わらび餅の巡洋艦日記

おふねの戦術論と性能論についての記事です.

砲戦技術の諸概念

 

1. 序論:なぜ撃ち合いで損をするのか

 与ダメージが被ダメージを上回る状況に限って砲戦を行えば決して撃ち負けることはなく、劣勢に陥ることもありません。しかし現実の戦場で勝者と敗者が存在する以上、そこでは必ず収支が負の撃ち合いが起こっているはずです。損な撃ち合いが発生する原因について、そしてその対策について考えることは、ダメージ交換を軸に据えて戦術を組み立てるうえでの自然な出発点となります。

 被発見の継続:隠蔽に逃れるという選択肢が消滅するため、損な撃ち合いを避けることができなくなります。地形を利用した射線の遮断や敵の有効射程からの脱出、そして敵の視界役に対する攻撃が対策になります。

 隠蔽システムに起因する情報の不完全性:隠蔽状態にある敵艦の位置を知ることはできないため、ダメージ収支を正確に見積もることは原理的に不可能です。対策として敵のスポットが第一に考えられますが、敵の配置が未知であっても味方とのリスク均等化(ラインを揃えること)を意識することである程度の不確実性は取り除けます。敵のあらゆる配置に対応できる、位置的に隙のない配置を目指します。

 性能・技量に関する認識のずれ:ダメージ収支を見積もる基準となる艦艇性能と自身の技量についての認識が誤っていれば、結論としての判断も誤ったものになります。予防策は、艦艇性能や自身の技術の限界を把握しておくことです。また、ゲームシステムに由来するこのゲームの特性、つまりは艦艇の配置についての原則を知っておくことで、位置的優位を生み出すことにもつながります。

 2章では、ダメージの量という単純な観点を「撃沈への寄与」に置き換えます。勝利条件が占領あるいは撃沈で定義される以上、ダメージ収支も撃沈を基準にして測定される必要があります。また、被ダメージを被撃沈に繋げない技術であるヘルス管理とは、すなわち立ち回りによって被ダメージに対する負のフィードバックを行うことです。

 3章では砲戦勝敗を決める決定機と、そこに至るまでの攻撃の組み立て方について考えます。攻撃の目的はあくまでも撃沈を奪うことにあり、そして撃沈の奪い方にはパターンがあるというアイデアを強調します。

 4章では、過去に『巡洋艦のダメージ交換論』で解説した交戦距離の概念について、安全距離の半定量的な記述も追加しながら簡単にまとめます。交戦距離とは一対一から多対多までのあらゆる状況に応用できる非常に便利な枠組みであり、発砲判断の軸になります。

 5章では、序盤から中盤までの位置取りについての簡潔な指針となる仮説を立てます。「火力艦は必ず2隻以上の集団で動き、常に攻撃集中の準備をする」という制限は、射線という抽象的な概念を実戦のなかで活用するための枠組みを与えます。

 6章ではまず形勢判断の根拠になるダメージ交換について振り返ったのち、「戦艦射線の重複化」というコンセプトを軸にして実戦的な配置論を組み立てます。「巡洋艦は敵戦艦の頭を取るべき」という経験則に対して、今回の記事では合理的な説明を与えることができました。

 7章では序盤の特殊性について考えたうえで、序盤をしのぐために要求される知識や技術、そして状況判断についてまとめます。序盤は中盤以降とは別物という認識を持っておくだけでも、立ち回りはかなり改善されます。

 各章の内容は独立性が高いため、気になる部分だけ拾うという読み方でも意味は取れると思います。新規性が特に高いのは3章と6章なので、かいつまんで理解したいという方はまずそちらから読まれると便利かもしれません。

 

2. 撃沈への寄与

2.1. 撃沈単位

 以前の『巡洋艦のダメージ交換論』では相対ダメージと呼んでいたもので、与ダメージを敵艦のHPに対する割合で表したものです。

 平均撃沈数は離散的な統計情報であるため分散が大きく、戦闘数が少ない場合は信頼性に欠けます。撃沈単位は公式の戦績指標に取り入れられてはいないものの、戦闘ごとの振り返りに活用することでその戦場における活躍の度合いを客観的に評価できます。ゲーム内の経験値の算出にも、与ダメそのものではなく撃沈単位が使われています。

 試合中の総与ダメージを撃沈単位に換算して表示するmodも導入可能であり、そちらでは”combat effectiveness in the measure of CDS (completely destroyed ship)”、日本語に訳せば「完全に撃沈された艦艇(の数)という尺度で測定した戦闘の有効性」と紹介されています。公式が配布しているMod Stationのcombat interfaceタブにて、”mxMeter”という名称でリストアップされています。

 戦闘終了時にダメージを受けつつも生還した艦艇について、撃沈単位には部分的に計上されますが撃沈数には反映されません。したがって、撃沈単位は(分散を取り除いた真の)平均撃沈数よりも必ず高い値になります。

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図 1 mxMeterの導入方法 (WoWS Mod station)

2.2. 回復速度を上回るダメージ

 戦艦およびTier9、10巡洋艦はHPを回復する消耗品である修理版を搭載しており、敵のHPを削る有効打となりうるのはこの回復速度を上回る与ダメージのみです。戦艦および高Tier巡洋艦を相手にした砲戦では単純なダメージ収支だけでなく、ダメージの速度も重要な要素になります。

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表 1 戦艦・巡洋艦の回復速度

2.3. 災害力の相乗効果

 火災や浸水という災害力は、工作班が準備時間中の敵に対して効率よくダメージを与えることができます。まず一度目の火災や浸水で工作班を切らせてからが勝負になるので、攻撃時間が長いほど、与えられる災害力が高いほど、投射量に対する効率が上昇していきます。巡洋艦2隻によるHE集中砲火や、駆逐の魚雷や雷撃機巡洋艦HEや爆撃機の火災浸水コンボは、災害力の相乗効果で高いHPを持つ敵艦の撃沈に貢献します。

2.4. 瀕死の敵艦の優先度

 射撃時間が無限にあれば、残HPと撃沈への寄与が素直に比例します。反対に、試合終了近くでは打ち切りの影響で残HPと撃沈への寄与が比例関係から乖離していき、階段状の関数になります。序盤では敵艦を削ることがそのまま(遠い)撃沈に結びつきますが、中盤から終盤にかけては敵艦に止めを刺せるかどうかが重要になり、ただHPを削るというだけでは意味がありません。

2.5. 残HPに起因する正のフィードバック

 敵の残HPが少ないほど、撃沈への寄与という観点から与ダメージの価値は上昇します。HPが有限であることに起因して艦艇には被弾するほど狙われやすくなる正のフィードバックが働くため、ヘルス管理のためには負のフィードバックを意図的に組み込む必要があります。例えば引き撃ちも負のフィードバックの一種で、距離を離すことで敵の命中率を落として安全を確保します。

 コミットという概念をかつて『隠蔽距離論」で扱いましたが、これは負のフィードバックが失われた状況にあたります。被発見状態にありながら敵AP弾の脅威によって姿勢を前進方向に固定されている状況では逃げ帰ろうと奥に転舵すると防郭を晒すことになり、かといってこのまま前向きを維持しても撃たれ続けることになります。

2.6. 斉射ダメージを定量的な感覚に落とし込む

 扱う艦艇の分間ダメージについて大まかな数字を知っておけば、敵艦の撃沈可能性を見積もるにあたって非常に便利な情報になります。また、敵に与えた分間ダメージを戦闘中に計算するのは不可能ですが、代わりに斉射ダメージの基準を決めておくことで射撃の有効性をフィードバックしながら立ち回りを考えることができます。例えば分間2万ダメージが目標であるなら、斉射15秒で5000ダメージ、斉射10秒で3300ダメージが目安になります。

 HEの場合は火災の寄与も重要ですが、火災ダメージの見積もりには秒間火災率と敵艦HPだけでなく比例定数となる火災ダメージ効率のデータも必要です。『隠蔽間際の消火判断』で得られた結果から、射撃時間が40秒を超えればおおむね一定値(7%)に収束することが分かっています。例えば秒間火災率3%の艦艇がHP10万の敵を撃ち続けたとき、秒間では0.03 x 100000 x 0.07 = 210ダメージ、分間では12600ダメージを期待できることになります。ただし射撃時間が短い場合、火災ダメージ効率は低下します。

 秒間火災率はHEの砲弾火災率および装填時間と門数、そして主砲命中率から計算します。計算に関するさらなる詳細は『火災の数理モデル』4.4節を参照してください。

warabi99-wows.hatenablog.com

【参考】過去記事・隠蔽間際の消火判断

warabi99-wows.hatenablog.com

 

3. 攻撃の組み立て

3.1. 立ち回りの目的

 立ち回りの大きな目的は撃沈を奪うことであり、つまり発砲が有利になる状況や瞬間的な大ダメージを出せる状況を作り出すことです。瞬間的な大ダメージを生む源は、①防郭への貫通AP弾②魚雷の2種類があります。また、瞬間的ではないものの火災や浸水も大ダメージになりうる潜在能力があります。言い換えると、自艦あるいは味方艦の大口径APや駆逐魚雷が活用できる状況こそ決定機になります。

 また、攻撃機会が限られる敵駆逐艦への攻撃も決定機になり得ます。低HP艦艇である駆逐艦の生存性はもっぱら隠蔽性に依存しているため、視界役となる駆逐艦、そして対駆逐火力とレーダーを併せ持つ巡洋艦が対駆逐砲戦の鍵を握ります。

 自分の扱う艦艇が決定機を直接的に創り出すためにはどのような立ち回りができるか、そして味方艦艇が決定機を捉えるためにどのような間接的な貢献ができるかを突き詰めていけば、攻防いずれの局面でも目的を持って戦うことができます。

