わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 各論前編

 

1. 本記事の範囲

 主砲の弾道性能と砲弾性能を口径ごとに, AP性能を中心にしておおむね以下の順序で解説します.

砲弾ダメージ・火災率: 優遇と冷遇. 
弾道性能: 15 km地点の着弾時間と貫通力. 
精度: 特殊散布界およびσ値.

 HE投射量については, 各論後編でTierごとに解説します. 

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2. 貫通力の範囲

 15 km貫通力は口径と緩やかな関係があります. 下記に分類を示しますが, 境界値は説明の便宜上定めたもので公式の言及はありません. 

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図 1. 口径ごとの貫通力

2.1. 貫通力の高いソ連

 ソ連巡洋艦が搭載する口径180 mm以上の主砲はすべて, 口径に比べて高い貫通力を発揮します. 以下に一覧を示します.

大巡305 mm砲 (2種): 戦艦クラス
重巡220 mm砲 (3種): 超重巡クラス. ただしPetropavlovsk搭載砲は戦艦クラス. 
軽巡180 mm砲 (4種): 重巡高速クラス. ただしTallinn搭載砲は超重巡クラス.

 ソ連以外にも比較的貫通力の高い主砲は存在しますが, 例外が系統的でないため個別に説明します. 

3. 大巡

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表 1. 大巡砲の諸元

 大巡砲とは口径283 mm以上の砲を指します. ほぼ全距離で同格巡洋艦の舷側を貫通できる強力なAPを持つ一方で, 対駆逐AP 1/10ダメージ(いわゆる過貫通キャップ)や通常よりも低精度の特殊散布界が適用されるなど, ゲームシステム上では戦艦砲に近い特徴を持ちます.

 砲弾ダメージに関しては日310 mm砲がHEダメージ優遇のみ, Stalingrad砲がHE優遇と火災率優遇を受けます. 日310 mm砲に火災率優遇がないのは日巡のなかでも例外的ですが, 火災率が冷遇されている日戦の性格を部分的に取り入れているとすれば辻褄が合います.

 蘭283 mm/54砲は独戦Scharnhorstの搭載砲でもあるため独戦基準の適用を受けてHE火災率が冷遇されていますが, HEダメージは冷遇を受けていません. また, 巡洋艦搭載砲で最大の口径を持つ独380 mm (Siegfried搭載砲)はBismarck (Tier8)などの搭載砲と同一性能で, 戦艦砲として性能が設定されています. Ägir砲は独巡のAPダメージ優遇を受けません. Spee砲の283 mm (AP: 8,400)が独巡優遇を受けられる最大の口径と思われます. 

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表 2. 国籍・口径ごとのHE性能

 着弾時間については初速が900 m/sを超えるソ連砲2種および仏Carnot砲が7.5 秒以下と高速な一方で, 重量砲弾を低初速で撃ち出す米305 mmは8.8 秒ともっとも低速です. ほかの大巡砲および独380 mm砲は8.0 ~ 8.2 秒と近い範囲に収まります. 日310 mm砲は日巡にしては珍しく, 弾種によって弾道が変わります.

 貫通力ではソ連砲2種が戦艦クラスの性能を誇ります. Tier10戦艦のバイタル貫通を狙う場合には舷側440 mmを目安に貫通距離を考えるとよいので, Stalingradの場合はだいたい17 km台になるかと思います. ほかの大巡砲は15 kmで350 mm程度という, 着弾時間の場合と同様に似た値を取ります. 米305 mmの重量砲弾は結局のところ低初速で打ち消されて貫通力に効かないのが悲しいところです. 

 大巡砲の精度は特殊散布界により, 水平散布界で高精度なほうから 駆逐 (-12~-4%) < 巡洋艦 < Azuma (8~20%) < Spee (18~25%) < Tallinn (29~26%) < 米戦 (57~52%) となります. 垂直散布界に関してパラメーターの違いはなく, 水平散布界にそのまま比例します. StalingradのSpee散布σ2.65については, おおむね巡洋艦散布の1割悪化と考えれば大丈夫だと思います. また, 独大巡Siegfried, 仏大巡Carnotには巡洋艦通常の散布界が適用されます. 

