わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

抑止力としての一撃離脱

 

1. 装填時間は何秒がもっとも有利か?

 分間ダメージが一定の場合, 装填時間は長いほうがよいのか, それとも短いほうがよいのか. 

 戦艦にとって長い装填時間が望ましい根拠として「斉射のあいだに隠蔽へ逃れられる」と言われます. しかしその一方で敵はこちらの装填が残り20秒になるまではノーリスクで撃てるため, 今度は敵の巡洋艦(あるいは戦艦)に一撃離脱の機会を与えてしまうことにもなります. こちらが隠蔽へ戻れるかどうか, 継続的なスポットを受けるかどうかで長い装填時間の優劣が逆転することになり, そんなに話は単純ではないようです.

 今度は一撃離脱を狙う側に立って考えてみると, おおむねこのゲームの戦艦の装填時間は30秒程度が多いため, 隠蔽までに必要な20秒を差し引いた10秒程度でどれだけのダメージを出せるかが重要になります. 同じ装填-10%でも効果は異なり, 例えば装填15秒が13.5秒になっても10秒間では1斉射しかできないことに変わりはありませんが, 装填11秒が9.9秒になれば同じ10秒間でも2斉射できます.

 また戦艦の視点に戻って考えると, あまりにも長い装填時間は戦場の急な変化に対応できないという負の側面もあります.

 ここまでの込み入った議論を見ても分かるとおり, 装填時間の長短とその優劣についてはそうそう簡単に結論を出せるものではありません.

 今回扱う砲戦モデルでは, 敵艦に対して一撃離脱を狙う巡洋艦という構図をダメージ収支の観点から分析しました. 一撃離脱がダメージ収支に得をもたらす仕組みについての洞察, そして装填時間という性能項目を考えるうえでの根拠を与えることができたと考えています. 

2. 1vs1砲戦モデル

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図 1. 1vs1砲戦モデル

 単純な系として先に1vs1の場合を考察しておきます. 後に解説する2vs1の場合と比較することで, どの結果が2vs1に特有なのかはっきりさせることを目的にしています.

2.1. 巡洋艦vs敵艦

 1vs1の砲戦を想定します. 参加する艦艇は味方巡洋艦と敵艦の2隻です. そのうち敵艦は常に発見されており, 味方巡洋艦は隠蔽に戻ることができるとします. 巡洋艦に与えられた選択肢は「継続射撃」か「隠蔽」かの二択であり, 敵艦に選択肢はありません. 

 利得関数となるダメージ収支についてですが, 2vs1モデルへ拡張するための都合で敵艦の視点に立って考えます. 巡洋艦はこの利得関数を最小化する選択肢を選びます. 

 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合, 利得関数は敵艦の巡洋艦に対する秒間与ダメージから巡洋艦の敵艦に対する秒間与ダメージを差し引いたものになります. また, 巡洋艦が隠蔽を選んだ場合, 砲戦は発生しないため収支はゼロです. 

 結果は言うまでもないかもしれませんが, 巡洋艦は1vs1で撃ち勝てる場合に限って射撃を選び, そうでなければ隠蔽に逃れることで交戦を避けます. 敵艦の装填時間はこの結果に関与しません.

2.2. 2vs1の予備的検討

 次章では味方巡洋艦に加えて味方戦艦も関与する2vs1の砲戦を考えますが, この章の結果を踏まえて結果を予想してみます. 1vs1と異なる点は敵艦が射撃目標を選べることであり, 敵艦にとってより大きな与ダメージが期待できるほうを撃ちます. 敵艦の装填時間が限りなく短いとして無視した場合, 巡洋艦が射撃できる状況は①敵艦にとって味方戦艦を撃ったほうが得な場合, ②敵艦にとって味方巡洋艦を撃ったほうが得だが, 巡洋艦がそれ以上にダメージを出せる場合, この2つの場合になります. この結論こそ「巡洋艦のダメージ交換論」で述べた発砲判断の根拠になっていますが, このような交換論を超えて砲戦を理解することこそ今回の記事を書くに至った動機のひとつです. 

 

3. 2vs1砲戦モデルのルール

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図 2. 2vs1砲戦モデルのルール

 2vs1の砲戦を理想化したモデルを扱います. 参加する艦艇は味方2隻, 戦艦と巡洋艦, そして敵艦1隻です. そのうち味方戦艦と敵艦は常に発見されており, 巡洋艦のみが隠蔽状態に戻れる可能性があるとします. 

 戦略に関して, 敵艦は射撃目標を戦艦または巡洋艦から選びます. 対する巡洋艦は「継続射撃」か「一撃離脱」かを選びます. 継続射撃を選ぶと巡洋艦は隠蔽に戻ることはできず, 敵艦の射撃目標になる可能性があります. 一撃離脱では敵艦の装填が完了した時点で巡洋艦は隠蔽状態に戻っており, 撃たれることはありません. 

 敵艦については装填時間を考慮して, その斉射ごとの与ダメージは装填時間とDPSの積で求めます. ただしDPSは戦艦を撃つ場合と巡洋艦を撃つ場合で異なります. 対する巡洋艦の装填時間は考慮せず, 与ダメージはDPSと射撃した時間の積で決まります. 味方戦艦の与ダメージについては, 考慮してもモデルにまったく影響を与えないため無視します. 

 時間あたりダメージ収支を表す利得関数は敵艦の与ダメージから巡洋艦の与ダメージを引き算したもので, 敵艦の視点に立って考えます. 敵艦はこの利得関数の最大化, 巡洋艦は最小化を目的にして, 先ほどの戦略を決定します. 具体的な場合について考えると, 巡洋艦が継続射撃を選んだ場合は, 利得関数は敵艦のDPSから巡洋艦のDPSを引き算したものになります. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が戦艦を目標にした場合, 巡洋艦は敵艦の残り装填時間が20秒になるまで撃ちます. 巡洋艦が一撃離脱を選び敵艦が巡洋艦を目標にした場合, 敵艦は隠蔽状態の巡洋艦に砲を向けます. 隠蔽状態にある巡洋艦を敵艦が撃つことはできず, 睨み合いの状態になります. 

 

4. 継続射撃が有利になる領域

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図 3. 継続射撃が有利になる領域

 まず左に示すように敵艦にとって巡洋艦よりも戦艦を撃ったほうが得な場合では, 巡洋艦は絶対に撃たれないためノーリスクで継続射撃を選びます. また右に示すように敵艦にとって巡洋艦を撃ったほうが得な場合でも, 巡洋艦が1vs1の砲戦で撃ち勝てるなら継続射撃を選びます. 巡洋艦は撃たれ続けますが, それ以上の利益を得られます. 

 この2つの場合はいたって常識的であり, とくに目新しい結論ではありません. 

 

5. 睨み合いの領域

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図 4. 睨み合いの領域

 ここからは巡洋艦が単独では敵艦に撃ち勝てず, かつ敵艦から優先的に撃たれる場合の考察に移ります. 敵艦にとって戦艦を撃つメリットよりも巡洋艦に撃たれるデメリットが上回る場合では, 巡洋艦は一撃離脱, そして敵艦は隠蔽状態に入った巡洋艦に砲を向けて睨み合いの状態に落ち着きます. 敵艦が味方戦艦を撃ってしまうと巡洋艦の一撃離脱を受けて損をするため, この一撃離脱の「脅し」が抑止力として働き敵艦の発砲を阻止します. 

 繰り返しになりますが, 敵艦は見えているからといって戦艦を撃つと損をします. 実戦感覚として戦艦は「敢えて撃たない」判断が必要になることも多いと個人的には感じていましたが, 敵巡洋艦の一撃離脱を抑止するためという理由をひとつの正当化として与えることができます.

 

6. 解のない領域

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図 5. 解のない領域

 ここでは睨み合いの場合とは対照的な, 敵艦にとって戦艦を撃つメリットが巡洋艦に撃たれるデメリットを上回る場合を考えてみます. スライドの右に示す表は, この解のない領域における戦略ごとの利得関数を表しています. 分かりやすいようにこの領域に属するパラメーターの組のひとつを具体的な数字として書き表していますが, 不等号さえ満たせばなんでもよいです. 

 どの状態からでもよいのですが, まず戦艦目標・継続射撃の状態からスタートするとします. すると敵艦にとっては(継続射撃で姿を晒す)巡洋艦を狙ったほうが得なため, 巡洋艦目標・継続射撃の状態に移ります. 今度は巡洋艦にとっては一撃離脱で隠蔽に逃れたほうが得なため, 巡洋艦・一撃離脱の睨み合いに移ります. ここが先ほどの睨み合いの領域との違いなのですが, 今回のケースでは敵艦にとって睨み合いをするよりも戦艦を撃ったほうが得なため, 戦艦目標・一撃離脱に移ります. 最後に, 撃たれない巡洋艦にとっては一撃離脱よりも継続射撃が有利になるため最初の状態である戦艦目標・継続射撃に戻ってきます. 

 この領域ではお互いの戦略がループに陥るため, 安定した戦略の組が存在しません. この単純化された砲戦モデルにおいてなお解のない領域が出現するのは, 砲戦の奥深さの一端を表しているように思われます.

 

7. 敵艦の装填時間による解の変化

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図 6. 敵艦の装填時間による解の変化

 敵艦の装填時間の延長は図に示すように斜線の傾きを増加させるため, ④睨み合いの領域を拡大させて, 解のない領域を縮小させます. これは敵艦にとって損です. 装填中に巡洋艦からノーリスクで撃たれる時間が延びるため, 一撃離脱の抑止力がより大きく働くようになります. 

 このモデルでは巡洋艦の装填時間が限りなく短いと仮定していますが, 巡洋艦が一撃離脱を行う際のダメージの向上は, 一撃離脱の脅しという観点から敵装填の延長と同様の効果を与えると考えられます. 1章で述べたように, 10秒程度に発揮可能な火力というアイデアが重要になります. 

 一方で敵艦の装填時間が20秒未満の場合では④睨み合いの領域が消失します. 一撃離脱が不可能になるため抑止力が働かなくなります. 


8. 結論

 巡洋艦が狙われない場合, そして一対一で敵艦に撃ち勝てる状況においては, 巡洋艦は継続射撃を選びます. ダメージ収支に寄与するのは秒間ダメージであり, 装填時間の影響はありません. 

 一方で, 巡洋艦が単独で敵艦に撃ち勝てないうえに優先的に狙われるという状況では, 当然ながら巡洋艦は継続射撃を選ぶことはできません. しかしこの状況においても, 巡洋艦の一撃離脱を考慮した場合にはゼロではなく正の貢献が見込めます. さらに詳しくまとめます. 多対一の砲戦において, 複数側のいずれかの艦艇が隠蔽状態に戻ることができ, かつ単独側の主砲装填時間が20秒を超える場合, 一撃離脱の脅しのおかげでダメージ収支を改善できます. 

 敵の一撃離脱を防ぐという観点では, 装填時間は20秒以下が望ましいといえます. 一方で今回のモデルでは敵艦が発見され続けると仮定していましたが, 隠蔽状態に戻れる可能性があるならば装填時間が長いほど敵の攻撃を受けずに済みます. この場合は装填時間の20秒を上回った部分が得になります. 20秒を超える装填時間は自艦が全門斉射しつつも隠蔽に戻れるというメリットを与える一方で, 継続的なスポットを受けた場合において敵に一撃離脱の機会を与えるというデメリットと表裏一体になっています. 

