac{l^{13}}{599040} + \cdots}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq \frac{l^3}{6} - \frac{l^7}{336} + \frac{l^{11}}{42240} - \frac{l^{15}}{9676800} + \cdots}

変位の計算

 tが十分に小さいこと, つまりlが十分に小さいことを仮定して, (3a), (3b)それぞれからlの最低次の項のみ残します.

\displaystyle{x(l)=\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq l}
\displaystyle{y(l)=\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq \frac{l^{3}}{6}}

 l(1)を代入します.

\displaystyle{x(t) \fallingdotseq \sqrt{\frac{v}{R _ {min}T}} \cdot t}
\displaystyle{y(t) \fallingdotseq \frac{1}{6} {\sqrt{\frac{v}{R _ {min}T}}}^3 \cdot t^3}

 クロソイドパラメータA=\sqrt{vR _ {min} T}を掛けて, 次元を戻します.

\displaystyle{X(t) \fallingdotseq vt}
\displaystyle{Y(t) \fallingdotseq \frac{v^2}{6R _ {min}T} t^3}

 Y(t)から性能とは無関係な部分\frac{1}{6}t^3を除いたものが, PCLです.

蔵王代艦の主砲提案

1 蔵王主砲の破綻した性能

 主砲の性能は砲弾重量と初速で決まりますが, この2つの数値と深い関係があるのが口径長, つまり砲身の長さを口径で割ったものです. 口径長は砲弾を加速する能力を指すので, 砲弾の運動エネルギーと相関があるはずです. ここでは運動エネルギーを口径の3乗で割ることで, 異なる口径の主砲どうしを比較できるようにしています.

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Fig. 1 巡洋艦砲の運動エネルギー

 砲弾の運動エネルギーからみると蔵王砲は50口径では足りず, 60口径程度が要求されます. 口径長と比較して高すぎる運動エネルギーは発射薬の量を増やすことで実現できますが, 発射時に砲身内を高圧に晒すことになるため砲身は厚く重くなり, 鋼の性能も高くなければなりません. 砲身の摩耗も早くなり, 寿命も短くなります.

 例として, 日本の長10cm砲は65口径を採用していましたが砲身命数が400発程度と短いため(参考: 日本12.7cm高角砲が命数800~1500発), 艦内で砲身内筒を交換できるようになっていました.

 また, Stalingradが搭載する305mm/62は初速950 m/sと砲身に強い負荷を掛けるため, カタログスペックでは命数300発とこの口径では通常程度の数値になっていますが, 実際はここまで持たないのではないかと思います.

 これまた余計な話ですが, Stalingrad砲には467 kgのHE, APのほかにも, Long Range Shellと称して230.5 kgの超軽量砲弾の搭載が計画されていました. 初速は1,300 m/s, 射程は127 kmにも及ぶというロマンあふれた話です. 当然ながら砲身への負荷は尋常ではありません. 初速が上がるほど砲弾を短時間で加速しなければならないため, 発射薬も燃焼の速いものを使う必要があり砲身内の最大圧力も上昇します.

2 改善案は口径拡大のほかになし

 主砲性能は砲身の延伸や口径の拡大によって改善することができますが, どちらも砲塔重量の増加を招きます. また, あまりにも長すぎる砲身は製造技術の限界や射撃精度の低下を招くため, 実績のない口径長を採用するのは好ましくありません. 条約の制限などがなければ,バランスよく主砲性能を引き上げることができる口径拡大がベターです.

 今回は口径を260 mm, 口径長は50の連装砲として検討していきます. 主砲口径は第二次大戦期の大和砲や超甲巡砲がインチを切り上げていることを参考にしながら, 重巡砲と超甲巡砲の中間の口径としました. 日本海軍の採用実績がない口径であるのが難点です.日本巡洋艦がなじみ深い50口径と連装形式で納得のいく設定でしょう.

 口径長に応じて初速は840 m/s, 砲弾重量は264 kgとします. 初速は日重巡砲と同じで, 砲弾重量も単純な相似です. 口径あたり運動エネルギーは日重巡砲と等しくなり, 性能の破綻は避けられます.

3 最大ダメージの推定

 APダメージは砲弾重量と初速で決まります. 回帰式を置いておきます.