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表 3. 水平散布界

 垂直散布界についてはTTaro氏による以下の記事に記載があります. 

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4. 超重巡

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表 4. 超重巡砲の諸元

 超重巡砲とは口径234 mm以上283 mm未満の砲を指します. APは16 mm以下の装甲に跳弾されず, 英軽巡と駆逐砲巡の艦首・艦尾を縦抜きできます. 

 砲弾ダメージに関しては英234 mm砲がHEダメージと火災率の優遇, Napoli砲が火災率の冷遇を受けます. 英234 mm砲にはHE貫通力の優遇もあり, 口径1/4ルールに従い57 mm以下までを貫通します. ソ連戦艦以外の同格戦艦とソ重巡の表面50 mmに貫通弾を出せるので, とりわけ後者はクラン戦で重宝するところでしょう.

 着弾時間に関しては伊Napoli(T10) 搭載254 mm砲と蘭Johan de Witt(T9) 搭載240 mm砲が類似した性能で15 km 7.8 ~ 8.0 秒, Henri IV砲は弾種に応じて大きな差があり8.5 秒(AP), 9.0 秒(HE)と続きます. 貫通力についてはTier10巡相手ならば200 mm程度で十分で, 英234 mm以外は敵巡の角度次第ですが全距離で防郭貫通を狙えます.

 英234 mm砲の弾速は低速重巡砲に類似しており, 15 km貫通力197 mmは高速重巡砲と同程度になります. 

5. 重巡

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表 5. 重巡砲の諸元

 重巡砲とは口径191 mm以上234 mm未満の砲を指します. ソ重巡220 mmは超重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. また, 残りの口径203 mm重巡砲についても, 弾道特性に応じて高速砲と低速砲に分類して解説します. 

5.1. ソ重巡220mm砲

 主砲口径220 mm砲のソ連巡洋艦は3隻実装されていますが, すべて性能の異なる主砲を搭載しています.

 ソ巡第2ツリーのRiga(T9), Petropavlovsk(T10)搭載砲には特殊仕様が適用されます. 火災率冷遇, 散布界冷遇(Azuma仕様), 跳弾優遇(開始50度, 確定65度)のほか, 垂直散布界が遠距離で悪化します. 補足ですが, ソ巡第2ツリーTier8のTallinnとは散布界の仕様のみ異なります.

 Petropavlovskは15 km着弾時間が全艦艇最速の6.84 秒, 貫通力も戦艦クラスという驚異的な性能を誇ります. RigaおよびMoskvaのAP性能はよく似たもので, 貫通力は超重巡クラスの上限付近です.

5.2. 高速203 mm砲

 15 km着弾時間が7 秒後半から8 秒台の203 mm砲です. 独203 mm砲とHaarlem(T8)砲の弾道性能は一致します.

 砲弾ダメージに関してはZao砲が日巡としてのHEダメージおよび火災率の優遇, そして独203 mmが独巡としてのHEダメージおよび火災率の冷遇とAPダメージの優遇を受けます. Haarlem砲はオランダ国籍のため独巡の基準は適用されないにもかかわらず, 火災率が独巡にさえも劣る謎の冷遇を受けています. また, 独203 mm砲はHE貫通力の優遇を受け口径1/4ルールが適用されるため, 大巡と同様に50 mmを貫通可能です. 超重巡砲のところで紹介した英234 mm砲と共通点が多く, まとめてHE高貫通重巡砲として扱ってもよいかもしれません.

 Zao砲と伊203 mm砲は15 kmにそれぞれ8.3, 8.0 秒で到達する高速砲です. 貫通力も210 mm程度と重巡最高クラスであり, 同格巡洋艦の防郭を15 km程度から狙えます. 独203 mmおよびHaarlem砲がこれらにやや劣るものの, 弾速と貫通力はいずれも重巡砲としては優秀な部類に入ります.

