わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

隠蔽距離論

 

1. はじめに

1.1. 推力転舵の条件とは

 私が初めて推力転舵を試したのはChapayevで, twitter上でのアドバイスがきっかけでした. 当時(2017冬)の空母はもちろん旧仕様で数も少なく, 視界役は駆逐艦とレーダー巡洋艦しかいない状況だったので, 現在よりも隠蔽距離がはるかに重視される環境でした. その頃の日駆日巡上がりの私はもちろん隠蔽至上主義だったのですが, Chapayevに推力転舵を試したところ隠蔽悪化が立ち回りに及ぼす悪影響はほとんどなく, けっこう衝撃的な体験でした. その後の空母改編(2018秋)で島裏レーダーが実用的ではなくなったため立ち回りの修正が必要になりましたが, 推力転舵の有用性は今でも変わっていません. Chapayev以外の艦艇でも, 蔵王, Donskoi, そしてNevskyで推力転舵を試しましたが, これほど推力転舵と好相性な艦艇にはまだ巡り合えていません.
 推力転舵の利点は機動性の改善, 欠点は隠蔽性の悪化ですが, 前者に関しては「巡洋艦のダメージ交換論」で触れたので, 今度は後者について考えていきたいと思います. 

1.2. 巡洋艦の分類

 おふねのゲームシステムでは砲戦を始める前に敵艦をスポットしなければならないため, この視界システムをもとに分業が発生します. 第一の役割を視界役と火力役に分けて, さらに火力役は攻撃対象をもとに対視界の火力役か対火力の火力役かで分類します.
 具体例を挙げると視界役は駆逐艦, 対視界の火力役がレーダー巡洋艦, 対火力の火力役が独巡やソ巡, そして戦艦でしょうか. レーダー巡洋艦は微妙なところで, レーダー艦という特殊な視界役が火力役と複合していると考えることもできます.
 この分類は艦艇それぞれがぴったりと対応する枠があるというわけではなく, 局面ごとの役割をこの分類で考えていくといったほうが適切かもしれません. レーダー巡洋艦はレーダーを使って視界役になる局面もあれば, 敵の巡洋艦や戦艦を撃つ局面もある, といった感じです.

 

2. 隠蔽距離論

2.1. 交戦距離論のおさらい

 交戦距離については「巡洋艦のダメージ交換論」と同じものですが, もう一度整理してみます.
 巡洋艦は戦艦に対して一方的にダメージ優位を取れる交戦距離の範囲があります. 上限は自身の主砲の(対戦艦)有効射程, 下限は安全距離で決まります.
 この安全距離を決めるのが, 最大速度や転舵時間などの機動性です. 被ダメージを抑えるには①被弾を減らす方法と②被弾してもダメージを抑える方法と2つありますが, 機動性は前者に相当します. 着弾時間が一定秒数を超えると巡洋艦側は敵の弾道から着弾地点を予測して回避機動に移ることができるため, もはや命中弾を受けなくなります.
 もちろん一般的傾向であって, 脆弱な装甲(長い安全距離)や弾道の悪い主砲(短い有効射程)が原因で対戦艦の交戦距離を持たない巡洋艦も存在します. その巡洋艦は敵戦艦や巡洋艦を相手取った火力艦として働くのは不向きなので, 敵視界に対する攻撃役(駆逐援護)としての働きを考えていきます.

2.1.1. 時間ベースの交戦距離論

 回避の成否に影響する要素のなかでもっとも影響力の大きいものは着弾時間なので, 交戦距離といっても距離ではなく時間をベースに考えたほうが分かりやすいかもしれません. 巡洋艦にも戦艦にも, その機動性に応じて安全“時間”というものを考えることができます. 安全距離を敵弾の着弾時間, つまり自身の回避時間で表したものです. 距離が同じであれば巡洋艦砲の着弾時間のほうが戦艦砲よりも長いですが, 巡洋艦の安全時間がその不利を補うほど短ければ, 巡洋艦が優位に立てる距離があることになります. 交戦距離の上限は戦艦の安全時間と巡洋艦砲の着弾時間が等しくなる距離, 下限は巡洋艦の安全時間と戦艦砲の着弾時間が等しくなる距離として決まります.