3.2. 主導権を握るための攻撃

 攻撃側は敵の弱点を1箇所作ることさえできれば、そこへ攻撃を集中することで決定機を作れます。立ち位置を決める理由は敵の状況にあり、崩しという目的を果たせれば陣形の多少の乱れは許容されます。

 一方で、防御側は相手の狙いに合わせる受動的な立ち回りを要求されます。立ち位置を決める理由は味方の状況にあり、陣形のバランス、味方全体のリスクの均等化が重要なテーマです。

 ただし実戦においてはどちらにも決定機を作れる可能性があるからこそ砲戦が継続するのであって、攻撃側のあまりにも大きな形勢の乱れは攻防の逆転を誘発します。そもそも決定機を作れないほど劣勢が明確である防御側は、砲戦を続ける動機がありません。

3.3. 攻撃の3段階

 攻撃を3段階(展開、打開、破壊)に分けて考えることで、攻撃の目標があくまでも決定機を作ることにあるという原則を強調します。

 展開:敵を有効射程に捉えるまでの移動であり、射撃なしの移動時間です。攻撃時間の減少につながるため、攻撃側にとって展開局面にかかる時間はなるべく短縮したいところです。

 打開:決定機を作り出すまでの崩しの時間です。敵艦を押し下げて陣形を乱したり、決定機を作るうえで重要な場所に味方を前進させたりと、位置取りをめぐる静かな争いが続きます。

 破壊:瞬間的な大ダメージとそれに続く追撃で敵艦の撃沈を狙います。勝敗を決めるポイントであり、立ち回りの最終的な目標になります。大ダメージを与えるイベントを経由せず、災害ダメージでじりじり削った敵をいよいよ仕留めに行くという破壊局面もそれなりにあります。

 打開あるいは破壊の局面からあらかじめ次の攻撃対象を見越しておくことで、展開にかかる時間を減らすことができます。例えば、現在攻撃中である敵艦の撃沈がほとんど確実になった状況では、次に狙う敵との距離や位置関係も意識しながら砲戦を行います。あるいはレーダー巡洋艦の場合、下がりゆく瀕死の敵戦艦を押し撃ちで追撃しながら陣地にレーダー圏を引っ掛けることで、敵駆逐への攻撃および味方駆逐による陣地占領の支援という次の局面との連続性を生み出すことができます。

3.4. ベタ引きのすすめ

 数的劣勢下の砲戦、いわゆる遅滞行動が正当化されるのは、現在あるいは将来的に敵艦を撃沈できる可能性がある場合のみに限られます。防御から攻撃に移れる可能性が低ければ、他のサイドにいる味方と合流して数的不利を解消できる位置まで迅速に戦線を引き下げます。

 

4. 距離の理論

4.1. 交戦距離

 有効射程は主砲の命中が期待できる距離であり、対戦艦10秒、対巡洋艦8秒が大まかな目安です。実戦に先立って距離に換算して頭に入れておき、実戦での感覚や敵艦の機動性と照らし合わせて調整していくのが良さそうです。

 安全距離は、回避が間に合う距離です。安全時間の計算は『交戦距離指標 RngE』にあるTsafeの式を利用して、同格戦艦の着弾時間のデータをみながらひとまずは紙の上で距離感を掴んでいます。判断ミスではない被弾は艦艇の機動性の限界を超えていることが原因なわけですが、性能の限界を正しく認識するためにこのような性能論的指標を個人的に活用しています。

 一対一や多対多などの状況に影響を受けにくい性能である交戦距離を把握しておくことで、撃ち合う前のダメージ収支の予測が正確になります。砲戦のダメージの見積もりに関わる間違いを減らせば、HPの管理に余裕が生まれて立ち回りもかなり楽になります。

 

warabi99-wows.hatenablog.com

【参考】弾道計算サイト

jcw780.github.io

 

5. 2隻セット理論

5.1. 敵に局所数的不利のリスクを突きつける

 戦域全体で数的不利であっても、攻撃の集中を応用すれば局所的な数的有利を作り出せる可能性があります。数的優位に立つ敵の視点で考えてみると、集中攻撃を受けた敵艦は局所的にダメージ収支が負になり、射撃を中止して味方全体の攻撃速度を落とすか、射撃を継続して危険な状況を受け入れるかの難しい二択を迫られます。複数隻で動く利点は、攻撃目標の変更という手間のかからない方法で数的有利を作り出せる可能性があることです。単独1隻で砲戦を行えば性能および技量の差だけを頼りに火力有利を作り出さなければなりません。火力有利を得られる可能性の薄い戦域に艦艇を投資するのは、冒頭で触れた「立ち回りの目標は発砲が有利になる状況」という原則に矛盾します。

5.2. 基本単位は火力艦2隻か3隻

 火力艦3隻を分割すると必ず単独1隻が生まれるため、分割できない基本的な単位は2隻あるいは3隻になります。この基本単位のすべての艦艇が、同じ敵に10秒以内でフォーカスできるように立ち位置を調整します。戦艦は砲旋回と艦旋回が遅いため、連携を組む巡洋艦のほうが注意深く射線を管理する必要があります。

5.3. あくまでも序盤から中盤にかけての理論

 2隻セット理論は、3レーンをすべて火力艦のセットで埋めることが可能なことが前提です。終盤にかけて生存艦艇数が減少するとやむを得ず単独1隻でレーンを埋めなければならない状況が発生するため、多対多ではなく一対一の砲戦が重要になります。数的有利ではなく性能的あるいは技量的有利、そして長距離ではなく近距離の砲戦に戦術の比重が移ります。

 

6. 戦艦射線下の位置的優位

6.1. 展開の先読みを前提としない形勢判断

 立ち回りとは形勢判断という根拠に支えられているため、形勢判断の基準をまず明確にする必要があることは冒頭で説明したとおりです。2章でまず「撃沈への寄与」という大きな枠組みを決めました。しかし、試合開始から終了までの展開をすべて見通したうえで撃沈への寄与を見積もり、そして立ち回りを決めるというのは現実的ではありません。何かしらの仮定を通してこの概念を簡略化する必要があります。形勢判断の根拠という観点から、ここまでの議論を振り返ってみます。

 もっとも単純な書き換えは、現在の瞬間のみの収支を考えることです。過去の『巡洋艦のダメージ交換論』で採用したもので、4章の交戦距離がその流れのうえにあります。今回の記事の目的のひとつは、この粗い近似にいかにして先の展開を取り込むかというところにあります。

 今回の3章で取り上げた「攻撃の組み立て」は、試合展開のなかでも重要な展開のみに絞って考えるという発想に基づくものです。撃沈への寄与が非常に大きくなる決定機を目標にして、そこから逆行して攻撃を組み立て、あるいは敵の攻撃をしのぐという発想です。

 この章では敵の立ち回りのミスに対する反応の速度と強度、つまりどれほど迅速に、どれほど効果的に付け込めるかという観点も加味して形勢を考えていきます。展開を読み切ることを前提とせず目の前で起こる状況への反応を考える点で、上記のものとは決定的に異なります。この意味での形勢を可動性と呼ぶことにします。

 可動性はいずれ具体的な攻撃集中と火力優位に変換されるためのものであり、目先の火力優位よりも優先されるべきものではありません。攻撃の三段階でいえばあくまでも打開局面において火力優位の可能性を見つけ出すための概念であり、すでに火力優位が形成されている破壊局面では即効性に欠けます。

6.2. 戦艦射線の重複化

 戦艦APに期待されるダメージは防郭を貫通した際の最大ダメージ100%に大きく依存しており, 敵の姿勢に応じてダメージの期待値が大きく上下します。姿勢にさほど影響されないHEとは対照的な特徴です。したがって、戦艦APを使いこなすにあたっては敵の防郭に命中弾を出せる可能性を増やすことが鍵を握ります。

 射線の原理において、艦艇の機能はその射線の最大価値で決まります。敵が防郭を晒す可能性が一定であるならば、戦艦APは多くの敵を射線のうちに捉えるほど価値が増加していくことになります。多くの敵に射線を通せば、そのいずれか1隻が隙を見せる可能性も上昇していくためです。

 ただし孤立している敵、つまり現状撃つ相手のいない敵に射線を通すことは、単純に敵の機能艦艇数を増やして数的不利を招くため避けるべきです。先ほどの結論を「味方が撃てる敵に射線を通す」と言い換えると、誤解を招かないかもしれません。

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図 2 孤立している敵 (右図の局面で射線を通していない敵が”孤立している”)

6.3. APによる姿勢の固定

 舷側を撃ち抜かれると大ダメージになるという戦艦APの特性は、敵艦の移動に制約を与えます。押し撃ちから引き撃ち、あるいはその逆を抑制することで、敵艦のコミットを誘発します。あるいは、敵戦艦の移動や転舵を妨げることで、敵戦艦の射界に捉えられる味方艦艇の数を減らすこともできます。敵戦艦の射線を制限する意義については、敵の形勢が5章で説明した「2隻セット理論」や先ほどの「戦艦射線の重複化」に違反するため敵が不利益を被るとさらに言い換えることもできます。

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図 3 転舵で射線を切り替える (転舵のタイミングで敵戦艦砲が刺さる)

6.4. AP射線の決定機

 戦艦射線の決定機とは、敵艦の防郭に貫通弾を通せる状況を指します。決定機は敵のミスから偶然起こることもありますが、形勢を崩すことで敵がやむを得ず舷側を晒す状況を作り上げることもできます。