 今回のモデルでは敵艦の砲旋回にかかる時間を考慮していないので今後の課題は砲旋回を取り入れたモデルの定式化ですが, モデルが複雑になるため難しいのではないかというのが個人的な感覚です. 実際, 今回の砲戦モデルを構想するにあたって当初は装填と砲旋回を両方とも考慮に入れていましたが, 解を求めるのが困難なため砲旋回を捨象して現在のモデルに落ち着きました. 定性的な予測をすると, 実戦では巡洋艦が射撃可能な状況がさらに増えると考えられます. 例えば20秒以上が砲旋回に必要であれば, 敵艦の装填時間にかかわらず巡洋艦がノーリスクで射撃できます. また, 敵艦にとっては装填が完了した状態で砲旋回を強いられると追加の火力損失が発生します. とはいえ今回の単純化されたモデルでも一撃離脱の「脅し」という最も再現したかった結果が得られたため, 今回の結果は要件を満たしていると考えています. 

謝辞

 今回の記事を書くにあたって, じーふぉーさん(@G4H4CK256)と珊瑚さん(@Coralsea017)に助言をいただきました. とりわけ2章に関しては珊瑚さんの助言を受けて加筆しましたものです. ありがとうございました. 

戦線という概念を使わないAP射線の話

はじめに:「戦線」で立ち回りを説明するべきではない

 理由は下記の2点.

 第一に, AP射線が敵の側面に与える脅威という具体的な観点を不必要に抽象化してしまう.
 第二に, 概念が独り歩きすることで勝利条件(撃沈と占領)を根拠としない立ち回りを誘発しかねない.

「戦線」は複数のAP射線による連携を指す

 戦線とは戦艦のラインである, という定義がもっとも共通認識に近いと思われる. なぜ他の艦種ではなく戦艦に限られて, なぜ線(ライン)と表現されるのか.

 戦艦は強力なAPを武器に, 同格の巡洋艦および戦艦の防郭に貫通打を出すことで決定的な影響を与える艦種である. 線を引くには2点が必要であるから, 戦線の正体は複数のAP射線による連携である.

 もちろん戦艦に限らず, APが有効ならば巡洋艦でも可能である. 防郭を貫けずとも, 戦艦より高い投射量で敵艦を削り切れれば構わない.

 話題は逸れるが, 駆逐艦の隠蔽雷撃も敵側面を捉えることで決定的な役割を発揮する.

複数のAP射線の角度差によって敵の前進を阻止する

 「戦線の形成・維持」という表現を支えるのは, 占領陣地への前進とその阻止という戦術的な動機である. まずは前進の阻止について考察する.

 敵が前進している状況では, 敵の動線, あるいは前進線の側面を取る機動は容易になる. 横方向への移動のみで敵の側面を取れるためである. 敵が撤退している場合と比較すれば分かりやすく, この場合は敵より速く移動しなければ側面を取れない.

 敵の側面を捉えるためには, 複数のAP射線どうしに十分な角度差をつけて敵に刺すことが重要である. 味方2隻の位置が変わらずとも, 敵が近づいてくれば自然と射線の角度差は拡大する.

 側面への脅威を排除しなければ敵は前進できず, 結果として敵が直線的に陣地まで前進するという状況を避けることができる.

前進阻止にあたって視界は必ずしも必要ではない

 劣勢側が敵の前進を阻止するにあたって, 敵側面を捉える機動, そして敵視界を阻止する攻撃が戦術的な目標である. 敵側面を捉えるための機動は視界を必要としない.

 ここで火力の優劣に応じた視界の役割を一旦整理しておく. 火力優勢な状況において, 視界は敵の火力艦を隠蔽状態に逃さず, 敵に不利な砲戦を強制するためにある. 一方で火力劣勢な状況においては, 敵視界を攻撃することで不利な砲戦を拒否しなければならない. 視界役は敵の視界役をスポットすることで, 敵視界の拒否に寄与する. 火力劣勢時は敵火力艦への視界が役に立たないことに注意. 視界があっても撃ち合いで負けるならそもそも発砲できないため, 視界がダメージに結びつかない.

 火力劣勢な砲戦への耐性という観点において, はじめて戦艦の耐久という性能が役立つ. 視界の遮断が果たせなくとも, 優勢な敵からの砲撃を耐えながら敵側面へ脅威を与えることができる.

 戦艦の優れた耐久による弾受けで戦線が形成されるという理解は誤りであり, 側面への脅威こそ戦線形成の原動力である. 弾受けはあくまでも手段であって, その先の目的である敵側面への脅威こそ本質である.

投射量に優れた艦艇も接近戦によって敵の前進を阻止する

 弾速が遅い一方で傑出した投射量を誇る巡洋艦は, 接近戦における性能的な火力優位のもとで敵の前進を阻止する.

 ただし投射量の多い巡洋艦といっても敵の正面に突っ込めば簡単に集中砲火を浴びて撃沈されてしまう. このような艦艇を機能させるためには一対一の接近戦を保証する必要があり, 味方の戦艦射線により敵の転舵を制約して敵の射界から巡洋艦を消すか, 地形によって巡洋艦への射線を遮断しなければならない.

前進において戦艦は敵側面を脅かすことで敵の後退を促す

 前進阻止と異なる点は, 側面を脅かすための機動を行う戦艦が突出することである. 敵が前進してこない以上, こちらから側面を迎えに行くしかない. この突出した戦艦が戦術的な弱点になるため, いかにして敵の反撃を防ぐかが前進を賭けた砲戦の見どころである.

 敵より速く移動しなければ側面を取れないと先に述べたが, そもそも敵が追いつけないほどの速度で撤退するならば味方の前進は容易に達成される.

結び:戦線という概念は無用である

 戦線の正体は複数のAP射線による連携である, この一文がすべてである. わざわざ戦線という抽象的な概念を持ち出す必要はなく, AP射線の性質について具体的に議論すれば事足りる. ミニマップ上の表象に囚われてはいけない.

 戦線という概念が過度に拡大されて戦艦のみならず巡洋艦, さらには駆逐艦の位置取りさえも含むようになれば, もはや立ち回りを考察するための道具としては役に立たない. ただ漠然と戦艦が前に出れば巡洋艦駆逐艦も前へ出られるといったような過度な単純化を行うのではなく, 艦艇ひとつひとつの性能的な特徴から戦闘の複雑な現象を捉えようと努めることこそ戦術的な思考である.

 正確な立ち回りを支えるのは曖昧ゆえに難解な概念ではなく, ゲームのルールにある勝利条件を最終的な目標として, それを艦艇性能によって具体的に実現しようとする思考の過程である.

謝辞

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて, りばっくすさんにご協力いただきました. ありがとうございました.
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交戦形態論素案

1 従来の砲戦論の反省

1.1 交戦の形態

 交戦の目的はダメージ優位を取ることであり, この原則は「巡洋艦のダメージ交換論」から変わっていない. ただし, ダメージ優位の基礎となる性能的優位に応じて交戦の形態を以下のように分類する.

 火力戦: 遮蔽物の少ない海域において, 火力艦(巡洋艦および戦艦)の数的優位の確立を目的とした中距離砲戦. 交戦距離の優越を基礎に置き, 中距離HE主戦型の巡洋艦が主導する.

 機動戦: AP主戦の艦艇が敵動線の側方に位置取ることを目的とした砲戦. 戦艦および中距離AP主戦型の艦艇が主導する.

 陣地戦: 陣地占領をめぐる, 占領艦への攻撃を目的とした砲戦. 占領艦への視界を担当する駆逐艦およびレーダー巡洋艦, そして占領艦への砲撃を担当する巡洋艦が主導する.

 接近戦: 彼我の隠蔽距離を割り込んだ砲戦. 副砲特化などで接近戦に適性のある戦艦, 近距離型の巡洋艦, 肉薄雷撃が可能な駆逐艦が主導する.

1.2 巡洋艦の3類型

 巡洋艦の3類型として, まず戦艦に対して距離の優越が取れるか, 次に同格の巡洋艦に対して隠蔽距離より長い距離から防郭貫通が可能かを問う. 距離の優越がなければ近距離型, 距離の優越があり防郭貫通が可能ならば中距離AP型, 距離の優越があり防郭貫通が不可能ならば中距離HE型に分類する.

 ただしAP型とHE型の区別は連続的なものであり, 同格戦艦の防郭すら貫通できるならばほぼ戦艦として, 一部の巡洋艦のみに限られるならばHE型に限りなく近いAP型として振る舞う.

1.3 火力戦偏重の反省

 これまで筆者が考えてきた砲戦論では, 交戦距離の優越という性能的優位を軸にした多対多の中距離砲戦が考察の中心だった. 2020年7月の「巡洋艦のダメージ交換論」では発砲判断の一般論に徹したためこの傾向はさほど顕著ではないものの, 2021年5月の「Nevskyにみる火力優勢の作り方」, 2021年10月の「砲戦技術の諸概念」と考察対象が具体的になればなるほど射線の価値を決める諸要素のなかでも交戦距離を判断の基礎に置くようになっていた.

 年が改まるにあたってこれまでの砲戦論の振り返りになるような記事を構想していたものの, 執筆を進めるにつれて距離偏重の砲戦論に限界を感じるようになった. 実際この危機感は以前からあり, 「砲戦技術の諸概念」では6章すべてをAP主戦型の艦艇についての考察に割いている. この記事では戦艦射線の重複化という概念によって戦艦の位置的優位を説明しているが, あまりにも複雑な概念であり説明の明快さを欠いていた.

 この概念は火力戦の枠を出ておらず, 戦線の乱れが少ない状態, つまり動線側面を取られる危険性がお互いに低い状況にしか適用できない. 乱れが少ないので戦艦が敵側面を捉える状況は敵艦の転舵しかない. この記事で敵艦の転舵の可能性が状況によらず一定として深く考察しなかったのも問題点であり, 簡単な具体例を挙げると, 敵からしてずっと押し続けてこちらを撃沈できるなら転舵して側面を晒す瞬間が存在しないことになる.

 従来の議論の問題点は戦艦が巡洋艦と同様の火力戦をもって戦うとしていたことで, 実際には戦艦は機動戦を企てるものの, それを阻止しようとする敵巡洋艦の火力戦に巻き込まれるといった様相のほうが本質的である.

 今回の記事でAP主戦艦艇の決定機を2つに絞り, 敵動線の側面という戦略的な観点を付け加えた. 戦艦が能動的に敵側面を捉えにいく”崩し”の機動, それによって生じる戦線の乱れが大きな状況を具体的に扱えるようになった.

1.4 なぜ距離偏重の砲戦論に傾いたか?

 筆者の得意とする艦艇は球磨, Chapayev, Donskoi, Nevskyといった中距離HE型の巡洋艦に偏っており, 当然ながら砲戦論の暗黙の前提として距離の優越によるHE投射というパターンが組み込まれていた. 反対にStalingradなど中距離AP型の大巡, Worcesterなど近距離型の巡洋艦は苦手であり, これが砲戦論を特定の観点に偏らせた原因である.