2.1.2. 弾道と投射量のトレードオフ

 先の交戦距離の議論は巡洋艦対戦艦の状況でしたが, 巡洋艦巡洋艦でも同様に考えることができます.
 巡洋艦のHE性能は弾速と投射量がトレードオフになるように設定される傾向があります. 巡洋艦うしの砲戦を考えたとき, 弾速で勝る側は中距離, 弾速で劣り投射量で勝る側は近距離で優位になりますが, この中・近距離が切り替わるのは弾速で勝る側の安全距離になります.
 さらに言えば, この理屈を応用すれば艦種に関係なくすべての艦艇の1vs1において中距離優位側と近距離優位側に分けることができます. 巡洋艦vs戦艦という構図に縛られることはなくなりました.
 弾速でも投射量でも優位な場合は, そもそも距離の使い分けを考える必要はありません. 距離問わずただ撃っていればダメージ優位が取れます.

2.2. 先制発見のための隠蔽

 1対1の状況では隠蔽に優れる艦艇が砲戦するかどうかの選択権を握ることができます. 隠蔽の第一の意味は, 敵艦艇を先制発見することにあります. ただし, 実際にダメージ優位を取れるかを決めるのは隠蔽距離ではなく主砲性能であって, もしその距離でダメージ劣位にあり発砲できない場合, 火力役ではなく視界役としての働きを探っていくことになります.

2.3. 自衛のための隠蔽

 近距離優位側は有効射程よりも隠蔽距離が長い場合, その艦艇は敵に先制発見されて反撃も不十分になるため, ダメージで不利を取らされます.
 戦艦はおおむね巡洋艦よりも隠蔽が劣るように設定されているので, 先の節で述べた「先制発見のための隠蔽」を考えるのは現実的ではありません. そのときは第二に「自衛のための隠蔽」, すなわち中距離優位側である巡洋艦に対する有効射程よりも自身の隠蔽距離を短くすることが重要です.

2.4. 使い勝手の悪い隠蔽

 この節だけ隠蔽を取っても得にならない理由について述べたもので, 内容は先の2節と正反対になります.
 隠蔽距離が自身の安全距離よりも長い場合, 1vs1であれば発見された瞬間に引き撃ちの姿勢を取ることで敵にこちらの安全距離以下まで踏み込まれることはありません. 安全距離内で敵を逆探知するために, あえて隠蔽を悪くしておくという選択もできます. 安全距離を割り込む高隠蔽は, 敵を先制発見できなければかえって危険なものになると言い換えることもできます.
 一見不自然な結論ですが, この原理は被発見がプレイヤーに通知されることによります. 敵が自身の発見距離内にいるかどうかだけは情報を得られるので, 適切な距離である安全距離の外に隠蔽距離を配置すればこの被発見という情報を有効活用できるわけです.
 実戦では自身の被発見だけでなく味方の視界でも敵の位置情報を得ることができるので, この項目はさほど重要ではないかもしれません.

2.5. 自己完結的な視界

 火力役が砲戦をするには通常視界役のスポットが必要ですが, 自己完結的な視界とは火力役が視界役も兼ねる状況をいいます. 例えば巡洋艦が戦艦をスポットしながら撃ち込んでいる状況や, 巡洋艦がレーダーを使って駆逐を撃っている状況です.
 1隻2役の働きで視界役を必要としないため, 数的優位なしでダメージ優位が取れます. したがって, 視界役が介在する通常のダメージ優位よりも影響力は大きくなります.
 この自己完結的な視界に搾取されない対策として, 「先制発見のための隠蔽」で敵を先に見つけてしまうか, 「自衛のための隠蔽」で敵に視界を取られても撃たせないようにするか, と本稿の結論を再び言い換えることもできます.
 レーダー艦に限っての話ですが, 隠蔽距離をレーダー射程以下にしておくとレーダーの使い勝手がとても良くなります. 被発見でレーダー圏内の敵の存在が確定するため, レーダーを空打ちすることがなくなります.

 

3. コミット

3.1. もはや隠蔽に戻れない

 現在被発見状態にありながら自力の操艦では隠蔽に戻れない状態を, コミットと呼ぶことにします.
 発生する条件は①敵の視界役が自艦よりも優速で距離を離せない②敵AP弾の影響で姿勢を前向きに固定されている, この2種類あります. それぞれ例を挙げると, ①は駆逐艦が自分よりも高速な駆逐艦に追われているうえ煙幕もない状況, ②は頭を向けて停止していた戦艦が敵の押し上げを受けている状況などがあります.
 ここからは, 巡洋艦や戦艦など火力艦で影響の大きい②を中心に考えていきます.