 陣形高さのズレ:突出した敵艦の側面と前面を捉えて、いずれかが舷側を捉えます。

 進行方向の支配:例えば外周方向に引き撃ちする艦艇が内周側の艦艇に向けて斉射した際に、外周側は舷側を捉えることができます。後述しますが、序盤で事故が起こる原因のひとつでもあります。

 押し引きの切り替え:奥に転舵するタイミングで舷側を晒すことになります。上記2つとは違い、戦艦1隻のみで決定機を作れます。

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図 4 AP射線の決定機

6.5. 射界外への動き

 巡洋艦HEのダメージは敵艦の姿勢に依存しないため、巡洋艦は射線を1本通せば十分であるとする「射線1本ルール」がよく当てはまります。一方で「敵戦艦の頭を取れ」という経験則があるように、戦艦射線の特性から巡洋艦の立ち位置にも射線の数のみでは判断できない優劣が生まれます。

 巡洋艦が現在味方戦艦と撃ち合いをしている敵戦艦の射界外へ潜り込んだとき、敵戦艦は艦あるいは砲を回して巡洋艦を撃つか、あるいは放置して現在の目標を撃ち続けるかの二択を迫られます。

 前者の場合、射撃準備の砲旋回が実質的な敵弾接近警報になるうえ、戦艦射線の存在下では舷側を撃ち抜かれる大きなリスクを伴います。また、巡洋艦を追いかけることでもう一方の戦艦に射線が通らなくなり、味方戦艦が敵戦艦の行動を一方的に制限できるうえ味方戦艦は行動の制約から解放されます。敵戦艦は形勢を損ねる要因の多重苦を背負い込むことになります。

 後者の選択でも、敵戦艦の射界に捉えられていない巡洋艦はノーリスクで射撃ができるため形勢は有利になります。この場合も、敵戦艦が「戦艦射線の重複化」というルールに違反しています。

 この形勢差の起源は射線の重複化に対する2つの艦種の特性の差異に由来しています。射線を複数通すことで機能が増すという特性をもつ戦艦は砲機動性で劣り、射線1本さえ通せばよいという巡洋艦の砲機動性の高さによって付け込まれています。

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図 5 射界外への動き

6.6. 5レーン理論の見直し

 制圧戦は3陣地制あるいは4陣地制で行われますが、4陣地制ではそのうち2つの陣地が必ず縦に並ぶため、いずれのルールでも陣地に絡むレーンは3つに絞れます。このレーンの境界線を独立させて内周レーンと呼んだのが、これまでの5レーンの根拠でした。

 艦艇、とりわけ戦艦が針路を外向きから内向き(あるいはその逆)に変更する際には、艦または砲の旋回に1分以上の時間を消費します。時間の問題に加えて敵APから姿勢の固定を受けると、内周レーンに位置を取る艦艇は外周か中央のいずれかに射線を通すのが難しくなります。可動性が失われた結果として、内周レーンは外周寄りと中央寄りの2つに分裂します。

 艦艇の位置だけを基準にしてミニマップに線引きすれば5つのレーンが生まれますが、艦艇の砲戦舷や姿勢を考慮すれば陣地3つのレーンをさらに2(外側・内側)あるいは3(外側・中央・内側)に区切るほうが良さそうです。

 

7. 序盤

7.1. 序盤の特徴

 艦艇の展開が初期配置の影響を強く受けます。初期配置は敵と味方で対称的であり、かつ艦艇速度は有限なので、敵艦の最大進出範囲を大まかに予測することができます。選択肢が比較的少なく、駆逐が陣地に進入するルート、レーダー艦がつく島、火力艦の配置にはある程度の傾向があります。

 火力艦の展開は戦場外向きの移動がほとんどです。とりわけマップ端近くでは、陣形の幅を取ろうとする巡洋艦うしの外周争奪戦が頻発します。また、戦艦にとっては外向きに移動する敵艦の舷側を撃ち抜くチャンスがあります。

 敵艦の具体的な配置は初回のスポットを待つことになります。空母ありの戦場では開始1分程度で判明することが多いですが、空母なしでは駆逐の進出を待たなければなりません。敵の場所が見えないまま自艦の置き場所を探すのは、空母なし序盤戦の独特な技術です。

 序盤は火力艦の数が非常に多いため極端な集中砲火が起こりやすく、位置取りや防御姿勢のミスは容易に撃沈に結びつくという過酷な状況です。中盤以降に比べて、立ち回りは安全重視で保守的なものになりがちです。また、偏差の精度という意味での技量差が発揮されづらく、数的優位や位置的優位がものを言います。

 序盤は戦力が均衡していて、占領状態もフラットです。対照的に、中盤以降は形勢に優劣がある状況下での立ち回りも要求されます。

 ここまでに説明した序盤の特徴が満たされなくなったときが、中盤の開始にあたります。①十分な時間が経過して艦艇の展開が初期配置の影響から離れたとき、②敵艦の位置がおおむねすべて判明したとき、③火力艦の数が減少したとき、④形勢に差がついたとき、この4条件が中盤戦に移行する条件です。

7.2. 安全重視の序盤

 序盤の被ダメージはHPの20%が目安です。修理班があれば回復1回分を見込んで34%となります。HPの20%という制限はかなり厳しく、例えばTier8巡洋艦の4万程度のHPでは8000ダメージが上限になります。同格戦艦砲の貫通2発でアウトです。一方で、Tier10巡洋艦の5万程度のHPでは34%の17000ダメージまで許容されます。同格戦艦砲の防郭1発を受けてもなお余裕があります。

 戦艦と対等な一対一の砲戦をするのは厳しく、そもそも敵戦艦に撃たれないか、回避が間に合うか、撃たれる前に隠蔽へ逃げるかなどの工夫が必要です。また、与ダメージの速度と回復速度の差し引きを考えれば、敵戦艦をたった1隻のHEで削るというのはかなり非効率的です。

ただし被ダメージの上限が厳しいのは敵も同様なので、序盤ではとにかく安全を重視して、ダメージの収支に忠実に立ち回れば十分です。被ダメージの制約を守れば序盤で何もしないという状況になることも多いですが、そもそも序盤は与ダメージに期待しないほうが精神衛生によいです。違いを出すのは中盤以降です。

7.3. 空母ありの最序盤

 空母なし序盤では被発見のリスクが敵駆逐のスポットに限られるため、お互いの駆逐艦がまだ展開していない最序盤に攻撃を受ける危険性はほぼありません。一方で、空母あり戦場は最序盤から敵艦載機のスポット、そして航空攻撃および敵戦艦の長距離砲撃の十字砲火を受けるリスクがあります。この傾向は戦艦の有効射程が劇的に延びるTier10戦場で顕著であり、最序盤といっても航空発見を受ける場合には航空攻撃と敵戦艦の砲撃を同時に受けても回避が間に合うような姿勢を事前に準備しておくべきです。少なくとも敵に向かって頭から突っ込むような姿勢で航空攻撃を受けるべきではありません。

 

8. 結論にかえて:戦術論のゲームシステム的基礎づけ

 果たして本当に「巡洋艦は外周に張る」べきなのでしょうか?まず今回の記事の大きなテーマである「射界外への動き」をもとに考えるなら、巡洋艦が外周に張るべきなのは敵戦艦が内周レーンにあり、かつ外側へ向かって押し撃ち中の局面であることになります。さらに、味方戦艦が敵戦艦を撃てる状況でなければなりません。ここまでの議論だけでも、味方戦艦がいない状況であれば外周を取るべきかどうかははっきりしません。ちゃぶ台をひっくり返すようですが、敵4隻に対して味方が自分1隻のみという極端な数的劣勢の下ではそもそも砲戦すら成立せず、撤退の一手になります。ここまでとある格言が成り立つ条件について考えていたわけですが、経験則や格言そのものはそれ自身の限界を教えてくれません。適用できる状況、そして適用できない状況を教えてくれるのは、間違いなくもっと深いところにある、ゲームの基礎的な構造に関する知識なのです。

 立ち回りの経験則をこのゲームのルールとゲームシステムに落とし込んで理解すること、これが私の目指す戦術論の到達点です。プレイヤーのいかなる努力によっても覆らない「ゲームの外枠」に足場を組むことで、すべてのプレイヤーが理解できる観点から立ち回りの良し悪しを論じることができるようになります。また、例えば「外周を取るべき」と「数的不利なら退くべき」というふたつの原則が矛盾する状況においてどちらが優先されるのかという判断を下すために、ゲームシステムに根ざした原則論はやはり必須な道具立てです。いかなるプレースタイルであろうが、いかなるアイデアを持っていようが、ゲームシステムはプレイヤーの努力で書き換えることはできず、その影響から逃れることは本質的に不可能なのです。

 今回の記事では「可動性」という概念を新たに導入しましたが、目前の火力優勢には優先度で劣るという原則としての限界もダメージ交換論の範疇で語ることができます。ゲームシステムという基礎づけのもとでの戦術論はひどく具体性を欠いていて遠回りな議論に思えますが、出発点が基礎的であればあるほどその守備範囲は広く、さらに結論の限界に自覚であるという美点は立ち回りを練り直す際の強力な支えになります。固定観念から脱却して戦術論をより身軽に、実戦をより即興的かつ創発的なものに発展させるうえで、戦術の言語化とそれに続くミクロな基礎づけは実用的なアプローチであることを確信しています。

 蛇足ですが、ゲームシステムに基づくシンプルなゲーム理解を謳っているはずなのに、記事がこんなに長いのは最大の自己矛盾であるような気がしています。

 本文の構成や誤字・脱字のチェックについて、今回の記事でもりばっくすさんにご協力いただきました。ありがとうございました。

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隠蔽間際の消火判断

概要

隠蔽間際の火災ダメージ、そして工作班の使用基準について理論計算をもとに考察しました。敵艦に撃たれ続ける場合は1火災での消火が有利な一方で、隠蔽が間近な場合は2火災での消火、あるいは放置が有利になります。