 精度についてはHaarlem砲にSpee散布が適用されています. 高Tier蘭巡は散布界や火災時間(60 秒), そして重巡標準を上回る表面装甲(30/40 mm)など, 大巡の性格を強く帯びているようです. また, Zao砲には駆逐散布界が適用され, 巡洋艦通常よりも高精度です.

5.3. 低速203 mm砲

 15 km着弾時間が9 秒以上の203 mm砲です.

 仏巡203 mmの区別についてですが,  高Tier仏巡で前期砲(仏203 mm/50)を搭載するのはMartel(T8)初期に限られ, Martel後期, Saint Louis(T9)は後期の仏203 mm/55を搭載します.

 米重巡砲はAP弾の性能に差があり, 経緯は省略しますが高TierではWichita, Anchorageが通常砲弾のほかはすべてSHS(Super Heavy Shell)のAP弾を搭載します.

 日203 mmと英203 mmにいつもどおりのHEダメージ, 火災率の優遇があるほかは, すべて通常仕様の砲弾が並びます. 英203 mm HEは通常の1/6ルールが適用されます. 英234 mmとの混同に要注意です.

 初速はすべて900 m/sを下回り, 高速重巡砲との違いがはっきりと現れています. 着弾時間は仏巡の後期と前期砲, 日英, そして米重巡砲(HE性能は単一)の順に並びます. 仏巡砲2種の性能差は砲身の延伸に伴う単純な初速向上によります. 米重巡砲が搭載するAP弾には通常砲弾とSHS砲弾の別があり, 前者はHE弾より5%以上速く日巡砲と同程度, 後者はHE弾と同程度の弾速になります. 米重巡通常砲では弾種に応じた弾道の違いが非常に大きくなるため, 実戦では要注意です.

 貫通力では米203 mm SHSが頭ひとつ抜けていて, 重量2割増という超重量弾の貫通力は高速重巡砲に並びます. その他は15 km地点で150 mm程度というよく似た値を取り, 国籍ごとの違いはありません. 高Tier巡洋艦の舷側装甲は120 mm程度から200 mmを超えるものまで様々であり, 貫通力がその範囲に収まる低速重巡砲のAPを扱う際には同格巡洋艦の舷側装甲に関する知識が役立ちます.

 精度に関してはZaoと同様に日本203 mm砲が駆逐散布界に従い優遇を受けます.

 最後に跳弾優遇をまとめます. 通常は跳弾開始が入射角45度, 跳弾確定が入射角60度のところ, 米重巡砲2種いずれも開始60度, 確定75度という巡洋艦では最高クラスの性能が設定されています. SHS優遇というより, 米重巡砲全体の優遇として把握するほうが正確です. 

 

6. 軽巡

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表 6. 軽巡砲の諸元

 軽巡砲とは口径149 mm以上191 mm未満の砲を指します. ソ軽巡180 mm砲は重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. 

6.1. ソ軽巡180 mm砲

 ソ連180 mm砲の共通点として, 貫通力と着弾時間は高速重巡砲に準じます. ただし, Tallinn砲の貫通力は超重巡砲の下限程度という比較的高い数値を取ります.

 ソ連180 mm砲の3系統を以下にまとめます.

第1ツリー型: Donskoi(T9), Nevsky(T10). 巡洋艦通常の仕様. 
第2ツリー型: Tallinn(T8). ソ巡第2ツリー仕様. 
中間型: Bagration(T8P). HE性能は第1ツリー型, AP性能は第2ツリー型に近い. 散布界は通常仕様.

 DonskoiとNevskyの違いは初速にあり, 砲身の延伸(57口径から65口径)に伴って弾速と貫通力が改善されています.

 Tallinn砲はソ巡第2ツリー仕様に従い, 火災率冷遇, 散布界冷遇(Tallinn), 跳弾優遇, 垂直精度の遠距離悪化という特徴を持ちます. 繰り返しになりますが水平散布界はTier9以降と異なり, Tallinnのほうが低精度になります.  