  HEダメージはおおまかに砲弾重量で決まるようですが, こちらはまだ回帰式を用意できていないため日重巡砲と超甲巡砲から補完して決定しました. 日巡砲はHEダメージと火災率の優遇を受けているため, 他国の砲弾データを参考にする場合は注意が必要です.
 今回の260 mm砲はHE 4,200(23%), AP 6,700と推定します.

4 投射量と貫通力の比較

 着弾時間と貫通力をFig. 2に示します. 図中にersatz_Zaoとあるのが今回の260 mm砲です.

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Fig. 2 Tier10巡(203mm超)の性能

 着弾時間は15kmで蔵王と並び, それ以遠で若干速くなります. 蔵王砲と比較して初速では劣るものの, 口径が大きく減速が小さいためです.
 貫通力は蔵王の1.4倍程度と大幅に改善しています. これでTier10巡洋艦相手でも横っ腹にAPを突き刺すぐらいはできるでしょう. これも口径拡大のおかげです.
 余談ですがHenri IVのAP貫通力が異常に高いのは, 砲弾の抗力係数が非常に小さく空気抵抗を受けづらいためです. 実戦で浮き上がるような感覚がするのは単純に初速が速くないためです.

 貫通力の次は, 投射量を比較します. 蔵王砲と装填時間が変わらなかった場合, 今回の260 mm砲のDPM(分間ダメージ)は蔵王砲の82%になります. HE貫通力が38mm以上なため米戦の甲板を貫通可能であることを考慮しても, 1.5割程度の火力低下になりそうです. ただし, 装填時間を短く設定すればなんとかなる程度の差なのであまり気にしていません.

5 排水量への影響

 そもそも蔵王武装に比べて排水量が過小で, 満載排水量わずか18,000 t程度にあれほどの「重そうな」3連装砲が4基も載るとは思えません. 今回の260 mm連装4基も武装重量は大して変わらないはずですが, 適正な満載排水量は20,300 t程度になるのでHPは48,900まで増加します. というか蔵王も本来この程度であるべきでした.

 余談ですが, 蔵王はかつてHP 44,900でしたが隠蔽射撃時代に受けた弱体化が今まで尾を引いていて40,800になっているという歴史的経緯があります. HPと(満載)排水量には深い関係があり, 蔵王の14,580 tから計算するとやっぱり44,900が適正HPになります.
【参考】排水量とHPの関係

6 まとめ

 性能が破綻している蔵王砲にかえて, 260 mm砲を提案します. 性能は日本203 mmとの相似で決定します.
 着弾時間はほとんど同じで,偏差の感覚は蔵王砲と変わりません. 貫通力は1.4倍程度, 投射量は0.85倍程度です.

7 参考

www.navweaps.com

 1880年から現在までの海軍砲の性能が掲載されています. 網羅性に優れていて, 実在した砲はもちろんのこと計画止まりの砲も掲載されていることがあります. 超大和の51 cm砲, 超甲巡の31 cm砲, アメリカの18 inch砲なども載っているので, 艦砲マニアにおすすめです. サイトの記述はすべて英語ですが, データ集なので理解すべき用語はさほど多くありません.

撃沈効率でみる巡洋艦の性格

撃沈効率の発想

 平均与ダメージを平均撃沈で割った「撃沈効率」は, 撃っている敵艦のHPの平均に比例するのではないだろうか. 例えばHP10万の敵艦がいたとして, 艦艇Aが5万, 艦艇Bが3万, 艦艇Cが2万のダメージを与えたとき, それぞれが撃沈を取れる確率は0.5, 0.3, 0.2になるのでは. この仮定はダメージを与えるタイミングや順番が艦艇の種類に影響されないという条件で成り立つ.

 ある巡洋艦のメインターゲットが戦艦なのか, それとも巡洋艦駆逐艦なのかを見分ける指標になりうる.

 与ダメも平均撃沈も勝率との相関が大きい指標だが, 両者の比を取ればプレイヤーの技量を排除したうえで艦艇性能をみることができるはず. 

艦種ごとの撃沈効率

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Figure 1 艦種ごとの撃沈効率 (2020-4Q, データはShip Stats by Quarters [Suihei Koubou] による).

 Tierに従って上昇するのは艦艇のHPが増加するため. 戦艦はTier10で爆発的に増加する.

 Tier6以上の空母は巡洋艦駆逐艦の中間程度. 戦艦や巡洋艦よりも攻撃目標を選択する自由度が高いため, 撃沈を取りやすいか.

 駆逐艦はTierごとに最小の値. HPの少ない駆逐艦を相手にする機会が多いため.