3.2. 転舵を抑止するAP弾

 「巡洋艦のダメージ交換論」では, 損な撃ち合いを避けて隠蔽状態に戻るということを基本的な原理に据えました. 敵弾がHEのみの場合は, 現在の姿勢が前向きであっても転舵すれば距離を取りなおすか最低でも維持することができます. しかし敵AP弾が有効射程内に入り防郭を抜かれる可能性が出てくると, この奥転舵で追加のダメージ不利が発生します. 端的にいえばこのまま撃たれ続けて沈むか, または奥転舵のタイミングで防郭を抜かれて沈むかの最悪の二択を迫られるわけです.
 コミットの発生には敵AP弾の存在が不可欠で, AP弾のダメージが敵の姿勢に強く依存するゲームシステムがこの現象を生み出しています.

3.3. 中距離砲戦へ持ち込むには

 最初に挙げた例は戦艦でしたが, 巡洋艦でも同様の話が成立します. 例えば自身の巡洋艦が敵のDes Moinesに先制発見されたうえ艦首を完全に向けられている状況では, こちらが奥転舵をすればAP弾で立て続けに防郭を抜かれ, そのまま突っ込めばHEの投射量で押し切られてしまいます.
 交戦距離論では自艦の優位な距離に留まること, とりわけ中距離優位側は中距離の砲戦を維持することが重要な原則になります. しかし敵AP弾の存在で姿勢転換を封じられてしまうと, 中距離砲戦の選択肢は消滅します.
 中距離優位側の艦艇は, ①隠蔽距離で勝るか, ②隠蔽距離を敵のAP有効射程よりも長くすることが対抗策になります. ただこれは1vs1の場合の話で, 隠蔽距離に無関係なスポット(例えば航空スポット)がある場合には③有効射程を敵AP有効射程よりも長くするという条件ひとつになります. これはもはや隠蔽距離の外の話で, 艦艇の素の性能である主砲によって決まります.

 

4. おわりに

4.1. Chapayevに育てられた巡洋艦

 私がChapayev, Donskoi, Roon, Hindenburg, そしてNevskyといった中距離優位型の巡洋艦に傾倒するきっかけが他ならぬ推力転舵Chapayev, というのは冒頭で述べたとおりです. それ以前は妙高や高雄など, 隠蔽距離からの引き撃ちを軸に組み立てていく日巡を中心に乗っていて, それ以外はとても扱えませんでした. もちろんChapayevも乗り始めの200戦ぐらいは負け越していて, この苦手な艦艇をどうやって扱ってやろうかと工夫する過程で交戦距離の考えに気づくことができました. 未知の艦艇を使いこなせるようになるのは大変ですが, ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらゲームへの理解を深めていく時間が楽しみのひとつなのは間違いありません.
 本稿の記述は体系性が弱く主題が二転三転するため混乱しやすい部分も多いと思いますが, その記述のテーマが中距離優位側(巡洋艦)についてなのか, それとも近距離優位側についてなのかを意識していただければ若干読みやすくなるかもしれません.
 最後に推力転舵Chapayevについて考察して, 総括とします.

4.2. Chapayevに推力転舵が適する理由

 Chapayevに推力転舵が適する理由を考えてみましょう. 隠蔽距離は隠蔽UG込みで10.4 km, 抜きで11.5 kmです.
 Chapayevは優れた弾速とそれなりの投射量を併せ持つHEが特徴で, 巡洋艦に対して中距離優位側になります. 対巡洋艦の有効射程は14 km程度なので, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離が下回ります. また, APの有効射程は10 km以下であり, 最良の隠蔽と同程度かそれを下回るぐらいです.
 戦艦に対してももちろん中距離優位側になり, 有効射程は17 km程度と射程ギリギリまで命中が期待できます. 安全距離は推力転舵で14 kmの体感であり, 隠蔽にするとさらに長くなるため得意とする間合いが少々狭まってしまいます.
 巡洋艦や戦艦を相手取るときは隠蔽UG外しの欠点はほとんどなく, むしろ推力転舵で機動性の改善を図る方が好都合です.
 最後に駆逐艦相手で考えてみると, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離がレーダー射程を下回ります. したがって, 推力転舵にしても対駆逐の得意は失われません.
 こうして一通り考えてみると, 推力転舵で隠蔽レーダーが撃てるという強烈な個性が見えてきます. こんな艦艇は他にありません. また, 巡洋艦に対しても①APを使わない②HEの弾速に優れるという2点が, 隠蔽UG外しと非常に好相性です. 届けるだけでいいHEと違ってAPは十分な貫通力を保っていることが重要なので, 有効射程は短くなりがちです. HE頼みの火力特性が, Chapayevの極端な中距離優位側という性格を形作っています.