 Bagrationの仕様はかなり難解なため, HE性能とAP性能に分けて詳述します. HE性能は第1ツリーと一致しており, 火災率冷遇を受けません. AP性能は第2ツリーに類似しており, Tallinnと同等の着弾時間とやや劣る貫通力を発揮します. 跳弾優遇は第2ツリー型からさらに強化されています. 散布界は冷遇を受けず, 水平・垂直とも第1ツリー同様の巡洋艦通常仕様です.

6.2. 軽巡砲(150 ~ 155 mm)

 英軽巡152 mm砲にはMinotaurなどの防空巡洋艦のみが搭載するMk15および16, そしてその他の大多数が搭載するMk13という2種類があります. 前者のほうが重量低初速なので着弾は遅く, APダメージはわずかに高くなります. 跳弾優遇は変わりません.

 米軽巡はWorcester(T10)のみが異なる砲を搭載しています. 砲弾重量および初速は一致しており, 弾道の違いは隠しパラメーターの抗力係数に起因します. 両者の着弾時間の違いはごく僅かなものです.

 砲弾ダメージと火災率に関しては独巡Mainz(T8P)がHEダメージおよび火災率の冷遇, APダメージの優遇を受けます. Mogami(T8)は日巡としてダメージの優遇を受けますが, 火災率は例外的に冷遇されています. 高TierではBelfast’43のみが搭載する英軽巡砲(T8P)はHEダメージ優遇と火災率冷遇を受けます.  英軽巡砲HEの仕様の詳しい経緯については総論編3.6節をご覧ください.

 Mogamiの不思議な仕様の理由は2015年の仕様に遡ります. 当時の戦艦表面は25 mmに設定されており, かつ装甲厚と貫通力が等しければ不貫通と判定されたため(現在では貫通判定), 軽巡通常の152 mm砲(1/6ルールで貫通25 mm)では戦艦に対して貫通弾を出せませんでした. 一方で, Mogamiは口径わずか3 mmの差ですが25 mmに貫通弾を出せるため, 152 mm砲とのバランスという観点から低い火災率が設定されたものと推測されます.

 Tier9,10の軽巡は弾速の遅い米英の2か国に限られるため軽巡砲すべてが低速と誤解されやすいですが, Tier8には比較的高速な軽巡砲を搭載する艦艇が多く存在します. ソ軽巡(Chapayev, Kutuzov), Mainzが低速重巡砲と遜色ない9 秒台, 日巡Mogami, 蘭巡Provincien, 仏巡Bayardが10 秒台と続きます.

 余談ですが, Mainz砲は独巡ツリー150 mm砲と砲弾ダメージこそ共通ですが弾道はまったく異なります. この件については, 補遺で弾道パラメーターを踏まえながら詳述する予定です.

 AP貫通力に関しては15 kmで100 mm以下, 10 kmで120 mm程度が相場で, 舷側装甲がおおむね120 mmを上回る高Tier巡洋艦に対して防郭貫通を狙うのはかなり厳しくなります.

 IFHEの必要性については各論後編で触れます. 

 

7. 駆逐砲

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表 7. 駆逐砲の諸元

 駆逐砲とは口径148 mm以下の主砲を指しますが, 実装済みの口径は127 mmおよび130 mmのみに限られます.

 米巡AustinはSAP弾とHE弾という珍しい組み合わせを搭載しています.

 弾速は軽巡砲に匹敵する米巡Austinおよびソ巡Smolensk, そして超低速の仏巡Colbertと2種類に大きく分かれます. AP貫通力は10 km地点でなお100 mmを切り, 有効打の機会は接近戦のみです. 

 

謝辞

 前回の記事に続き, じーふぉーさん(@G4H4CK256)に校正を手伝っていただきました. ありがとうございました. 

 記述の誤りがあれば, twitter(@warabi99_wows)までお願いします.