四半期ごとの変化

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Table 1 四半期ごとの撃沈効率 (データはFigure 1と同様).

 Tier8以上で戦艦, 巡洋艦の値が増加傾向にある. Tier10に至っては半年間で戦艦が1.5万, 巡洋艦が2万も増加している. 駆逐艦, 空母は目立った変化なし. 理由についてはよくわからない.

 半年前にツイートしたTier10巡洋艦の撃沈効率と, 現在の値はかなり異なるので要注意. 同じ集計期間で比較するべき.

ツリー巡洋艦の撃沈効率

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Table 2 ツリー巡洋艦の撃沈効率 (データはFigure 1と同様). 赤は高値, 青は低値.

 この記事のいちばんの見どころ. ツリーごとに傾向をはっきりと見て取れる.

 日巡は白なので平均程度. ツリーを通してあまりにも平均.

 米巡は軽重ともに青. 弾道が悪く投射量に優れるため, 巡洋艦駆逐艦がお得意様か.

 独巡は真っ赤. 独重巡203mmHEは51mmを貫き, 戦艦相手にも貫通弾を出せる.

 ソ巡は軽巡(?)ツリーが赤, 重巡(??)ツリーが青とあべこべ. 重巡ツリーが青なのは, APが巡洋艦相手に強力なのと冷遇気味のHEで戦艦にダメージを出しづらいため. Tier8のChapayevは白で, バランスの取れた艦艇性能をよく反映している.

 英軽巡は予想通りの真っ青. AP専の主砲は戦艦相手の砲戦が苦手で, 高隠蔽を生かした駆逐狩りに特化している.

 英重巡は赤気味. 独巡を超える高貫通HEで戦艦相手の砲戦もこなせるが, 弾道と投射量で劣るため独巡ほど極端ではない.

 仏巡もやや赤. 独特の浮き上がる弾道は巡洋艦相手の砲戦が若干やりづらい. Algerieが真っ赤なのは個人的感覚と一致していて, Tier7屈指の災害力がよく表れている.

 伊巡もやや赤. SAPでゴリゴリ削られていたのは駆逐艦ではなく, 戦艦だったのかもしれない.

Tier10巡洋艦の撃沈効率ランキング

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Table 3 Tier10巡洋艦の撃沈効率ランキング (左は全戦績, 右は垢勝率45~54%限定の戦績).

 水兵工房の四半期艦艇平均にはアカウントの勝率で5群に分割したデータもあり, 簡易的にプレイヤー技量の影響を除ける素晴らしいものである.

 左右を比較しても艦艇の順番はそんなに入れ替わっていないので, 撃沈効率に勝率の影響はさほどないことが分かる. プレイヤーの技術というより, 艦艇の性格を強く反映する指標である. ちなみに, 勝率が上昇すると撃沈効率は若干減少する.

 高値の巡洋艦はいずれも後衛タイプ, 火力タイプといわれるような艦艇が揃っていて, 低値はその逆に対駆逐とかいわれる艦艇が多い. ここでも日巡の蔵王がど真ん中に居るのが面白い.

ツリー戦艦の撃沈効率

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Table 4 ツリー戦艦の撃沈効率 (諸注意はTable2と同様).

 戦艦の撃沈効率は巡洋艦ほど差がつかないのではと予想していたが, そうでもなくきちんと違いが出ている.

 英戦があまりにも真っ赤なのはHEしか撃たないので自ずと明らか. ソ戦が青なのが不思議.

 私は戦艦経験のバリエーションがあまりないので, どなたかこの結果の理由に心当たりのある方はぜひとも教えてください.

データの出典

Ship Stats by Quarters [Suihei Koubou]

http://maplesyrup.sweet.coocan.jp/wows/shipstats/

 四半期(3か月)ごとの艦艇戦績のサーバー全体平均のほか, アカウント勝率別に5群へ分割したデータも閲覧できる. ほかにはない強力なデータなのでとてもおすすめ. 