2 火力戦

2.1 火力戦の概要

 遮蔽物の少ない海域における砲戦であるから攻撃の集中が容易であり, 数的優位が一度生まれてしまえば戦力差は時間とともにどんどん拡大していく. 機動戦において重要である”側面を取る機動”は集中砲火により容易に阻止される.

 理論の大部分は「巡洋艦のダメージ交換論」全文および「Nevskyにみる火力優勢の作り方」3章に依拠したもので, これまでの砲戦論の中核を構成するテーマである. 今回の記事では細部の改良および補足に留まる.

2.2 数的優位

 交戦可能な火力艦(機能艦艇)の数の合計で上回ること. 数的優位は拡大再生産される(上述). 機能艦艇という概念は「Nevskyにみる火力優勢の作り方」3.1.2項のテーマ.

 数的優位は4つの優位(数的, 位置的, 性能的, 技量的)のなかで最も重要であり, 数的優位の考え方が適用できない状況では火力戦論の限界が露呈する. 例えば遮蔽物の多い海域では射線が通らないことがむしろ普通であり, 数的優位が意味を成さなくなる. その場合は多対多というより, 連続する1対1に勝って突破するといった理解のほうが正確.

 敵艦よりも多くのHPを保有するという耐久優位を, 今回の記事から数的優位の下位概念として追加する. 撃沈による数的優位の確立に直結するためであり, かつ位置的優位に分類するのもそぐわないためである.

2.3 位置的優位

 敵の機能艦艇数を減らすことで, 一時的な数的優位を生み出せる. 特定の敵艦からの射線を味方全体で同時に無効化することを孤立化と呼ぶ. 射線の無効化には3つの方法, 敵有効射程外への離隔, 地形による遮蔽, 姿勢による防御がある. このなかでも火力戦では距離による無効化をもっとも重視する. 遮蔽物が少ないという前提から地形による無効化は期待できず, HEが主役の砲戦では姿勢による無効化も不可能であるためである.

 敵にとっての発砲判断という観点から, “敵から射撃を受けている味方艦と等しい損失まではノーリスク”という新たな位置的優位が派生する. 敵にとって射撃目標の変更が発生しないため. 「巡洋艦のダメージ交換論」4章の主題として取り上げた.

2.4 性能的優位

 交戦距離の優位が中距離砲戦の駆動力.

2.5 砲機動性の有限性に付け込む戦術

 艦艇の砲旋回には時間を要するため, 敵の射界から逃れることで敵の照準変更時にタイムロスを発生させることができる. 装填が完了しているのに発砲できない時間は火力の損失に繋がる. 「砲戦技術の諸概念」6.5節のテーマ.

2.6 視界の意義

 火力戦の前提には外部の視界役が存在している. 外部というのは, 砲戦を維持するために必要な要素であるにもかかわらず砲戦の対象とならず, 数的優位の勘定の対象外として仮定されているという意味である. もちろん視界役の隠蔽状態が剥がされれば, 火力戦の延長線にありながら火力戦とは異なる, 陣地戦(後述)に近い形態の交戦が発生する.

 視界は劣位にある敵に交戦を強制して, こちらの火力優勢を実際のダメージに結びつけるためにある. 味方が火力劣勢な状況における敵火力への視界は意味がない. 「巡洋艦のダメージ交換論」3.2節で取り上げた.

 敵視界への攻撃は, 味方が火力劣勢な状況において敵の視界を遮断するために行う. 敵駆逐艦に対する攻撃, 敵航空機に対する対空砲火が該当する.

 目的こそ異なるが, 視界への攻撃について実際の交戦形態は陣地戦と類似する. 陣地戦における占領艦を視界艦(駆逐艦)として読み替えれば成立する.
 

2.7 島越射撃は数的優位をもたらすか?

 島越射撃がもっとも有効なのは射撃目標になっている敵艦(標的艦)が砲撃できない状況であり, 一方的な射線がそのまま数的優位に繋がる.

 標的艦が他の目標を砲撃している場合, 地形や煙幕による遮蔽の利得はその射撃を受けている味方艦との差, 狙われずに済んだぶんの利得になる. この場合は標的艦が機能しており, 数的優位は得られない.

2.8 煙幕射撃への対抗策

 煙幕射撃も島越射撃と類似しているが, レーダーや煙幕内発砲発見を利用してスポットできる点, 魚雷が有効である点で異なる. いずれの場合でも視界は他の艦艇に依存するため, 視界に対する攻撃で視界の遮断を図ることも有力な狙いである. 射撃艦は遮蔽物や煙幕の位置から動くことができないため, 射程外への離隔で交戦を回避することもできる.

 煙幕射撃という特殊に見えるケースも結局のところ射線の無効化, 視界の遮断という火力戦の中心的な概念で分析できる.

3 機動戦

3.1 機動戦の概要

 AP主戦の艦艇が敵動線の側面を捉えようと機動する交戦形態. 名称については火力戦の対概念としての機動戦, あるいは戦線の左右方向への機動が重要になるため機動戦とした. もっと適当な呼称があるような気もしているが思いつかない.

 敵が突っ込んでくる状況, 敵が撤退できない状況では側面を取る機動が容易になる. いわゆる引き撃ちの強さというものはかなりの部分を機動戦に依っているのだろう. 火力戦のみでは敵の押し上げを止めることができず, だらだらと退くことになる. 「砲戦技術の諸概念」3.4節がまさに火力戦の限界を示している. ただし撤退が必ずしも悪いわけではなく, 占領状況に余裕がない場合に限って撤退が損失になることに注意. 撤退からダメージ優位, そして数的優位を生み出して有効な反撃に移ることができるなら, 撤退も正当化される.

 機動戦は対駆逐において機能しない.

3.2 追加された位置的優位

 AP弾は防郭貫通により与ダメージが爆発的に増加する. 敵艦の舷側を捉えられる状況について, 戦略及び戦術的な観点から下記のように表現できる.

 戦略: 敵の動線の側方あるいは斜め前方を占める.

 戦術: 敵艦が押しから引き, 前向きから後ろ向きに転じる瞬間を捉える.
 
 繰り返しになるが, 今回の改善点は戦略的観点からAP主戦艦艇の役割を捉え直したことであり, より本質的かつ簡潔な記述になった.

 「砲戦技術の諸概念」では”決定機”という考え方の一例として説明したが, 概念があまりに広義であり理解しづらかった. “AP射線の決定機”として3つの具体例も挙げたが, こちらは枝葉に過ぎない感があり体系性を欠いていた.

4 陣地戦

4.1 陣地戦の概要

 陣地占領をめぐる砲戦. 単純な火力優位の形成を目標とする火力戦とは異なり, 占領艦への火力,占領艦への視界が重要になる.

 個人的な話になるが, この章の文字数が火力戦に次いで多いのは筆者がレーダー艦であるソ連軽巡を扱うためである.

4.2 前衛と後衛

 敵占領艦のスポットにはたらく視界役と, 敵占領艦への攻撃を担当する火力役に分ける. 視界役は水上発見の駆逐艦, 特殊視界のレーダー艦, 航空視界の空母が主な例である. 視界役と火力役は兼任することもある.

 火力艦は占領艦を射撃可能な前衛と, 射撃不可能な後衛に分かれる. 前衛と後衛の別は艦艇性能だけでなく, 交戦時の位置取りに応じて変化する. 交戦時の具体的な状況ごとに, 敵駆逐を射撃可能かどうか, 有効打を期待できるかどうかで前衛と後衛を区別する.

 “前衛と後衛”という概念の着想はびーびー氏の記事「【WoWS】ランダム戦における前衛と後衛の役割と立ち回り」による. こちらの記事において, 前衛および後衛は巡洋艦の性能的な2分類として用いられている.

以下引用.

【前衛と後衛の定義】
“前衛とは戦場で前線に立つ艦艇を指します. 具体的には各国駆逐艦・日米英巡洋艦になります. 後衛とは前線を維持するために火力を投射する艦艇を指します. 具体的には各国戦艦・ソ独仏伊巡洋艦になります. ”

【前衛の役割】
“敵艦艇の全様を偵察し, エリアの占領を行い, 維持をします. 大部分が駆逐艦に依存するため, 駆逐艦が沈まないよう前衛の巡洋艦は可能な限り援護をすることが肝要です. ”

【後衛の役割】
“前衛のスポット情報を元に, 敵艦艇を殲滅するために効果的な配置につき火力を投射しましょう. 敵後衛艦艇との撃ち合いを制するのも重要ですが, 味方前衛の支援こそが最優先になります. ”

以上引用.

4.3 対駆逐砲戦と呼ばない理由

 陣地戦を対駆逐砲戦と呼ばない理由は, この呼称であれば1vs1の戦法レベルに留まってしまうため. 実戦では前衛が駆逐を撃とうとするのと同時に, 後衛が前衛を撃とうとする. 対駆逐砲戦という呼び方であれば, 後衛による前衛に対する射撃という観点が抜け落ちる. 交戦形態を分類する目的は, 交戦を個々の艦艇に分解するのではなく, 艦艇の性能的優位に根拠を求めつつ全体をシステムとして捉えるためである.

4.4 火力戦で前衛が存在しない理由

 陣地戦において前衛としての役目を担う艦艇の位置取りは, 純粋な火力戦においてはむしろ敵に近すぎて友軍全体の損失の不均衡を招くことで形勢を損ねる. 陣地戦で言うところの前衛と後衛が同じラインを取るのが火力戦の要点で, 特定の弱点を作るべきではない. 本記事2.3節で原則を述べた.

 前衛という役割が存在できるのは, 敵駆逐へのダメージさえ出せれば多少の損失は許容できることによる. 標的になる敵駆逐がスポットできなければ陣地戦は成り立たず, もちろん前衛も存在しない. 敵駆逐への視界によって, それまですべて後衛であった火力艦から, 前衛が抽出される.

4.5 適正位置の差異

 火力戦における適正位置と陣地戦における適正位置には差異があるため, 明確に形態の違いを意識して配置を変える必要がある. 陣地戦の標的は低耐久かつ隠蔽性に優れる駆逐艦であるから砲戦は短時間に留まり, 開始時の位置取りがそのまま砲戦の優劣に直結する. こちらも砲戦が継続するため交戦しながらの配置換えが容易な火力戦とは明確に異なる点である.

 前衛が敵駆逐を撃つための適切な砲戦開始位置に就くには敵後衛に妨害されないことが重要である. 後衛は敵前衛のポジションを脅かすことで陣地戦に貢献でき, 火力戦の段階からすでに陣地戦の前哨戦が生起しているといえる.

4.6 特殊視界(レーダー)による敵前衛の無効化

 レーダーによる敵占領艦のスポットは味方駆逐艦を必要としないため, 射撃目標を失った敵前衛は機能不全に陥る. ただしレーダー艦への射撃が成立すれば擬似的な視界戦が成立する.

4.7 火力戦と陣地戦の連続性

 後衛の役割は敵前衛による味方占領艦への攻撃を阻止することであり, 立ち回りの原則は火力戦に類似する.

 火力戦における視界への攻撃, 陣地戦における後衛による前衛への攻撃は, これら2つの交戦形態が完全には分離できないことを表す好例である. 火力戦と陣地戦は互いを内包している.

5 接近戦

5.1 接近戦の特徴

 隠蔽距離を割り込む戦闘は外部の視界役を必要としないほか, 副砲や肉薄雷撃, 体当たりなど中距離とは大きく異なる攻撃手段が存在する.