 

 

1. 「火災の数理モデル」で取り残した話題

 昨年(2020年)の5月に発表した「火災の数理モデル」では火災に関してさまざまな話題を取り上げましたが、なかでも工作班の使用基準についての議論は反響が大きかったように感じています。一方で、計算の簡略化のために導入した仮定は必ずしも現実を反映していませんでした。例えば「定常状態近似」とは敵艦に撃たれ続けるという仮定ですが、はたして実戦の環境をどのくらい反映しているのか疑問が残ります。今回の記事では「火災の数理モデル」を補完するべく、短時間しか射撃を受けない場合、つまり隠蔽間際の工作班基準に焦点を当てます。

2. 隠蔽間際の消火判断

2.1. 火災1か所は放置が有利

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Figure 1 隠蔽間際の火災ダメージ

 以上のグラフが計算結果になります。まずは用語や読み方について説明します。
 グラフの表題に示すのは、秒間火災率と艦長スキル「防火」の有無です。巡洋艦1隻の射撃がおおむね秒間火災率3%に相当します。
 横軸の射撃時間とはそのまま敵艦の射撃に曝される時間のことですが、実戦への応用を考えるにあたっては以下の式を参考にするとよいでしょう。
射撃時間 = 隠蔽までの時間 + 敵弾の着弾時間 – 工作班効果時間
 隠蔽までの時間は最大で20秒、敵弾の着弾時間は長くても15秒、そして工作班効果時間は国籍に応じて決まり10~20秒です。したがって、グラフ中の射撃時間は0~15秒が重要な領域になります。
 縦軸は火災ダメージの期待値を表しますが、HPの割合をパーセントで示してあることに注意してください。この火災ダメージを最小化する工作班判断の基準を探るのが、本記事の目的になります。
 巡洋艦1隻の秒間火災率がおよそ3%という数字を頭に入れつつ、グラフを見てみましょう。線の色は工作班使用基準の違いを反映しています。ただし赤の点線は比較対象として、工作班が準備時間に入った直後という最悪の状況を計算しています。
 低めの火災率から順に見ていくと、秒間2%では射撃時間にかかわらず1火災消火が有利です。ただし、30秒以下での違いは明らかではありません。秒間4%は2火災消火が有利になります。また、秒間6%という過酷な条件では、僅かながら30秒以下の領域で2火災消火よりも無条件の火災放置が有利になっています。
 隠蔽間際の工作班判断について言えば、火災1か所は放置がベターということになります。「火災の数理モデル」とは正反対の結論になりました。

2.2. 工作班使用基準の使い分けは?

 「火災の数理モデル」では、敵艦に撃たれ続けるという仮定のもと計算を行っていました。射撃時間が非常に長い状況では、工作班の使用回数をできるだけ多くすることが火災ダメージの最小化につながります。したがって、火災が1か所発生した時点ですぐさま工作班を使い、2か所目を待たないのがベターな選択です。この状況で火災1か所を漫然と放置するべきではありません。
 対照的に、今回のモデルは射撃時間が短い場合を扱っています。工作班を使用したあとに火災が発生した場合は、火災時間のぶんダメージを受け続ける羽目になります。この最悪の場合に比べれば、射撃時間の終了まで火災を放置して工作班を温存したほうがマシだろうという判断です。
 さらに言えば、工作班の判断は発砲の判断と深く結びついています。例えば自艦のHPに余裕があり撃ち続けることを選択する場合は、工作班も火災1か所で使うことになります。一方で、現状撃沈されるおそれはないがフルタイムの火災を受けると生存が厳しくなるというような瀬戸際にある場合、火災2か所で工作班を使い隠蔽に戻り、1か所では放置するといった選択になります。もちろん、火災1か所で工作班を使うと同時に隠蔽へ逃げるという選択もできます。こちらはさらに安全を重視した基準になります。
 駆逐艦の雷撃や航空攻撃による火災・浸水の可能性によっても、工作班の使用基準は劇的に変化します。不確実性の高い状況のもとでは、火災1か所を放置するというリスク回避的な判断が有力になることは否定できません。ただし、この話題は工作班の使用基準のみで語るには深すぎて、むしろ発砲判断や情報収集能力の問題になります。

2.2.1. 火災による発見距離延長で発見されている場合

 火災による発見距離延長で発見されており、かつ敵から着弾時間が工作班効果時間を上回る長距離砲撃を受けた場合は、特別なリスクが発生します。例えば工作班効果時間が10秒である日本戦艦が着弾12秒の攻撃を受けた場合、工作班で消火した瞬間は隠蔽に戻れますが、その瞬間に発射された敵弾は工作班の効果が切れてから2秒後に着弾します。もしこの隙間の時間で火災が発生した場合、工作班を使用した直後という最悪の状態で再び発見されて敵艦の射撃に曝されることになります。
 アップグレードAスロットの「応急工作班改良1」は、工作班の効果時間を+40%する効果があります。先ほど説明したような長距離砲撃に対して隙を見せないという点では、工作班効果時間が素で20秒と十分に長い米戦よりも、むしろその他の戦艦において真価を発揮するのかもしれません。

2.3. 巡洋艦の視点から

 射撃艦からすると、投射した火災力のうちどの程度が実際の火災ダメージに結びつくのかが気になります。「火災の数理モデル」では、火災ダメージを火災率で割ったものを火災ダメージ効率と呼びました。先ほどのグラフの縦軸を火災ダメージ効率で振り直したものを以下に示します。参考までに、「火災の数理モデル」では火災ダメージ効率を4.0%HPと推定していました。敵艦を撃ち続けた場合には、この4.0%HPという数字に収束すると考えてよいでしょう。
 工作班準備中の火災ダメージ効率は最大で18%HPと極めて高い値を示します。火災発生が100%ダメージに結びつく場合、火災ダメージの0.3%HP/secに火災継続時間の60 secを乗算した18%HPが火災発生1回ごとに入ります。射撃時間が伸びると値が徐々に低下していくのは、すでに火災がある部位には追加の火災発生判定がなされないことに起因します。火災が火災に打ち消されるといったような現象です。
 工作班が使用可能な状態では、秒間火災率ごとに挙動が異なります。秒間2%では射撃時間40秒、秒間4%および6%では射撃時間20秒程度でさきほど説明した4%HPの水準に達します。また、射撃時間が長くなると火災ダメージ効率は4%よりも高い水準に漸近します。「火災の数理モデル」は長時間撃たれ続けた場合の計算なのにもかかわらず、今回のこの漸近的振る舞いと食い違っているように思えます。この差異については、今回の計算では工作班の有効時間を考慮していないことが原因です。工作班有効時間が15秒である場合、効率4%HPに到達するまでに秒間火災率4%のもと30秒弱かかります。

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Figure 2 隠蔽間際の火災ダメージ効率

2.4. 【補遺】巡洋艦の秒間火災率

 繰り返しになりますが、下図に示すように巡洋艦1隻に撃たれる状況の秒間火災率はおおむね2.5 ~ 3.5%に相当します。ただし、この表はIFHEや各種信号旗・艦長スキルの影響を考慮していません。

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Table 1 巡洋艦の秒間火災率の実例

 

交戦距離指標 RngE

概要

 交戦距離指標RngEとは, 巡洋艦の主砲弾速と機動性を統合した性能指標です. 高い弾速は自身の有効射程を伸ばし, 優れた機動性は敵艦の有効射程を縮めます. 本指標は2つの性能を併せて考慮することで交戦距離の優位, つまり敵艦に対して一方的に撃ち勝てる距離を作り出す能力を評価します.

秒数ベースの交戦距離論

 主砲の有効射程は自身の主砲弾速だけではなく, 敵艦の回避性能にも影響を受けます. 回避に必要な最低限の時間を安全時間と呼ぶことにして回避性能を単純化すると, 交戦距離は自艦の主砲が敵艦の安全時間と同じ秒数で着弾する距離として決まります. しかしこの方法には2つの課題があり, 第一に安全時間を見積もる方法, 第二に艦艇の組み合わせ数の爆発です. とくに後者に関して, 艦艇が10種類あればその組み合わせは100種類にも及ぶため非常に煩雑です.

安全時間の見積もり

 安全距離とは, 転舵によって垂直方向の到達位置を100mずらすために要する時間として決めます. 計算にあたっては, 回避の性能論的指標(PCL)で述べたクロソイド曲線近似を適用しました. 100mという数字は恣意的なもので, 対巡洋艦では着弾8秒が命中の限界になるという経験則から数字を合わせました.

交戦距離指標RngE

 交戦距離とは本来なら艦艇の組み合わせに対して計算されるものですが, 単純な指標に落とし込むためにここでは艦艇ごとに着弾時間(15 km)と安全時間(上述)を乗算したものを考えます. 着弾時間, 安全時間はともに短いほど優秀なため, この指標が低値であるほど交戦距離の優位があります.