隠蔽距離論

 

1. はじめに

1.1. 推力転舵の条件とは

 私が初めて推力転舵を試したのはChapayevで, twitter上でのアドバイスがきっかけでした. 当時(2017冬)の空母はもちろん旧仕様で数も少なく, 視界役は駆逐艦とレーダー巡洋艦しかいない状況だったので, 現在よりも隠蔽距離がはるかに重視される環境でした. その頃の日駆日巡上がりの私はもちろん隠蔽至上主義だったのですが, Chapayevに推力転舵を試したところ隠蔽悪化が立ち回りに及ぼす悪影響はほとんどなく, けっこう衝撃的な体験でした. その後の空母改編(2018秋)で島裏レーダーが実用的ではなくなったため立ち回りの修正が必要になりましたが, 推力転舵の有用性は今でも変わっていません. Chapayev以外の艦艇でも, 蔵王, Donskoi, そしてNevskyで推力転舵を試しましたが, これほど推力転舵と好相性な艦艇にはまだ巡り合えていません.
 推力転舵の利点は機動性の改善, 欠点は隠蔽性の悪化ですが, 前者に関しては「巡洋艦のダメージ交換論」で触れたので, 今度は後者について考えていきたいと思います. 

1.2. 巡洋艦の分類

 おふねのゲームシステムでは砲戦を始める前に敵艦をスポットしなければならないため, この視界システムをもとに分業が発生します. 第一の役割を視界役と火力役に分けて, さらに火力役は攻撃対象をもとに対視界の火力役か対火力の火力役かで分類します.
 具体例を挙げると視界役は駆逐艦, 対視界の火力役がレーダー巡洋艦, 対火力の火力役が独巡やソ巡, そして戦艦でしょうか. レーダー巡洋艦は微妙なところで, レーダー艦という特殊な視界役が火力役と複合していると考えることもできます.
 この分類は艦艇それぞれがぴったりと対応する枠があるというわけではなく, 局面ごとの役割をこの分類で考えていくといったほうが適切かもしれません. レーダー巡洋艦はレーダーを使って視界役になる局面もあれば, 敵の巡洋艦や戦艦を撃つ局面もある, といった感じです.

 

2. 隠蔽距離論

2.1. 交戦距離論のおさらい

 交戦距離については「巡洋艦のダメージ交換論」と同じものですが, もう一度整理してみます.
 巡洋艦は戦艦に対して一方的にダメージ優位を取れる交戦距離の範囲があります. 上限は自身の主砲の(対戦艦)有効射程, 下限は安全距離で決まります.
 この安全距離を決めるのが, 最大速度や転舵時間などの機動性です. 被ダメージを抑えるには①被弾を減らす方法と②被弾してもダメージを抑える方法と2つありますが, 機動性は前者に相当します. 着弾時間が一定秒数を超えると巡洋艦側は敵の弾道から着弾地点を予測して回避機動に移ることができるため, もはや命中弾を受けなくなります.
 もちろん一般的傾向であって, 脆弱な装甲(長い安全距離)や弾道の悪い主砲(短い有効射程)が原因で対戦艦の交戦距離を持たない巡洋艦も存在します. その巡洋艦は敵戦艦や巡洋艦を相手取った火力艦として働くのは不向きなので, 敵視界に対する攻撃役(駆逐援護)としての働きを考えていきます.

2.1.1. 時間ベースの交戦距離論

 回避の成否に影響する要素のなかでもっとも影響力の大きいものは着弾時間なので, 交戦距離といっても距離ではなく時間をベースに考えたほうが分かりやすいかもしれません. 巡洋艦にも戦艦にも, その機動性に応じて安全“時間”というものを考えることができます. 安全距離を敵弾の着弾時間, つまり自身の回避時間で表したものです. 距離が同じであれば巡洋艦砲の着弾時間のほうが戦艦砲よりも長いですが, 巡洋艦の安全時間がその不利を補うほど短ければ, 巡洋艦が優位に立てる距離があることになります. 交戦距離の上限は戦艦の安全時間と巡洋艦砲の着弾時間が等しくなる距離, 下限は巡洋艦の安全時間と戦艦砲の着弾時間が等しくなる距離として決まります.

2.1.2. 弾道と投射量のトレードオフ

 先の交戦距離の議論は巡洋艦対戦艦の状況でしたが, 巡洋艦巡洋艦でも同様に考えることができます.
 巡洋艦のHE性能は弾速と投射量がトレードオフになるように設定される傾向があります. 巡洋艦うしの砲戦を考えたとき, 弾速で勝る側は中距離, 弾速で劣り投射量で勝る側は近距離で優位になりますが, この中・近距離が切り替わるのは弾速で勝る側の安全距離になります.
 さらに言えば, この理屈を応用すれば艦種に関係なくすべての艦艇の1vs1において中距離優位側と近距離優位側に分けることができます. 巡洋艦vs戦艦という構図に縛られることはなくなりました.
 弾速でも投射量でも優位な場合は, そもそも距離の使い分けを考える必要はありません. 距離問わずただ撃っていればダメージ優位が取れます.