 距離に応じて有効な攻撃方法および彼我の優劣は微妙に変わる. 隠蔽雷撃と副砲射程が最も長く, 肉薄雷撃が続き, 体当たりはゼロ距離に限られる.

5.2 中距離の交戦を回避する方法

 耐久に優れた艦艇は中距離砲戦の不利を耐えて, 近距離まで踏み込める. 独戦の副砲特化が一例.

 特定の状況で耐久性が跳ね上がる艦艇は, 中距離を飛ばして一気に近距離へ踏み込める可能性がある. 縦からの被弾に強いソ重巡が一例.

 耐久性によらず中距離を飛ばして近距離砲戦を発生させる方法は, 視界の無力化(撃沈), 敵視界・射線の遮断(地形の利用)がある. 近距離砲戦を狙うにあたってもっとも厄介な火力戦に対処するにあたって, その前提として機能している外部の視界役を機能不全に陥らせることが鍵である.

5.3 肉薄雷撃

 駆逐艦は隠蔽距離が短く, 視界を無効化できる. 被発見から魚雷必中距離までの移動が極めて早いため, 敵駆逐を魚雷発射までに撃沈できない状況では警戒しておく必要がある. 自身の砲の向きや投射量だけでなく, 後続の味方艦や空母が突撃してくる敵駆逐を攻撃できるかどうかにも注意しておく.

6 結び

 艦艇性能の解釈にあたって, 基本性能と実戦の形勢判断をつなぐ概念の必要性を感じていた. 主砲, 副砲, 魚雷, 対空砲など性能を項目ごとに比較しても艦艇の性能的な類似性しか理解することができず, 実際の立ち回りにどのように活用すればいいのか, 実戦で性能の強みがどのように発揮されるのかという構想を立てることは困難なままである. これこそ性能データの分かりづらさ, 読みづらさの元凶であろう.

 交戦形態として数パターンの理想的な状況を考えることで, 実戦の複雑な状況が4つの基本的な状況に分解されて, 要求される性能も明確になる.

 例えば火力戦を志向するならば交戦距離の優越と味方視界役を維持する, 敵視界役を妨害する能力という観点に集約される. ソ軽巡Chapayevは高速6インチ砲と推力転舵で距離の優越を確保して, 隠蔽レーダーで視界戦にも対応するという回答を提示している. 独重巡Hindenburgは対戦艦の火力戦に特化しており, 戦艦50mm表面を抜くHEを優れた投射量で, さらに回数優遇つきの修理班で継続して投射する. 一方で視界戦への対応能力は低めである.

 例えば接近戦を志向する艦艇ならば, いかにして中距離砲戦を耐えるか飛ばして近距離まで踏み込めるかが重要である. 最近実装された独戦第2ツリーの回答は, 耐久よりも隠蔽で中距離砲戦を発生させずに, 副砲射程を伸ばして近距離の範囲を中距離側に拡大するというものである. このケースでは隠蔽距離と副砲射程がシナジーを生んでいる. 一方独戦第1ツリーの場合は, 隠蔽ではなく耐久によって中距離砲戦を耐えるという方法を採っている. 伊巡Napoliは排気煙幕により視界を遮断することで中距離を回避する.

 砲戦あるいは交戦のターゲットとなる敵艦とその交戦を構成する必要要素を最もコンパクトに提示する交戦形態という概念は, 体系的かつ実用的な性能考察を行う上での枠組みとしてはたらく.

 この記事では火力戦を除く他の交戦形態についての考察が明らかに不足しているが, この記事で完成形を示すというよりも新年の抱負に近い意味で記載している. 本年は機動戦, 陣地戦, そして接近戦をより深く理解する概念を拡充していくつもりである.

 最後になりますが, VC上で執筆途上の記事の相談に乗っていただいた方々に感謝を, そしてCCとして精力的に活動されながらも意義深い記事を継続的に投稿されているびーびー氏に敬意を表して, 結びと致します.

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 各論前編

 

1. 本記事の範囲

 主砲の弾道性能と砲弾性能を口径ごとに, AP性能を中心にしておおむね以下の順序で解説します.

砲弾ダメージ・火災率: 優遇と冷遇. 
弾道性能: 15 km地点の着弾時間と貫通力. 
精度: 特殊散布界およびσ値.

 HE投射量については, 各論後編でTierごとに解説します. 

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2. 貫通力の範囲

 15 km貫通力は口径と緩やかな関係があります. 下記に分類を示しますが, 境界値は説明の便宜上定めたもので公式の言及はありません. 

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図 1. 口径ごとの貫通力

2.1. 貫通力の高いソ連

 ソ連巡洋艦が搭載する口径180 mm以上の主砲はすべて, 口径に比べて高い貫通力を発揮します. 以下に一覧を示します.

大巡305 mm砲 (2種): 戦艦クラス
重巡220 mm砲 (3種): 超重巡クラス. ただしPetropavlovsk搭載砲は戦艦クラス. 
軽巡180 mm砲 (4種): 重巡高速クラス. ただしTallinn搭載砲は超重巡クラス.

 ソ連以外にも比較的貫通力の高い主砲は存在しますが, 例外が系統的でないため個別に説明します. 

3. 大巡

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表 1. 大巡砲の諸元

 大巡砲とは口径283 mm以上の砲を指します. ほぼ全距離で同格巡洋艦の舷側を貫通できる強力なAPを持つ一方で, 対駆逐AP 1/10ダメージ(いわゆる過貫通キャップ)や通常よりも低精度の特殊散布界が適用されるなど, ゲームシステム上では戦艦砲に近い特徴を持ちます.

 砲弾ダメージに関しては日310 mm砲がHEダメージ優遇のみ, Stalingrad砲がHE優遇と火災率優遇を受けます. 日310 mm砲に火災率優遇がないのは日巡のなかでも例外的ですが, 火災率が冷遇されている日戦の性格を部分的に取り入れているとすれば辻褄が合います.

 蘭283 mm/54砲は独戦Scharnhorstの搭載砲でもあるため独戦基準の適用を受けてHE火災率が冷遇されていますが, HEダメージは冷遇を受けていません. また, 巡洋艦搭載砲で最大の口径を持つ独380 mm (Siegfried搭載砲)はBismarck (Tier8)などの搭載砲と同一性能で, 戦艦砲として性能が設定されています. Ägir砲は独巡のAPダメージ優遇を受けません. Spee砲の283 mm (AP: 8,400)が独巡優遇を受けられる最大の口径と思われます. 

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表 2. 国籍・口径ごとのHE性能

 着弾時間については初速が900 m/sを超えるソ連砲2種および仏Carnot砲が7.5 秒以下と高速な一方で, 重量砲弾を低初速で撃ち出す米305 mmは8.8 秒ともっとも低速です. ほかの大巡砲および独380 mm砲は8.0 ~ 8.2 秒と近い範囲に収まります. 日310 mm砲は日巡にしては珍しく, 弾種によって弾道が変わります.

 貫通力ではソ連砲2種が戦艦クラスの性能を誇ります. Tier10戦艦のバイタル貫通を狙う場合には舷側440 mmを目安に貫通距離を考えるとよいので, Stalingradの場合はだいたい17 km台になるかと思います. ほかの大巡砲は15 kmで350 mm程度という, 着弾時間の場合と同様に似た値を取ります. 米305 mmの重量砲弾は結局のところ低初速で打ち消されて貫通力に効かないのが悲しいところです. 

 大巡砲の精度は特殊散布界により, 水平散布界で高精度なほうから 駆逐 (-12~-4%) < 巡洋艦 < Azuma (8~20%) < Spee (18~25%) < Tallinn (29~26%) < 米戦 (57~52%) となります. 垂直散布界に関してパラメーターの違いはなく, 水平散布界にそのまま比例します. StalingradのSpee散布σ2.65については, おおむね巡洋艦散布の1割悪化と考えれば大丈夫だと思います. また, 独大巡Siegfried, 仏大巡Carnotには巡洋艦通常の散布界が適用されます. 

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表 3. 水平散布界

 垂直散布界についてはTTaro氏による以下の記事に記載があります. 

kawaii-14.hatenablog.com

 

4. 超重巡

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表 4. 超重巡砲の諸元

 超重巡砲とは口径234 mm以上283 mm未満の砲を指します. APは16 mm以下の装甲に跳弾されず, 英軽巡と駆逐砲巡の艦首・艦尾を縦抜きできます. 

 砲弾ダメージに関しては英234 mm砲がHEダメージと火災率の優遇, Napoli砲が火災率の冷遇を受けます. 英234 mm砲にはHE貫通力の優遇もあり, 口径1/4ルールに従い57 mm以下までを貫通します. ソ連戦艦以外の同格戦艦とソ重巡の表面50 mmに貫通弾を出せるので, とりわけ後者はクラン戦で重宝するところでしょう.

 着弾時間に関しては伊Napoli(T10) 搭載254 mm砲と蘭Johan de Witt(T9) 搭載240 mm砲が類似した性能で15 km 7.8 ~ 8.0 秒, Henri IV砲は弾種に応じて大きな差があり8.5 秒(AP), 9.0 秒(HE)と続きます. 貫通力についてはTier10巡相手ならば200 mm程度で十分で, 英234 mm以外は敵巡の角度次第ですが全距離で防郭貫通を狙えます.

 英234 mm砲の弾速は低速重巡砲に類似しており, 15 km貫通力197 mmは高速重巡砲と同程度になります. 

5. 重巡

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表 5. 重巡砲の諸元

 重巡砲とは口径191 mm以上234 mm未満の砲を指します. ソ重巡220 mmは超重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. また, 残りの口径203 mm重巡砲についても, 弾道特性に応じて高速砲と低速砲に分類して解説します. 

5.1. ソ重巡220mm砲

 主砲口径220 mm砲のソ連巡洋艦は3隻実装されていますが, すべて性能の異なる主砲を搭載しています.

 ソ巡第2ツリーのRiga(T9), Petropavlovsk(T10)搭載砲には特殊仕様が適用されます. 火災率冷遇, 散布界冷遇(Azuma仕様), 跳弾優遇(開始50度, 確定65度)のほか, 垂直散布界が遠距離で悪化します. 補足ですが, ソ巡第2ツリーTier8のTallinnとは散布界の仕様のみ異なります.

 Petropavlovskは15 km着弾時間が全艦艇最速の6.84 秒, 貫通力も戦艦クラスという驚異的な性能を誇ります. RigaおよびMoskvaのAP性能はよく似たもので, 貫通力は超重巡クラスの上限付近です.

5.2. 高速203 mm砲

 15 km着弾時間が7 秒後半から8 秒台の203 mm砲です. 独203 mm砲とHaarlem(T8)砲の弾道性能は一致します.

 砲弾ダメージに関してはZao砲が日巡としてのHEダメージおよび火災率の優遇, そして独203 mmが独巡としてのHEダメージおよび火災率の冷遇とAPダメージの優遇を受けます. Haarlem砲はオランダ国籍のため独巡の基準は適用されないにもかかわらず, 火災率が独巡にさえも劣る謎の冷遇を受けています. また, 独203 mm砲はHE貫通力の優遇を受け口径1/4ルールが適用されるため, 大巡と同様に50 mmを貫通可能です. 超重巡砲のところで紹介した英234 mm砲と共通点が多く, まとめてHE高貫通重巡砲として扱ってもよいかもしれません.