RngEの算出

\displaystyle{PCL = 7.21137316 \times \frac{speed[kt] ^ 2}{ R _ {turn}[m] * T _ {rudder}[sec]}}
\displaystyle{T _ {safe} = \sqrt[3]{\frac{6 \times 100}{PCL}}}
\displaystyle{RngE = \frac{FT15}{15} \times PCL}
\displaystyle{pRngE = (1 - \log_{10} RngE) \times 36}

 数式についての細かい事項を列挙します. FT15とは15km着弾時間です. 15km地点のものを選んでいる理由は, 巡洋艦の常用的な交戦距離に近いためです. RngEでFT15を15で割っているのは, 着弾時間の基準距離しだいでRngEの値が極端に変わってしまうことを防ぐためです.
 RngEの対数を取り符号を反転させたものがpRngEです. 対数を取ることでUGと消耗品の影響を乗算ではなく加算で考えることができ, さらに符号を反転すると値が大きいほど交戦距離の優位があるということで直感的に分かりやすくなります. 乗数の36に深い意味はなく, UGと消耗品の影響がキリのよい数字になるよう決めました.

Tier8~10巡洋艦のRngE

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Table 2 Tier8~10巡洋艦のpRngE

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Table 3 Tier10戦艦のpRngE

対巡で交戦距離の優位を握る巡洋艦

 pRngEの高い艦艇はソ巡, 伊巡に多く見られます. Tier8のAmalfiがTier10巡洋艦さえ凌ぐpRngEを持つというのはなかなか面白い結果です. Tier10ではZao, Petropavlovsk, Moskva, Nevsky, Veneziaが12以上の数字を出しています. Zao, Nevsky,Veneziaは巡洋艦との撃ち合いに強い艦艇なので納得ですが, PetropavlovskとMoskvaのようなソ重巡はHEの投射量が少ないためHE砲戦で優位を取るイメージがあまり湧きません. どちらかといえば有効射程の長いAPで重い一撃を狙うといった立ち回りがメインでしょう.
 pRngEの差1がおおむね交戦距離1kmの優位に相当します. pRngEの差が1以内の艦艇どうしの撃ち合いでは, 交戦距離の明確な優劣がつかない不毛な砲戦になりがちな印象があります. 個人的な例ですが, Chapayev(9.32)でMainz(9.17)と撃ち合うと痛み分けの結果になりやすくあまり面白くありません. この2つの艦艇は対巡DPMも非常に近いため, どの距離でも砲戦で優劣がつきません. Tier10における同様の例にはNevsky(13.02)とZao(13.40)があります.

対戦艦で交戦距離が埋没する巡洋艦

 Tier10の巡洋艦と戦艦のRngEを比較すると, 全体的に巡洋艦が交戦距離の優位を握っていることが見て取れます. 以前から述べているような, 巡洋艦は戦艦に対して一方的に撃ち勝てる距離が存在するという主張は大部分の艦艇で成立します.
 しかし, Tier10戦艦のpRngEがおおむね7程度であることを鑑みれば, pRngEが7未満のPlymouth(6.95)やMinotaur(6.93)は対戦艦の有利な間合いがほとんど存在しないことになります. したがって, 開けた海域での1vs1は避けつつ島影や煙幕を利用して一方的に撃てる状況を作り出すのが立ち回りの軸になります.
 上述の例はさすがに極端ですが, 撃ち合うだけ不利な相手を知っておくことは実戦で1vs1の勝率を上げる助けになるはずです. 艦艇性能による優劣は, プレイヤーの努力の外にあるものです.

UGと消耗品の影響

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Table 1 転舵と消耗品の影響

 仏巡のエンジンブーストは速度+20%という強烈な効果で, 回避性能に大きく貢献します. 優れた最大速度といえば戦略・戦術上で有利な位置を取りやすくなるという利点が強調されがちですが, 転舵回避での利点も見逃せません.
 4スロUGの転舵-40%が非常に強力な効果であることが分かりますが, いくらか差し引いて評価しなければなりません. 大抵の艦艇は転舵-20%を搭載しているため, その差を取ってpRngE+1.50とするのが適切な評価です.
 推力UGによる加速の改善が評価できないのはRngEの欠点のひとつで, 安全時間の見積もりに利用したPCLが転舵による回避のみしか反映していないことが原因です. ただし, 指標に表れないからといって推力UGを軽視するのは早計です. 個人的には転舵重ね掛けよりも推力転舵を推奨します. 推力UGによって加減速を転舵回避の補助として使えるようになると, 2回目以降の回避の選択肢が増えます.
 転舵および推力UGの数値的な評価については不透明な点が多いことをご了承ください.

数的均衡を破る質的優位

 砲戦で優位に立つためのもっとも単純な方法は数的優位を取ることですが, このゲームは戦闘が同数で始まるので数の力に頼り切ることはできません. 数的劣位を覆すことはできないとしても, 数的均衡を破ることは戦術上の最低限の必要事項です.
 性能の差異から導かれる1vs1の質的優位を起点にして数的均衡を破るという考え方は, 基本に根ざしたとても強力なものです. 今回の指標RngEは交戦距離の優位に着目しており, 実戦ではHE砲戦の状況によく対応します. 他方で, APには貫通力の距離依存性や敵姿勢依存性に起因する独特な性質があるため, 必ずしも交戦距離の理論のみでは説明しきれません.
 HE砲戦の質的優位に関する考察は, 今回の指標でおおむね結論を出せました. 今後はAPの機能に軸足を移しながら, 数的優位でも質的優位でもない第3の優位, 位置的優位について理解を深めたいと考えています.

回避の性能論的指標

自動車のハンドル操作と艦艇の転舵

 自動車が一定の速度を維持しながら一定のペース(角速度)でハンドルを切り続けたとき, 自動車の軌跡は円弧にはならずクロソイド曲線という幾何学的な曲線で表されます. このクロソイド曲線は高速道路や線路, 変わったところではジェットコースターの設計にも応用されています.
 もしカーブの設計で直線と円弧を直結してしまうと, カーブに入った瞬間ドライバーは急激なハンドル操作を要求されます. 遠心力も不連続になるので, 安全的にも経済的にもよくありません. 直線と円弧をなめらかに接続するための曲線は緩和曲線と総称されていて, クロソイド曲線のほかにも3次放物線(鉄道), 正弦半波長逓減曲線(新幹線)など様々なものが考案されています.
 攻撃性能ではDPM(分間ダメージ), DPS(斉射ダメージ), 着弾時間など様々な性能論的指標が存在しますが, 回避性能の評価はあまり進んでいません. 今回の記事ではクロソイド曲線を手がかりにしながら, 最大速度, 旋回半径, 転舵時間という3つのパラメータを統合した指標を提案します.

即座の転舵が重要

 シミュレーションでは, ①転舵中も艦艇は等速である, ②転舵の途中では曲率半径と時間が反比例の関係にある, この2点の仮定を導入しています. 仮定②が分かりづらいので説明すると, 曲率半径というのはその瞬間の旋回半径のようなものです. 転舵中は旋回半径が時間変化するので, ちょっとややこしい言い方になっています. また, 転舵時間が経過して舵が限界まで切れてしまうと, 艦艇は旋回半径に従って円の軌跡を描きます.
 例として, 推力転舵Chapayevの場合を示します.

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Fig. 1 推力転舵Chapayevの軌跡(黒: 左転舵, 青: 直進. 点は1秒ごと.)

 転舵は針路の垂直方向にしか変位を作ることができず, この点で加減速と対照的です. また, 変位は時間の3乗に比例するため(後述), とにかく撃たれてすぐに舵を切るのが大事です. 敵弾接近警報の有用性がよくわかります. 図中でも時間の経過に応じて変位が急激に変化していることが見て取れます. 今回は推力転舵Chapayevを例にとりましたが, 定性的な傾向はすべての艦艇に共通するものです. 

巡洋艦の回避性能の比較

 クロソイド曲線による近似を応用して, 転舵による回避性能を艦艇の性能パラメータで表現することができます. 計算の説明は後回しにして, まずデータを眺めてみましょう.
 Fig. 2にTier10巡洋艦の実例を示します. 明らかに回避性能に秀でているのはSmolenskとZaoの2隻. 転舵が優勢な右下のグループにはDes Moines, Minotaur, Worcesterなど小回りのきく艦艇が並びます. 加減速が優勢な左上のグループにはVenezia, Henri IVなど強力な機関出力に裏打ちされた高速な巡洋艦が揃います. 左下には大型巡洋艦やGoliathが並び, 回避性能では劣るものの継戦能力で優れる艦艇群です.
 Fig. 3にはTier8巡洋艦のものを示します. 左下に艦艇名が重複していて読みづらくなっていますが, あまりにも多数の艦艇がこの領域に集中しているため諦めました. 個々の艦艇に着目してみれば, Wichitaの群を抜いた転舵性能が目立ちます. MogamiとAtagoを比較したとき, 純粋な機動による回避では前者が勝りますが, 実戦の感覚としてAtagoが劣っている気があまりしないのは被弾時の戦艦砲跳弾可能性と修理班のおかげでしょう. 回避性能と耐久性能は混同されやすい概念です. また, 全体を眺めればTier10巡洋艦と比較して転舵の回避性能が高めです. 

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Fig. 2 Tier10巡洋艦の回避指標

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Fig. 3 Tier8巡洋艦の回避指標

回避性能の計算式

 \displaystyle{PCL=\frac{v^2}{RT}}
 \displaystyle{FP=\frac{P}{mv}}

 転舵の指標PCLは, 転舵開始直後の(針路に対する)垂直変位を表します. また, 加減速の指標FPは減速開始直後の水平変位を表します. vは最大速度, Rは旋回半径, Tは転舵時間, Pは機関出力, m排水量です. FPは最大速における質量あたりの機関推力を表しますが, 力の釣り合いを考えると(質量あたりの)最大抗力にもなるので減速を支配するパラメータでもあります.
 計算にあたってはすべての係数をSI単位に換算して用いています.