2.2. 先制発見のための隠蔽

 1対1の状況では隠蔽に優れる艦艇が砲戦するかどうかの選択権を握ることができます. 隠蔽の第一の意味は, 敵艦艇を先制発見することにあります. ただし, 実際にダメージ優位を取れるかを決めるのは隠蔽距離ではなく主砲性能であって, もしその距離でダメージ劣位にあり発砲できない場合, 火力役ではなく視界役としての働きを探っていくことになります.

2.3. 自衛のための隠蔽

 近距離優位側は有効射程よりも隠蔽距離が長い場合, その艦艇は敵に先制発見されて反撃も不十分になるため, ダメージで不利を取らされます.
 戦艦はおおむね巡洋艦よりも隠蔽が劣るように設定されているので, 先の節で述べた「先制発見のための隠蔽」を考えるのは現実的ではありません. そのときは第二に「自衛のための隠蔽」, すなわち中距離優位側である巡洋艦に対する有効射程よりも自身の隠蔽距離を短くすることが重要です.

2.4. 使い勝手の悪い隠蔽

 この節だけ隠蔽を取っても得にならない理由について述べたもので, 内容は先の2節と正反対になります.
 隠蔽距離が自身の安全距離よりも長い場合, 1vs1であれば発見された瞬間に引き撃ちの姿勢を取ることで敵にこちらの安全距離以下まで踏み込まれることはありません. 安全距離内で敵を逆探知するために, あえて隠蔽を悪くしておくという選択もできます. 安全距離を割り込む高隠蔽は, 敵を先制発見できなければかえって危険なものになると言い換えることもできます.
 一見不自然な結論ですが, この原理は被発見がプレイヤーに通知されることによります. 敵が自身の発見距離内にいるかどうかだけは情報を得られるので, 適切な距離である安全距離の外に隠蔽距離を配置すればこの被発見という情報を有効活用できるわけです.
 実戦では自身の被発見だけでなく味方の視界でも敵の位置情報を得ることができるので, この項目はさほど重要ではないかもしれません.

2.5. 自己完結的な視界

 火力役が砲戦をするには通常視界役のスポットが必要ですが, 自己完結的な視界とは火力役が視界役も兼ねる状況をいいます. 例えば巡洋艦が戦艦をスポットしながら撃ち込んでいる状況や, 巡洋艦がレーダーを使って駆逐を撃っている状況です.
 1隻2役の働きで視界役を必要としないため, 数的優位なしでダメージ優位が取れます. したがって, 視界役が介在する通常のダメージ優位よりも影響力は大きくなります.
 この自己完結的な視界に搾取されない対策として, 「先制発見のための隠蔽」で敵を先に見つけてしまうか, 「自衛のための隠蔽」で敵に視界を取られても撃たせないようにするか, と本稿の結論を再び言い換えることもできます.
 レーダー艦に限っての話ですが, 隠蔽距離をレーダー射程以下にしておくとレーダーの使い勝手がとても良くなります. 被発見でレーダー圏内の敵の存在が確定するため, レーダーを空打ちすることがなくなります.

 

3. コミット

3.1. もはや隠蔽に戻れない

 現在被発見状態にありながら自力の操艦では隠蔽に戻れない状態を, コミットと呼ぶことにします.
 発生する条件は①敵の視界役が自艦よりも優速で距離を離せない②敵AP弾の影響で姿勢を前向きに固定されている, この2種類あります. それぞれ例を挙げると, ①は駆逐艦が自分よりも高速な駆逐艦に追われているうえ煙幕もない状況, ②は頭を向けて停止していた戦艦が敵の押し上げを受けている状況などがあります.
 ここからは, 巡洋艦や戦艦など火力艦で影響の大きい②を中心に考えていきます.