 Zao砲と伊203 mm砲は15 kmにそれぞれ8.3, 8.0 秒で到達する高速砲です. 貫通力も210 mm程度と重巡最高クラスであり, 同格巡洋艦の防郭を15 km程度から狙えます. 独203 mmおよびHaarlem砲がこれらにやや劣るものの, 弾速と貫通力はいずれも重巡砲としては優秀な部類に入ります.

 精度についてはHaarlem砲にSpee散布が適用されています. 高Tier蘭巡は散布界や火災時間(60 秒), そして重巡標準を上回る表面装甲(30/40 mm)など, 大巡の性格を強く帯びているようです. また, Zao砲には駆逐散布界が適用され, 巡洋艦通常よりも高精度です.

5.3. 低速203 mm砲

 15 km着弾時間が9 秒以上の203 mm砲です.

 仏巡203 mmの区別についてですが,  高Tier仏巡で前期砲(仏203 mm/50)を搭載するのはMartel(T8)初期に限られ, Martel後期, Saint Louis(T9)は後期の仏203 mm/55を搭載します.

 米重巡砲はAP弾の性能に差があり, 経緯は省略しますが高TierではWichita, Anchorageが通常砲弾のほかはすべてSHS(Super Heavy Shell)のAP弾を搭載します.

 日203 mmと英203 mmにいつもどおりのHEダメージ, 火災率の優遇があるほかは, すべて通常仕様の砲弾が並びます. 英203 mm HEは通常の1/6ルールが適用されます. 英234 mmとの混同に要注意です.

 初速はすべて900 m/sを下回り, 高速重巡砲との違いがはっきりと現れています. 着弾時間は仏巡の後期と前期砲, 日英, そして米重巡砲(HE性能は単一)の順に並びます. 仏巡砲2種の性能差は砲身の延伸に伴う単純な初速向上によります. 米重巡砲が搭載するAP弾には通常砲弾とSHS砲弾の別があり, 前者はHE弾より5%以上速く日巡砲と同程度, 後者はHE弾と同程度の弾速になります. 米重巡通常砲では弾種に応じた弾道の違いが非常に大きくなるため, 実戦では要注意です.

 貫通力では米203 mm SHSが頭ひとつ抜けていて, 重量2割増という超重量弾の貫通力は高速重巡砲に並びます. その他は15 km地点で150 mm程度というよく似た値を取り, 国籍ごとの違いはありません. 高Tier巡洋艦の舷側装甲は120 mm程度から200 mmを超えるものまで様々であり, 貫通力がその範囲に収まる低速重巡砲のAPを扱う際には同格巡洋艦の舷側装甲に関する知識が役立ちます.

 精度に関してはZaoと同様に日本203 mm砲が駆逐散布界に従い優遇を受けます.

 最後に跳弾優遇をまとめます. 通常は跳弾開始が入射角45度, 跳弾確定が入射角60度のところ, 米重巡砲2種いずれも開始60度, 確定75度という巡洋艦では最高クラスの性能が設定されています. SHS優遇というより, 米重巡砲全体の優遇として把握するほうが正確です. 

 

6. 軽巡

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表 6. 軽巡砲の諸元

 軽巡砲とは口径149 mm以上191 mm未満の砲を指します. ソ軽巡180 mm砲は重巡砲に近いAP貫通力を持つため別枠で扱います. 

6.1. ソ軽巡180 mm砲

 ソ連180 mm砲の共通点として, 貫通力と着弾時間は高速重巡砲に準じます. ただし, Tallinn砲の貫通力は超重巡砲の下限程度という比較的高い数値を取ります.

 ソ連180 mm砲の3系統を以下にまとめます.

第1ツリー型: Donskoi(T9), Nevsky(T10). 巡洋艦通常の仕様. 
第2ツリー型: Tallinn(T8). ソ巡第2ツリー仕様. 
中間型: Bagration(T8P). HE性能は第1ツリー型, AP性能は第2ツリー型に近い. 散布界は通常仕様.

 DonskoiとNevskyの違いは初速にあり, 砲身の延伸(57口径から65口径)に伴って弾速と貫通力が改善されています.

 Tallinn砲はソ巡第2ツリー仕様に従い, 火災率冷遇, 散布界冷遇(Tallinn), 跳弾優遇, 垂直精度の遠距離悪化という特徴を持ちます. 繰り返しになりますが水平散布界はTier9以降と異なり, Tallinnのほうが低精度になります.  

 Bagrationの仕様はかなり難解なため, HE性能とAP性能に分けて詳述します. HE性能は第1ツリーと一致しており, 火災率冷遇を受けません. AP性能は第2ツリーに類似しており, Tallinnと同等の着弾時間とやや劣る貫通力を発揮します. 跳弾優遇は第2ツリー型からさらに強化されています. 散布界は冷遇を受けず, 水平・垂直とも第1ツリー同様の巡洋艦通常仕様です.

6.2. 軽巡砲(150 ~ 155 mm)

 英軽巡152 mm砲にはMinotaurなどの防空巡洋艦のみが搭載するMk15および16, そしてその他の大多数が搭載するMk13という2種類があります. 前者のほうが重量低初速なので着弾は遅く, APダメージはわずかに高くなります. 跳弾優遇は変わりません.

 米軽巡はWorcester(T10)のみが異なる砲を搭載しています. 砲弾重量および初速は一致しており, 弾道の違いは隠しパラメーターの抗力係数に起因します. 両者の着弾時間の違いはごく僅かなものです.

 砲弾ダメージと火災率に関しては独巡Mainz(T8P)がHEダメージおよび火災率の冷遇, APダメージの優遇を受けます. Mogami(T8)は日巡としてダメージの優遇を受けますが, 火災率は例外的に冷遇されています. 高TierではBelfast’43のみが搭載する英軽巡砲(T8P)はHEダメージ優遇と火災率冷遇を受けます.  英軽巡砲HEの仕様の詳しい経緯については総論編3.6節をご覧ください.

 Mogamiの不思議な仕様の理由は2015年の仕様に遡ります. 当時の戦艦表面は25 mmに設定されており, かつ装甲厚と貫通力が等しければ不貫通と判定されたため(現在では貫通判定), 軽巡通常の152 mm砲(1/6ルールで貫通25 mm)では戦艦に対して貫通弾を出せませんでした. 一方で, Mogamiは口径わずか3 mmの差ですが25 mmに貫通弾を出せるため, 152 mm砲とのバランスという観点から低い火災率が設定されたものと推測されます.

 Tier9,10の軽巡は弾速の遅い米英の2か国に限られるため軽巡砲すべてが低速と誤解されやすいですが, Tier8には比較的高速な軽巡砲を搭載する艦艇が多く存在します. ソ軽巡(Chapayev, Kutuzov), Mainzが低速重巡砲と遜色ない9 秒台, 日巡Mogami, 蘭巡Provincien, 仏巡Bayardが10 秒台と続きます.

 余談ですが, Mainz砲は独巡ツリー150 mm砲と砲弾ダメージこそ共通ですが弾道はまったく異なります. この件については, 補遺で弾道パラメーターを踏まえながら詳述する予定です.

 AP貫通力に関しては15 kmで100 mm以下, 10 kmで120 mm程度が相場で, 舷側装甲がおおむね120 mmを上回る高Tier巡洋艦に対して防郭貫通を狙うのはかなり厳しくなります.

 IFHEの必要性については各論後編で触れます. 

 

7. 駆逐砲

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表 7. 駆逐砲の諸元

 駆逐砲とは口径148 mm以下の主砲を指しますが, 実装済みの口径は127 mmおよび130 mmのみに限られます.

 米巡AustinはSAP弾とHE弾という珍しい組み合わせを搭載しています.

 弾速は軽巡砲に匹敵する米巡Austinおよびソ巡Smolensk, そして超低速の仏巡Colbertと2種類に大きく分かれます. AP貫通力は10 km地点でなお100 mmを切り, 有効打の機会は接近戦のみです. 

 

謝辞

 前回の記事に続き, じーふぉーさん(@G4H4CK256)に校正を手伝っていただきました. ありがとうございました. 

 記述の誤りがあれば, twitter(@warabi99_wows)までお願いします.

【未実装艦艇】十三号型巡洋戦艦の性能予想

本記事に記載される予想性能はゲーム内のものとは無関係です. 

1. 企画の経緯

 事の発端になったじーふぉーさんの日戦ツリー予想記事では, 日本巡洋戦艦ブランチのTier10にいわゆる十三号型ではなく, 46cm砲10門搭載の拡大案が採用されていました. 本人に十三号型を採用しなかった理由を聞いたところ, 十三号型はTier10ツリー艦艇として排水量(HP)が足りなかった, Amagi(Tier8)以降10門艦の流れを作りたかった, 以上の2点とのことでした. 

g4h4ck256.hatenablog.com

 自然な流れで「十三号型をいかにしてTier10に実装するか」という話になり, それなら2人で案を作って比較してみるのはどうかとこの企画が持ち上がりました. じーふぉーさんは和製Ohio, 私の案は和製ThundererとSlavaという構想が性能予想の出発点になっています.

 じーふぉーさんの案は下記の記事をご覧ください. 私の案の基本的な艦艇設計もこちらに倣います. 

g4h4ck256.hatenablog.com

2. 史実の計画経緯

 日露戦争後の日本海軍は「艦齢8年未満の戦艦8隻と巡洋戦艦8隻を主力とする」戦力構想を持っており, その最終計画にあたるのが十三号型巡洋戦艦, あるいは八号艦型です. 天城型の41cm10門から46cm8門へ主砲口径を拡大したうえ, 装甲防御の改善が予定されていました. 全4隻の建造が予定されていたものの, 1921年ワシントン海軍軍縮条約で全艦の建造中止が決定しました. 

3. 実装性能予想

 細かい思考過程は後ほど説明するとして, 性能予想を先に提示します.

 遠距離での引き撃ちに強い460mm砲搭載戦艦というのがメインコンセプトで, ほかに貧弱な耐久やAmagiに似た装甲配置, 消耗品「緊急エンジン出力」を特徴にしています. 高速かつ高精度の460mm砲は同格の戦艦や巡洋艦にとってかなりの脅威になるはずです. 

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表 1. 十三号型の予想性能

4. 基本性能の決定

 未実装艦艇の性能予想では実装Tier, 継戦能力(HP), 速力, そして主砲弾道を真っ先に決めます. HPと速力は実際の艦艇の設計から決まるため性能調整でも動かしづらいこと, そして主砲弾道は艦艇の性格を決定づけることが理由です. 

4.1. 実装Tier

 46cm砲搭載艦艇なのでTier9または10が妥当ですが, この企画の経緯を踏まえてTier10で考えてみます. 

4.2. 継戦能力(HP)

 HPは満載排水量と密接な関係があり, 戦艦は以下の式に従います. ただし今回の十三号艦(以下, 本艦艇)は満載排水量のデータがなく, 常備排水量47,500 tという数値から満載排水量を推定する必要があります. 今回は類似の天城型 (常備41,200 t, 満載47,000 t) から, そのまま比例計算で54,200 tと決めました. HPは75,200になり, Tier10艦艇としては明らかに少ない印象です. 