【補遺】PCLの理論と導出

2つの仮定

 ①転舵中も艦艇は等速である, ②転舵の途中では曲率半径と時間が反比例の関係にある, この2仮定から艦艇の軌跡はクロソイド曲線で表せます. 仮定を批判的に検討すると, ①転舵時には直進時の8割ほどの速度に低下する, ②舵が限界まで切れるとクロソイド曲線ではなく円弧になる, といったように, 実際の挙動のすべてを反映しているわけではなく簡略化されたモデルです.

クロソイドパラメータの算出と無次元化

 クロソイド曲線では原点からの曲線長Lと曲率半径Rが反比例の関係になり, 両者の積の平方根はクロソイドパラメータと呼ばれます(A^2=RL). 今回は2つのパラメータそれぞれが時間の関数になり, 以下のように表されます. ここで, 混同を避けるためにこれまで旋回半径 Rと呼んでいたものを R _ {min}と表記しています.

 L(t)=vt
\displaystyle{R(t)=\frac{R _ {min} T}t}

 2つとも長さの次元を持ちますが, これをクロソイドパラメータA=\sqrt{vR _ {min} T}で割ることで無次元化します. 無次元化されたパラメータを小文字の l,rで表します. 式で書けば以下のようになります.

\displaystyle{l(t)=\sqrt{\frac{v}{R _ {min} T}} t \cdots(1)}

無次元化されたクロソイド曲線の媒介変数表示

 無次元化されたクロソイド曲線は以下のように媒介変数表示できることが知られています.

\displaystyle{x(l)=\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \cdots(2a)}
\displaystyle{y(l)=\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \cdots(2b)}

マクローリン展開を用いた近似

 三角関数マクローリン展開から, (2a), (2b)を計算していきます.

\displaystyle{cos\theta=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{2i}}{(2i)!}}
\displaystyle{cos\frac{\theta^2}{2}=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{4i}}{2^{2i}(2i)!}}
\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i}(2i)!}\int _ 0^l \theta^{4i}d\theta}
\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i}(4i+1)(2i)!} \theta^{4l+1} \cdots(3a)}
 
\displaystyle{sin\theta=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{2i+1}}{(2i+1)!}}
\displaystyle{sin\frac{\theta^2}{2}=\sum _ {i=0}^{\infty}(-1)^{i}\frac{\theta^{4i+2}}{2^{2i+1}(2i+1)!}}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i+1}(2i+1)!}\int _ 0^l \theta^{4i+2}d\theta}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta = \sum _ {i=0}^{\infty} \frac{(-1)^i}{2^{2i+1}(4i+3)(2i+1)!} \theta^{4l+3} \cdots(3b)}

 無限和と積分の交換を行いましたが, 厳密な議論を行う際には注意が必要な操作です. ここでは深入りしません.
 具体的に最初の4項を書き下します.

\displaystyle{\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq l - \frac{l^5}{40} + \frac{l^9}{3456} - \frac{l^{13}}{599040} + \cdots}
\displaystyle{\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq \frac{l^3}{6} - \frac{l^7}{336} + \frac{l^{11}}{42240} - \frac{l^{15}}{9676800} + \cdots}

変位の計算

 tが十分に小さいこと, つまりlが十分に小さいことを仮定して, (3a), (3b)それぞれからlの最低次の項のみ残します.

\displaystyle{x(l)=\int _ {0}^l cos\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq l}
\displaystyle{y(l)=\int _ {0}^l sin\frac{\theta^2}{2}d\theta \fallingdotseq \frac{l^{3}}{6}}

 l(1)を代入します.

\displaystyle{x(t) \fallingdotseq \sqrt{\frac{v}{R _ {min}T}} \cdot t}
\displaystyle{y(t) \fallingdotseq \frac{1}{6} {\sqrt{\frac{v}{R _ {min}T}}}^3 \cdot t^3}

 クロソイドパラメータA=\sqrt{vR _ {min} T}を掛けて, 次元を戻します.

\displaystyle{X(t) \fallingdotseq vt}
\displaystyle{Y(t) \fallingdotseq \frac{v^2}{6R _ {min}T} t^3}

 Y(t)から性能とは無関係な部分\frac{1}{6}t^3を除いたものが, PCLです.

蔵王代艦の主砲提案

1 蔵王主砲の破綻した性能

 主砲の性能は砲弾重量と初速で決まりますが, この2つの数値と深い関係があるのが口径長, つまり砲身の長さを口径で割ったものです. 口径長は砲弾を加速する能力を指すので, 砲弾の運動エネルギーと相関があるはずです. ここでは運動エネルギーを口径の3乗で割ることで, 異なる口径の主砲どうしを比較できるようにしています.

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Fig. 1 巡洋艦砲の運動エネルギー

 砲弾の運動エネルギーからみると蔵王砲は50口径では足りず, 60口径程度が要求されます. 口径長と比較して高すぎる運動エネルギーは発射薬の量を増やすことで実現できますが, 発射時に砲身内を高圧に晒すことになるため砲身は厚く重くなり, 鋼の性能も高くなければなりません. 砲身の摩耗も早くなり, 寿命も短くなります.

 例として, 日本の長10cm砲は65口径を採用していましたが砲身命数が400発程度と短いため(参考: 日本12.7cm高角砲が命数800~1500発), 艦内で砲身内筒を交換できるようになっていました.

 また, Stalingradが搭載する305mm/62は初速950 m/sと砲身に強い負荷を掛けるため, カタログスペックでは命数300発とこの口径では通常程度の数値になっていますが, 実際はここまで持たないのではないかと思います.

 これまた余計な話ですが, Stalingrad砲には467 kgのHE, APのほかにも, Long Range Shellと称して230.5 kgの超軽量砲弾の搭載が計画されていました. 初速は1,300 m/s, 射程は127 kmにも及ぶというロマンあふれた話です. 当然ながら砲身への負荷は尋常ではありません. 初速が上がるほど砲弾を短時間で加速しなければならないため, 発射薬も燃焼の速いものを使う必要があり砲身内の最大圧力も上昇します.

2 改善案は口径拡大のほかになし

 主砲性能は砲身の延伸や口径の拡大によって改善することができますが, どちらも砲塔重量の増加を招きます. また, あまりにも長すぎる砲身は製造技術の限界や射撃精度の低下を招くため, 実績のない口径長を採用するのは好ましくありません. 条約の制限などがなければ,バランスよく主砲性能を引き上げることができる口径拡大がベターです.

 今回は口径を260 mm, 口径長は50の連装砲として検討していきます. 主砲口径は第二次大戦期の大和砲や超甲巡砲がインチを切り上げていることを参考にしながら, 重巡砲と超甲巡砲の中間の口径としました. 日本海軍の採用実績がない口径であるのが難点です.日本巡洋艦がなじみ深い50口径と連装形式で納得のいく設定でしょう.

 口径長に応じて初速は840 m/s, 砲弾重量は264 kgとします. 初速は日重巡砲と同じで, 砲弾重量も単純な相似です. 口径あたり運動エネルギーは日重巡砲と等しくなり, 性能の破綻は避けられます.

3 最大ダメージの推定

 APダメージは砲弾重量と初速で決まります. 回帰式を置いておきます.

  HEダメージはおおまかに砲弾重量で決まるようですが, こちらはまだ回帰式を用意できていないため日重巡砲と超甲巡砲から補完して決定しました. 日巡砲はHEダメージと火災率の優遇を受けているため, 他国の砲弾データを参考にする場合は注意が必要です.
 今回の260 mm砲はHE 4,200(23%), AP 6,700と推定します.

4 投射量と貫通力の比較

 着弾時間と貫通力をFig. 2に示します. 図中にersatz_Zaoとあるのが今回の260 mm砲です.

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Fig. 2 Tier10巡(203mm超)の性能

 着弾時間は15kmで蔵王と並び, それ以遠で若干速くなります. 蔵王砲と比較して初速では劣るものの, 口径が大きく減速が小さいためです.
 貫通力は蔵王の1.4倍程度と大幅に改善しています. これでTier10巡洋艦相手でも横っ腹にAPを突き刺すぐらいはできるでしょう. これも口径拡大のおかげです.
 余談ですがHenri IVのAP貫通力が異常に高いのは, 砲弾の抗力係数が非常に小さく空気抵抗を受けづらいためです. 実戦で浮き上がるような感覚がするのは単純に初速が速くないためです.

 貫通力の次は, 投射量を比較します. 蔵王砲と装填時間が変わらなかった場合, 今回の260 mm砲のDPM(分間ダメージ)は蔵王砲の82%になります. HE貫通力が38mm以上なため米戦の甲板を貫通可能であることを考慮しても, 1.5割程度の火力低下になりそうです. ただし, 装填時間を短く設定すればなんとかなる程度の差なのであまり気にしていません.

5 排水量への影響

 そもそも蔵王武装に比べて排水量が過小で, 満載排水量わずか18,000 t程度にあれほどの「重そうな」3連装砲が4基も載るとは思えません. 今回の260 mm連装4基も武装重量は大して変わらないはずですが, 適正な満載排水量は20,300 t程度になるのでHPは48,900まで増加します. というか蔵王も本来この程度であるべきでした.

 余談ですが, 蔵王はかつてHP 44,900でしたが隠蔽射撃時代に受けた弱体化が今まで尾を引いていて40,800になっているという歴史的経緯があります. HPと(満載)排水量には深い関係があり, 蔵王の14,580 tから計算するとやっぱり44,900が適正HPになります.
【参考】排水量とHPの関係

6 まとめ

 性能が破綻している蔵王砲にかえて, 260 mm砲を提案します. 性能は日本203 mmとの相似で決定します.
 着弾時間はほとんど同じで,偏差の感覚は蔵王砲と変わりません. 貫通力は1.4倍程度, 投射量は0.85倍程度です.