3.2. 転舵を抑止するAP弾

 「巡洋艦のダメージ交換論」では, 損な撃ち合いを避けて隠蔽状態に戻るということを基本的な原理に据えました. 敵弾がHEのみの場合は, 現在の姿勢が前向きであっても転舵すれば距離を取りなおすか最低でも維持することができます. しかし敵AP弾が有効射程内に入り防郭を抜かれる可能性が出てくると, この奥転舵で追加のダメージ不利が発生します. 端的にいえばこのまま撃たれ続けて沈むか, または奥転舵のタイミングで防郭を抜かれて沈むかの最悪の二択を迫られるわけです.
 コミットの発生には敵AP弾の存在が不可欠で, AP弾のダメージが敵の姿勢に強く依存するゲームシステムがこの現象を生み出しています.

3.3. 中距離砲戦へ持ち込むには

 最初に挙げた例は戦艦でしたが, 巡洋艦でも同様の話が成立します. 例えば自身の巡洋艦が敵のDes Moinesに先制発見されたうえ艦首を完全に向けられている状況では, こちらが奥転舵をすればAP弾で立て続けに防郭を抜かれ, そのまま突っ込めばHEの投射量で押し切られてしまいます.
 交戦距離論では自艦の優位な距離に留まること, とりわけ中距離優位側は中距離の砲戦を維持することが重要な原則になります. しかし敵AP弾の存在で姿勢転換を封じられてしまうと, 中距離砲戦の選択肢は消滅します.
 中距離優位側の艦艇は, ①隠蔽距離で勝るか, ②隠蔽距離を敵のAP有効射程よりも長くすることが対抗策になります. ただこれは1vs1の場合の話で, 隠蔽距離に無関係なスポット(例えば航空スポット)がある場合には③有効射程を敵AP有効射程よりも長くするという条件ひとつになります. これはもはや隠蔽距離の外の話で, 艦艇の素の性能である主砲によって決まります.

 

4. おわりに

4.1. Chapayevに育てられた巡洋艦

 私がChapayev, Donskoi, Roon, Hindenburg, そしてNevskyといった中距離優位型の巡洋艦に傾倒するきっかけが他ならぬ推力転舵Chapayev, というのは冒頭で述べたとおりです. それ以前は妙高や高雄など, 隠蔽距離からの引き撃ちを軸に組み立てていく日巡を中心に乗っていて, それ以外はとても扱えませんでした. もちろんChapayevも乗り始めの200戦ぐらいは負け越していて, この苦手な艦艇をどうやって扱ってやろうかと工夫する過程で交戦距離の考えに気づくことができました. 未知の艦艇を使いこなせるようになるのは大変ですが, ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらゲームへの理解を深めていく時間が楽しみのひとつなのは間違いありません.
 本稿の記述は体系性が弱く主題が二転三転するため混乱しやすい部分も多いと思いますが, その記述のテーマが中距離優位側(巡洋艦)についてなのか, それとも近距離優位側についてなのかを意識していただければ若干読みやすくなるかもしれません.
 最後に推力転舵Chapayevについて考察して, 総括とします.

4.2. Chapayevに推力転舵が適する理由

 Chapayevに推力転舵が適する理由を考えてみましょう. 隠蔽距離は隠蔽UG込みで10.4 km, 抜きで11.5 kmです.
 Chapayevは優れた弾速とそれなりの投射量を併せ持つHEが特徴で, 巡洋艦に対して中距離優位側になります. 対巡洋艦の有効射程は14 km程度なので, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離が下回ります. また, APの有効射程は10 km以下であり, 最良の隠蔽と同程度かそれを下回るぐらいです.
 戦艦に対してももちろん中距離優位側になり, 有効射程は17 km程度と射程ギリギリまで命中が期待できます. 安全距離は推力転舵で14 kmの体感であり, 隠蔽にするとさらに長くなるため得意とする間合いが少々狭まってしまいます.
 巡洋艦や戦艦を相手取るときは隠蔽UG外しの欠点はほとんどなく, むしろ推力転舵で機動性の改善を図る方が好都合です.
 最後に駆逐艦相手で考えてみると, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離がレーダー射程を下回ります. したがって, 推力転舵にしても対駆逐の得意は失われません.
 こうして一通り考えてみると, 推力転舵で隠蔽レーダーが撃てるという強烈な個性が見えてきます. こんな艦艇は他にありません. また, 巡洋艦に対しても①APを使わない②HEの弾速に優れるという2点が, 隠蔽UG外しと非常に好相性です. 届けるだけでいいHEと違ってAPは十分な貫通力を保っていることが重要なので, 有効射程は短くなりがちです. HE頼みの火力特性が, Chapayevの極端な中距離優位側という性格を形作っています.