4.3. 速力

 基本性能そのまま, 30 ktで決まりです. ただし, エンジンブーストなどの消耗品で間接的に変更することもできます. 

4.4. 主砲弾道

 砲弾重量はおおむね1,360kgで決まっていたようですが, 初速には850m/s, 820m/sという2種類の案があり, 今回は後者を採用しました. また, ゲーム内の弾道に影響する2種類のパラメーター, 抗力係数(drag coefficient)とKrupp値は日本戦艦のうちTierが近いYamatoとIzumoの設定値を参考にして, 抗力係数0.3, Krupp値2,574と決めました.

 ちなみに抗力係数が小さいほど砲弾は空気抵抗を受けづらくなるため, 着弾は速く, 貫通力も上昇します. また, Krupp値を上げると貫通力は上昇しますが, 弾道はまったく変わりません.

 下記のサイトで計算した弾道性能を以下に示します. 貫通力は457, 460mmクラスのなかでも比較的高く, 着弾時間もYamatoやShikishimaより速いのは当然として, Republiqueさえも凌ぐ高速弾です. 本艦艇を上回る高速弾を放つTier10戦艦はSlava, そして本実装が間近なSchlieffenのみに限られます.  

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表 2. 代表的なTier10戦艦のAP性能

jcw780.github.io

初速の出典 (平賀デジタルアーカイブ)
820 m/s案, 850 m/s案

4.5. 砲弾ダメージ

 ついでに砲弾ダメージも推定しておきます. 大和より砲弾がやや軽いためHEダメージと火災率は低下します. APダメージも同様に低下しますが, 初速が大きいため低下量はHEに比べて僅かです.

 装填30秒と仮定した場合, 本艦艇の投射量は大和の12%減になり, 門数が減少したぶん火力も低下しています. 詳細な装填時間については, 主砲の他の性能を決めてから考えることにします. 

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表 3. 砲弾ダメージ

 砲弾ダメージは巡洋艦のものを流用していますが, 適用範囲を超えた補外の計算になるためYamatoの砲弾データによって校正しています. いずれ戦艦と巡洋艦を包括した回帰式を計算するつもりなので, そのときに再計算するかもしれません. 

warabi99-wows.hatenablog.com

5. 防御・生存性の決定

 低HP, 高速46cm砲という基本的な方向性が見えてきました. 耐久性についてさらなる情報を得るため, 次は装甲防御について探ってみます.

 計画では概略として舷側12 inch (305 mm), 甲板4.5 inch (114 mm)とされていましたが, 類似の艦艇と比較しながら細部を詰めていきます. 天城型の正当後継なので, 船体内部の装甲配置の特徴は引き継がれると考えるのが自然です. ただしゲーム内のAmagiはWGによる近代化を受けた姿なので, 本艦艇でも計画そのままではなく同様の改修を想定する必要があります. 

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図 1. 天城型および十三号型の装甲配置 (概略図)

5.1. 類似艦艇の装甲配置

 Amagiの旧初期船体にあたるAhitakaは天城就役当時(?)の姿を再現しているはずで, こちらの装甲配置をまず見てみます. 船体中央部の舷側には傾斜がほぼない主装甲254 mm, そして奥には30度外傾した重要区画スロープ70 mmがあります. 甲板は26(表面) + 95(中甲板) + 22/48(弾薬庫)となっていて, 史実でいう甲板3.75 inch (95 mm)というのは2番目の水平装甲を指すようです. 続いて末端部を見ると26 mmはTier相応の最低値ですが, 229 mmの水線部装甲が主装甲を引き継ぐように推進軸を守ります.

 Amagiの舷側装甲はバルジ32 mmが主装甲254 mmを広く覆い, 防郭スロープは95/102 mmに増厚されています. 中央部甲板は32 (表面) + 95(中甲板) + 70/114(防郭), そして艦尾水線部は254 mmです. 改装(?)では舷側主装甲と主甲板は変更されませんが, 船体内部のスロープや防郭甲板防御が改良されています. 特筆すべきは甲板で, 防郭まで合計197 mmにも及ぶ重防御を与えられています. 

5.2. 本艦艇の装甲配置

 本艦艇の舷側防御は32 (バルジ) + 305 (主装甲) + 70 (防郭スロープ, 外傾30度)とします. バルジについてはKiiが船体外部に装備していないため悩ましいところではありますが, 今回はAmagiの性格を引き継ぐことを優先しました.

 防郭は垂直換算451mm程度でTier10相応の防御はあるものの, 舷側305 mmの主装甲を貫通された時点で船体に貫通弾が侵入するため戦艦APに対する防御能力は低めです. 45°まで傾けてようやく舷側実質420 mm程度であり, これでも同格戦艦砲が刺さります. 装甲で受け止めるのではなく防御姿勢で跳弾を狙うのが合理的でしょう. 艦尾水線部まで装甲帯が伸びているのもAmagi同様の強みです.

 甲板は32 (表面) + 114 (中甲板, 舷側主装甲上縁と接続) + 70/114 (防郭, スロープから接続)とします. 舷側主装甲から侵入した砲弾は防郭甲板かスロープに必ず入射することになり, 防郭内部まで届く可能性を減らすことができます. また, 舷側上部からの貫通弾は中甲板114 mmに受け止められて, 防郭への侵入はほとんど不可能です. Ashitakaの場合, 舷側水線部から同様の軌道をたどった砲弾は極めて薄い防郭甲板22mm (機関部)を叩きます. 船体内部の細かい差異に見えますが, 防郭貫通のリスクは雲泥の差です.

 AP爆弾への耐性を決める甲板防御は合計216 mmまで増加していますが, これでも同格のAP爆弾を完全に防ぎ切ることはできません. 舷側主装甲よりも幅の広い甲板防御にこれほどの防御力を求めるのは酷な気もします.  

 次に表面装甲ですが, 今回はAmagiそのままに高Tier戦艦最低値の32 mmを適用します. 重巡および軽巡IFHEのHEが刺さるため, HE耐性は非常に低くなります. かつてIzumoが甲板32 mmから57 mmにbuffされたように, 今回は採用しませんが本艦艇の甲板を57 mmに増加させれば低HPを補う策のひとつになりうるとは思います. 

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表 4. AP爆弾の貫通力 (出典: reddit)

5.3. 修理班(回復)

 生存性の直接的な強化はしない方針なので, 通常仕様の修理班を採用します. Azumaのように準備時間の短い修理班を搭載するアイデアも面白いと思います. 

5.4. 水雷防御

 天城と同水準に設定します. Kiiはバルジがないので水雷防御も低い値に留まっていますが, 本艦艇はAmagi同様に巨大なバルジを装着する予定です. 

6. 主砲性能の完成

 耐久という欠点を補うのではなく, 長所である主砲をさらに伸ばすような方向性を探ってみます. 主砲性能の空欄をすべて埋めます. 

6.1. 主砲精度

 主砲をなるべく強化するという方向性なので高精度散布界を検討するわけですが, 日戦には既に敷島散布というぴったりな実装例があります. 日戦通常よりも9%程度散布界が小さく, 精度はThundererなどのSpee散布界に近いものです. 日戦の垂直散布は特殊な仕様なので, 未だに日戦に実装例のないSpee散布界を採用する際には垂直散布を通常仕様にするか, それともやや劣る日戦仕様にするかという問題が発生します. 敷島散布はもちろん垂直日戦仕様なので, この問題を回避できます. 

 σ値は2.0, Shikishimaにやや劣りますが感覚の差はほとんどないでしょう. 

6.2. 主砲射角

 砲配置が似ている金剛から取ります. 前方30度, 後方33度はAmagi (前37, 後35)より優秀です. 

6.3. 主砲旋回速度

 口径同じく460mm砲ですが3連装砲を搭載したYamatoの砲旋回速度は2度/秒と非常に悪く, 小刻みな転舵で防御姿勢を整えるという本艦艇の巡洋戦艦的特性には合いません. Amagiより若干速く, Izumoと同じ値である4.5度/秒を採用します. Yamatoの3連装よりも軽い連装砲塔はそのぶん速く回ってくれるだろう, というのが言い訳です. 

6.4. 主砲射程

 50口径46cm砲を搭載する次世代の主力戦艦として, 長い管制射程を期待されていたはずです. IzumoとYamatoの中間, 24.15 kmとします. 弾速が優秀なので, この最大射程も有効に活用できそうです. 

6.5. 主砲性能の総合評価

 主砲の4性能といえば弾速, 精度, 投射量, そして跳弾無視ですが, そのうち高速, 高精度, 跳弾無視の三拍子揃った主砲はゲームバランスを破壊する可能性をも秘めていて調整はなかなか難しそうです.

 Thundererが凶悪とされたのも強力なHE弾に由来する姿勢無視のダメージによるもので, 弾速はむしろ遅い程度ですが高精度と疑似的な跳弾無視, そして高いHE投射量の3つが揃っています.

 Slavaがそれなりの評価に収まっているのは高速, (超)高精度と2つだけ揃っていて, 残りの2項目を欠いているためであると推測できます. 散布界は20 km地点で同格の3割減を凌ぐ数値という凄まじいものがありますが, 反対に投射量はTier10最低というひどいものになっています. 

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表 5. Tier10戦艦の主砲性能

6.6. 装填時間(投射量)

 装填は30秒のまま決定します. 投射量不足の分は有り余る弾速と精度でカバーするので強化の必要はなさそうです. 

7. 機動性の決定

 速力は計画で既に決まっているので, 残りの旋回半径と転舵時間, そして速度を強化する消耗品について決めます. 

7.1. 転舵性能

 速力は計画どおり30 kt, 旋回半径はIzumoを参考にしながら旋回半径を若干長めにして910 m, 転舵時間は18.5秒と決めます. 高速のおかげでYamatoよりもかなり動きやすく, Tier10としては平均以上の機動性でしょう. Conqueror, Republiqueに近いです. 

7.2. 速度に関係する消耗品

 低HPを回復や装甲ではなく機動性で補うアイデアから, 消耗品「緊急エンジン出力」を採用します. エンジンブーストよりも効果時間は短いものの30%に達する速力上昇効果が特徴で, 戦場からすばやく離脱して得意の遠距離砲戦に持ち込むという活用方法を想定しています. ただし懸案事項は実装済みの採用例が欧駆のみに限られることで, 戦艦における前例はまったくありません. 

8. 補助兵装性能の決定

 残るは補助兵装, 副砲と対空砲について決めます. 魚雷は搭載しません. 

8.1. 副砲性能

 Amagiは14cm副砲16門に127mm対空砲16門, Kiiは14cm副砲8門に長10cm対空砲16門という構成です. Kiiはおそらく改装時に副砲を減らして対空砲を増設したという設定でしょう.

 本艦艇はKiiに準じる副兵装を採用し,  14cm副砲8門に長10cm対空砲16門です. 射程はTier9, 10通常の仕様ですが, 長10cm砲を中心とした副砲群はDPMが344kとなかなか頼りになりそうです. ただし, そもそも艦艇の耐久が低いので副砲特化との相性はあまりよくなさそうです. 

8.2. 対空砲性能

 長10cm砲は爆発数が非常に多く, 1門あたりDPSも非常に優秀です. 12.7cm連装高角砲を採用した場合, バブル数と長距離継続DPSがおおむね半減します. 以下に高Tier日本大型艦の長距離対空砲データを示します. 本艦艇では爆発数をYoshino, 1基あたり継続DPSは23.8として性能を決めました. 