7 参考

www.navweaps.com

 1880年から現在までの海軍砲の性能が掲載されています. 網羅性に優れていて, 実在した砲はもちろんのこと計画止まりの砲も掲載されていることがあります. 超大和の51 cm砲, 超甲巡の31 cm砲, アメリカの18 inch砲なども載っているので, 艦砲マニアにおすすめです. サイトの記述はすべて英語ですが, データ集なので理解すべき用語はさほど多くありません.

撃沈効率でみる巡洋艦の性格

撃沈効率の発想

 平均与ダメージを平均撃沈で割った「撃沈効率」は, 撃っている敵艦のHPの平均に比例するのではないだろうか. 例えばHP10万の敵艦がいたとして, 艦艇Aが5万, 艦艇Bが3万, 艦艇Cが2万のダメージを与えたとき, それぞれが撃沈を取れる確率は0.5, 0.3, 0.2になるのでは. この仮定はダメージを与えるタイミングや順番が艦艇の種類に影響されないという条件で成り立つ.

 ある巡洋艦のメインターゲットが戦艦なのか, それとも巡洋艦駆逐艦なのかを見分ける指標になりうる.

 与ダメも平均撃沈も勝率との相関が大きい指標だが, 両者の比を取ればプレイヤーの技量を排除したうえで艦艇性能をみることができるはず. 

艦種ごとの撃沈効率

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Figure 1 艦種ごとの撃沈効率 (2020-4Q, データはShip Stats by Quarters [Suihei Koubou] による).

 Tierに従って上昇するのは艦艇のHPが増加するため. 戦艦はTier10で爆発的に増加する.

 Tier6以上の空母は巡洋艦駆逐艦の中間程度. 戦艦や巡洋艦よりも攻撃目標を選択する自由度が高いため, 撃沈を取りやすいか.

 駆逐艦はTierごとに最小の値. HPの少ない駆逐艦を相手にする機会が多いため.

四半期ごとの変化

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Table 1 四半期ごとの撃沈効率 (データはFigure 1と同様).

 Tier8以上で戦艦, 巡洋艦の値が増加傾向にある. Tier10に至っては半年間で戦艦が1.5万, 巡洋艦が2万も増加している. 駆逐艦, 空母は目立った変化なし. 理由についてはよくわからない.

 半年前にツイートしたTier10巡洋艦の撃沈効率と, 現在の値はかなり異なるので要注意. 同じ集計期間で比較するべき.

ツリー巡洋艦の撃沈効率

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Table 2 ツリー巡洋艦の撃沈効率 (データはFigure 1と同様). 赤は高値, 青は低値.

 この記事のいちばんの見どころ. ツリーごとに傾向をはっきりと見て取れる.

 日巡は白なので平均程度. ツリーを通してあまりにも平均.

 米巡は軽重ともに青. 弾道が悪く投射量に優れるため, 巡洋艦駆逐艦がお得意様か.

 独巡は真っ赤. 独重巡203mmHEは51mmを貫き, 戦艦相手にも貫通弾を出せる.

 ソ巡は軽巡(?)ツリーが赤, 重巡(??)ツリーが青とあべこべ. 重巡ツリーが青なのは, APが巡洋艦相手に強力なのと冷遇気味のHEで戦艦にダメージを出しづらいため. Tier8のChapayevは白で, バランスの取れた艦艇性能をよく反映している.

 英軽巡は予想通りの真っ青. AP専の主砲は戦艦相手の砲戦が苦手で, 高隠蔽を生かした駆逐狩りに特化している.

 英重巡は赤気味. 独巡を超える高貫通HEで戦艦相手の砲戦もこなせるが, 弾道と投射量で劣るため独巡ほど極端ではない.

 仏巡もやや赤. 独特の浮き上がる弾道は巡洋艦相手の砲戦が若干やりづらい. Algerieが真っ赤なのは個人的感覚と一致していて, Tier7屈指の災害力がよく表れている.

 伊巡もやや赤. SAPでゴリゴリ削られていたのは駆逐艦ではなく, 戦艦だったのかもしれない.

Tier10巡洋艦の撃沈効率ランキング

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Table 3 Tier10巡洋艦の撃沈効率ランキング (左は全戦績, 右は垢勝率45~54%限定の戦績).

 水兵工房の四半期艦艇平均にはアカウントの勝率で5群に分割したデータもあり, 簡易的にプレイヤー技量の影響を除ける素晴らしいものである.

 左右を比較しても艦艇の順番はそんなに入れ替わっていないので, 撃沈効率に勝率の影響はさほどないことが分かる. プレイヤーの技術というより, 艦艇の性格を強く反映する指標である. ちなみに, 勝率が上昇すると撃沈効率は若干減少する.

 高値の巡洋艦はいずれも後衛タイプ, 火力タイプといわれるような艦艇が揃っていて, 低値はその逆に対駆逐とかいわれる艦艇が多い. ここでも日巡の蔵王がど真ん中に居るのが面白い.

ツリー戦艦の撃沈効率

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Table 4 ツリー戦艦の撃沈効率 (諸注意はTable2と同様).

 戦艦の撃沈効率は巡洋艦ほど差がつかないのではと予想していたが, そうでもなくきちんと違いが出ている.

 英戦があまりにも真っ赤なのはHEしか撃たないので自ずと明らか. ソ戦が青なのが不思議.

 私は戦艦経験のバリエーションがあまりないので, どなたかこの結果の理由に心当たりのある方はぜひとも教えてください.

データの出典

Ship Stats by Quarters [Suihei Koubou]

http://maplesyrup.sweet.coocan.jp/wows/shipstats/

 四半期(3か月)ごとの艦艇戦績のサーバー全体平均のほか, アカウント勝率別に5群へ分割したデータも閲覧できる. ほかにはない強力なデータなのでとてもおすすめ. 

隠蔽距離論

 

1. はじめに

1.1. 推力転舵の条件とは

 私が初めて推力転舵を試したのはChapayevで, twitter上でのアドバイスがきっかけでした. 当時(2017冬)の空母はもちろん旧仕様で数も少なく, 視界役は駆逐艦とレーダー巡洋艦しかいない状況だったので, 現在よりも隠蔽距離がはるかに重視される環境でした. その頃の日駆日巡上がりの私はもちろん隠蔽至上主義だったのですが, Chapayevに推力転舵を試したところ隠蔽悪化が立ち回りに及ぼす悪影響はほとんどなく, けっこう衝撃的な体験でした. その後の空母改編(2018秋)で島裏レーダーが実用的ではなくなったため立ち回りの修正が必要になりましたが, 推力転舵の有用性は今でも変わっていません. Chapayev以外の艦艇でも, 蔵王, Donskoi, そしてNevskyで推力転舵を試しましたが, これほど推力転舵と好相性な艦艇にはまだ巡り合えていません.
 推力転舵の利点は機動性の改善, 欠点は隠蔽性の悪化ですが, 前者に関しては「巡洋艦のダメージ交換論」で触れたので, 今度は後者について考えていきたいと思います. 

1.2. 巡洋艦の分類

 おふねのゲームシステムでは砲戦を始める前に敵艦をスポットしなければならないため, この視界システムをもとに分業が発生します. 第一の役割を視界役と火力役に分けて, さらに火力役は攻撃対象をもとに対視界の火力役か対火力の火力役かで分類します.
 具体例を挙げると視界役は駆逐艦, 対視界の火力役がレーダー巡洋艦, 対火力の火力役が独巡やソ巡, そして戦艦でしょうか. レーダー巡洋艦は微妙なところで, レーダー艦という特殊な視界役が火力役と複合していると考えることもできます.
 この分類は艦艇それぞれがぴったりと対応する枠があるというわけではなく, 局面ごとの役割をこの分類で考えていくといったほうが適切かもしれません. レーダー巡洋艦はレーダーを使って視界役になる局面もあれば, 敵の巡洋艦や戦艦を撃つ局面もある, といった感じです.

 

2. 隠蔽距離論

2.1. 交戦距離論のおさらい

 交戦距離については「巡洋艦のダメージ交換論」と同じものですが, もう一度整理してみます.
 巡洋艦は戦艦に対して一方的にダメージ優位を取れる交戦距離の範囲があります. 上限は自身の主砲の(対戦艦)有効射程, 下限は安全距離で決まります.
 この安全距離を決めるのが, 最大速度や転舵時間などの機動性です. 被ダメージを抑えるには①被弾を減らす方法と②被弾してもダメージを抑える方法と2つありますが, 機動性は前者に相当します. 着弾時間が一定秒数を超えると巡洋艦側は敵の弾道から着弾地点を予測して回避機動に移ることができるため, もはや命中弾を受けなくなります.
 もちろん一般的傾向であって, 脆弱な装甲(長い安全距離)や弾道の悪い主砲(短い有効射程)が原因で対戦艦の交戦距離を持たない巡洋艦も存在します. その巡洋艦は敵戦艦や巡洋艦を相手取った火力艦として働くのは不向きなので, 敵視界に対する攻撃役(駆逐援護)としての働きを考えていきます.

2.1.1. 時間ベースの交戦距離論

 回避の成否に影響する要素のなかでもっとも影響力の大きいものは着弾時間なので, 交戦距離といっても距離ではなく時間をベースに考えたほうが分かりやすいかもしれません. 巡洋艦にも戦艦にも, その機動性に応じて安全“時間”というものを考えることができます. 安全距離を敵弾の着弾時間, つまり自身の回避時間で表したものです. 距離が同じであれば巡洋艦砲の着弾時間のほうが戦艦砲よりも長いですが, 巡洋艦の安全時間がその不利を補うほど短ければ, 巡洋艦が優位に立てる距離があることになります. 交戦距離の上限は戦艦の安全時間と巡洋艦砲の着弾時間が等しくなる距離, 下限は巡洋艦の安全時間と戦艦砲の着弾時間が等しくなる距離として決まります.