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表 6. 日本艦艇が搭載する長距離対空砲の性能

 次に機銃についてですが, 日本戦艦の中近距離対空には25mm機銃を中心にしたパターン, 40mm Boforsと25mm機銃の混成で構成されるパターンの2通りがあります. 後者はShikishimaとKiiに限られ, ともに長距離を担当する長10cm砲と組み合わされています.
 40mm Boforsと25mm機銃の違いとしては担当エリア(medium vs near), 対空射程(3.5 km vs 2.5 km), 1門あたりDPS(9.1 vs 3.0)というように, 圧倒的な性能差があります. ただし細かい話になりますが, 40mmを搭載する艦艇の25mm機銃の継続ダメージは若干低め(2.1 – 2.2)に設定されているようです. 

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表 7. 40mm Bofors(日本)の性能

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表 8. 日本艦艇の対空機銃性能

 今回はKiiではなくAmagiの対空性能を引き継ぐ意味で, 25mm機銃を中心に中近距離の対空を構成します. AmagiやIzumoを参考にしつつ, 25mm機銃108門を搭載することにしました. 門数あたりDPSは最大に近い3.01を採用します.

 結果として得られた対空砲のデータを, Tier10戦艦の一覧とともに以下に示します. 爆発ダメージはやや優秀ですが, 継続ダメージは中距離対空を欠いている影響で同格に劣ります. 

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表 9. Tier10戦艦の対空性能

9. 隠蔽性の決定

 本艦艇は長距離砲戦をメインに戦うため, 隠蔽は最後に決めます. もし副砲など近接戦に強みを見出だす艦艇であれば, 副砲や主砲精度と同じ段階で決めてしまうのが分かりやすいと思います.

 高Tierの日本戦艦は素の被発見距離が17.19 – 18.00 kmの狭い範囲に収まり, 艦艇規模の影響はあまり受けないようです. 本艦艇の得意な交戦距離である遠距離では隠蔽距離がダメージ収支に直接影響するわけではありませんが, 不得意な中近距離砲戦を避けるにあたっては隠蔽距離が必要になります. Tier10に不相応なほど船体が小柄であることを考慮すれば多少は高隠蔽に寄せても怒られないはずで, Amagiより5%短い16.41 kmに設定してみます. 最短で12.90 km, 日戦のなかでは優秀な数値です.

 航空発見距離はどうやら船体規模の影響を受ける気配があるので, 11.49 km, 最短で9.03 kmというそれっぽい数値にしておきます.

 煙幕内発砲の発見距離は設定したところで意味がないので飛ばします. 

10. 艦名の決定

 いよいよ未実装艦性能予想の仕上げとして, 艦名の決定に移ります. 本艦艇は巡洋戦艦として建造されており, 前例を踏まえると艦名は山岳名から選ばれるはずです.

 今回はなるべく前例のある艦名から, 天城型と同じく頭文字は「あ」で揃えてみます.

浅間: 長野県と群馬県の境にある活火山. 艦名の前例は装甲巡.
朝日: 北アルプスの北部にある朝日岳から. 艦名の前例は戦艦だが, 日本国の雅名であり山岳名ではない.
赤石: 前例なし. 赤石山脈(南アルプス), またはその中心部に位置する赤石岳から. 
阿蘇: 熊本県の巨大カルデラを伴う活火山から. 前例は装甲巡. 雲龍型空母の艦名予定にも挙がっていた.

 ネームシップは浅間とします. 

出典・参考

 各種データは以下のウェブサイトを参考にしました. 

装甲配置

gamemodels3d.com

弾道

jcw780.github.io

対空砲性能

wowsft.com

艦艇性能 (HP, 副砲, 対空砲など)

wiki.wargaming.net

史実の艦艇性能

iiif.dl.itc.u-tokyo.ac.jp

謝辞

 以下の方々にご協力をいただきました. 敬称は省略します. 
じーふぉー(@G4H4CK256): 企画, 史実情報, 装甲配置, 記事の校正など. 
TTaro(@TTaro_): AP航空爆弾の貫通力. 
珊瑚(@Coralsea017): 艦艇名の選定. 

高Tier巡洋艦の主砲を概観する 総論編

1. はじめに

 私が砲弾性能を調べ始めた動機は, 未実装艦艇の性能予想でした. 4年ほど前にとある方が架空艦コンペなるイベントを定期的に開催してくれていて, 私は発表のネタを練るために巡洋艦の主砲性能を片っ端から調べていました. 当時はまだ実装されていなかった超甲巡, 英重巡も題材に挙がった記憶があります.

 このようなケースは珍しいもので, 主砲性能の知識を実戦に活用したいという実用上の観点から興味を持たれる方がほとんどでしょう. この記事を読んだからといって魔法のように性能を覚えられるわけではありませんが, 少なくとも退屈なデータ集めに時間を使わずに済みます. 着弾時間やAP貫通力など, 弾道計算が必要な砲弾性能をこれほどの規模でまとめた記事は珍しいのではないかと思います.

 この記事ではTier8以上の巡洋艦が搭載する主砲を網羅して, 性能の解説を行います. 巡洋艦のツリーそのものの解説は省略しますが, マイナーな艦艇, とりわけツリー外の艦艇については国籍やTierについて括弧書きを加えるつもりです.

 この記事は3部構成です. まず総論として巡洋艦主砲を口径による分類と, 砲弾性能のおおまかな傾向を把握します. 各論では口径およびTierごとに, さらに詳細な性能について紹介します. 補遺として弾道計算の方法や弾道の隠しパラメーター, 砲弾ダメージの回帰計算についても補足する予定です.

 最初に解説文を読むのではなく, 各節の冒頭にある数表や解説図を見てもらうのがよいと思います. 細かい数字を暗記するのではなく, 大まかな傾向を掴みましょう. 性能は攻撃性能と防御性能の噛み合わせで決まるので, 例えばHE貫通力であれば戦艦や巡洋艦の表面装甲, AP貫通力であれば同格巡洋艦の舷側装甲と比べるのが合理的です. また, DPM(分間ダメージ)はダメージレースで競合する同格巡洋艦のDPMが比較対象になります.

 前置きはこのくらいにして, 高Tier巡洋艦の主砲一覧を置いておきます. この記事の存在意義の半分以上はこの表そのものにあります. さすがに項目が多すぎて目が回ると思うので, そのためにこれから数回に分けて解説していきます.

表 1. 高Tier巡搭載砲の一覧

2. 口径に関連するゲームシステム

 この記事では, 主砲を口径に応じて分類しますが, その根拠は口径に関連したゲームシステムにあります. 以下5つの項目について解説します.

表 2. 口径に関連するゲームシステム

2.1. 高Tier巡洋艦の船体表面

表 3. 高Tier巡洋艦の船体表面

 巡洋艦の船体表面は搭載砲の口径に従って決まります. 主砲の話なのに最初に防御の話から入るのは違和感があるかもしれませんが, 次節のHE貫通力の話にさっそく関連するのでとっても重要です.

 軽巡重巡の船体は最低25mmが保証されており両者の差は舷側上部だけ, そして駆逐砲巡は艦末端も中央も明らかに低いと覚えておけば大丈夫です. さらに重要な例外としてソ重巡の中央50mmを抑えておけば十分です. 国籍によって異なるものの, 日本以外の大巡には艦中央の表面になにかしらの優遇があります.

2.2. HE貫通力

 HEの貫通力は口径の1/6を四捨五入した値になり, 貫通力が装甲厚と等しいか上回れば貫通します. 優遇の1/4ルールは独巡, 英234mm砲に適用されます. 英重巡203mm砲は通常の1/6ルールに従うので注意してください. また, 独巡と共通の主砲を搭載する蘭巡には通常の1/6ルールが適用されます.

 軽巡砲には1/6ではなく1/5ルールが適用されますが, これはTier10巡表面30mmの貫通を保証するシステムとして理解するとよいでしょう. 対照的に, 駆逐砲は保証を受けません.

 高Tier戦艦の船体表面最低値である32mmを貫通可能になるのは重巡砲以上であり, 軽巡砲以下が貫通弾を出すためには艦長スキルの榴弾用慣性信管(IFHE)が必要になります. ただし, Mainz(Tier8独巡)が搭載する独150mm砲は1/4ルールの優遇のため32mmを貫通可能です.

 ソ重巡と独戦の表面50mmがもうひとつの目安で, 大巡砲のほかに独203mm砲, 英234mm砲が貫通可能です.

2.3. AP跳弾無視

 口径の1/14.3を下回る装甲に対してはAPの跳弾が発生しないため, 敵艦の姿勢に関係なく貫通弾を与えることができます. 超重巡砲は16mm, 大巡砲は19mm以下に跳弾無視が発生します. 駆逐砲巡および英軽巡が標的の場合に重要で, Henri IV(口径240mm)のAPがMinotaur(英軽巡Tier10)の天敵という話は聞いたことがあるかもしれません.

2.4. 駆逐10%ダメージ

 口径283mm(大巡)以上のAP弾は, 駆逐に対して貫通弾1発のダメージが最大ダメージの10%でキャップされます. 大巡砲に適用される冷遇です.

2.5. 艦長スキル

 主砲口径に応じて効果が変化する艦長スキルが2種類あります.

榴弾: HEおよびSAPのダメージ+10%だが, 口径149mm(軽巡砲)以上で被発見+10%のペナルティー.
徹甲弾: 口径190mm(重巡砲)以上ならば, APダメージ+5%.

3. 口径ごとの基本性能

3.1. 口径ごとの標準的な性能

 米艦艇の搭載砲には通常仕様が適用されているため, 口径に応じた砲弾性能の基準として活用できます.

表 4. アメリ巡洋艦搭載砲の性能

3.2. HEダメージ

 口径で決まり, 砲弾重量の影響はほとんどありません. ただし, 同じ口径ならば砲弾が重いほどダメージが大きくなる傾向はあります. 優遇は日巡および英重巡の一部, 冷遇は独巡です. 英重巡については後ほど別の節で詳しく解説します.

 HEダメージの暫定的な予測式を貼っておきます. いずれ戦艦砲, 駆逐砲も含めた傾向を探ってみるつもりです. もし実装済みの主砲のなかで同じ口径のものがある場合は, そちらを参考に決めたほうがおそらく正確です.

3.3. HE火災率

 口径に応じて決まりますが, 例外があまりにも多いので各論で解説します. 優遇は日巡と英重巡の一部, 冷遇は独巡, ソ巡第2ツリー, 蘭巡です. HEダメージの優遇・冷遇と共通する部分も多くあります.

 未実装砲の火災率を決める際には, 類似した口径から推測するのが合理的だと思います.

3.4. APダメージ

 砲弾重量と初速で厳格に決定されます. 優遇は独巡のみです.

 巡洋艦の例ではないものの, かつてKremlin (Tier10ソ戦)のAPダメージが弱体化を受けた際に砲弾重量も低下していることが確認されています. 砲弾重量および初速とAPダメージの整合性はかなり高いようです.

表 5. KremlinのAP性能 (nerf前後)

 巡洋艦主砲のAPダメージの予測式を貼っておきます. こちらはわりと信用できると考えていますが, いずれ戦艦砲も含めて傾向を探ってみる予定ではあります.

3.5. 弾道性能(AP貫通力, 着弾時間)

 AP貫通力や着弾時間といった弾道性能を決めるパラメーターには公開のものと非公開のものがあり, 前者は口径, 初速, 砲弾重量, 後者は抗力係数, Krupp値が該当します.

 着弾時間は初速の影響を大きく受け, そして砲弾重量(厳密には砲弾断面積あたり重量)が大きいほど砲弾は飛翔中に減速しづらくなります. AP貫通力は着弾時の弾速と砲弾重量(これもまた厳密には砲弾断面積あたり重量)で決まるため, 2つの弾道性能を改善するには主砲口径を拡大するか, 砲身を伸ばすかしかありません. 口径と口径長を変えない限りは, 砲弾重量と初速のトレードオフから逃れることはできません. 砲身長に関して, 巡洋艦砲では50-55口径, 戦艦砲では45-50口径が一般的です.

 しかしながら現実の砲には物理的な制約がかかります. 例えば日本45口径46cm3連装砲を製造するためのインゴットは当時の日本の金属加工技術で限界ギリギリのサイズでした. また, 当然ながら長砲身ほど砲塔重量がかさむため, 排水量とコストの増加につながります.

 砲弾の発射に使用する火薬量を増加させれば初速も改善しますが, 砲身にかかる圧力も増加するため砲の内部に高い負荷がかかります. 耐えられなければ砲身破裂, 耐えたとしても砲身の摩耗がきわめて早く進行します. 実例として, 日本の長10cm砲は65口径の長砲身で1000m/sの高初速を達成した傑作砲ですが, 砲身命数(砲身交換が必要な発射回数)は12.7cm連装高角砲の半分以下に悪化しています. 発射時にかかる圧力は3,050 kg/cm2で, 12.7cm連装高角砲の2,500 kg/cm2 から大きく上昇しています. 巡洋艦砲に話を戻すと日本20.3cmでは3,130 kg/cm2, 最上砲(15.5cm)に至っては3,400 kg/cm2にも及びます. 戦間期における工業力の着実な進歩を感じる数字です.

3.6. おまけ・英巡HEの狂った性能設定

図 1. 英巡主砲HEの経緯

 英巡でHEを射撃可能な砲は234mm砲, 203mm砲, そして152mm砲の3種類ありますが, そのうち後の2つに関しては砲弾重量, 初速, そして弾道性能が全く一致しているにも関わらずHEダメージの異なる2種類の主砲が存在します.

 英巡のなかで最初にHE弾を搭載したのは2015年4月に実装されたBelfast (Tier7)で, 火災率の冷遇が特徴でした. 1か月後に実装されたPerth (Tier6, 英連邦)もまったく同じ性能が設定されていました.

 その後しばらく空いて2019年2月に初の英重巡であるExeter (Tier5)が通常仕様の重巡砲HEとして実装され, このとき未実装である英重巡ツリーにもこの通常仕様が引き継がれるものと期待されました. しかし1年後の2020年2月に実装された英重巡ツリーは日巡並みのHE優遇を受けており, ここで英重巡砲のまったく同じ砲弾に2種類のHEダメージが存在する事態になりました. なお, ツリーと同時実装されたLondon (Tier6)は通常仕様, なぜか律儀にExeterの性格を引き継いでいます.

 2020年11月のBelfast’43 (Tier8)実装でついに英軽巡砲にも性能のダブルスタンダードが発生します. この砲は従来の軽巡砲から火災率の冷遇を引き継ぎつつ, 英重巡譲りのHEダメージ優遇も同時に受けるという奇妙な事態に陥っています.

 ゲームクライアント内には英軽巡ツリーに実装されるはずだったHE弾のデータが残っているようで, そちらでも英軽巡(非防空巡)のHEは2,100 (9%), Belfast砲と同じ性能が設定されています. また, 現在のバージョンではHEを射撃可能な艦艇が存在しない英防空巡152mm砲ですが, HEは2,200 (11%)と通常仕様に近いものになっています. この情報はじーふぉーさん(twitter: @G4H4CK256)に頂きました.

表 6. 未実装英軽巡HEの性能

 5年前に出ていた, Minotaurの性能リーク記事のリンクも貼っておきます. HE性能の記載があります.
thedailybounce.net

4. さいごに

 記述の誤りがあれば, twitter(@warabi99_wows)までお願いします.

転舵回避の汎用的解法

過去の記事では転舵回避の変位についてクロソイド曲線のフレネル積分を利用して導出したが, 今回は変位の時間に関するべき展開を仮定して同様の問題を解く. この解法は前回のそれよりも汎用性が高く, 減速転舵などのさらに複雑な挙動を示す回避まで適用範囲を広げうる可能性がある.

前回の記事:
warabi99-wows.hatenablog.com


艦艇の速力を  v _ {max} , 旋回半径を  R , 転舵時間を  T とおく.
艦艇の速度ベクトルを  \mathbf v _ {(t)} = \begin{pmatrix}
v _ {x(t)}\\
v _ {y(t)}
\end{pmatrix} とすれば, 旋回度  \omega t をもとに以下の式が成り立つ.

 \displaystyle
\mathbf v _ {(t + dt)} = 
\begin{pmatrix}
cos(\omega t \cdot dt) & sin(\omega t \cdot dt)\\
{-} sin(\omega t \cdot dt) & cos(\omega t \cdot dt)
\end{pmatrix}
\mathbf v _ {(t)} \quad \cdots (1)

ただし旋回度  \omega t とは時間あたり速度ベクトルの角度変化であり, 

 \displaystyle
 \omega t = {\displaystyle\frac{v _ {max} } {RT}} t
として表される.
舵が切れていくのに対応して, 旋回度は時間の一次関数になる.  


(1)式を変形して,  \mathbf v _ {(t)} についての時間微分を導く.

 \displaystyle
\mathbf v _ {(t + dt)} - \mathbf v _ {(t)} = 
\begin{pmatrix}
cos(\omega t \cdot dt) - 1 & sin(\omega t \cdot dt)\\
{-} sin(\omega t \cdot dt) & cos(\omega t \cdot dt) - 1
\end{pmatrix}
\mathbf v _ {(t)}

 \displaystyle
\lim _ {dt \to 0} \frac{\mathbf v _ {(t + dt)} - \mathbf v _ {(t)}} {dt} = \lim _ {dt \to 0}
\begin{pmatrix}
cos(\omega t \cdot dt) - 1 & sin(\omega t \cdot dt)\\
{-} sin(\omega t \cdot dt) & cos(\omega t \cdot dt) - 1
\end{pmatrix}
\mathbf v _ {(t)}

 \displaystyle
\frac{d}{dt} \mathbf v _ {(t)} = 
\begin{pmatrix}
0 & \omega t\\
{-} \omega t & 0
\end{pmatrix}
\mathbf v _ {(t)} \quad \cdots (2)


ここで, 速度ベクトル  \mathbf v _ {(t)} が以下のように時間  t のべき級数で表せると仮定する.  

 \displaystyle
\mathbf v _ {(t)} = \sum _ {i=0} ^ {\infty} \frac { \mathbf u _ {i} } {i!} t ^ {i}
\quad \cdots (3)
 \mathbf u _ {i}とは2つの成分を持つベクトルであり, それぞれが  v _ {x},  v _ {y} t に関して  i 次の係数に対応する.
(3)式の時間微分を考えて, ここから係数  \mathbf u _ {i} を導く手がかりを得る.
 \displaystyle
\frac {d} {dt} \mathbf v _ {(t)} =  \sum _ {i=1} ^ {\infty} \frac { \mathbf u _ {i} } {i!} \cdot i \cdot t ^ {i - 1}
 \displaystyle
\frac {d} {dt} \mathbf v _ {(t)} =  \sum _ {i=0} ^ {\infty} \frac { \mathbf u _ {i+1} } {i!} t ^ {i}
\quad \cdots (4)


以下のように,  \frac {d} {dt} \mathbf v _ {(t)} が時間  t に関する1次式  \mathbf A t と速度ベクトル  \mathbf v _ {(t)} の積で表される場合を考える.

 \displaystyle
\frac {d} {dt} \mathbf v _ {(t)} = \mathbf A t \cdot \mathbf v _ {(t)}
\quad \cdots (5)
(3), (4)および(5)式から係数 \mathbf u _ {i} の漸化式を得る.
 \displaystyle
\mathbf A t \sum _ {i=0} ^ {\infty} \frac { \mathbf u _ {i} } {i!} t ^ {i} =  \sum _ {i=0} ^ {\infty} \frac { \mathbf u _ {i+1} } {i!} t ^ {i}
上式を  t の次数ごとに整理して,  0 \leq i なる  i について
 \displaystyle
\mathbf u _ {i+2} = i \cdot \mathbf A \cdot \mathbf u _ {i}
\quad \cdots (6)
を得る.


まず初期条件を  \mathbf v _ {(t=0)} = \begin{pmatrix}
v _ {max}\\
0
\end{pmatrix} とすれば, (3)式から  \mathbf u _ {0} がそのまま得られる.

 \displaystyle
\mathbf u _ {0} = \begin{pmatrix}
v _ {max}\\
0
\end{pmatrix}
また(2)式をみれば  \mathbf v ^ {\prime} _ {(t=0)} = \mathbf 0 であるから, (4)式より
 \displaystyle
\mathbf u _ {1} = \begin{pmatrix}
0\\
0
\end{pmatrix}
である.
これらの初期条件と \mathbf A = \begin{pmatrix}
0 & \omega \\
{-} \omega & 0
\end{pmatrix} および(6)式から,  0 \leq i なる  i について以下の展開を得る.
 \displaystyle
\mathbf u _ {2i + 2} = (2i+1) \cdot \begin{pmatrix} 0 & \omega \\ {-} \omega & 0 \end{pmatrix} \cdot \mathbf u _ {2i}
 \displaystyle
\mathbf u _ {2i + 4} = (2i+3) \cdot \begin{pmatrix} 0 & \omega \\ {-} \omega & 0 \end{pmatrix} \cdot \mathbf u _ {2i+2}
 = (2i + 3) \cdot (2i+1) \cdot \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ {-} 0 & 1 \end{pmatrix} \cdot ({-} \omega ^ {2}) \cdot \mathbf u _ {2i}
\quad \cdots (7)
ただし,  u _ {i} i が偶数の項しか値を持たない.

(7)式から,  \mathbf v _ {(t)} = \begin{pmatrix} v _ {x(t)}\\ v _ {y(t)} \end{pmatrix} の展開は以下のように求まる.

 \displaystyle
v _ {x} = v _ {max}  \sum _ {i=0} ^ {\infty} \Biggr\lbrace \frac {(4i-1)!!} {(4i)!} \cdot ({-} \omega ^ {2}) ^ {i} \cdot t ^ {4i} \Biggr\rbrace
 \displaystyle
v _ {y} = v _ {max}  \sum _ {i=0} ^ {\infty} \Biggr\lbrace \frac {(4i+1)!!} {(4i+2)!} \cdot ({-} \omega) ({-} \omega ^ {2})  ^ {i} \cdot t ^ {4i+2} \Biggr\rbrace
これらを時間で積分すれば, 過去稿と同様の結果が得られる.