2.1.2. 弾道と投射量のトレードオフ

 先の交戦距離の議論は巡洋艦対戦艦の状況でしたが, 巡洋艦巡洋艦でも同様に考えることができます.
 巡洋艦のHE性能は弾速と投射量がトレードオフになるように設定される傾向があります. 巡洋艦うしの砲戦を考えたとき, 弾速で勝る側は中距離, 弾速で劣り投射量で勝る側は近距離で優位になりますが, この中・近距離が切り替わるのは弾速で勝る側の安全距離になります.
 さらに言えば, この理屈を応用すれば艦種に関係なくすべての艦艇の1vs1において中距離優位側と近距離優位側に分けることができます. 巡洋艦vs戦艦という構図に縛られることはなくなりました.
 弾速でも投射量でも優位な場合は, そもそも距離の使い分けを考える必要はありません. 距離問わずただ撃っていればダメージ優位が取れます.

2.2. 先制発見のための隠蔽

 1対1の状況では隠蔽に優れる艦艇が砲戦するかどうかの選択権を握ることができます. 隠蔽の第一の意味は, 敵艦艇を先制発見することにあります. ただし, 実際にダメージ優位を取れるかを決めるのは隠蔽距離ではなく主砲性能であって, もしその距離でダメージ劣位にあり発砲できない場合, 火力役ではなく視界役としての働きを探っていくことになります.

2.3. 自衛のための隠蔽

 近距離優位側は有効射程よりも隠蔽距離が長い場合, その艦艇は敵に先制発見されて反撃も不十分になるため, ダメージで不利を取らされます.
 戦艦はおおむね巡洋艦よりも隠蔽が劣るように設定されているので, 先の節で述べた「先制発見のための隠蔽」を考えるのは現実的ではありません. そのときは第二に「自衛のための隠蔽」, すなわち中距離優位側である巡洋艦に対する有効射程よりも自身の隠蔽距離を短くすることが重要です.

2.4. 使い勝手の悪い隠蔽

 この節だけ隠蔽を取っても得にならない理由について述べたもので, 内容は先の2節と正反対になります.
 隠蔽距離が自身の安全距離よりも長い場合, 1vs1であれば発見された瞬間に引き撃ちの姿勢を取ることで敵にこちらの安全距離以下まで踏み込まれることはありません. 安全距離内で敵を逆探知するために, あえて隠蔽を悪くしておくという選択もできます. 安全距離を割り込む高隠蔽は, 敵を先制発見できなければかえって危険なものになると言い換えることもできます.
 一見不自然な結論ですが, この原理は被発見がプレイヤーに通知されることによります. 敵が自身の発見距離内にいるかどうかだけは情報を得られるので, 適切な距離である安全距離の外に隠蔽距離を配置すればこの被発見という情報を有効活用できるわけです.
 実戦では自身の被発見だけでなく味方の視界でも敵の位置情報を得ることができるので, この項目はさほど重要ではないかもしれません.

2.5. 自己完結的な視界

 火力役が砲戦をするには通常視界役のスポットが必要ですが, 自己完結的な視界とは火力役が視界役も兼ねる状況をいいます. 例えば巡洋艦が戦艦をスポットしながら撃ち込んでいる状況や, 巡洋艦がレーダーを使って駆逐を撃っている状況です.
 1隻2役の働きで視界役を必要としないため, 数的優位なしでダメージ優位が取れます. したがって, 視界役が介在する通常のダメージ優位よりも影響力は大きくなります.
 この自己完結的な視界に搾取されない対策として, 「先制発見のための隠蔽」で敵を先に見つけてしまうか, 「自衛のための隠蔽」で敵に視界を取られても撃たせないようにするか, と本稿の結論を再び言い換えることもできます.
 レーダー艦に限っての話ですが, 隠蔽距離をレーダー射程以下にしておくとレーダーの使い勝手がとても良くなります. 被発見でレーダー圏内の敵の存在が確定するため, レーダーを空打ちすることがなくなります.

 

3. コミット

3.1. もはや隠蔽に戻れない

 現在被発見状態にありながら自力の操艦では隠蔽に戻れない状態を, コミットと呼ぶことにします.
 発生する条件は①敵の視界役が自艦よりも優速で距離を離せない②敵AP弾の影響で姿勢を前向きに固定されている, この2種類あります. それぞれ例を挙げると, ①は駆逐艦が自分よりも高速な駆逐艦に追われているうえ煙幕もない状況, ②は頭を向けて停止していた戦艦が敵の押し上げを受けている状況などがあります.
 ここからは, 巡洋艦や戦艦など火力艦で影響の大きい②を中心に考えていきます.

3.2. 転舵を抑止するAP弾

 「巡洋艦のダメージ交換論」では, 損な撃ち合いを避けて隠蔽状態に戻るということを基本的な原理に据えました. 敵弾がHEのみの場合は, 現在の姿勢が前向きであっても転舵すれば距離を取りなおすか最低でも維持することができます. しかし敵AP弾が有効射程内に入り防郭を抜かれる可能性が出てくると, この奥転舵で追加のダメージ不利が発生します. 端的にいえばこのまま撃たれ続けて沈むか, または奥転舵のタイミングで防郭を抜かれて沈むかの最悪の二択を迫られるわけです.
 コミットの発生には敵AP弾の存在が不可欠で, AP弾のダメージが敵の姿勢に強く依存するゲームシステムがこの現象を生み出しています.

3.3. 中距離砲戦へ持ち込むには

 最初に挙げた例は戦艦でしたが, 巡洋艦でも同様の話が成立します. 例えば自身の巡洋艦が敵のDes Moinesに先制発見されたうえ艦首を完全に向けられている状況では, こちらが奥転舵をすればAP弾で立て続けに防郭を抜かれ, そのまま突っ込めばHEの投射量で押し切られてしまいます.
 交戦距離論では自艦の優位な距離に留まること, とりわけ中距離優位側は中距離の砲戦を維持することが重要な原則になります. しかし敵AP弾の存在で姿勢転換を封じられてしまうと, 中距離砲戦の選択肢は消滅します.
 中距離優位側の艦艇は, ①隠蔽距離で勝るか, ②隠蔽距離を敵のAP有効射程よりも長くすることが対抗策になります. ただこれは1vs1の場合の話で, 隠蔽距離に無関係なスポット(例えば航空スポット)がある場合には③有効射程を敵AP有効射程よりも長くするという条件ひとつになります. これはもはや隠蔽距離の外の話で, 艦艇の素の性能である主砲によって決まります.

 

4. おわりに

4.1. Chapayevに育てられた巡洋艦

 私がChapayev, Donskoi, Roon, Hindenburg, そしてNevskyといった中距離優位型の巡洋艦に傾倒するきっかけが他ならぬ推力転舵Chapayev, というのは冒頭で述べたとおりです. それ以前は妙高や高雄など, 隠蔽距離からの引き撃ちを軸に組み立てていく日巡を中心に乗っていて, それ以外はとても扱えませんでした. もちろんChapayevも乗り始めの200戦ぐらいは負け越していて, この苦手な艦艇をどうやって扱ってやろうかと工夫する過程で交戦距離の考えに気づくことができました. 未知の艦艇を使いこなせるようになるのは大変ですが, ああでもないこうでもないと試行錯誤しながらゲームへの理解を深めていく時間が楽しみのひとつなのは間違いありません.
 本稿の記述は体系性が弱く主題が二転三転するため混乱しやすい部分も多いと思いますが, その記述のテーマが中距離優位側(巡洋艦)についてなのか, それとも近距離優位側についてなのかを意識していただければ若干読みやすくなるかもしれません.
 最後に推力転舵Chapayevについて考察して, 総括とします.

4.2. Chapayevに推力転舵が適する理由

 Chapayevに推力転舵が適する理由を考えてみましょう. 隠蔽距離は隠蔽UG込みで10.4 km, 抜きで11.5 kmです.
 Chapayevは優れた弾速とそれなりの投射量を併せ持つHEが特徴で, 巡洋艦に対して中距離優位側になります. 対巡洋艦の有効射程は14 km程度なので, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離が下回ります. また, APの有効射程は10 km以下であり, 最良の隠蔽と同程度かそれを下回るぐらいです.
 戦艦に対してももちろん中距離優位側になり, 有効射程は17 km程度と射程ギリギリまで命中が期待できます. 安全距離は推力転舵で14 kmの体感であり, 隠蔽にするとさらに長くなるため得意とする間合いが少々狭まってしまいます.
 巡洋艦や戦艦を相手取るときは隠蔽UG外しの欠点はほとんどなく, むしろ推力転舵で機動性の改善を図る方が好都合です.
 最後に駆逐艦相手で考えてみると, 隠蔽UG抜きでも隠蔽距離がレーダー射程を下回ります. したがって, 推力転舵にしても対駆逐の得意は失われません.
 こうして一通り考えてみると, 推力転舵で隠蔽レーダーが撃てるという強烈な個性が見えてきます. こんな艦艇は他にありません. また, 巡洋艦に対しても①APを使わない②HEの弾速に優れるという2点が, 隠蔽UG外しと非常に好相性です. 届けるだけでいいHEと違ってAPは十分な貫通力を保っていることが重要なので, 有効射程は短くなりがちです. HE頼みの火力特性が, Chapayevの極端な中距離優位側という性格を形作っています.